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大学数学基礎解説
文献あり

ネーターカレントの導出・Gell-Mann-Levyの方法

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「ネーターの第1定理」の記事に関して

以前 「ゲージ対称性とは何か(1): ネーターの第1定理」 という記事を書きました。
最近この記事が読まれているようで嬉しいです。

ただ、ひとつ懸念があります。
この記事、ネーターカレントを導くには余計な議論が多いです。
カレントを導くのが目的の人が見たら、議論がややこしすぎて敬遠してしまうことを危惧しています。

上記記事は、ネーターの第2定理を導くための前準備です。そのため、Lagrangianの変分をかなり一般的な形で行っています。これはネーターカレントの導出としては「やりすぎ」です。そんな一般的な変分は必要ありません。

あと上記記事は点粒子の力学におけるカレントで、場の理論のそれではありません。

そこで本記事では、場の理論におけるネーターカレントを導く標準的な方法を書いておきます。
そしてもうひとつ、カレントを導くのに便利な方法である「Gell-Mann-Levyの方法」(Ref.[1])を記しておきます。よく使われる方法だと思うのですが、ちゃんと書いてある教科書は意外に少ない気がします。

場の理論におけるネーターカレントの標準的な導出

ネーターカレントの定義・性質

場の変換: ϕαϕα+ϵGα(ϕ)     (ϵは微小な定数変換パラメータ、Gα(ϕ)ϕの関数)
に対し、Lagrangianが不変とする。このときネーターカレントを
(1)jμ:=L(μϕα)Gα
で定義すると、カレントの発散はゼロになる:
μjμ=0

公式1の証明

Lagrangian L(ϕ,μϕ)に、場の大域的な変換
ϕαϕα+ϵGα(ϕ)
をほどこします。ここでGϕαの関数であり、ϵは任意の微小な定数です。
δϕα=ϵGα(ϕ)とすると、この変換でLは以下のように変化します:
L(ϕ,μϕ)L(ϕ+δϕ,μ(ϕ+δϕ))=L(ϕ,μϕ)+Lϕαδϕα+L(μϕα)μ(δϕα)=L(ϕ,μϕ)+Lϕαδϕα+μ(L(μϕα)δϕα)μ(L(μϕα))δϕα
Euler-Lagrange方程式: μ(L(μϕα))=Lϕαを用いて書き換えれば
=L(ϕ,μϕ)+μ(L(μϕα)δϕα)
を得ます。
仮定よりLagrangianはこの変換で不変なので
μ(L(μϕα)δϕα)=0
が成り立ちます。δϕα=ϵGαなので、任意定数ϵを捨てて
μ(L(μϕα)Gα)=0
ゆえにカレントを
jμ:=L(μϕα)Gα
で定義すると、カレント保存則
μjμ=0
が成立します。

ここで、チャージ密度ρおよびチャージQ

チャージ密度、チャージ

ρ:=j0,   Q:=x3j0

とします。すると
μjμ=0ρt+j=0
を得ます。これはいわゆる「連続の方程式」です。両辺を領域Vで体積積分し、ガウスの発散定理を使うと
Qt+jdS=0
が導けます。第2項は、領域Vの境界における"電流"jの面積分です。すなわち、領域Vのチャージの変化は、Vの表面から出ていく電流の面積分に等しいことを言っています。つまり、チャージは勝手に消えたり増えたりせず、出ていった電荷の分減る。これはチャージの保存です。

Gell-Mann-Levyの方法

上記と同様、ϵを任意の微小定数として、L(ϕ,μϕ)ϕϕα+ϵGα(ϕ)に対して不変だとします。
ここでカレントを導く便宜上、定数ϵϵ(x)のように時空に依存させます。 Gell-Mann-Levyの方法(Ref.[1])とは、この局所的な変換に対するLagrangianの変化に対し、以下の関係式を用いてカレントおよびその発散を計算する方法です:

Gell-Mann-Levyの方法

ϵを任意の微小定数として、L(ϕ,μϕ)ϕαϕα+ϵGα(ϕ)に対し不変とする。このときϵを時空に依存させた変換: ϕαϕα+ϵ(x)Gα(ϕ)に対し、LagrangianがLL+δLと変化するなら、
(2)δL=jμ(μϵ)+ϵ(μjμ)
が成立する。ただしjμはEq.(1)で定義したカレントである。

Gell-Mann-Levyの方法の証明

以下、カレントの定義
jμ=L(μϕα)Gα
を使い、Eq.(1)の右辺を書き換えます:
(L(μϕα)Gα)(μϵ)+ϵμ(L(μϕα)Gα)=(L(μϕα)Gα)(μϵ)+ϵ(L(μϕα)(μGα))+(ϵGα)μ(L(μϕα))=L(μϕα)μ(ϵGα)+(ϵGα)μ(L(μϕα))(3)=L(μϕα)μ(ϵGα)+(ϵGα)Lϕα
ただし最後の行に移る際に、運動方程式
μ(L(μϕα))Lϕα=0
を用いました。

一方、このnon-localな変換に対するLagrangianの変化は以下のように計算できます:
δL=Lϕαδϕα+L(μϕα)δ(μϕα)=Lϕαδϕα+L(μϕα)μ(δϕα)=Lϕα(ϵGα)+L(μϕα)μ(ϵGα)
最後の行はEq.(3)と等しいです。よってEq.(2)の右辺は実際にLagrangianの変化に一致し、Gell-Mann-Levyの方法が正しいことがわかります

この計算法は時にEq.(1)の計算法より楽です。またそれだけではなく、対称性が完全ではなく近似的な場合に、カレントの発散μjμを導くことができるのは便利です。

カレントの具体例

以下、次の3つの例:

  1. 複素スカラー場 (対称性: U(1)変換)
  2. pure Yang-Mills理論  (対称性: 大域的なカラー回転)
  3. pure Yang-Mills理論におけるBRST Lagrangian   (対称性: BRST対称性)

において、カレントを具体的に計算します。

1. 複素スカラー場

複素スカラー場

L=μϕμϕ

系を不変にする対称性変換: ϕeiθϕϕ+iθϕ    (U(1)変換)

ここではカレントを、Eq.(1)を用いて導きます。

δϕ=iθϕとするとEq.(1)よりカレントは
θjμ=Lϕδϕ+Lϕδϕ=(iϕμϕ+i(μϕ)ϕ)θ
よって
jμ=iϕμϕ+i(μϕ)ϕ
を得ます。
Gell-Mann-Levyの方法でも同じ結果が得られます。

2. pure Yang-Mills理論

pure Yang-Mills理論

L=14FμνaFμνa,Fμνa=μAνaνAμa+gfabcAμbAνc

対称性変換:AμaAμa+fabcAμbθc   (大域的カラー回転)

今度はカレントをGell-Mann-Levyの方法で導きます。

以下Mμac=fabcAμbとします。δLの中で微分がθにかかる部分のみ書き出すと
(Terms including θ in L)=12((μθc)Mνac(νθc)Mμac)Fμνa=(μθc)MνacFμνa=(μθc)fabcAνbFμνa=:(μθc)(Aν×Fμν)c
よってGell-Mann-Levyの方法より
jμa=(Aν×Fμν)a
を得ます。
Eq.(1)を使っても同じ結果が得られます。

3. pure Yang-Mills理論におけるBRST Lagrangian

BRST Lagrangian

L=14FμνaFμνaμBaAμa+α2BaBaiμc¯a(Dμc)a

対称性変換(BRST変換):
{δAμa=λ(Dμc)a,δca=12λgfabccbcc,δc¯=iλBa

これは、Faddeev-Popovの方法、またBRST量子化の際に現れるLagrangianです。c,c¯はghost, anti-ghost場であり、これらはGrassmann oddです。λはGrassmann oddの任意定数であり、変換のパラメータです。
BRST変換はglobalな変換なので、ネーターカレントが存在します。

ここではGell-Mann-Levyの方法でカレントを導きます。
Eq.(1)を使っても、もちろん同じカレントを導けるのですが、Grassmann oddの場が存在するため、場の微分を右・左のどちらから作用させるかで符号が変わります。また微分とλcc¯の反可換性を正しく考慮しなければならず、間違いが生じがちです。一方でGell-Mann-Levyの方法は場の微分を含まないぶんだけ符号の間違いが生じにくいです。

λを時空に依存させ、Lagrangianの変化を計算します。λに微分がかかる部分だけ計算すれば十分です。

  • 14FμνaFμνaの変分における(μλ)に比例する部分:(μλ)(Dνc)aFμνa
  • iμc¯a(Dμc)ac¯aの変分の寄与: (μλ)Ba(Dμc)a
  • iμc¯a(Dμc)acaの変分の寄与:i2(μλ)(μc¯a)gfabccbcc

以上より、(μλ)の係数を取り出し、カレントは
jμ=(Dνca)Fμνa+Ba(Dμc)ai2g(μc¯afabccbcc)
であることがわかります。
通常Euler-Lagrange方程式を使ってこのカレントを書き換えますが、今回はここでやめておきます。

まとめ

場の理論において、ネーターカレントを導く標準的な方法およびGell-Mann-Levyの方法を説明し、それらを用いて具体的な系におけるカレントを導きました。

おしまい。

参考文献

[1]
M. Gell-Mann and M. Lévy, The axial vector current in beta decay, Nuovo Cimento, 1960, pp. 705-726・p. 22
投稿日:2022611
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  1. 「ネーターの第1定理」の記事に関して
  2. 場の理論におけるネーターカレントの標準的な導出
  3. Gell-Mann-Levyの方法
  4. カレントの具体例
  5. 1. 複素スカラー場
  6. 2. pure Yang-Mills理論
  7. 3. pure Yang-Mills理論におけるBRST Lagrangian
  8. まとめ
  9. 参考文献