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大学数学基礎解説
文献あり

ゲージ対称性とは何か(1): ネーターの第1定理

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$$\newcommand{all}[1]{\left\langle#1\right\rangle} \newcommand{blr}[1]{\left[#1\right]} \newcommand{car}[1]{\left\{#1\right\}} \newcommand{di}[0]{\displaystyle} \newcommand{fr}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{lr}[1]{\left(#1\right)} \newcommand{ma}[1]{\(\di{#1}\)} $$

ゲージ対称性は拘束条件を導く

ゲージ対称性に関して議論します。

ゲージ対称性はおよそ物理学で最も大切な対称性です。"ゲージ(gauge)"と言う名前はH.Weylにより一般相対性理論の文脈で用いられました(Ref.[1]P218参照)。ゲージとは"長さの尺度"の意味です。もともと一般相対論における座標の取り方の任意性を指す言葉でした。その後、一般相対論=重力の理論だけではなく、電磁気力・弱い力・強い力の理論すべてがこのような任意性をその内部空間に持つことがわかりました。そのため現在ではこれらの理論の(内部)空間における座標の取り方の任意性を総称してゲージ対称性と呼びます。

しかし、この対称性は時に「対称性ではない」と言われます。「ゲージ対称性は理論の冗長性(redundancy)である」と言われることもあります。これは、ゲージ対称性の存在する系では、理論に内在する拘束条件が存在することを表しています(Ref.[2]"Introduction"参照)

これからいくつかの記事にわたり「拘束を導く冗長性としてのゲージ対称性」を語りたいと思います。

本記事では、かなり一般的な変分に対する作用の変化に関する公式を導きます。
次に、対称性と保存量の関係を与える
** ネーターの第1定理 **
に関してお話したいと思います。
ゲージ対称性と直接関わるのは次回の第2定理です。
(長くなるので記事を分けました)

ネーターの定理を理解するには、力学の一形式であるラグランジュ形式、およびハミルトン形式に関して多少知っている必要があります。別の記事
力学の形式
に、これらの形式に関して簡単に書いてありますので、よろしければご参照ください。

本記事と次の記事は点粒子におけるネーターの第1定理・第2定理の説明です。
場の理論の定理に関しては以下の記事をご参照ください:

Notationは以下です:

  • 位置は$q^i$、速度は$\dot q^i$(ドットは時間微分)、運動量は$p_i$とする。$i$は空間成分のindexであり、空間次元が$N$なら$i=1,\ldots,N$
  • ある項に同じindexが2つ存在するとき($q^ip_i$など)、そのindexに関して和をとっている。
  • 本来indexがついている変数に対しそれを省略したときは、その変数の集合を表す。例えば$q^i$に対し$q$と書いたら$\{q^i\}_{i=1,\ldots}$を表す。

どのようにネーターの定理を導くか

ネーターの定理を導くには、位置座標のみの変分に対するラグランジアンの不変性から導くのが楽で意味もわかりやすいです( こちらの記事 またはRef.[3]参照)。
しかしこれは、次の記事で証明する第2定理を導くには不十分です。
ここではRef.[1]に従い「時間の端点でも位置座標の変分を変化させ、かつ時刻の変分も考える」変分を考えます。

以下の議論はRef.[1]「第3章 作用積分の不変性と保存則」に則っています。もう少しオリジナリティを出すべきとも思うのですが、ヘタに議論を変えるとかえってわからなくなりそうだし間違えそうなので、多くの部分の議論はRef.[1]そのままです。ご容赦ください。

ちなみにRef.[4]にはゲージ場の理論におけるネーターの第2定理が載っています。Ref.[5]はRef.[1]の議論を微分形式を用いて展開したものです。コメントまで。

変分に対する作用の変換性

最初に、位置座標と時刻の変分に対する作用の変化を導きます。これはネーターの第1・第2定理の証明に重要です。
ここでは非常に一般的な変分を考えます。オイラー・ラグランジュ方程式(別記事 力学の形式 参照。以後E-L eqs.と略す)の導出における変分とは違い、積分の端における座標の変分$\delta q(t)$$\delta t(t)$もゼロではないし、端点自体も変化させます。ラグランジアンに関しては、一般には$t$にあらわに依存してもいいですが、ここでは$q,\dot q$を通してのみ$t$に依存するとします。

時刻$t$および位置座標$q^i(t)$($i$は次元のindexで$i=1,\ldots,N$)に対する次の変換
$$ \begin{cases} q^i(t)\rightarrow q'^i :=q^i(t)+\delta q^i(t,\epsilon)\\ t\rightarrow t':=t+\delta t(t,\epsilon) \tag{1} \end{cases} $$
を考える。$\delta q^i(t,\epsilon)$および$\delta t(t,\epsilon)$は微小量$\epsilon$に依存した微小な変分関数。このとき
$$ S[q,t]:=\int^{t_2}_{t_1}dt \ L(q(t),\dot q(t)) \tag{2} $$
の変分は、その1次まで考慮すると
$$ \begin{align} \delta S[q,t] &=\int^{t_2}_{t_1}dt \left[ \left( \frac{\partial L}{\partial q^i}-\frac{d}{dt} \left(\frac{\partial L}{\partial \dot q^i} \right) \right) \bar \delta q^i +\frac{d}{dt} \left( \frac{\partial L}{\partial \dot q^i}\bar\delta q^i +L\delta t \right) \right]\\ &=\int^{t_2}_{t_1}dt \left[ \left( \frac{\partial L}{\partial q^i}-\frac{d}{dt} \left(\frac{\partial L}{\partial \dot q^i} \right) \right) (\delta q-\dot q \delta t) +\frac{d}{dt} \left( \frac{\partial L}{\partial \dot q^i}\delta q^i -\left( \frac{\partial L}{\partial \dot q^i}\dot q^i-L \right)\delta t \right) \right]\tag{3} \end{align} $$
である。$L(q(t),\dot q(t))$はラグランジアン(Lagrangian)、$S[q,t]$は作用(action)と呼ばれる。$\bar\delta q$は時間の変分を止めて$q$の変分のみ行うことを表す。

変換Eq.(1)を作用に施します。このとき
$$ \begin{align} S(q',t')&=\int^{t'_2}_{t'_1}L(q'(t'),\dot q'(t'))dt'\\ &=\int^{t'_2}_{t'_1}L'dt'\\ L'&:=L(q'(t'),\dot q'(t'))\\ \therefore \delta S(q,t)&=S(q',t')-S(q,t) \\&=\int^{t_2}_{t_1} dt\left(L'\frac{dt'}{dt}-L \right) \end{align} $$
です。ここで
$$ \frac{dt'}{dt}=1+\frac{d}{dt}\delta t $$
なので
$$ \begin{align} \delta S(q',t')&=\int^{t_2}_{t_1}dt \left( L'\frac{dt'}{dt}-L \right)\\ &=\int^{t_2}_{t_1}dt\left(L'-L+L\frac{d}{dt}\delta t\right) \end{align} $$
を得ます。
$L'=L(q'(t'),\dot q'(t'))$$\delta q^i,\delta\dot q^i,\delta t$で展開しましょう。ただし
$$ \delta q^i(t):=q'^i(t')-q^i(t) $$
は2つの違う時刻で定義されているため、
$$ \delta \dot q^i\neq \frac{d}{dt}\delta q^i $$
に注意して計算する必要があります。そこで、$t$を固定した変分$\bar \delta q^i$を定義します:
$$ \bar \delta q^i(t):=q'^i(t)-q^i(t) $$
すると
$$ \bar\delta \dot q^i(t)=\frac{d}{dt}\bar \delta q^i(t) $$
です。ちょっとした計算ののち
$$ \delta\dot q^i(t)=\bar \delta \dot q^i(t)+\ddot q^i(t)\delta t $$
が成立することがわかります(右辺第1項が$t$の変化を止めて$q$を変化させた部分、第2項が$q$の変化を止めて$t$を変化させた部分。2次以降は無視)。これらより
$$ \begin{align} L'&=L+\frac{\partial L}{\partial q^i}\delta q^i+\frac{\partial L}{\partial \dot q^i}\delta \dot q^i\\ &=L+\frac{\partial L}{\partial q^i}(\bar\delta q^i(t)+\dot q^i(t)\delta t) +\frac{\partial L}{\partial \dot q^i}(\bar\delta\dot q^i(t)+\ddot q^i(t)\delta t)\\ &=L+\frac{\partial L}{\partial q^i}\bar\delta q^i+\frac{\partial L}{\partial \dot q^i}\bar\delta \dot q^i +\frac{dL}{dt}\delta t \end{align} $$
がわかります。以上より
\begin{align} \delta S(q,t)&=\int^{t_2}_{t_1}dt\left( L'-L+L\frac{d}{dt}\delta t \right)\\ &=\int^{t_2}_{t_1}dt \left( \frac{\partial L}{\partial q^i}\bar\delta q^i +\frac{\partial L}{\partial \dot q^i}\bar\delta\dot q^i +\frac{d L}{dt}\delta t +L\frac{d}{dt}\delta t \right)\\ &=\int^{t_2}_{t_1}dt \left[ \left( \frac{\partial L}{\partial q^i}-\frac{d}{dt} \left(\frac{\partial L}{\partial \dot q^i} \right) \right) \bar \delta q^i +\frac{d}{dt} \left( \frac{\partial L}{\partial \dot q^i}\bar\delta q^i +L\delta t \right) \right] \end{align}
$\delta q =\bar \delta q +\dot q\delta t$(1次まで考慮)を代入して
$$ \delta S[q,t] =\int^{t_2}_{t_1}dt \left[ \left( \frac{\partial L}{\partial q^i}-\frac{d}{dt} \left(\frac{\partial L}{\partial \dot q^i} \right) \right) (\delta q-\dot q \delta t) +\frac{d}{dt} \left( \frac{\partial L}{\partial \dot q^i}\delta q^i -\left( \frac{\partial L}{\partial \dot q^i}\dot q^i-L \right)\delta t \right) \right] $$
これで上記公式1が導けました${}_\blacksquare$

ネーターの第1定理

ネーターの第1定理に関して述べます。この定理を言葉で述べると

ネーターの第1定理の大雑把な表現

時刻または座標の変換によりラグランジアンが不変なとき、保存量(=時刻に依存しない量)が存在する

と言えます。

これを導くのは簡単です。
もし$S[q,t]$が任意の積分領域$[t_1,t_2]$において上記変換の下で不変なら、Eq.(3)の被積分関数はゼロでなければいけません。E-L eqs.により、運動方程式を満たす解に対して第一項は消えるので、この解に対して
$$ \frac{d}{dt} \left( \frac{\partial L}{\partial \dot q^i}\bar\delta q^i +L\delta t \right) =\frac{d}{dt} \left[ \frac{\partial L}{\partial \dot q^i}\delta q^i(t) -\left( \frac{\partial L}{\partial \dot q^i}\dot q^i -L \right)\delta t \right] =0 $$

よって$\Theta$
$$ \Theta := \frac{\partial L}{\partial \dot q^i}\delta q^i(t) -\left( \frac{\partial L}{\partial \dot q^i}\dot q^i -L \right)\delta t $$
とすれば、$\frac{d}{dt}\Theta=0$であり、$\Theta$は保存します。
ここで正準形式では、運動量$p_i$とハミルトニアン$H$(=全系のエネルギー)は
$$ \begin{cases} \displaystyle p_i =\frac{\partial L}{\partial \dot q^i},\\ \displaystyle H=\frac{\partial L}{\partial \dot q^i}\dot q^i-L \end{cases} $$
なので、この式は結局
$$ p_i\delta q^i-H\delta t $$
が保存することを示しています。

これがネーターの第1定理です。改めて述べると

ネーターの第1定理

変換Eq.(1)の下で、Eq.(2)の作用$S[q,t]$が任意の区間$[t_1,t_2]$において不変ならば、E-L eqs.の解に対して
$$ \Theta:=\frac{\partial L}{\partial \dot q^i} \delta q^i(t) -\left( \frac{\partial L}{\partial \dot q^i}\dot q^i-L \right)\delta t $$
は保存する。すなわち
$$ \frac{d\Theta}{dt}=0 $$
が成立する。

$\Theta$を運動量$p_i$とハミルトニアン$H$で書き換えれば
$$ \Theta =p_i\delta q^i - H \delta t $$
である。

ここで以下の2つに注意:

  • この保存則はE-L eqs.の解に対して成立する
  • $\delta q^i$および$\delta t$は任意ではなく、作用を不変に保つようなものでなくてはならない

さらに、微小変換が次の形に書けたとします:
$$ \begin{cases} \delta q^i=\epsilon^\alpha\phi^i_\alpha(q,\dot q, t)\\ \delta t =\epsilon^\alpha\tau_\alpha(t)\\ (\alpha=1 , \ldots , R) \end{cases} $$
ここで$\epsilon^\alpha$$\alpha$ごとに独立な任意の定数微小パラメータ、$\phi^i_\alpha(q,\dot q,t),\tau_\alpha(t)$は任意ではなく作用積分を不変にすることから定まる量です。この変換に対し作用が不変なとき
$$ p_i\phi^i_\alpha-H\tau_\alpha \ \ \ (\alpha=1,\ldots,R) $$
が保存します。次に見るように、これは運動量とエネルギーの保存則(それぞれが保存することもあるし、線形結合が保存することもあるかもしれない)を表しています。

保存則の実例

例えば空間1次元($R=1$)において、ラグランジアンが
$$ L=\frac{1}{2}m\dot q^2 $$
だとします。これは自由粒子の系です。このとき
$$ \begin{cases} \delta q=\epsilon\\ \delta t=0 \end{cases} $$
に対してラグランジアンは明らかに不変(=系は空間並進不変)。よって
$$ p=\frac{\partial L}{\partial \dot q}=m\dot q $$
が保存します。これは運動量保存則です。
また
$$ \begin{cases} \delta q=0\\ \delta t=\epsilon \end{cases} $$
に対してラグランジアンは不変($t'=t+\epsilon$とすると$L\rightarrow L'=\frac{1}{2}m(\frac{\partial q(t')}{\partial t'})^2=L$)。これは系の時間並進不変性です。このとき
$$ H=p\dot q -L =\frac{1}{2}m\dot q^2 $$
が保存します。これはエネルギー保存則です。

ラグランジアンの準不変性

ラグランジアンが$\delta q, \delta t$の変換に対して不変ではなく、$q$に依存する関数$F(q)$を用いて
$$ L\rightarrow L+\frac{dF}{dt} $$
だけ変化したとします。このとき上記の$\Theta$ではなく
$$ \Theta-F $$
が保存します。このように変換に対してラグランジアンが全微分だけ変化するとき、準不変と呼びます。

おまけ:場の理論における保存量に関して

場の理論では、点粒子の力学における力学変数$q^i$が場$\phi(t,q^i)$に対応します。場はその変換に対し多様な不変性を持ち得るため、様々な保存量が存在し得ます。
例えば4次元における複素スカラー場$\phi$からなる自由場の理論の作用
$$ S=\int d^4x (\partial_\mu\phi^\dagger)(\partial^\mu\phi) $$

$$ \phi\rightarrow e^{i\theta}\phi $$
なる変換に対して不変です。このとき場$\phi$に対し、ネーター・カレント
$$ j^\mu= i\left( \phi^\dagger\frac{\partial {\cal L}}{\partial(\partial_\mu\phi^\dagger)} -\frac{\partial {\cal L}}{\partial(\partial_\mu\phi)}\phi \right) = i(\phi^\dagger (\partial_\mu \phi)-(\partial_\mu\phi^\dagger)\phi) $$
が存在します。これはE-L eqs.を満たす$\phi$に対し、保存則
$$ \partial_\mu j^\mu =0 $$
を満たします。

次回以降の記事に関して

今回はネーターの第1定理を証明しました。
次回はゲージ対称性と拘束条件に関わる
ネーターの第2定理
に関してお話します。その後は「Diracの方法」、「U(1)ゲージ理論におけるゲージ対称性と拘束条件」などに関して話そうと思います。

参考文献

[1]
菅野 礼司, ゲージ理論の解析力学, 吉岡書店, 2007
[2]
Jakob Schwichtenberg, Demystifying Gauge Symmetry, arXiv:1901.10420v1 [physics.hist-ph], 2019
[4]
内山龍雄, 一般ゲージ場論序説, 岩波書店, 1987
[5]
木村利栄、菅野礼司, 微分形式による解析力学(改訂増補版), 吉岡書店, 1996
投稿日:20211119

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bisaitama
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