この記事は
ゲージ対称性とは何か(1):ネーターの第1定理
の続きです。
前回、ネーターの第2定理を証明するための公式、および大域的な対称性から保存則を導くネーターの第1定理に関して述べました。
今回はゲージ対称性から拘束条件を導く「ネーターの第2定理」に関して述べたいと思います。
(※本記事は点粒子におけるネーターの第2定理に関して述べています。場の理論における定理を知りたい方は
場の理論におけるネーターの第2定理
もご参照ください)
文献をいくつか挙げました。
本記事はRef.[1]を元に書かれています。
Ref.[2]は
場の理論におけるネーターの第2定理
に関して証明を行っています。
Ref.[3]はRef.[1]を微分形式を用いて書いたもの。
Ref.[4]はゲージ理論の拘束系としての側面に関して網羅的に様々なトピックを扱っています。
本記事を読むには、力学の知識が多少必要です。
特にラグランジュ形式におけるオイラー・ラグランジュ方程式(以下ではE-L eqs.と称す)、ハミルトン形式における運動量およびハミルトニアンの定義を知っている必要があります。
これらに関しては別記事
力学の形式
またはこれらに関する記述のあるサイト(「EMANの物理学」の「解析力学」など)をご参照ください。
Notationに関しては以下です:
後に述べるネーターの第2定理より次の事実がわかります:
ゲージ対称性が存在すると、オイラー・ラグランジュ方程式(運動を定める方程式。以下E-L eqs.と略す)の間に関係が付き、力学変数の時間発展が一意に定まらない
時間の任意関数に依存する局所的な変換をゲージ変換と呼びます。この変換に対する不変性がゲージ対称性です。第2定理により、ゲージ対称性が存在すると、ヘス行列(Hessian)
$$
A_{ij}:=\frac{\partial^2 L}{\partial \dot q^i\partial \dot q^j}
$$
の階数が下がることがわかります。$A_{ij}$はE-L eqs.における$\ddot q$の係数です。これはすなわち、2階微分方程式としては、独立なE-L eqs.の数が力学変数の数より少ないということです。よって、運動が一意的に定まりません。
以下でこの事実を示します。
前回、以下の公式を導きました:
時刻$t$および位置座標$q^i(t)$($i$は次元のindexで$i=1,\ldots,N$)に対する次の変換
$$
\begin{cases}
q^i(t)\rightarrow q'^i :=q^i(t)+\delta q^i(t,\epsilon)\\
t\rightarrow t':=t+\delta t(t,\epsilon) \tag{1}
\end{cases}
$$
を考える。$\delta q^i(t,\epsilon)$および$\delta t(t,\epsilon)$は微小量$\epsilon$に依存した微小な変分関数。このとき
$$
S[q,t]:=\int^{t_2}_{t_1}dt \ L(q(t),\dot q(t)) \tag{2}
$$
の変分は、その1次まで考慮すると
$$
\begin{align}
\delta S[q,t]
&=\int^{t_2}_{t_1}dt
\left[
\left(
\frac{\partial L}{\partial q^i}-\frac{d}{dt}
\left(\frac{\partial L}{\partial \dot q^i}
\right)
\right)
\bar \delta q^i
+\frac{d}{dt}
\left(
\frac{\partial L}{\partial \dot q^i}\bar\delta q^i
+L\delta t
\right)
\right]\\
&=\int^{t_2}_{t_1}dt
\left[
\left(
\frac{\partial L}{\partial q^i}-\frac{d}{dt}
\left(\frac{\partial L}{\partial \dot q^i}
\right)
\right)
(\delta q-\dot q \delta t)
+\frac{d}{dt}
\left(
\frac{\partial L}{\partial \dot q^i}\delta q^i
-\left(
\frac{\partial L}{\partial \dot q^i}\dot q^i-L
\right)\delta t
\right)
\right]\tag{3}
\end{align}
$$
となる。$L(q(t),\dot q(t))$はラグランジアン(Lagrangian)、$S[q,t]$は作用(action)と呼ばれる。$\bar\delta q$は時間の変分を止めて$q$の変分のみ行うことを表す。
これが第2定理の証明に重要です。
ネーターの第2定理は次のような定理です:
次の変換を考える:
\begin{align}
\begin{cases}
\delta q^i(t) = \epsilon^\alpha(t)\phi^i_\alpha(q,\dot q)+\dot \epsilon^\alpha(t)\psi^i_\alpha(q,\dot q)\\
\delta t = \epsilon^\alpha(t)\tau_\alpha(q,\dot q),\\
(\alpha = 1,\ldots, R)
\end{cases}
\tag{4}
\end{align}
ここで$\epsilon^\alpha(t)$は$\alpha$ごとに独立な時間の任意関数。$\phi^i_\alpha(q,\dot q), \psi^i_\alpha(q,\dot q), \tau_\alpha(q,\dot q)$はラグランジアンにより定まる$q,\dot q$の関数。
このとき系には以下の拘束条件が存在する:
$$
\begin{cases}
\displaystyle{
p_i\phi^i_\alpha-\tau_\alpha E-\zeta_\alpha+[L]_i\psi^i_\alpha\equiv 0,\\
p_i\psi^i_\alpha-\eta_\alpha\equiv 0,\\
(\alpha=1,\ldots,R)
}
\end{cases}
$$
ここで$[L]_i$は
$$
[L]_i:=\frac{\partial L}{\partial q^i}
-\frac{d}{dt}\left(
\frac{\partial L}{\partial \dot q^i}
\right)
$$
である。$[L]_i=0$はE-L eq.である。
$\epsilon^\alpha(t)$が変換に含まれていることから、上記の変換はゲージ変換です。このとき、$[L]_i$が現れていることからもわかるように、E-L eqs.とは独立に拘束条件が成立します。そしてこの条件は、E-L eqs.と共に、解を求める際に課されます。
ここで第2定理の「心」に関して言及しておきます。
第1定理は作用の大域的な変換に関する不変性から導かれます。このとき初期条件を与えればE-L eqs.の解は一意に定まります。そしてその解がもつ性質を述べたのが第1定理です。
一方、第2定理は、任意関数を含む局所な変換に対する不変性という非常に大きな"対称性"に関するものです。変換の任意関数が作用積分の中で変分関数と同様の役割を果たし、作用の不変性よりある関係式を導きます。そのため、E-L eqs.の間に関係が付き、それらは独立ではなくなります。そして解が一意に定まらないという著しい結果をもたらします。
以下の証明はRef.[1]の「3.4 ネーターの第2定理:任意関数を含む変換」に沿って行います。
次の変換を考えます:
$$
\begin{cases}
\delta q^i(t) = \epsilon^\alpha(t)\phi^i_\alpha(q,\dot q)+\dot \epsilon^\alpha(t)\psi^i_\alpha(q,\dot q)\\
\delta t = \epsilon^\alpha(t)\tau_\alpha(q,\dot q),\\
\alpha = 1,\ldots, R
\tag{4}
\end{cases}
$$
改めて、$\phi,\psi,\tau$はラグランジアンによって定まる量であり、$\epsilon^\alpha(t)$は任意関数です。
この変換に対し、作用積分が準不変(=ラグランジアンが時間の全微分だけ変化すること。前回の記事参照)のとき、すなわち
$$
\delta S[q,t]=\int^{t_2}_{t_1}dt
\frac{d}{dt}
\left(
\epsilon^\alpha\zeta_\alpha(q,\dot q)+\dot \epsilon^\alpha\eta_\alpha(q,\dot q)
\right) \tag{5}
$$
となる場合を考えます。ここで$\zeta,\eta$はラグランジアンによって定まるある量です。ゲージ変換に対し不変な理論はゲージ理論と呼ばれます。
公式1はEq.(4)の変換に対しても正しいです。そこで、Eq.(3)にEq.(4)の変換を入れます。そして、Eq.(4)の変換に対して作用積分は準不変である、すなわちEq.(3)とEq.(5)が等しいとします。このとき
$$
\begin{align}
\int^{t_2}_{t_1}dt
&\left[
\epsilon^\alpha
\left\{
[L]_i(\phi^i_\alpha-\dot q^i\tau_\alpha)
-\frac{d}{dt}(\psi^i_\alpha[L]_i)
\right\}
\right.\\
&\left.
+\frac{d}{dt}
\left\{
\epsilon^\alpha\psi^i_\alpha[L]_i
+p_i\delta q^i
-E\delta t
-(\epsilon^\alpha\zeta_\alpha
+\dot\epsilon^\alpha\eta_\alpha)
\right\}
\right]
\equiv 0 \tag{6}
\end{align}
$$
が成立します。$[L]_i$は
$$
[L]_i:=\frac{\partial L}{\partial q^i}-\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial L}{\partial \dot q^i}\right)
$$
です。
また$E$はハミルトニアンであり
$$
E=p_i\dot q^i-L, \ \ \ p_i=\frac{\partial L}{\partial \dot q^i}
$$
です。
これらより拘束条件を導きましょう。
$$
\begin{align}
\text{Eq.(6)}=
\int^{t_2}_{t_1}dt
&\left[
\epsilon^\alpha
\left\{
[L]_i(\phi^i_\alpha-\dot q^i\tau_\alpha)
-\frac{d}{dt}(\psi^i_\alpha[L]_i)
\right\}
\right]\\
&+\left[
\epsilon^\alpha\psi^i_\alpha[L]_i
+p_i\delta q^i
-E\delta t
-(\epsilon^\alpha\zeta_\alpha
+\dot\epsilon^\alpha\eta_\alpha)
\right]^{t_2}_{t_1}
\equiv 0 \tag{7}
\end{align}
$$
ですが、第2項目は表面項であり、$t_1,t_2$の$\epsilon^\alpha,\dot\epsilon^\alpha$にのみ依存しています。一方第1項は$t_1< t< t_2$の$\epsilon^\alpha,\dot\epsilon^\alpha$すべてに依存しています。よって、任意の$\epsilon^\alpha,\dot\epsilon^\alpha \ (t_1\le t\le t_2)$に対してEq.(7)が成立するには、第1項の中括弧の中がゼロでなくてはいけません:
$$
[L]_i(\phi^i_\alpha-\dot q^i\tau_\alpha)-\frac{d}{dt}(\psi^i_\alpha[L]_i)\equiv 0 \ \ \ (\alpha=1,\ldots,R) \ \ \ \tag{8}
$$
一方、$t_1,t_2$は任意に動かせます。第1項がゼロであることから、第2項は任意の$t_1,t_2$でゼロにならなくてはいけません。よって結局第2項の$\epsilon^\alpha,\dot \epsilon^\alpha$の係数もそれぞれゼロでなければいけません。よって
$$
p_i\phi^i_\alpha-\tau_\alpha E-\zeta_\alpha+[L]_i\psi^i_\alpha\equiv 0,\tag{9}$$
$$p_i\psi^i_\alpha-\eta_\alpha\equiv 0
\tag{10}
$$
が成立します。${}_\Box$
ここまで得られた関係式に関して考察しましょう。改めて、ゲージ対称性により導出された関係式を書いておきます:
$$
p_i\phi^i_\alpha-\tau_\alpha E-\zeta_\alpha+[L]_i\psi^i_\alpha\equiv 0,\tag{9}
$$
$$
p_i\psi^i_\alpha-\eta_\alpha\equiv 0\tag{10}
$$
$(\alpha=1,\ldots,R)$
これらの関係式について述べておきます。特に3.は大切です。
作用がEq.(4)に対して準不変であるなら
$$
{\rm rank}(A_{ij})=N-R \ \ \ (N:\text{空間次元の数})
$$
である。
これは$\ddot q^i$を含むE-L eqs.で独立なものは($N-R$)個であることを示しています。なぜならE-L eq.:$[L]_i=0$は
$$
A_{ij}\frac{\partial^2 L}{\partial\dot q^i\partial\dot q^j}\ddot q = (q\text{と}\dot q\text{の関数})
$$
となるからです。$A_{ij}$の階数が下がる系を「特異系」とか「特異ラグランジュ系」と言います。
このように、系にゲージ対称性が存在すると、変換の任意関数の数だけ、独立な運動方程式の数が減ります。すなわちこの方程式系では時間発展が定まらない変数が存在します。
3.の事実は、ハミルトン形式に移行する際$\dot q^i$を$p_i,q^i$で一意的に表せないということも意味します。なぜなら
$$
p_i=\frac{\partial L}{\partial \dot q^i}=B_{ij} \dot q_j+(\dot q^i\text{を含まない部分})
$$
と書くと、
$$
B_{ij}=\frac{\partial^2 L}{\partial \dot q^i \partial \dot q^j}
$$
となり、これは$A_{ij}$であることがわかります。そして$A_{ij}$の逆行列が存在しないため、$\dot q^i$を$p_i$に関して解くことができません。これもまた拘束条件が存在することの現れです。
具体的な例として
$$
L=\frac{1}{2}(\dot q^1 - q^2)^2
$$
を考えます(Ref.[1]P37)。$q$の上についている数字は空間のindex。空間次元は$N=2$。この系は
$$
\begin{cases}
\delta q^1=\epsilon(t),\\
\delta q^2=\dot\epsilon(t)
\end{cases}
$$
という変換に対して不変です。すなわち$\xi=0,\eta=0$。またゲージ変換の関数が1つなので$R=1$。これらより
$$
\begin{cases}
\phi^1=1,\psi^1=0,\\
\phi^2=0,\psi^2=1,\\
\tau=0,\\
\xi=0,\eta=0
\end{cases}
$$
運動量$p_i$は
$$
\begin{cases}
p_1=\frac{\partial L}{\partial \dot q^1}=\dot q^1-q^2,\\
p_2=\frac{\partial L}{\partial \dot q^2}=0
\end{cases}
$$
$[L]_i$は
$$
\begin{cases}
[L]_1=\frac{\partial L}{\partial q^1}-\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial L}{\partial \dot q^1}\right)=-\ddot q^1+\dot q^2\\
[L]_2=\frac{\partial L}{\partial q^2}-\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial L}{\partial \dot q^2}\right)=-(\dot q^1-q^2)
\end{cases}
$$
です。
さて、拘束条件が成立しているか調べましょう。今の場合Eqs.(8)(9)は
$$
\begin{cases}
p_1+[L]_2\equiv 0\\
p_2\equiv 0
\end{cases}
$$
です。$p_1+[L]_2=\dot q^1-q^2+(-(\dot q^1-q^2))=0$より、たしかに拘束条件が成立していることがわかります。
E-L eqs.は
$$
\begin{cases}
[L]_1=0\leftrightarrow\ddot q^1 - \dot q^2 = 0\\
[L]_2=0\leftrightarrow\dot q^1 - q^2 = 0
\end{cases}
$$
です。明らかに2つの式は独立ではありません。よって解も一意的には定まりません。$[L]_2=0$は$q$の2階微分を含まないので、運動方程式(=加速度$\ddot q$を含む方程式)ではなく、拘束条件と言えます。
ヘス行列は
$$
[A_{ij}]:=\left[\frac{\partial^2 L}{\partial\dot q^i\partial\dot q^j}\right]
=
\begin{pmatrix}
1&0\\
0&0
\end{pmatrix}
$$
なので階数は1。これは上の公式2:${\rm rank}(A_{ij})=N-R=2-1=1$であることと一致しています。$\ddot q$を含む運動方程式が1つなのは階数が1であること、独立な運動方程式が2つから1つに減ったのはゲージ変換の任意関数が1つであることと対応しています。
$p_2=0$は第1次拘束条件、$p_1=0$はE-L eq.$[L]_2=0$を課したときに成立するので第2次拘束条件です。
本記事ではゲージ対称性から拘束条件を導く「ネーターの第2定理」に関してお話しました。次の記事は、ネーターの定理に関する簡単なまとめ・コメントをします。その後ゲージ理論におけるDiracの方法、U(1)ゲージ理論などに関して語ろうと思います。
☆次の記事: ゲージ対称性とは何か(3): ネーターの定理まとめ&コメント
[注] もしかしたら$\psi^i_\alpha$がある$\alpha$に対してゼロベクトルなこともあるかもしれません。しかしそのときEq.(7)より$A_{ij}(\phi^i_\alpha-\dot q^i\tau_\alpha)\equiv 0$が成立しなければならないので、結局$A_{ij}$はこの$\alpha$に対してもゼロ固有値をもちます (ただしこの$\alpha$に対して$\phi^i_\alpha-q^i\tau_\alpha$はゼロベクトルではないとします)。