1
大学数学基礎解説
文献あり

場の理論におけるネーターの第2定理

928
0

ネーターの第2定理の場の理論バージョン

以前 ゲージ対称性とは何か(2):ネーターの第2定理 という記事を書きました。
上記記事では点粒子の力学を扱っています。

本記事では場の理論におけるネーターの第2定理に関して記しておきます。
Ref.[1]を元に書いています。
基本的には以前の記事を場の理論に適用したものですので、並行した議論になっています。

この話はあまりネット上に記述がないので書いておくことにしました。

ネーターの定理の原論文の英語訳は Ref.[2] で読むことができます。

ネーターの第2定理

この定理は色々な表現の仕方があるかと思いますが、ここではRef.[1]に習います。
ネーターの第2定理は次の恒等式(id.1-4)です。

場の理論におけるネーターの第2定理

φA (A=1,,N)に依存するLagrangian L(φ,μφ)で記述される系がある。
微小な任意関数ξr(x) (r=1,,n)を含む以下の局所的な変換に対し、作用積分S=Ωd4xL(φ,μφ)が不変であるとする:
{δxμ:=fμ(ξ(x),x)ξrfμξr,δφA:=FA(ξ(x),ξ,μ(x),x,φ)ξrFAξr(x,φ)+ξ,μrFAξ,μr(x,φ)

このとき以下の恒等式が導かれる:
(id.1)        [L]A(FAξrφA,μfμξr)μ([L]AFAξ,μr)0(id.2) νBrν0(id.3) Brμ+νCrν,μ0(id.4) Crν,μ+Crμ,ν0


ここでnotationとして以下を用いている:

  • 添字の",μ"は、その量をμで微分していることを表す。すなわち場Gに対しG,μ:=G/xμである。

  • [L]A
    [L]A:=μ(Lφ,μA)LφA
    で定義される。[L]A=0はEuler-Lagrange方程式である。

  • ξr,ξ,μrでの微分量は、すべて最後にξr=0,ξ,μr=0を取るものと了解されたい。すなわち
    FAξr(x,φ):=FA(ξ,ξ,μ,x,φ)ξr|ξ=0, ξ,μ=0,     FAξ,μr(x,φ):=FA(ξ,ξ,μ,x,φ)ξ,μr|ξ=0, ξ,μ=0
    である。

  • B,Cは以下のように定義される:
    {Brν:=LφA,νFAξrTμνfμξr+[L]AFAξ,νr,Crν,μ:=LφA,νFAξ,μr
    ここでTμνはcanonical energy-momentum tensorと呼ばれる量で、
    Tμν:=LφA,νφA,μδμνL
    である。

notationが厄介ですがご容赦ください。時空による微分μを",μ"という添字をつけることで表すのは相対論関連の文献では散見されます。ちなみに、本記事では出てきませんが、共変微分Dμの場合;μを添字としてつけます。

以下定理1を示します。

定理1の証明

証明過程1: 一般的な変換に対する作用積分の不変性から導かれる恒等式

まず、以下の事実を示します:

変換
{xμxμ=xμ+δxμ,φA(x)φA(x)=φA(x)+δφA(x)
に対し作用積分Sが不変ならば、以下の恒等式が成立する:
(2)Ωd4x{[L]A(δφAφA,μδxμ)+ν(LφA,νδφATμνδxμ)}0

上記変換に対し作用積分は
S=Ωd4x(x)(x)L(φ(x)+δφ(x),φ,μ(x)+δφ,μ(x))
と変化します。ここで(x)/(x)はJacobianであり、δxμの1次で近似すると
(x)(x):=det(xμxν)=det(δνμ+(δxμ)xν)1+μ(δxμ)
を得ます(detの内、対角部分の積のみがδxμの1次に効く)。

ここで、δとは違う変分δ¯を以下で定義します:
δ¯φA(x):=φA(x)|x=xφA(x)
φA(x),φA(x)はそれぞれ同一の世界点Pにおける変換前後のφAの値です。これに対し上式のφA(x)|x=xは変換後の座標における点Q(P)でのφAの値です。ここで点Q
xμ(Q)=xμ(P)
を満たす点です。すなわち、変換後の座標の値が変換前の座標のxμ(P)の値と同じ点がQです。
これら事実より、象徴的に表せば
δφA(x):=φA(P)φA(P),   δ¯φA(x):=φA(Q)φA(P)
ここでx(P)=xμ(P)+δxμ(P)であることを用いると
δφAδ¯φA=φA(P)φA(Q)=φ(x+δx)φ(x)μφAδxμ
となります。以上から
δS=SS=Ωd4x[LφAδφA+LφA,νδφA,ν+L(μδxμ)](3)=Ωd4x[LφA(δ¯φA+φA,μδxμ)+LφA,ν(δ¯φA,ν+φA,νμδxμ)+L(μδxμ)]
を得ます。L(μδxμ)はJacobianの寄与です。
ここでδ¯(νφA)=νδ¯φAが成り立つので、
(4)Ωd4x[LφAδ¯φA+LφA,νδ¯φA,ν]=Ωd4x[[L]Aδ¯φA+ν(LφA,νδ¯φA)]
ここで
[L]A:=μLφA,μLφA
また偏微分の連鎖律より
(5)μL=LφAφA,μ+LφA,νφA,νμ
が成立します。Eq.(4)(5)を用いてEq.(3)を書き換えると
Ωd4x{[L]Aδ¯φA+ν(LφA,νδ¯φA+Lδxν)}
を得ます。これをδφA=δ¯φA+φA,μδxμで書き直せば最終的に
δS=Ωd4x{[L]A(δφAφA,μδxμ)+ν(LφA,νδφATμνδxμ)}
となります。Tμνは上で定義したcanonical energy-momentum tensorであり、
Tμν:=LφA,νφA,μδμνL
です。
以上から、作用積分が変換に対して不変ならば「公式1」が成立します。

証明過程2: 局所的な変換を考える

つぎに変換が局所的な場合
{xμxμ=fμ(ξ(x),x),φA(x)φA(x)=FA(ξ(x),ξ,μ(x),x,φ)
を考えます。ここでξ(x)は十分小さいとし、2次以降を無視すると、その変化は
{δxμ:=ξrfμξr(x),δφA:=ξrFAξr(x,φ)+ξ,μrFAξ,μr(x,φ)
となります。このとき以下が成立します:

変換
{δxμ:=ξrfμξr,δφA:=ξrFAξr(x,φ)+ξ,μrFAξ,μr(x,φ)
に対し作用積分が不変ならば
(7)Ωd4x[ξr{[L]A(FAξrφA,μfμξr)μ([L]AFAξ,μr)}+ν{Brνξr+Crν,μξ,μr}]0
が成立する。B,Cは定理1で定義された以下の量である:
{Brν:=LφA,νFAξrTμνfμξr+[L]AFAξ,νr,Crν,μ:=LφA,νFAξ,μr

Eq.(6)を恒等式Eq.(2)に代入すると
Ωd4x[[L]A{(FAξrφA,μfμξr)ξr+FAξ,μrξ,μr}+ν{LφA,ν(FAξrξr+FAξ,μrξ,μr)Tμνfμξrξr}]0
となります。この式で、[L]Aの係数{}の中にあるξ,μrを部分積分により書き換えると
[L]Aξ,μrFAξr=μ([L]AξrFAξ,μr)ξrμ([L]AFAξ,μr)
となります。これを上式に代入すると
Ωd4x[ξr{[L]A(FAξrφA,μfμξr)μ([L]AFAξ,μr)}                   +μ([L]AξrFAξ,μr)+ν{LφA,ν(FAξrξr+FAξ,μrξ,μr)Tμνfμξrξr}]0Ωd4x[ξr{[L]A(FAξrφA,μfμξr)μ([L]AFAξ,μr)}                   +ν{ξr([L]AFAξ,μr+LφA,νFAξrTμνfμξr)Brr+LφA,νFAξ,μrCrν,μξ,μr}]0
となりEq.(7)が導かれます。

証明過程3: Eq.(7)から(id.1-4)を導く

これで最初の恒等式群(id.1)-(id.4)を導く準備が整いました。

(id.1-4)の証明
  • (id.1)の導出:

    Eq.(7)のΩd4xν{Brνξr+Crν,μξ,μr}の部分は、ξrξ,μrΩの表面でゼロになるように選べば0。このとき第1項Ωd4xξr{}の部分は恒等的に0。ξrΩの内部では自由に選べるから、その係数が恒等的に0でなくてはならない。すなわち
    [L]A(FAξrφA,μfμξr)μ([L]AFAξ,μr)0
    を得ます。

  • (id.2-4)の導出:

    Eq.(7)と(id.1)とより
    Ωd4xν{Brνξr+Crν,μξ,μr}0
    が、Ωの表面上でξr,ξ,μrが0になるか否かに関わらず成立する。よって
    ν{Brνξr+Crν,μξ,μr}0νBrνξr+(Brμ+νCrν,μ)ξ,μr+12(Crν,μ+Crμ,ν)ξ,μνr0
    を得ます。
    ここでξr,ξ,μr,ξ,μνrは互いに独立なので、それぞれの係数が0になる必要があります。よって
    νBrν0     Brμ+νCrν,μ0Crν,μ+Crμ,ν0
    となります。これは(id.2-4)です。

2つほどコメントです:

  • 逆に(id.1-4)が成立していれば、Sは無限小変換に対して不変であることはすぐにわかります。つまり(id.1-4)はSが無限小変換で不変となる必要十分条件です。
  • 以上の証明は無限小変換に対して示してきましたが、連続群の場合有限の変換は無限小変換の積み重ねで得られるので、無限小ではない変換でも以上の公式は成立します。

以上で定理1が証明できました。

恒等式群を精察する

さて、(id.1-4)をもう少し詳しく見てみましょう。

  • (id.2-4)は独立ではない:

     
    (id.3)の両辺にμを作用させ、Crν,μνμに対し反対称であるという条件(id.4)を使うと、(id.2)が導けます。

  • ネーターの第1定理が導ける


    局所的な変換は大域的な変換を含むので、これらの恒等式からネーターの第1定理が導けます。
    Brνの定義
    Brν:=LφA,νFAξrTμνfμξr+[L]AFAξ,νr
    を(id.2)に代入すると
    ν(LφA,νFAξrTμνfμξr)ν([L]AFAξ,νr)
    を得ます。(id.1)を用いて右辺を書き換えると
    (8)ν(LφA,νFAξrTμνfμξr)[L]A(FAξrφA,μfμξr)
    となります。
    この式で、運動方程式[L]A=0を課すと
    νjrν=0,jrν:=LφA,νFAξrTμνfμξr
    を得ます。これはカレントの保存則であり、ネーターの第1定理です。jrνの第2項:Tμνfμξrは時空座標自体の変換に関わる部分です。
    Eq.(8)やカレントの保存は大域的な変換
    {xμxμ=fμ(ϵ,x)φA(x)φA(x)=FA(ϵ,φ)
    ϵは微小な任意定数)
    に対する不変性からも導けます。

  • 局所変換の不変性により初めて導ける定理
    • 独立な自由度が減る:
      (id.1)は局所変換に対する不変性特有の恒等式です。このため、N個の自由度が存在する系にn個の拘束条件が存在し(nは変換の独立な任意関数の数)、独立な自由度はNn個になります。逆に言えば、すべての場の変数を保って運動方程式を解こうとすると、運動が一意に定まらないことになります。または同じことですが、運動方程式の解にn個の独立な任意関数が入ります。
      よく「ゲージ対称性(=局所的な変換に対する対称性)とは冗長性である」と言われますが、この言葉はこれらの事実を指しています。
    • カレントが全微分の形で書ける:
      (id.3)を使うと、カレントが以下のように書けます:
      Jrμ=νCrν,μ
      Cの反対称性を使えば
      Jrμ=12ν(Crν,μCrμ,ν)
      よって
      Jr:=Jr0d3x=12k(Crk,0Cr0,k)=limSCr0,kdσk
      となります。dσkは表面Sの面積素片、limSを無限に大きくすることを意味します。よって、Jrという保存量は、無限遠の振る舞いのみでだけで定まります。これは局所変換不変性の帰結であって、大域的変換では導けない性質です。

まとめ

場の理論におけるネーターの第2定理を紹介しました。
局所的な変換に対する不変性により、独立な自由度が減ります。これはゲージ理論(局所的な変換に対して不変な理論)の大変重要な側面であることを付記しておきます。

おしまい。

参考文献

投稿日:2022616
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

bisaitama
bisaitama
142
63073

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. ネーターの第2定理の場の理論バージョン
  2. ネーターの第2定理
  3. 定理1の証明
  4. 証明過程1: 一般的な変換に対する作用積分の不変性から導かれる恒等式
  5. 証明過程2: 局所的な変換を考える
  6. 証明過程3: Eq.(7)から(id.1-4)を導く
  7. 恒等式群を精察する
  8. まとめ
  9. 参考文献