この記事は後の記事の準備として乗法付値の同値性について色々掘り下げていきます。
体$K$から非負実数$\R_{\geq0}$への写像$\nm$が乗法付値であるとは、$\nm$が次の三つの条件を満たすことを言う。
$|x|\neq|y|$ならば$|x+y|=\max\{|x|,|y|\}$が成り立つ。
$|x|<|y|$とすると
$$|y|=|x+y-x|\leq\max\{|x+y|,|x|\}$$
の右辺は$|x|$とは成り得ないので$|y|\leq|x+y|$がわかり、また明らかに$|x+y|\leq|y|$なので
$$|x+y|=|y|=\max\{|x|,|y|\}$$
を得る。
体$K$の乗法付値$\nm,\nm'$が同値であるとは
$|x|<1\iff|x|'<1$
が成り立つことを言う。このとき
$|x|=1\iff|x|'=1$
$|x|>1\iff|x|'>1$
も成り立つ。
自明な乗法付値$|x|=1\;(x\neq0)$と同値な付値は自明な乗法付値しかないので、以下非自明な乗法付値のみを考える。
体$K$の乗法付値$\nm,\nm'$が同値であることとある$\a>0$があって$\nm'=\nm^\a$が成り立つことは同値である。
$\nm'=\nm^\a$であれば$\nm,\nm'$が同値となるのは自明なので逆を示す。
同値な乗法付値$\nm,\nm'$と
$$|x|<|y|,\quad|x|,|y|\neq0,1$$
なる$x,y\in K$に対して
$$\a=\frac{\log|x|'}{\log|x|},\quad\b=\frac{\log|y|'}{\log|y|}$$
つまり$|x|'=|x|^\a,|y|'=|y|^\b$とおく。
いま$\a<\b$とすると
$$\frac\a\b r<\farc{\log|y|}{\log|x|}< r$$
なる有理数$r=p/q\;(q>0)$があって
$$|x^p|>|y^q|\quad\mbox{かつ}\quad|x^p|'=|x|^{p\a}<|y|^{q\b}=|y^q|'$$
が成り立つことになり付値の同値性に矛盾。
同様に$\a>\b$とすると
$$r<\farc{\log|y|}{\log|x|}<\frac\a\b r$$
なる有理数$r=p/q\;(q>0)$があって
$$|x^p|<|y^q|\quad\mbox{かつ}\quad|x^p|'=|x|^{p\a}>|y|^{q\b}=|y^q|'$$
が成り立つことになり矛盾。
よって$\a=\b$でなければならず、任意の$x\in K$に対し$|x|'=|x|^\a$が成り立つことがわかる。
体$K$の乗法付値$\nm,\nm'$が同値であることと$\nm,\nm'$が同じ位相を定めることは同値である。
命題1から同値な付値が同じ位相を定めることは自明なので逆を示す。
同じ位相を定める付値$\nm,\nm'$について$|a|<1$なる$a\in K$を考えると、
$$|a^n|=|a|^n\to0\quad(n\to\infty)$$
より、$\nm$の定める位相において$a^n\to0$が成り立つ。つまり$\nm'$の定める位相においても$a^n\to0$が成り立ち、したがって$|a^n|'\to0$となるが、これは$|a|'<1$であることに他ならない。
よって
$$|a|<1\Longrightarrow|a|'<1$$
同様にその逆もわかり
$$|a|<1\iff|a|'<1$$
を得る。
(非自明な)絶対値$\nm$の備わった完備体$K$とその有限次拡大体$L$について、$L$の乗法付値$\nm_L$であって
$$|x|_L=|x|\quad(x\in K)$$
を満たすようなものは高々一つしか存在せず、存在すれば$L$は$\nm_L$について完備となる。
もしそのような乗法付値$\nm_L,\nm'_L$があったとすると、$\nm_L,\nm'_L$は$L$のノルムとみなせ、
前回の記事
より完備体上の有限次線形空間のノルムは全て同値であったので$\nm_L,\nm'_L$は同じ位相を定め、したがって乗法付値としても同値である(また$L$はこれらについて完備となる)。
つまりある$\a>0$があって$\nm'_L=\nm_L^\a$が成り立つが、$|a|\neq0,1$なる$a\in K$を考えると
$$|a|_L=|a|=|a|'_L=|a|_L^\a\neq0,1$$
なので$\a=1$でなければならず主張を得る。