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大学数学基礎解説
文献あり

代数学をやるその9 ガロア拡大のありがちな問題

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はじめに

今回はガロア拡大に関するよくありがちな問題を持ってきました.

その他の問題たちは こちらのまとめページ から見れます.よろしければリンクをご利用ください.

問題と解答

$F$が可換体,$a \in F$$b=1+a^2 \in F$$F$の中に平方根を持たないとする.$X$に関する方程式$X^4-2bX^2+a^2b=0$の一根を$F$につけて得られる体を$K$とするとき,次の問に答えよ.(東大)
(1) $K$$F$上のガロア拡大であることを証明せよ.
(2) $K/F$のガロア群を求めよ.
(3) $K$$F$の中間体で,$K,F$以外のものを求めよ.

感想

与えられた多項式が複2次式なので解の計算がしやすいのが嬉しいですね.具体的に解の形を書き下したら,後は定石通りの計算を丁寧にするだけです.所々で$F$の標数が$2$かどうかが気になりますが,仮定から直ぐに${\rm ch}\,F \neq 2$を導けるので心配せずとも大丈夫です.

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証明を表示

仮定より$b \neq 0$であることに注意する.また,$a=0$とすると$b=1=1^2$となって仮定に反するので$a \neq 0$である.$F$の標数が$2$であるとすると,
$$b=1+a^2=(1+a)^2$$
となり,$b$の平方根が$F$の中に存在しないという仮定に反する.よって$F$の標数は$2$ではない.$\overline{F}$$F$の代数閉包とする.解の公式から$\pm\sqrt{b\pm\sqrt{b}} \in \overline{F}$$X^4-2bX+a^2b$の全ての根となることが分かる.$f(X)=X^4-2bX^2+a^2b$$\alpha=\sqrt{b+\sqrt{b}}$とおく.$\sqrt{b}=\alpha^2-b \in F(\alpha)$であるから,体の拡大列
$$F \subsetneq F(\sqrt{b}) \subset F(\alpha)$$
を得る.$\sqrt{b} \notin F$であることと$\sqrt{b}$が多項式$X^2-b$の根であることから,$[F(\sqrt{b}):F]=2$である.$\alpha \in F(\sqrt{b})$と仮定する.このとき,$x,y \in F$が存在して$\alpha=x+y\sqrt{b}$と書ける.すると,
$$b+\sqrt{b}=\alpha^2=x^2+by^2+2xy\sqrt{b}$$
となるから,$b=x^2+by^2$かつ$1=2xy$となる.後者の式から$x \neq 0$かつ$y=\frac{1}{2x}$となるから(${\rm ch}\,F \neq 2$に注意)
$$b=x^2+\frac{b}{4x^2}$$
$$4x^4-4bx^2+b=0$$
$$x^2=\frac{b \pm a\sqrt{b}}{2} \hspace{0.2in} ({\rm ch}\,F \neq 2 \, に注意)$$
$$\sqrt{b}=\pm\frac{2x^2-b}{a} \in F \hspace{0.2in} (\because \, a \neq 0)$$
が成り立つが,これは仮定$\sqrt{b} \notin F$に矛盾.よって$\alpha \notin F(\sqrt{b})$である.$\alpha$$F(\sqrt{b})$上の多項式$X^2-(b+\sqrt{b})$の根であることを考えると,$[F(\alpha):F(\sqrt{b})]=2$が成り立つ.これより
$$[F(\alpha):F]=[F(\alpha):F(\sqrt{b})][F(\sqrt{b}):F]=4$$
となるので,$\alpha$$F$上の最小多項式は$f(X)$である.これより,$\alpha$$F$上の共役が$\pm\sqrt{b\pm\sqrt{b}}$で全てであることも分かる.

さて,$\sqrt{b}=\alpha^2-b \in F(\alpha)$であることと$\sqrt{b+\sqrt{b}} \cdot \sqrt{b-\sqrt{b}}=a\sqrt{b}$であることから,
$$\sqrt{b-\sqrt{b}}=\frac{a\sqrt{b}}{\sqrt{b+\sqrt{b}}} \in F(\alpha)$$
が成り立つ.よって,$\pm\sqrt{b\pm\sqrt{b}} \in F(\alpha)$であるから,$K=F(\alpha)$と書ける.更に$K/F$が正規拡大であることも分かる.

$K/F=F(\alpha)/F$が分離拡大であることを示す.$f(X)$の微分$f'(X)$
$$f'(X)=4X^3-4bX=4X(X^2-b)$$
である.$F$の標数は$2$でないから,$f'(X)$は零多項式ではない.仮に$\pm\sqrt{b\pm\sqrt{b}}$のいずれかが$0$であるとすると,
$$b\pm\sqrt{b}=0 \hspace{0.2in} \Longrightarrow \hspace{0.2in} \pm\sqrt{b}=-b, \hspace{0.2in} \Longrightarrow \hspace{0.2in} b=b^2$$
となって仮定に矛盾.また,$\pm\sqrt{b\pm\sqrt{b}}$のいずれかが多項式$X^2-b$の根であるとすると,
$$b\pm\sqrt{b}-b=0 \hspace{0.2in} \Longrightarrow \hspace{0.2in} b=0$$
となるのでやはり矛盾.従って$f(X)$は重根を持たないから,$K/F$は分離拡大である.以上より,$K/F$がガロア拡大であることが示された.(証明終)

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解答を表示

1の結果から$|{\rm Gal}(K/F)|=4$である.$\sigma \in {\rm Gal}(K/F)$
$$\sigma(\sqrt{b+\sqrt{b}})=\sqrt{b-\sqrt{b}}$$
を満たす元とする.このとき,
$$b-\sqrt{b}=\left(\sigma\left(\sqrt{b+\sqrt{b}}\right)\right)^2=\sigma((b+\sqrt{b})^2)=\sigma(b+\sqrt{b})=b+\sigma(\sqrt{b})$$
となるので,$\sigma(\sqrt{b})=-\sqrt{b}$である.すると,$\sqrt{b-\sqrt{b}}=\frac{a\sqrt{b}}{\sqrt{b+\sqrt{b}}}$から
$$\sigma\left(\sqrt{b-\sqrt{b}}\right)=\sigma\left(\frac{a\sqrt{b}}{\sqrt{b+\sqrt{b}}}\right)=\frac{a \cdot \sigma(\sqrt{b})}{\sigma(\sqrt{b+\sqrt{b}})}=\frac{-a\sqrt{b}}{\sqrt{b-\sqrt{b}}}=-\sqrt{b+\sqrt{b}}$$
が成り立つ.従って,$\sigma^2(\sqrt{b+\sqrt{b}})=-\sqrt{b+\sqrt{b}}$である.これより$\sigma^3(\sqrt{b+\sqrt{b}})=-\sqrt{b-\sqrt{b}}$$\sigma^4(\sqrt{b+\sqrt{b}})=\sqrt{b+\sqrt{b}}$であるから,$\sigma$の位数は$4$である.よって${\rm Gal}(K/F)=\langle \sigma \rangle$となるので,$\underline{{\rm Gal}(K/F) \cong \mathbb{Z}/4\mathbb{Z}}$である.(終)

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解答を表示

ガロアの基本定理から,$K/F$の中間体は${\rm Gal}(K/F) \cong \mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$の部分群に1対1に対応する.$\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$の自明でない部分群は$2\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$のみである.これに対応する部分体は$\sigma^2$で固定される元全体からなる体である.その体を$M$とおくと$[M:F]=2$である.2で計算したことから$\sigma^2(\sqrt{b})=\sqrt{b}$が成り立つので,$F(\sqrt{b}) \subset M$が成り立つ.1での計算から$[F(\sqrt{b}):F]=2$であったから,$[F(\sqrt{b}):M]=1$となる.即ち$\underline{M=F(\sqrt{b})}$であり,これが求めるべき部分体である.(終)

最後までお読み頂きありがとうございました.

参考文献

[1]
永田雅宜, 復刻版 大学院への代数学演習, 現代数学社, 2021
投稿日:2022618
OptHub AI Competition

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certain
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素朴な問題が特に好きです.

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