0
大学数学基礎解説
文献あり

代数学をやるその10 場合分けが少し大変な体論の問題

40
0

はじめに

今回は場合分けの数が多くて少し大変な体論の問題を持ってきました.

その他の問題たちは こちらのまとめページ から見れます.よろしければリンクをご利用ください.

問題と解答

f(x)は有理数体Qに係数を持つ2次式(最高次の係数)であって,8次式
F(x)=f(f(f(x)))x
は重根を持たないとする.このとき,次の問に答えよ.(東大)

  1. af(a)F(x)の根の置換を引き起こすことを示せ.
  2. QまたはQの適当な2次拡大体において,F(x)は一つの2次式と二つの3次式の積に分解することを示せ.

感想

全体として議論自体はそんなに難しい知識を使わずに進みます.最初に述べた通り,(2)では場合分けが8個も発生します.ただ,数は多くとも一つ一つの場合における議論はそこまで長くないというのが救いですね.

1
証明を表示

集合AF(x)の根全体からなる集合
A={αQ|F(α)=0}
とする.F(x)は分離的な8次式であるから|A|=8である.ここでQQの代数閉包である.αAとするとf(f(f(α)))=αが成り立つから,
F(f(α))=f(f(f(f(α))))f(α)=f(α)f(α)=0
が成り立つ.即ち,f(α)F(x)の根である.これより写像
σ:Aαf(α)A
を定義することができる.α,βAに対してf(α)=f(β)が成り立つとすると,fを2回作用させることで
α=f(f(f(α)))=f(f(f(β)))=β
が成り立つ.これよりσは単射であり,Aは有限集合であるからσは全単射となる.即ちσAの元の置換を引き起こす.(証明終)

2
証明を表示

(1)の証明で用いた記号を用いる.αAであるときf(f(f(α)))=αであることから,σ3(α)=αである.これより1i3を満たす整数iが各αAに対して存在してσi(α)=αが成り立つ.σ2(α)=αであるとすると,両辺にσを作用させることでσ(α)=αを得る.以上より,αA
σ(α)=ασi(α)α(i=1,2),σ3(α)=α
を満たす.Aの部分集合A1,A2
A1={αA|σ(α)=α}
A2={αA|σi(α)α(i=1,2),σ3(α)=α}
で定める.αA1とするとαf(x)xの根である.f(x)Q上の2次多項式であったからf(x)xもそうであり,また|A1|=2となる.よってF(x)f(x)xで割り切れるから,
g(x)=F(x)f(x)x
とするとg(x)Q上の6次多項式となる.g(x)の根はA2の元で全てであり,|A2|=|A||A1|=6であるから,その根はあるβ,γA2によって
β,σ(β),σ2(β),γ,σ(γ),σ2(γ)
と書ける.これより
g(x)=(xβ)(xσ(β))(xσ2(β))(xγ)(xσ(γ))(xσ2(γ))
が成り立つ.K=Q(β)とおく.f(x)Q[x]であるからσ(β),σ2(β)Kであることに注意する.g(x)の次数が6であることから[K:Q]6が成り立つ.また,(xβ)(xσ(β))(xσ2(β))K[x]であるから,[K(γ):K]3であることにも注意する.

以下,各場合について考えていく.


(i)[K:Q]=1のとき:このときβQであるからσ(β),σ2(β)Qである.すると,
(xγ)(xσ(γ))(xσ2(γ))=g(x)(xβ)(xσ(β))(xσ2(β))Q[x]
が成り立つから,この場合は主張が成り立つ.


(ii)[K:Q]=2のときKQ2次拡大体である.(xβ)(xσ(β))(xσ2(β))K[x]である.g(x)Q[x]K[x]であるから
(xγ)(xσ(γ))(xσ2(γ))=g(x)(xβ)(xσ(β))(xσ2(β))K[x]
も成り立つ.従ってこの場合も主張が成り立つ.


(iii)[K:Q]=3のときβQ上の共役は3個である.そのうちβ以外のものをσ(β),σ2(β),γ,σ(γ),σ2(γ)の中から選び出すことで,βQ上の最小多項式を作ることができる.それをh(x)とすると,仮定よりh(x)の次数は3であり,g(x)h(x)Q[x]3次多項式となる.従ってこの場合も主張が成り立つ.


(iv)[K:Q]=4のときβQ上の共役は4個存在する.すると,g(x)の根のうち残りの2個はQ上の共役が2個以下のものであり,この場合は上記の(i),(ii)のいずれかの場合に帰着できる.


(v)[K:Q]=5のときβQ上の共役は5個存在する.すると,g(x)の根のうち残りの1個はQの元となる.σ(β),σ2(β)のいずれかがQの元であるとするとσを適当に作用させることでβQとなって矛盾.従ってγ,σ(γ),σ2(γ)のいずれかがQの元となるが,どれがQの元であってもσを適当回作用させることでそれら全てがQの元となるので,βQ上の共役が5個となることは有り得ない.


(vi)[K:Q]=6かつ[K(γ):K]=1のときσを適当回作用させることでγ,σ(γ),σ2(γ)Kが分かる.よって,拡大K/Qは正規拡大であり,g(x)が分離多項式であることからK/Qはガロア拡大である.よってそのガロア群は位数6の群に同型である.位数6の群はZ/6ZもしくはS3(3次対称群)のいずれかに同型であり,どちらも指数2の正規部分群を持つ(前者は2Z/6Z,後者はA3(3次交代群)).ガロアの基本定理より,それらに対応する部分体をMとすると,MQ2次拡大体である.βM上の最小多項式をh(x)とすると,h(x)3次多項式である.そしてg(x)Q[x]M[x]であるからg(x)h(x)M[x]でこれも3次多項式である.よって,この場合も主張が成り立つ.


(vii)[K:Q]=6かつ[K(γ):K]=2のとき
(xγ)(xσ(γ))(xσ2(γ))=g(x)(xβ)(xσ(β))(xσ2(β))K[x]
であることに注意する.[K(γ):K]=2よりγK上の最小多項式は2次であるから,σ(γ),σ2(γ)のいずれかはKの元となる.このときσを適当回作用させることでγKとなるから矛盾.従ってこの場合は有り得ない.


(viii)[K:Q]=6かつ[K(γ):K]=3のときσ(γ),σ2(γ)K(γ)であるから,K(γ)=Q(β,γ)Q上の18次ガロア拡大となる.よってそのガロア群は位数が18の群に同型である.18=232であるから,そのガロア群にはSylow3部分群N3が存在し,その指数は2である.N3に対応する部分体をMとすると,[M:Q]=2が成り立つ.後は(vi)の場合と同様に議論でき,この場合も主張が成り立つ.

以上より全ての場合分けが終了し,題意は示された.(証明終)

具体例

折角なので上で示した結果を簡単な例で確かめてみようと思います.

f(x)=x2とすると,
F(x)=x8x=x(x71)=x(x1)(x6+x5+x4+x3+x2+x+1)
となります.よってζ1の原始7乗根(の1つ)とすると,F(x)の根は
0,1,ζi(1i6)
で全てとなります.K=Q(ζ)とおくと円分体の理論から[K:Q]=6が成り立ちます.更にガロア理論からM:=Q(ζ+ζ2+ζ4)Q2次拡大体であることが分かります.ζ3+ζ5+ζ6=2ζ+ζ2+ζ4Mであることに注意すると,ζM上の最小多項式は
x3(ζ+ζ2+ζ4)x2+(ζ3+ζ5+ζ6)x1M[x]
となります([K:M]=3に注意).これでx6+x5+x4+x3+x2+x+1を割り算すると,
x6+x5+x4+x3+x2+x+1=(x3(ζ+ζ2+ζ4)x2+(ζ3+ζ5+ζ6)x1)(x3(ζ3+ζ5+ζ6)x2+(ζ+ζ2+ζ4)x1)
が成り立ちます.以上より,
F(x)=x(x1)Q[x]M[x]2(x3(ζ+ζ2+ζ4)x2+(ζ3+ζ5+ζ6)x1)M[x]3(x3(ζ3+ζ5+ζ6)x2+(ζ+ζ2+ζ4)x1)M[x]3
と分解でき,上で示した事実が成り立っていることが分かりました.因みにこの例は(2)の証明における(vi)の場合に相当します.

最後までお読み頂きありがとうございました.

参考文献

[1]
永田雅宜, 復刻版 大学院への代数学演習, 現代数学社, 2021
投稿日:2022622
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

certain
certain
32
18679
素朴な問題が特に好きです.

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中