今回は場合分けの数が多くて少し大変な体論の問題を持ってきました.
その他の問題たちは こちらのまとめページ から見れます.よろしければリンクをご利用ください.
$f(x)$は有理数体$\mathbb{Q}$に係数を持つ$2$次式(最高次の係数)であって,$8$次式
$$F(x)=f(f(f(x)))-x$$
は重根を持たないとする.このとき,次の問に答えよ.(東大)
全体として議論自体はそんなに難しい知識を使わずに進みます.最初に述べた通り,(2)では場合分けが8個も発生します.ただ,数は多くとも一つ一つの場合における議論はそこまで長くないというのが救いですね.
集合$A$を$F(x)$の根全体からなる集合
$$A=\{\alpha \in \overline{\mathbb{Q}} \, | \, F(\alpha)=0\}$$
とする.$F(x)$は分離的な$8$次式であるから$|A|=8$である.ここで$\overline{\mathbb{Q}}$は$\mathbb{Q}$の代数閉包である.$\alpha \in A$とすると$f(f(f(\alpha)))=\alpha$が成り立つから,
$$F(f(\alpha))=f(f(f(f(\alpha))))-f(\alpha)=f(\alpha)-f(\alpha)=0$$
が成り立つ.即ち,$f(\alpha)$も$F(x)$の根である.これより写像
$$\sigma : A \ni \alpha \longmapsto f(\alpha) \in A$$
を定義することができる.$\alpha,\beta \in A$に対して$f(\alpha)=f(\beta)$が成り立つとすると,$f$を2回作用させることで
$$\alpha=f(f(f(\alpha)))=f(f(f(\beta)))=\beta$$
が成り立つ.これより$\sigma$は単射であり,$A$は有限集合であるから$\sigma$は全単射となる.即ち$\sigma$は$A$の元の置換を引き起こす.(証明終)
(1)の証明で用いた記号を用いる.$\alpha \in A$であるとき$f(f(f(\alpha)))=\alpha$であることから,$\sigma^3(\alpha)=\alpha$である.これより$1 \leq i \leq 3$を満たす整数$i$が各$\alpha \in A$に対して存在して$\sigma^i(\alpha)=\alpha$が成り立つ.$\sigma^2(\alpha)=\alpha$であるとすると,両辺に$\sigma$を作用させることで$\sigma(\alpha)=\alpha$を得る.以上より,$\alpha \in A$は
$$\sigma(\alpha)=\alpha \hspace{0.2in} もしくは \hspace{0.2in} \sigma^i(\alpha) \neq \alpha \, (i=1,2), \, \sigma^3(\alpha)=\alpha$$
を満たす.$A$の部分集合$A_1,A_2$を
$$A_1=\{\alpha \in A \, | \, \sigma(\alpha)=\alpha\}$$
$$A_2 =\{\alpha \in A \, | \, \sigma^i(\alpha) \neq \alpha\,(i=1,2), \, \sigma^3(\alpha)=\alpha\}$$
で定める.$\alpha \in A_1$とすると$\alpha$は$f(x)-x$の根である.$f(x)$は$\mathbb{Q}$上の$2$次多項式であったから$f(x)-x$もそうであり,また$|A_1|=2$となる.よって$F(x)$は$f(x)-x$で割り切れるから,
$$g(x)=\frac{F(x)}{f(x)-x}$$
とすると$g(x)$は$\mathbb{Q}$上の$6$次多項式となる.$g(x)$の根は$A_2$の元で全てであり,$|A_2|=|A|-|A_1|=6$であるから,その根はある$\beta,\gamma \in A_2$によって
$$\beta,\sigma(\beta),\sigma^2(\beta), \, \gamma, \sigma(\gamma), \sigma^2(\gamma)$$
と書ける.これより
$$g(x)=(x-\beta)(x-\sigma(\beta))(x-\sigma^2(\beta))(x-\gamma)(x-\sigma(\gamma))(x-\sigma^2(\gamma))$$
が成り立つ.$K=\mathbb{Q}(\beta)$とおく.$f(x) \in \mathbb{Q}[x]$であるから$\sigma(\beta),\sigma^2(\beta) \in K$であることに注意する.$g(x)$の次数が$6$であることから$[K:\mathbb{Q}] \leq 6$が成り立つ.また,$(x-\beta)(x-\sigma(\beta))(x-\sigma^2(\beta)) \in K[x]$であるから,$[K(\gamma):K] \leq 3$であることにも注意する.
以下,各場合について考えていく.
(i)$[K:\mathbb{Q}]=1$のとき:このとき$\beta \in \mathbb{Q}$であるから$\sigma(\beta),\sigma^2(\beta) \in \mathbb{Q}$である.すると,
$$(x-\gamma)(x-\sigma(\gamma))(x-\sigma^2(\gamma))=\frac{g(x)}{(x-\beta)(x-\sigma(\beta))(x-\sigma^2(\beta))} \in \mathbb{Q}[x]$$
が成り立つから,この場合は主張が成り立つ.
(ii)$[K:\mathbb{Q}]=2$のとき:$K$は$\mathbb{Q}$の$2$次拡大体である.$(x-\beta)(x-\sigma(\beta))(x-\sigma^2(\beta)) \in K[x]$である.$g(x) \in \mathbb{Q}[x] \subset K[x]$であるから
$$(x-\gamma)(x-\sigma(\gamma))(x-\sigma^2(\gamma))=\frac{g(x)}{(x-\beta)(x-\sigma(\beta))(x-\sigma^2(\beta))} \in K[x]$$
も成り立つ.従ってこの場合も主張が成り立つ.
(iii)$[K:\mathbb{Q}]=3$のとき:$\beta$の$\mathbb{Q}$上の共役は3個である.そのうち$\beta$以外のものを$\sigma(\beta),\sigma^2(\beta),\gamma,\sigma(\gamma),\sigma^2(\gamma)$の中から選び出すことで,$\beta$の$\mathbb{Q}$上の最小多項式を作ることができる.それを$h(x)$とすると,仮定より$h(x)$の次数は$3$であり,$\frac{g(x)}{h(x)} \in \mathbb{Q}[x]$も$3$次多項式となる.従ってこの場合も主張が成り立つ.
(iv)$[K:\mathbb{Q}]=4$のとき:$\beta$の$\mathbb{Q}$上の共役は4個存在する.すると,$g(x)$の根のうち残りの2個は$\mathbb{Q}$上の共役が2個以下のものであり,この場合は上記の(i),(ii)のいずれかの場合に帰着できる.
(v)$[K:\mathbb{Q}]=5$のとき:$\beta$の$\mathbb{Q}$上の共役は5個存在する.すると,$g(x)$の根のうち残りの1個は$\mathbb{Q}$の元となる.$\sigma(\beta),\sigma^2(\beta)$のいずれかが$\mathbb{Q}$の元であるとすると$\sigma$を適当に作用させることで$\beta \in \mathbb{Q}$となって矛盾.従って$\gamma,\sigma(\gamma),\sigma^2(\gamma)$のいずれかが$\mathbb{Q}$の元となるが,どれが$\mathbb{Q}$の元であっても$\sigma$を適当回作用させることでそれら全てが$\mathbb{Q}$の元となるので,$\beta$の$\mathbb{Q}$上の共役が5個となることは有り得ない.
(vi)$[K:\mathbb{Q}]=6$かつ$[K(\gamma):K]=1$のとき:$\sigma$を適当回作用させることで$\gamma,\sigma(\gamma),\sigma^2(\gamma) \in K$が分かる.よって,拡大$K/\mathbb{Q}$は正規拡大であり,$g(x)$が分離多項式であることから$K/\mathbb{Q}$はガロア拡大である.よってそのガロア群は位数$6$の群に同型である.位数$6$の群は$\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$もしくは$S_3$($3$次対称群)のいずれかに同型であり,どちらも指数$2$の正規部分群を持つ(前者は$2\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$,後者は$A_3$($3$次交代群)).ガロアの基本定理より,それらに対応する部分体を$M$とすると,$M$は$\mathbb{Q}$の$2$次拡大体である.$\beta$の$M$上の最小多項式を$h(x)$とすると,$h(x)$は$3$次多項式である.そして$g(x) \in \mathbb{Q}[x] \subset M[x]$であるから$\frac{g(x)}{h(x)} \in M[x]$でこれも$3$次多項式である.よって,この場合も主張が成り立つ.
(vii)$[K:\mathbb{Q}]=6$かつ$[K(\gamma):K]=2$のとき:
$$(x-\gamma)(x-\sigma(\gamma))(x-\sigma^2(\gamma))=\frac{g(x)}{(x-\beta)(x-\sigma(\beta))(x-\sigma^2(\beta))} \in K[x]$$
であることに注意する.$[K(\gamma):K]=2$より$\gamma$の$K$上の最小多項式は$2$次であるから,$\sigma(\gamma),\sigma^2(\gamma)$のいずれかは$K$の元となる.このとき$\sigma$を適当回作用させることで$\gamma \in K$となるから矛盾.従ってこの場合は有り得ない.
(viii)$[K:\mathbb{Q}]=6$かつ$[K(\gamma):K]=3$のとき:$\sigma(\gamma),\sigma^2(\gamma) \in K(\gamma)$であるから,$K(\gamma)=\mathbb{Q}(\beta,\gamma)$は$\mathbb{Q}$上の$18$次ガロア拡大となる.よってそのガロア群は位数が$18$の群に同型である.$18=2 \cdot 3^2$であるから,そのガロア群にはSylow$3$部分群$N_3$が存在し,その指数は$2$である.$N_3$に対応する部分体を$M$とすると,$[M:\mathbb{Q}]=2$が成り立つ.後は(vi)の場合と同様に議論でき,この場合も主張が成り立つ.
以上より全ての場合分けが終了し,題意は示された.(証明終)
折角なので上で示した結果を簡単な例で確かめてみようと思います.
$f(x)=x^2$とすると,
$$F(x)=x^8-x=x(x^7-1)=x(x-1)(x^6+x^5+x^4+x^3+x^2+x+1)$$
となります.よって$\zeta$を$1$の原始$7$乗根(の1つ)とすると,$F(x)$の根は
$$0, \, 1, \, \zeta^i \, (1 \leq i \leq 6)$$
で全てとなります.$K=\mathbb{Q}(\zeta)$とおくと円分体の理論から$[K:\mathbb{Q}]=6$が成り立ちます.更にガロア理論から$M:=\mathbb{Q}(\zeta+\zeta^2+\zeta^4)$は$\mathbb{Q}$の$2$次拡大体であることが分かります.$\zeta^3+\zeta^5+\zeta^6=\frac{2}{\zeta+\zeta^2+\zeta^4} \in M$であることに注意すると,$\zeta$の$M$上の最小多項式は
$$x^3-(\zeta+\zeta^2+\zeta^4)x^2+(\zeta^3+\zeta^5+\zeta^6)x-1 \in M[x]$$
となります($[K:M]=3$に注意).これで$x^6+x^5+x^4+x^3+x^2+x+1$を割り算すると,
$$\begin{split}
&x^6+x^5+x^4+x^3+x^2+x+1 \\
&=(x^3-(\zeta+\zeta^2+\zeta^4)x^2+(\zeta^3+\zeta^5+\zeta^6)x-1) \cdot (x^3-(\zeta^3+\zeta^5+\zeta^6)x^2+(\zeta+\zeta^2+\zeta^4)x-1)
\end{split}$$
が成り立ちます.以上より,
$$\begin{split}
&F(x)\\
&=\underbrace{x(x-1)}_{\mathbb{Q}[x] \subset M[x]の2次式} \cdot \underbrace{(x^3-(\zeta+\zeta^2+\zeta^4)x^2+(\zeta^3+\zeta^5+\zeta^6)x-1)}_{M[x]の3次式} \cdot \underbrace{(x^3-(\zeta^3+\zeta^5+\zeta^6)x^2+(\zeta+\zeta^2+\zeta^4)x-1)}_{M[x]の3次式}
\end{split}$$
と分解でき,上で示した事実が成り立っていることが分かりました.因みにこの例は(2)の証明における(vi)の場合に相当します.
最後までお読み頂きありがとうございました.