はじめに
今回は場合分けの数が多くて少し大変な体論の問題を持ってきました.
その他の問題たちは
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問題と解答
は有理数体に係数を持つ次式(最高次の係数)であって,次式
は重根を持たないとする.このとき,次の問に答えよ.(東大)
- はの根の置換を引き起こすことを示せ.
- またはの適当な次拡大体において,は一つの次式と二つの次式の積に分解することを示せ.
感想
全体として議論自体はそんなに難しい知識を使わずに進みます.最初に述べた通り,(2)では場合分けが8個も発生します.ただ,数は多くとも一つ一つの場合における議論はそこまで長くないというのが救いですね.
1
証明を表示
集合をの根全体からなる集合
とする.は分離的な次式であるからである.ここではの代数閉包である.とするとが成り立つから,
が成り立つ.即ち,もの根である.これより写像
を定義することができる.に対してが成り立つとすると,を2回作用させることで
が成り立つ.これよりは単射であり,は有限集合であるからは全単射となる.即ちはの元の置換を引き起こす.(証明終)
2
証明を表示
(1)の証明で用いた記号を用いる.であるときであることから,である.これよりを満たす整数が各に対して存在してが成り立つ.であるとすると,両辺にを作用させることでを得る.以上より,は
を満たす.の部分集合を
で定める.とするとはの根である.は上の次多項式であったからもそうであり,またとなる.よってはで割り切れるから,
とするとは上の次多項式となる.の根はの元で全てであり,であるから,その根はあるによって
と書ける.これより
が成り立つ.とおく.であるからであることに注意する.の次数がであることからが成り立つ.また,であるから,であることにも注意する.
以下,各場合について考えていく.
(i)のとき:このときであるからである.すると,
が成り立つから,この場合は主張が成り立つ.
(ii)のとき:はの次拡大体である.である.であるから
も成り立つ.従ってこの場合も主張が成り立つ.
(iii)のとき:の上の共役は3個である.そのうち以外のものをの中から選び出すことで,の上の最小多項式を作ることができる.それをとすると,仮定よりの次数はであり,も次多項式となる.従ってこの場合も主張が成り立つ.
(iv)のとき:の上の共役は4個存在する.すると,の根のうち残りの2個は上の共役が2個以下のものであり,この場合は上記の(i),(ii)のいずれかの場合に帰着できる.
(v)のとき:の上の共役は5個存在する.すると,の根のうち残りの1個はの元となる.のいずれかがの元であるとするとを適当に作用させることでとなって矛盾.従ってのいずれかがの元となるが,どれがの元であってもを適当回作用させることでそれら全てがの元となるので,の上の共役が5個となることは有り得ない.
(vi)かつのとき:を適当回作用させることでが分かる.よって,拡大は正規拡大であり,が分離多項式であることからはガロア拡大である.よってそのガロア群は位数の群に同型である.位数の群はもしくは(次対称群)のいずれかに同型であり,どちらも指数の正規部分群を持つ(前者は,後者は(次交代群)).ガロアの基本定理より,それらに対応する部分体をとすると,はの次拡大体である.の上の最小多項式をとすると,は次多項式である.そしてであるからでこれも次多項式である.よって,この場合も主張が成り立つ.
(vii)かつのとき:
であることに注意する.よりの上の最小多項式は次であるから,のいずれかはの元となる.このときを適当回作用させることでとなるから矛盾.従ってこの場合は有り得ない.
(viii)かつのとき:であるから,は上の次ガロア拡大となる.よってそのガロア群は位数がの群に同型である.であるから,そのガロア群にはSylow部分群が存在し,その指数はである.に対応する部分体をとすると,が成り立つ.後は(vi)の場合と同様に議論でき,この場合も主張が成り立つ.
以上より全ての場合分けが終了し,題意は示された.(証明終)
具体例
折角なので上で示した結果を簡単な例で確かめてみようと思います.
とすると,
となります.よってをの原始乗根(の1つ)とすると,の根は
で全てとなります.とおくと円分体の理論からが成り立ちます.更にガロア理論からはの次拡大体であることが分かります.であることに注意すると,の上の最小多項式は
となります(に注意).これでを割り算すると,
が成り立ちます.以上より,
と分解でき,上で示した事実が成り立っていることが分かりました.因みにこの例は(2)の証明における(vi)の場合に相当します.
最後までお読み頂きありがとうございました.