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大学数学基礎解説
文献あり

代数学をやるその11 多項式環への行列の作用

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はじめに

今回は,2変数多項式環へ行列が作用している問題を持ってきました.位数を数えるのが楽しい問題です.

その他の問題たちは こちらのまとめページ から見れます.よろしければリンクをご利用ください.

問題と解答

元数qの有限体K上の2次正則行列全体の群GL(2,K)及びK上の2変数多項式f=f(x,y)に対し,
Gf={(abcd)GL(2,K)|f(ax+by,cx+dy)=f(x,y)}
とおく.次の各fに対して,群Gf及びその位数を求めよ.(東大)

  1. xyqxqy
  2. x2+y2
  3. x3+y3

感想

(1)は簡単です.(2)は位数を数えるのが少し大変,というか一度経験しておかないと試験時間中に思いつくのは難しいんじゃないかなと思います.(3)は(2)ができれば同様の方針で解けますが,位数を数えるのは(3)の方が簡単です.また,変数の対応が
(ax+bycx+dy)=(abcd)(xy)
という風に行列を掛けた形になっていることからGfは確かに群となります.まあそもそも問題文中で群Gfとはっきり言っているので,言及する必要はないと思いますが…

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解答を表示

Kが元数qの有限体であることから,(X+Y)q=Xq+Yqαq=α(αK)が成り立つので,
(ax+by)(cx+dy)q(ax+by)q(cx+dy)=(ax+by)(cqxq+dqyq)(aqxq+bqyq)(cx+dy)=(ax+by)(cxq+dyq)(axq+byq)(cx+dy)=(adbc)(xyqxqy)
と計算できる.よって,
(abcd)Gfadbc=1
が成り立つ.これより,
Gf={gGL(2,K)|detg=1}=SL(2,K)
が成り立つ.Gfの位数を求める.行列式を取る写像
φ:GL(2,K)gdetgK×
は群の全射準同型である.ここでK×Kの乗法群を表す.φの核はSL(2,K)=Gfに等しいので,準同型定理から
GL(2,K)/GfK×
が成り立つ.GL(2,K)の位数を求める.(abcd)GL(2,K)であるとするとα=adbc0である.
a=0とすると,bc=αとなる.α0よりb0であり,これよりc=αb1と書ける.よってcbから求まる.bの選び方は0以外のq1通りで,dKの任意の元を取れるから,この場合の元はq(q1)通り存在する.
a0とすると,d=(α+bc)a1となるから,da,b,cによって定まる.aの選び方は0以外のq1通り,b,cKの任意の元を取れるから,この場合の元はq2(q1)通り存在する.
αK×の選び方がq1通りあることを合わせると,GL(2,K)の位数は
{q(q1)+q2(q1)}(q1)=q(q1)2(q+1)
と求まる.すると,同型GL(2,K)/GfK×によって|Gf|=q(q1)(q+1)が成り立つ.以上より解答は次の通りである.(終)
Gf=SL(2,K)={gGL(2,K)|detg=1}
|Gf|=q(q1)(q+1)

(※)上の数え方と本質的に変わらないが,Gfの位数を以下のように直接数えることもできる:(abcd)Gfとすると,adbc=1が成り立つ.
a=0とするとbc=1となる.これよりb0であり,c=b1と書ける.よってcbから求まる.bの選び方は0以外のq1通りで,dKの任意の元を取れるから,この場合の元はq(q1)通り存在する.
a0とすると,d=(1+bc)a1となるから,da,b,cによって定まる.aの選び方は0以外のq1通り,b,cKの任意の元を取れるから,この場合の元はq2(q1)通り存在する.
よってGfの位数は
q(q1)+q2(q1)=q(q1)(q+1)
と求まる.(終)

2
解答を表示

(ax+by)2+(cx+dy)2=(a2+c2)x2+2(ab+cd)xy+(b2+d2)y2
と計算できる.よって,
(1)(abcd)Gf{a2+c2=1b2+d2=12(ab+cd)=0adbc0
が成り立つ.Kの標数が2であるかどうかで場合分けする.

(i)chK=2の場合:式(1)は次のように書き換えられる.
(abcd)Gf{(a+c)2=1(b+d)2=1adbc0{a+c=1b+d=1adbc0
ここで,標数が2の体の元αα2=1を満たすものはαしか存在しないことを用いた.すると,c=1a,d=1bとなりc,dはそれぞれa,bにより定まる.これをadbc0に代入すると
0a(1b)b(1a)=ab
となり,これはabに同値である.以上より,
Gf={(ab1a1b)GL(2,K)|ab}
と求まる.a,bの選び方はq(q1)通り存在するから,|Gf|=q(q1)である.


(ii)chK2の場合qは奇数であることに注意する.式(1)は次のように書き換えられる.
(abcd)Gf{a2+c2=1b2+d2=1ab+cd=0adbc0
a0かどうかで場合分けする.

a=0とするとc=±1かつcd=0である.よってd=0であり,b=±1が成り立つ.このとき確かにadbc0となる.

a0とするとb=cda1である.これをb2+d2=1に代入すると
c2d2a2+d2=1(c2+a2)d2=a2d2=a2(a2+c2=1)d=±a
を得る.するとb=cda1であるから,d=aならb=cd=aならb=cが成り立つ.ここまでの議論から,a0となるようなGfの元全体が2つの集合
{(abba)GL(2,K)|a0,a2+b2=1},{(abba)GL(2,K)|a0,a2+b2=1}
の直和となることが分かるが,これはa=0の場合も含んでいる.

以上より,
Gf={(abba)GL(2,K)|a2+b2=1}{(abba)GL(2,K)|a2+b2=1}
が成り立つ.

Gfの位数を求める.kKに対してK上の方程式X2+Y2=kK内における解の個数をS(k)とおくと2S(1)が求める値である.任意のkKに対してS(k)>0であることは補題1から従う.kk0となるk,kKを取る.α,βKα2+β2=kk(0)を満たすとする.このとき,γ2+δ2=kが成り立つならば,
(αγ+βδ)2+(βγ+αδ)2=(α2+β2)(γ2+δ2)=k
が成り立つ.即ち,αγ+βδ,βγ+αδX2+Y2=kの解である.この解の対応は1対1であるから(行列(αββα)の可逆性),S(k)=S(k)が成り立つ.以上より,K×Kの元(X,Y)X2+Y2の値で分類すると,元の個数について
q2=S(0)+(q1)S(1)
が成り立つ.補題3より
S(0)={2q1(q1mod4)1(q3mod4)
である(今chK2としていることに注意).よってq1mod4の場合はq2=2q1+(q1)S(1)よりS(1)=q1となる.またq3mod4の場合はq2=1+(q1)S(1)よりS(1)=q+1となる.

以上より解答は次の通りである.(終)

chK=2の場合
Gf={(ab1a1b)GL(2,K)|ab}
|Gf|=q(q1)
chK2の場合
Gf={(abba)GL(2,K)|a2+b2=1}{(abba)GL(2,K)|a2+b2=1}
|Gf|={2(q1)(q1mod4)2(q+1)(q3mod4)

3
解答を表示

(ax+by)3+(cx+dy)3=(a3+c3)x3+3(a2b+c2d)x2y+3(ab2+cd2)xy2+(b3+d3)y3
と計算できる.よって,
(1)(abcd)Gf{a3+c3=1b3+d3=13(a2b+c2d)=03(ab2+cd2)=0adbc0
が成り立つ.Kの標数が3であるかどうかで場合分けする.

(i)chK=3の場合:式(1)は次のように書き換えられる.
(abcd)Gf{(a+c)3=1(b+d)3=1adbc0{a+c=1b+d=1adbc0
ここで,標数が3の体の元αα3=1を満たすものはαしか存在しないことを用いた.すると,(2)と同様にして
Gf={(ab1a1b)GL(2,K)|ab}
かつ|Gf|=q(q1)であることが分かる.


(ii)chK3の場合30より式(1)は次のように書き換えられる.
(abcd)Gf{a3+c3=1b3+d3=1a2b+c2d=0ab2+cd2=0adbc0
右辺第3式の両辺にdを,第4式の両辺にcを掛けて辺々引くことで
ab(adbc)=0
を得る.adbc0であるからa,bのいずれかが0である.このときc2d=0であるからc,dのいずれかも0である.a=0とするとbc0であるからb,c0であり,従ってd=0となる.b=0とするとad0であるからa,d0であり,従ってc=0となる.以上より,
Gf={(0bc0)GL(2,K)|b3=c3=1}{(a00d)GL(2,K)|a3=d3=1}
が成り立つ.補題5から,K上の方程式X3=1K内における解の個数S
S={3(q1mod3)1(q2mod3)
を満たすから(今chK3としていることに注意),
|Gf|={18(q1mod3)2(q2mod3)
と求まる.

以上より解答は次の通りである.(終)

chK=3の場合
Gf={(ab1a1b)GL(2,K)|ab}
|Gf|=q(q1)
chK3の場合
Gf={(0bc0)GL(2,K)|b3=c3=1}{(a00d)GL(2,K)|a3=d3=1}
|Gf|={18(q1mod3)2(q2mod3)

今回用いた事実

Kを位数qの有限体とする.任意のkKに対して,方程式X2+Y2=kK内に解を持つ.

証明を表示

Kの標数が2のときとそうでないときで場合分けする.

(i)chK=2のとき:このときKの位数qは偶数である.任意のαKに対してαq=αが成り立つことから,αq2K(αq2)2=αを満たす(qは偶数であることに注意).これより,任意のkKに対してαk2=kとなるαkKが存在することが分かる.さて,chK=2であることからX2+Y2=(X+Y)2であるから,与えられた方程式は
(X+Y)2=k
と変形できる.X+Y=αkという方程式はK内に解を持つ(例えばX=αk,Y=0).従って,X2+Y2=(X+Y)2=kという方程式もK内に解を持つ.

(ii)chK2のとき:このときKの位数qは奇数である.K×(Kの乗法群)は巡回群であるから,|{l2|lK×}|=q12である(qは奇数よりq12で割り切れることに注意).02=0も合わせると,
|{l2|lK}|=1+q12=q+12
となる.ところで,任意のkKに対し,写像φk:KxkxKは単射であるから,
|{kl2|lK}|=|{l2|lK}|=q12
が成り立つ.よって,
|{l2|lK}|+|{kl2|lK}|=q+12+q+12=q+1>q
となるので,2つの集合{l2|lK},{kl2|lK}たちには共通元があり(鳩ノ巣原理),それが求める解である.(証明終)

実は今の補題の証明を少し改良することで,有限体K上の方程式aX2+bY2=c(a,bK×,cK)がK内に解を持つことが分かります.

Kを位数qの有限体とし,Kの標数はchK>2を満たすとする.このとき,方程式X2=1を満たすKの元は,q1mod4のとき存在し,q3mod4のとき存在しない.

証明を表示

pを奇素数とする.平方剰余の相互法則より,
(1p)=(1)p12={1(p1mod4)1(p3mod4)
が成り立つことに注意する.
chK=pとし,q=pe(e1以上の整数)と表す.仮定よりpは奇素数である.またFp:=Z/pZKが成り立つ.
q1mod4とすると,p1mod4もしくはp1mod4かつeが偶数となる.p1mod4の場合は,上の注意から1FpKが成り立つ.p1mod4かつeが偶数の場合は,Kは素体Fpの偶数次拡大であるから,特にFp2次拡大Fp2を含む.Fp21を含むので1Kとなる.
q1mod4とすると,p1mod4かつeが奇数となる.上の注意から1Fpが成り立つ.また,Kは素体Fpの奇数次拡大であるから,その部分体としてFpの偶数次拡大は含まない.よって1Kとなる.(証明終)

Kを位数qの有限体とする.方程式X2+Y2=0を満たすKの元α,βの個数をS(0)とすると,次が成り立つ.
S(0)={q(chK=2)2q1(chK2q1mod4)1(chK2q3mod4)

証明を表示

Kの標数が2であるときとそうでないときで場合分けする.

(i)chK=2のとき:与えられた方程式はX2+Y2=(X+Y)2=0と変形でき,これは
X+Y=0
に同値である.これのK内の解の個数はqであるから(Xの値を決めるとYの値が決まる),chK=2のときは題意が成り立つ.

(ii)chK2のときα2+β2=0が成り立つとする.α=0とするとβ2=0よりβ=0となる.β=0とすると同様にα=0となる.以上より(もしくは補題1より)S(0)1である.α,βは共に0でないとする.このとき
(αβ)2=1
が成り立つ.
q3mod4の場合は補題2よりγ2=1を満たすγKは存在しないので矛盾.よってS(0)=1である.
q1mod4の場合は補題2よりγ2=1を満たすγKが存在する.すると,X2=1=γ2を満たすKの元は±γのみであることが分かる.これより,αβ=±γ即ちα=±γβとなる.つまり,βK{0}に対してα2+β2=0となるαK{0}は2個存在する.これより
S(0)=1+2(q1)=2q1
が成り立つ.(証明終)

Kを位数qの有限体とし,Kの標数はchK>3を満たすとする.このとき,方程式X2=3を満たすKの元は,q1mod3のとき存在し,q2mod3のとき存在しない.

証明を表示

証明の方法は補題2と全く同様である.p3でない奇素数とする.平方剰余の相互法則より,
(3p)(p3)=(1)312p12=(1)p12
が成り立つ.従って,
(3p)=(1)p12(p3)
となるから,
(3p)=(1p)(3p)=(1)p12(1)p12(p3)=(p3)={1(p1mod3)1(p2mod3)
が成り立つ.

chK=pとし,q=pe(e1以上の整数)と表す.仮定よりpp>3を満たす奇数である.またFp:=Z/pZKが成り立つ.
q1mod3とすると,p1mod3もしくはp1mod3かつeが偶数となる.p1mod3の場合は,上で示したことから3FpKが成り立つ.p1mod3かつeが偶数の場合は,Kは素体Fpの偶数次拡大であるから,特にFp2次拡大Fp2を含む.Fp23を含むので3Kとなる.
q1mod3とすると,p1mod3かつeが奇数となる.上で示したことから3Fpが成り立つ.また,Kは素体Fpの奇数次拡大であるから,その部分体としてFpの偶数次拡大は含まない.よって3Kとなる.(証明終)

Kを位数qの有限体とする.方程式X3=1を満たすKの元の個数Sについて次が成り立つ.
S={3(chK3q1mod3)1(chK=3chK3q2mod3)

証明を表示

Kの標数が2であるとき,3であるとき,それ以外のときで場合分けする.

(i)chK=2の場合q=2e(e1以上の整数)とおく.このときF2Kである.X31=(X1)(X2+X+1)であるから,αKα3=1を満たすとすると,α=1もしくはα2+α+1=0である.α2+α+1=0であるとする.0,1F2X2+X+1の根でないからαF2が分かる.即ちαF22次の元である.従ってeが偶数ならαKeが奇数ならαKとなる.βK(KKの代数閉包)もβ2+β+1=0を満たすとすると,解と係数の関係からβ=α1Kとなる.従って,X2+X+1=0の解は,eが偶数ならK内に3つ,eが奇数ならK内に1つ存在する.eが偶数のとき2e1mod3であり,eが奇数のとき2e1mod3であるから,chK=2のときについての主張が示された.

(ii)chK=3の場合X31=(X1)3となる.よってX3=1(X1)3=0に同値であり,これを満たすK内の元はX=1の1つしか存在しない.

(iii)chK>3の場合X31=(X1)(X2+X+1)であるから,αKα3=1を満たすとすると,α=1もしくはα2+α+1=0である.α2+α+1=0であるとする.標数が2でないから解の公式が使えて,
α=1±32
となる.補題4から,q1mod3のとき3Kq2mod3のとき3Kであるから,Sの値が
S={3(q1mod3)1(q2mod3)
と求まる.よって題意は示された.(証明終)

以下の事実は解答の中で直接示しましたが,一般的な事実として大事だと思うので命題の形で述べておきます.

GL(2,K)の位数はq(q1)2(q+1)SL(2,K)の位数はq(q1)(q+1)である.

再掲
証明を表示

(abcd)GL(2,K)であるとするとα=adbc0である.
a=0とすると,bc=αとなる.α0よりb0であり,これよりc=αb1と書ける.よってcbから求まる.bの選び方は0以外のq1通りで,dKの任意の元を取れるから,この場合の元はq(q1)通り存在する.
a0とすると,d=(α+bc)a1となるから,da,b,cによって定まる.aの選び方は0以外のq1通り,b,cKの任意の元を取れるから,この場合の元はq2(q1)通り存在する.
αK×の選び方がq1通りあることを合わせると,GL(2,K)の位数は
{q(q1)+q2(q1)}(q1)=q(q1)2(q+1)
と求まる.
さて,行列式を取る写像
φ:GL(2,K)gdetgK×
は群の全射準同型である.ここでK×Kの乗法群を表す.φの核はSL(2,K)に等しいので,準同型定理から
GL(2,K)/SL(2,K)K×
が成り立つ.|K×|=q1であるから,上の結果より
|SL(2,K)|=q(q1)(q+1)
が成り立つ.(証明終)

実は,一般次元の行列に対して次が成り立ちます(参考文献[2]参照).

n1以上の整数とするとき,GL(n,K)の位数は
i=0n1(qnqi)=(qn1)(qnq)(qnqn1)
であり,SL(n,K)の位数は
|GL(n,K)|q1={1(n=1)qn1i=0n2(qnqi)=qn1(qn1)(qnq)(qnqn2)(n2)
である.

n=2とするとちゃんと命題6の内容と一致していますね.命題7の証明は概略だけ述べておきます.GL(n,K)の方はKnの中で1次独立となる元の個数を数えれば分かります.SL(n,K)の方は行列式を取る写像の核となることと準同型定理から従います.

最後までお読み頂きありがとうございました.

参考文献

[1]
永田雅宜, 復刻版 大学院への代数学演習, 現代数学社, 2021
[2]
代数学2 環と体とガロア理論, 雪江明彦, 日本評論社, 2010
投稿日:2022626
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素朴な問題が特に好きです.

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