はじめに
今回は,2変数多項式環へ行列が作用している問題を持ってきました.位数を数えるのが楽しい問題です.
その他の問題たちは
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問題と解答
元数の有限体上の次正則行列全体の群及び上の変数多項式に対し,
とおく.次の各に対して,群及びその位数を求めよ.(東大)
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感想
(1)は簡単です.(2)は位数を数えるのが少し大変,というか一度経験しておかないと試験時間中に思いつくのは難しいんじゃないかなと思います.(3)は(2)ができれば同様の方針で解けますが,位数を数えるのは(3)の方が簡単です.また,変数の対応が
という風に行列を掛けた形になっていることからは確かに群となります.まあそもそも問題文中で群とはっきり言っているので,言及する必要はないと思いますが…
1
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が元数の有限体であることから,とが成り立つので,
と計算できる.よって,
が成り立つ.これより,
が成り立つ.の位数を求める.行列式を取る写像
は群の全射準同型である.ここではの乗法群を表す.の核はに等しいので,準同型定理から
が成り立つ.の位数を求める.であるとするとである.
とすると,となる.よりであり,これよりと書ける.よってはから求まる.の選び方は以外の通りで,はの任意の元を取れるから,この場合の元は通り存在する.
とすると,となるから,はによって定まる.の選び方は以外の通り,はの任意の元を取れるから,この場合の元は通り存在する.
の選び方が通りあることを合わせると,の位数は
と求まる.すると,同型によってが成り立つ.以上より解答は次の通りである.(終)
(※)上の数え方と本質的に変わらないが,の位数を以下のように直接数えることもできる:とすると,が成り立つ.
とするととなる.これよりであり,と書ける.よってはから求まる.の選び方は以外の通りで,はの任意の元を取れるから,この場合の元は通り存在する.
とすると,となるから,はによって定まる.の選び方は以外の通り,はの任意の元を取れるから,この場合の元は通り存在する.
よっての位数は
と求まる.(終)
2
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と計算できる.よって,
が成り立つ.の標数がであるかどうかで場合分けする.
(i)の場合:式(1)は次のように書き換えられる.
ここで,標数がの体の元でを満たすものはしか存在しないことを用いた.すると,となりはそれぞれにより定まる.これをに代入すると
となり,これはに同値である.以上より,
と求まる.の選び方は通り存在するから,である.
(ii)の場合:は奇数であることに注意する.式(1)は次のように書き換えられる.
がかどうかで場合分けする.
とするとかつである.よってであり,が成り立つ.このとき確かにとなる.
とするとである.これをに代入すると
を得る.するとであるから,なら,ならが成り立つ.ここまでの議論から,となるようなの元全体が2つの集合
の直和となることが分かるが,これはの場合も含んでいる.
以上より,
が成り立つ.
の位数を求める.に対して上の方程式の内における解の個数をとおくとが求める値である.任意のに対してであることは補題1から従う.となるを取る.がを満たすとする.このとき,が成り立つならば,
が成り立つ.即ち,はの解である.この解の対応は1対1であるから(行列の可逆性),が成り立つ.以上より,の元をの値で分類すると,元の個数について
が成り立つ.補題3より
である(今としていることに注意).よっての場合はよりとなる.またの場合はよりとなる.
以上より解答は次の通りである.(終)
の場合
の場合
3
解答を表示
と計算できる.よって,
が成り立つ.の標数がであるかどうかで場合分けする.
(i)の場合:式(1)は次のように書き換えられる.
ここで,標数がの体の元でを満たすものはしか存在しないことを用いた.すると,(2)と同様にして
かつであることが分かる.
(ii)の場合:より式(1)は次のように書き換えられる.
右辺第3式の両辺にを,第4式の両辺にを掛けて辺々引くことで
を得る.であるからのいずれかがである.このときであるからのいずれかもである.とするとであるからであり,従ってとなる.とするとであるからであり,従ってとなる.以上より,
が成り立つ.補題5から,上の方程式の内における解の個数は
を満たすから(今としていることに注意),
と求まる.
以上より解答は次の通りである.(終)
の場合
の場合
今回用いた事実
を位数の有限体とする.任意のに対して,方程式は内に解を持つ.
証明を表示
の標数がのときとそうでないときで場合分けする.
(i)のとき:このときの位数は偶数である.任意のに対してが成り立つことから,はを満たす(は偶数であることに注意).これより,任意のに対してとなるが存在することが分かる.さて,であることからであるから,与えられた方程式は
と変形できる.という方程式は内に解を持つ(例えば).従って,という方程式も内に解を持つ.
(ii)のとき:このときの位数は奇数である.(の乗法群)は巡回群であるから,である(は奇数よりはで割り切れることに注意).も合わせると,
となる.ところで,任意のに対し,写像は単射であるから,
が成り立つ.よって,
となるので,2つの集合たちには共通元があり(鳩ノ巣原理),それが求める解である.(証明終)
実は今の補題の証明を少し改良することで,有限体上の方程式()が内に解を持つことが分かります.
を位数の有限体とし,の標数はを満たすとする.このとき,方程式を満たすの元は,のとき存在し,のとき存在しない.
証明を表示
を奇素数とする.平方剰余の相互法則より,
が成り立つことに注意する.
とし,(は以上の整数)と表す.仮定よりは奇素数である.またが成り立つ.
とすると,もしくはかつが偶数となる.の場合は,上の注意からが成り立つ.かつが偶数の場合は,は素体の偶数次拡大であるから,特にの次拡大を含む.はを含むのでとなる.
とすると,かつが奇数となる.上の注意からが成り立つ.また,は素体の奇数次拡大であるから,その部分体としての偶数次拡大は含まない.よってとなる.(証明終)
を位数の有限体とする.方程式を満たすの元の個数をとすると,次が成り立つ.
証明を表示
の標数がであるときとそうでないときで場合分けする.
(i)のとき:与えられた方程式はと変形でき,これは
に同値である.これの内の解の個数はであるから(の値を決めるとの値が決まる),のときは題意が成り立つ.
(ii)のとき:が成り立つとする.とするとよりとなる.とすると同様にとなる.以上より(もしくは補題1より)である.は共にでないとする.このとき
が成り立つ.
の場合は補題2よりを満たすは存在しないので矛盾.よってである.
の場合は補題2よりを満たすが存在する.すると,を満たすの元はのみであることが分かる.これより,即ちとなる.つまり,に対してとなるは2個存在する.これより
が成り立つ.(証明終)
を位数の有限体とし,の標数はを満たすとする.このとき,方程式を満たすの元は,のとき存在し,のとき存在しない.
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証明の方法は補題2と全く同様である.をでない奇素数とする.平方剰余の相互法則より,
が成り立つ.従って,
となるから,
が成り立つ.
とし,(は以上の整数)と表す.仮定よりはを満たす奇数である.またが成り立つ.
とすると,もしくはかつが偶数となる.の場合は,上で示したことからが成り立つ.かつが偶数の場合は,は素体の偶数次拡大であるから,特にの次拡大を含む.はを含むのでとなる.
とすると,かつが奇数となる.上で示したことからが成り立つ.また,は素体の奇数次拡大であるから,その部分体としての偶数次拡大は含まない.よってとなる.(証明終)
を位数の有限体とする.方程式を満たすの元の個数について次が成り立つ.
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の標数がであるとき,であるとき,それ以外のときで場合分けする.
(i)の場合:(は以上の整数)とおく.このときである.であるから,がを満たすとすると,もしくはである.であるとする.はの根でないからが分かる.即ちは上次の元である.従ってが偶数なら,が奇数ならとなる.(はの代数閉包)もを満たすとすると,解と係数の関係からとなる.従って,の解は,が偶数なら内に3つ,が奇数なら内に1つ存在する.が偶数のときであり,が奇数のときであるから,のときについての主張が示された.
(ii)の場合:となる.よってはに同値であり,これを満たす内の元はの1つしか存在しない.
(iii)の場合:であるから,がを満たすとすると,もしくはである.であるとする.標数がでないから解の公式が使えて,
となる.補題4から,のとき,のときであるから,の値が
と求まる.よって題意は示された.(証明終)
以下の事実は解答の中で直接示しましたが,一般的な事実として大事だと思うので命題の形で述べておきます.
再掲
証明を表示
であるとするとである.
とすると,となる.よりであり,これよりと書ける.よってはから求まる.の選び方は以外の通りで,はの任意の元を取れるから,この場合の元は通り存在する.
とすると,となるから,はによって定まる.の選び方は以外の通り,はの任意の元を取れるから,この場合の元は通り存在する.
の選び方が通りあることを合わせると,の位数は
と求まる.
さて,行列式を取る写像
は群の全射準同型である.ここではの乗法群を表す.の核はに等しいので,準同型定理から
が成り立つ.であるから,上の結果より
が成り立つ.(証明終)
実は,一般次元の行列に対して次が成り立ちます(参考文献[2]参照).
を以上の整数とするとき,の位数は
であり,の位数は
である.
とするとちゃんと命題6の内容と一致していますね.命題7の証明は概略だけ述べておきます.の方はの中で1次独立となる元の個数を数えれば分かります.の方は行列式を取る写像の核となることと準同型定理から従います.
最後までお読み頂きありがとうございました.
[1]
永田雅宜, 復刻版 大学院への代数学演習, 現代数学社, 2021
[2]
代数学2 環と体とガロア理論, 雪江明彦, 日本評論社, 2010