今回は,可換環のイデアルについての問題を5つ持ってきました.どれも小問と言っても良いぐらいの難易度だと思います.
※代数学をやるそのうんたらの他の問題たちが こちらのまとめページ から見れます.良ければリンクをご利用ください.
(2022/8/3):問題1(1)の解答を修正しました.
$R$は単位元を持つとは限らない可換環,$I$をそのイデアルとする.次の問に答えよ.(新潟大)
パッと問題を見たときは何を当たり前なことを…と思いましたが,よくよく問題を見たら$R$が単位元を持つとは仮定されていないから問題として成り立っているのだなと思いました.十分性を示すときに$R/I$の中で単位元を作り出せるかが一番のポイントですね.
剰余環の元は上にバーを付けて表すことにします.
まず,$R/I$が体であるとする.このとき,$R/I$は自明でないイデアルを持たないから,$I$は確かに極大イデアルである.$x \in R$が$x^2 \in I$を満たすとする.$R/I$に移って考えると$\overline{x}^2=\overline{0}$となる.$R/I$は体であるから,$\overline{x}=\overline{0}$となる.即ち$x \in I$である.
逆に条件(i),(ii)が成り立つとする.$R/I$が単位元を持てば,条件(i)より$R/I$が体であることが従う.よって示すべきは$R/I$が単位元を持つことである.
ある$x \in R \backslash I$を取る.$\overline{x} \neq \overline{0}$であるから,$\overline{x}$が生成する$R/I$のイデアル$(\overline{x})$は零イデアルでない(ここが間違いである.単位元を持たない環においては零でない元が生成するイデアルが零イデアルとなることがある.例えば$2\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$における$\overline{2}$が生成するイデアル等.そもそもこの解答が正しいならば条件(ii)を用いる場面が存在しないので違和感を感じるべきでした…).更に,$I$が$R$の極大イデアルであることから,$(\overline{x})=R/I$が成り立つ.これより,$\overline{0}$でないある$\overline{e} \in R/I$が存在して,$\overline{x} \cdot \overline{e}=\overline{x}$が成り立つ.さて,任意の$\overline{y} \in R/I$に対して,ある$\overline{z} \in R/I$が存在して$\overline{y}=\overline{z} \cdot \overline{x}$が成り立つから,
$$\overline{y} \cdot \overline{e}=\overline{z} \cdot \overline{x} \cdot \overline{e}=\overline{z} \cdot \overline{x}=\overline{y}$$
が成り立つ.$R$が可換環であることから$\overline{e}\cdot\overline{y}=\overline{y}$も成り立つ.即ち$\overline{e} \in R/I$は単位元である.(証明終)
まず,$R/I$が体であるとする.このとき,$R/I$は自明でないイデアルを持たないから,$I$は確かに極大イデアルである.$x \in R$が$x^2 \in I$を満たすとする.$R/I$に移って考えると$\overline{x}^2=\overline{0}$となる.$R/I$は体であるから,$\overline{x}=\overline{0}$となる.即ち$x \in I$である.
逆に条件(i),(ii)が成り立つとする.$R/I$が単位元を持てば,条件(i)より$R/I$が体であることが従う.よって示すべきは$R/I$が単位元を持つことである.
$x \in R$とする.$I$が極大イデアルであることから,$\overline{x} \in R/I$が生成する$R/I$のイデアル$(\overline{x})$は零イデアルであるか$R/I$自身であるかのいずれかである.仮に零イデアルであるとすると$\overline{x}^2=0$より$x^2 \in I$が成り立つ.すると条件(ii)より$x \in I$となり,これは$\overline{x}=0$を意味する.対偶を取ると$\overline{x} \neq \overline{0}$ならば$(\overline{x})=R/I$である.よって任意の$x \in R \backslash I$を取ると,$\overline{x}\neq\overline{0}$より$(\overline{x})=R/I$である.これより,$\overline{0}$でないある$\overline{e} \in R/I$が存在して,$\overline{x} \cdot \overline{e}=\overline{x}$が成り立つ.さて,任意の$\overline{y} \in R/I$に対して,ある$\overline{z} \in R/I$が存在して$\overline{y}=\overline{z} \cdot \overline{x}$が成り立つから,
$$\overline{y} \cdot \overline{e}=\overline{z} \cdot \overline{x} \cdot \overline{e}=\overline{z} \cdot \overline{x}=\overline{y}$$
が成り立つ.$R$が可換環であることから$\overline{e}\cdot\overline{y}=\overline{y}$も成り立つ.即ち$\overline{e} \in R/I$は単位元である.(証明終)
$R$が単位元を持つとき,条件(i)のみで$R/I$が体となる.よって$\overline{x} \in R/I$に対して$\overline{x}^2=\overline{0}$なら$\overline{x}=\overline{0}$が成り立つ.即ち条件(ii)が成り立つ.(証明終)
単位元を持つ可換環$R$において,$R$でない全てのイデアルが素イデアルであれば,$R$は体であることを示せ.(阪大)
当初は全てのイデアルの和とか色々難しく考えていましたが,もっと素朴に解けると分かってちょっと悲しかったです.また,この問題の逆は明らかに成り立つので,
$$R \, でない全てのイデアルが素イデアル \hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} R \, が体$$
となります.
仮定より零イデアル$(0) \subset R$が素イデアルであるから,$R$は整域である.$x \in R \backslash \{0\}$が単元でないと仮定する.このとき,$x^2$が生成するイデアル$(x^2)$は$R$に等しくないから,仮定より$(x^2)$は素イデアルである.$x \cdot x = x^2 \in (x^2)$であるから,$x \in (x^2)$が成り立つ.よってある$a \in R$によって$x=ax^2$と書けるが,これを変形すると$x(ax-1)=0$となる.$R$は整域で$x \neq 0$であるから$ax=1$となるが,これは$x$が単元でないことに矛盾する.従って$R \backslash \{0\}$の任意の元は単元である.即ち$R$は体である.(証明終)
$R$が(単位元を持つとは限らない)整域,$P$が単項生成な素イデアルであれば,任意の$n \geq 1$に対して$P^n$が準素イデアルであることを示せ.(学習院大)
準素イデアルであることをその定義に従って示すだけです.$P$が単項イデアルであることがありがたいですね.
$P$が零イデアルであるときは明らかに主張が成り立つ.以下$P$は零イデアルでないとする.$P$の生成元を$p( \neq 0)$とする.主張が成り立つことを$n$に関する帰納法で示す.素イデアルは準素イデアルであるから$n=1$のときは主張は明らかに成り立つ.
$n=k( \geq 1)$のとき成り立つとし,$n=k+1$とする.$x,y \in R$は$x \notin P^{k+1}$かつ$xy \in P^{k+1}$を満たすとする.このとき$y^l \in P^{k+1}$を満たすような正の整数$l$が存在することを示せば良い.$P^{k+1} \subset P^k$であるから$xy \in P^k$である.帰納法の仮定より$P^k$は準素イデアルであるから,(i)$x \in P^{k}$,もしくは(ii)$y^l \in P^k$となる正の整数$l$が存在する.
(i):$x \in P^k$であるとする.このとき$x=x'p^k \, (x' \in R)$と書ける.$xy=ap^{k+1} \, (a \in R)$とおくと,$x'p^ky=ap^{k+1}$より
$$(x'y-ap)p^k=0$$
となる.$p \neq 0$より$x'y=ap \in P$となる.$x' \in P$とすると$x=x'p^k \in P^{k+1}$となって仮定に矛盾する.よって$y \in P$であり,このとき$y^{k+1} \in P^{k+1}$が成り立つ.
(ii):$y^l \in P^k$となる正の整数$l$が存在するとする.このとき,$y^{2l} \in P^{2k} \subset P^{k+1}$が成り立つ($k \geq 1$より$2k \geq k+1$に注意).(証明終)
$R$は有理数体$\mathbb{Q}$の部分環で有理整数環$\mathbb{Z}$を含むものとする.次の問に答えよ.(京大)
京大だからと身構えて取り掛かったらめちゃくちゃあっさり解けてしまって,逆に疑心暗鬼になりそうな問題ですね.
$x,y \in I(\alpha)$であるなら,
$$(x-y)\alpha=x\alpha-y\alpha \in \mathbb{Z}$$
となるので$x-y \in I(\alpha)$である.また,$x \in I(\alpha)$のとき任意の$a \in \mathbb{Z}$に対して
$$(ax)\alpha=a(x\alpha) \in \mathbb{Z}$$
が成り立つ.以上より$I(\alpha)$は$\mathbb{Z}$のイデアルとなる.
$\alpha$を既約分数で表すと$\alpha=\frac{\gamma}{\beta}$となるとする.このとき,$(\beta) \subset I(\alpha)$は明らかである.逆の包含を示す.$\mathbb{Z}$は単項イデアル整域であるから,ある$m \in \mathbb{Z}$が存在して$I(\alpha)=(m)$と書ける.$m\frac{\gamma}{\beta}=n \in \mathbb{Z}$と表すと,$m\gamma=n\beta$が成り立つ.$\beta,\gamma$は互いに素であるから,$m$は$\beta$で割り切れる.即ち$I(\alpha)=(m) \subset (\beta)$である.以上より$I(\alpha)=(\beta)$となるので,$\alpha$を既約分数で表したときの分母$\beta$が求める生成元である.(証明終)
$I(\alpha)$で生成される$R$のイデアルを$I'(\alpha)$と表す.$\alpha$を既約分数で表すと$\alpha=\frac{\gamma}{\beta}$となるとすると,(1)の結果から$I(\alpha)=\beta$である.このとき,
$$\gamma=\frac{\gamma}{\beta} \cdot \beta \in I'(\alpha)$$
が成り立つ.$\beta,\gamma$は互いに素であるから,ある整数$x,y$が存在して$\beta x+\gamma y=1$を満たす.すると,$\beta,\gamma \in I'(\alpha)$であることと$R$が$\mathbb{Z}$を含むことから$1=\beta x+\gamma y \in I'(\alpha)$となる.従って$I'(\alpha)=R$である.(証明終)
$R$は$0$以外の零因子を持たない,2個以上の有限個の元からなる可換環であるとする.但し,単位元の存在は仮定しない.次の問に答えよ.(東海大)
単位元の存在を仮定していないのが問題1を彷彿とさせます.単位元の存在を示す際には$R$の有限性が大事になります.
$0$でない任意の元$r \in R$を取り,写像
$$\varphi_r : R \ni x \longmapsto rx \in R$$
を考える.$x,y \in R$が$rx=ry$を満たすとすると,$r(x-y)=0$である.$r$は零因子でないから,$x-y=0$即ち$x=y$が成り立つ.即ち$\varphi_r$は単射である.$R$は有限集合であるから$\varphi_r$は全単射となる.従って,ある$e \in R$が存在して$re=\varphi_r(e)=r$が成り立つ.任意の$x \in R$を取る.$\varphi_r$は全射であるから,ある$y \in R$が存在して$x=ry$と書ける.すると,
$$x \cdot e=ry \cdot e = re \cdot y=r \cdot y=x$$
が成り立つ.$R$は可換環であるから$e \cdot x=x$も成り立つ.即ち$e \in R$は単位元である.(証明終)
(1)で定義した$\varphi_r$は全射であるから,$rr'=\varphi_r(r')=e$となる$r' \in R$が存在する.$R$の可換性により$r'r=e$も成り立つ.即ち,任意の$r \in R \backslash \{0\}$は可逆であるから,$R$は体である.(証明終)
最後までお読み頂きありがとうございました.