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大学数学基礎解説
文献あり

代数学をやるその15 冪等元からなる環

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はじめに

今回は冪等元からなる環についての問題を持ってきました.

※代数学をやるそのうんたらの他の問題たちが こちらのまとめページ から見れます.良ければリンクをご利用ください.

問題と解答

$R$を単位的とも可換とも限らない環とする.任意の$x \in R$$x^2=x$を満たすとき,$R$は可換であることを示せ.(東海大)

感想

2つの方法を挙げていますが,前者は本に載っていた方針,後者は私が考えた方針です.前者の方がゴールまでの道のりが少し短いかなと思います.どちらも$xyx=yxy \, (x,y \in R)$という等式を導くところまでが勝負でした.

$x=-x$に気づく方法
証明を表示

仮定から$-x=(-x)^2=x^2=x$が成り立つ.任意の$x,y \in R$を取る.
$$xy+yx=(xy+yx)^2=xy+xyx+yxy+yx$$
であるから,$xyx+yxy=0$である.即ち$xyx=-yxy=yxy$となる.両辺に右から$y$を掛けると
$$xy=(xy)(xy)=(xyx)y=(yxy)y=yxy$$
が成り立ち,両辺に左から$y$を掛けると
$$yx=(yx)(yx)=y(xyx)=y(yxy)=yxy$$
となる.従って$xy=yxy=yx$であり,$R$は可換である.(証明終)

$x=-x$を用いない方法
証明を表示

任意の$x,y \in R$を取る.仮定より$xyxy=xy=x^2y^2$であるから,
$$x(xy-yx)y=0$$
が成り立つ.$z=xy-yx$とおく.$xzy=0$から
$$0=zy(xzy)x=(zyx)(zyx)=zyx \hspace{0.2in} かつ \hspace{0.2in} 0=y(xzy)xz=(yxz)(yxz)=yxz$$
が成り立つ.つまり$zyx=yxz$であるから,$z$$yx$は可換である.従って,
$$xyx-yx=(xy-yx)yx=zyx=yxz=yx(xy-yx)=yxy-yx$$
となるので,$xyx=yxy$である.両辺に右から$y$を掛けると
$$xy=(xy)(xy)=(xyx)y=(yxy)y=yxy$$
が成り立ち,両辺に左から$y$を掛けると
$$yx=(yx)(yx)=y(xyx)=y(yxy)=yxy$$
となる.従って$xy=yxy=yx$であり,$R$は可換である.(証明終)

具体例

実際に任意の元が冪等であるような環で今示した事実を確かめてみます.

まず,単位元を持たない$R$の例として$3\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$があります.これは単位元を持たない環ですが,$\overline{0}^2=\overline{0}, \, \overline{3}^2=\overline{9}=\overline{3}$を満たすので,任意の元が冪等元です.同様に,任意の素数$p$に対して環$p\mathbb{Z}/2p\mathbb{Z}$は任意の元が冪等であるが単位元を持たない環となります.これらが積について可換であることは明らかですね.

次に,$R$が単位元$1$を持つとします.上で示したことから$1=-1$が成り立つので$2=0$となります.即ち,$R$$\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$を含むとみなせることが分かります.任意の$x \in R$が冪等であることから$x(x-1)=x^2-x=0$が成り立つので,$R$が整域であるとすると$x=0,1$となります.即ち$R=\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$であり,$R$が整域である場合は完全に構造が決定されます.よって$R$が整域でない場合が本質的です.
整域でない例を考えるために,$\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$の元を成分に持つ$n \times n$次行列環$M_n(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})$($n \geq 2$)を取ります.行列単位を$E_{ij}$($(i,j)$成分のみが$1$で他は$0$である行列)とおき,$M_n(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})$の部分集合
$$R':=\left\{\sum_{1 \leq i \leq n}a_{i}E_{ii} \, \middle| \, a_{i} \in \mathbb{Z}/2\mathbb{Z} \, (1 \leq i \leq n)\right\}(=(対角以外は全て0であるような元全体の集合))$$
について考えます.$R'$$M_n(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})$の部分環であることは直ぐに分かります.また,任意の$\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$の元が冪等であることと$E_{ij}E_{kl}=\delta_{jk}E_{il}$であることから
$$\left(\sum_{1 \leq i \leq n}a_{i}E_{ii} \right)^2=\sum_{1 \leq i,j \leq n}a_ia_jE_{ii}E_{jj}=\sum_{1 \leq i \leq n}a_{i}E_{ii}$$
も成り立ちます.しかし,例えば$E_{11}E_{22}=0$なので$R'$は整域ではありません.即ち,$R'$は任意の元が冪等かつ単位元を持つ環であるが整域ではない例となっています.$R'$が積について可換であることは$\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$が積について可換であることから直ぐに従います.つまり,この場合も上で示した事実がちゃんと成り立ってるということですね.

今回の記事は以上です.
最後までお読み頂きありがとうございました.

参考文献

[1]
永田雅宜, 復刻版 大学院への代数学演習, 現代数学社, 2021
投稿日:2022720
OptHub AI Competition

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素朴な問題が特に好きです.

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