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大学数学基礎解説
文献あり

代数学をやるその16 とある環の自己同型群

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はじめに

今回はとある多項式環の剰余環の自己同型群について色々考える問題を持ってきました.

※代数学をやるそのうんたらの他の問題たちが こちらのまとめページ から見れます.良ければリンクをご利用ください.

問題と解答

有理数体上の一変数多項式環Q[X]のイデアル(Xn)による剰余環K=Q[X]/(Xn)=Q[ξ]を考える(nは正の整数,ξXの像).Kの環としての自己同型全てからなる集合をGとする.Gは写像の合成を積として群となるが,このとき次の命題(1)~(3)はそれぞれ正しいか.証明,あるいは反例を与えよ(答えはnによって異なるかもしれない.各nについて答えよ).(京大)

  1. Gは可換群である.
  2. Gの位数はnである.
  3. {xK|σ(x)=x(σG)}Qである.

感想

ξを定数倍する同型写像が存在することが分かるので,これを用いると(2),(3)は簡単に解決します.(1)は非可換となる元を見つけるのが少し大変かもしれません.

剰余環の元は上にバーをつけて表すこともあります.

全体に共通する部分
解答を表示

π:Q[X]Kを標準全射とする.Qの元は自然にKに埋め込めるので,aQπによる像もaと書くことにする.Kの任意の元はa0,,an1Qによってa0+a1ξ++an1ξn1と一意的に表されることに注意する.

σ:KKを(同型とは限らない)環準同型とすると,σ(0)=0,σ(1)=1が成り立つ.これより任意のmZに対してσ(m)=mが成り立つ.即ちσZの元を不変にする.すると素因数分解を考えることで,σQの元も不変にすることが分かる.これより,任意のσGQの元を不変にする.よってn=1のときGは恒等写像のみからなる自明群である.以下n>1とする.

Xa1X++an1Xn1(a1,,an1Q)を代入する写像φ:Q[X]Q[X]を考える.φは環準同型であるから,πφも環準同型であり,その核は(Xn)を含む.これは,a1X++an1Xn1=Xf(X)(f(X)Q[X])と書けることから従う.よって環準同型φ:KKで次の図式を可換にするものが存在する.
Q[X]φπQ[X]πKφK
このときπQの元を不変にすることから
φ(ξ)=π(φ(X))=π(a1X++an1Xn1)=a1ξ++an1ξn1
が成り立つ.つまり,任意のa1,,an1Qに対して,ξa1ξ++an1ξn1を満たすような環準同型φ:KKが存在する
以上より,aQ{0}に対して環準同型σ,τ:KK
σ(ξ)=aξ,τ(ξ)=a1ξ
を満たすものが存在することが分かる.明らかにσ,τは互いの逆写像であるから,σは環同型である.よって任意のaQ{0}に対しσa(ξ)=aξを満たすσaGが存在することが分かった.

σGとする.任意のa0+a1ξ++an1ξn1Kに対して
σ(a0+a1ξ++an1ξn1)=a0+a1σ(ξ)++an1σ(ξ)n1
となるので,σσ(ξ)によって定まる
σ(ξ)=a0+a1ξ++an1ξn1
とおく.ξn=0であるから
0=σ(ξn)=σ(ξ)n=(a0+a1ξ++an1ξn1)n=a0n+(ξ1)
となるので,a0=0でなくてはならない.σは同型であるからa1,,an1のいずれかは0でない.よってn=2のときはa10である.n>2のときa1=0とすると,a2,,an1のいずれかは0でなく,かつσ(ξ)=ξ2(a2++an1ξn3)となる.n>2より2(n1)>nであるので
0σ(ξn1)=σ(ξ)n1=ξ2(n1)(a2++an1ξn3)n2=0
となって矛盾.従ってa10である.つまり,n>1のとき
σ(ξ)=a1ξ++an1ξn1(a1,,an1Q,a10)
と書ける

特にn=2のとき,上で示したことを合わせるとGの元はσ(ξ)=aξ(aQ{0})を満たすものに限ることが分かる.

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解答を表示

上で示したことからn=1のときGは可換群である.また,n=2のときは任意のσ,τGに対してa,bQ{0}が存在してσ(ξ)=aξ,τ(ξ)=bξが成り立つので,
σ(τ(ξ))=σ(bξ)=baξ=abξ=τ(aξ)=τ(σ(ξ))
となる.つまりn=2のときGは可換群である.

n>2とする.上で示したことから,環準同型σ,τ:KK
σ(ξ)=ξ+ξn1,τ(ξ)=ξξn1
を満たすものが存在する.ξn=0に注意すると
τ(σ(ξ))=τ(ξ+ξn1)=τ(ξ)+τ(ξ)n1=ξξn1+(ξξn1)n1=ξξn1+ξn1=ξ
が成り立つ.同様にσ(τ(ξ))=ξも成り立つからσ,τは互いの逆写像である.即ちσは環同型であり,σGとなる.上で示したようにθ(ξ)=2ξを満たすθGが存在する.するとn>2であることから
θ(σ(ξ))=θ(ξ+ξn1)=2ξ+2n1ξn12ξ+2ξn1=σ(2ξ)=σ(θ(ξ))
が成り立つ.即ちn>2のときGは可換群でない.以上より解答は次の通りである.(終)
n=1,2Gn>2G

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解答を表示

n=1のときGは自明群であるから明らかに主張が成り立つ.n>1とする.上で示したように,σ(ξ)=2ξを満たすσGが存在する.任意の正の整数kに対してσk(ξ)=2kξξであるからσGの位数は無限である.以上より,解答は次の通りである.(終)
n=1G1n>1G

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解答を表示

A={xK|σ(x)=x(σG)}とおく.n=1のときに主張が成り立つのは明らかである.n>1とする.上で示したことから,任意のσGQの元を不変にするのでQAとなる.逆の包含を示す.σGを上で考えたσ(ξ)=2ξを満たす元とする.a0+a1ξ++an1ξn1KAの元であるとすると,特にσで不変である.よって
a0+a1ξ++an1ξn1=σ(a0+a1ξ++an1ξn1)=a0+2a1ξ++2n1an1ξn1
となるから,任意のai(1in1)に対して2iai=ai即ちai=0が成り立つ.よってa0+a1ξ++an1ξn1=a0QであるからAQである.以上よりA=Qとなるので,解答は次の通りである.(終)
n{xK|σ(x)=x(σG)}=Q

発展

上で示したことからn=1のときGは自明群,n=2のときはGQ×(Q×Qの乗法群)が成り立つことが分かります.

n=3のときを考えます.上で示したことから,環準同型σ:KK
σ(ξ)=aξ+bξ2(a,bQ,a0)
を満たすものが存在します.ここで環準同型τ:KKτ(ξ)=cξ+dξ2(c,dQ,c0)を満たすとすると
(1)τ(σ(ξ))=τ(aξ+bξ2)=a(cξ+dξ2)+b(cξ+dξ2)2=acξ+(c2b+ad)ξ2
が成り立ちます(ξ3=0に注意).そこでac=1,c2b+ad=0とするとc=a1,d=a3bとなります(a0に注意).このときτσ,στは共に恒等写像であることが簡単な計算から確かめられるので,σ:KKは環同型です.上では任意のσGに対してaQ{0},bQが存在してσ(ξ)=aξ+bξ2となることを示していましたから,ξ,ξ2の係数に着目すると次のような集合間の1対1対応が存在することが分かります.
(2)Gσ(a,b)Q{0}×Q

さて,Q{0}×Qに適切な演算を定義すると,この対応が群同型になることを示しましょう.
まず,Q{0}の演算は乗法とし,乗法群Qとみなします.またQの演算は加法とします.この上でQ×Qの演算(a,b),(c,d)Q×Qに対して
(a,b)(c,d)=(ac,c2b+ad)Q×Q
と定めると,演算によってQ×Qは群となります(簡単な計算で確かめられます).この群を(Q×Q)と表します.このとき,等式(1)を参照すると,対応(2)は群同型
G(Q×Q)
を導く
ことが分かります.

(Q×Q)の演算の定義は(外部)半直積のそれを彷彿とさせますね.そこで半直積の一般化とかないかなと思って探してみたのですが,私の力では見つけることができませんでした.
因みにn4以上でも同じような議論ができると思いますが,面白いことを得る可能性は低そうです.もし群(Q×Q)のことやn4のときのGについて何か情報を持っている方がいらっしゃったらお教えいただけると嬉しいです.

今回の記事は以上です.
最後までお読みいただきありがとうございました.

参考文献

[1]
永田雅宜, 復刻版 大学院への代数学演習, 現代数学社, 2021
投稿日:2022725
OptHub AI Competition

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素朴な問題が特に好きです.

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