今回はとある条件を満たす環が単項イデアル環であることを示す問題を持ってきました.
※代数学をやるそのうんたらの他の問題たちが こちらのまとめページ から見れます.良ければリンクをご利用ください.
単位元を持つ可換環$R$において,素イデアルが全て単項であるとき,$R$の全てのイデアルが単項であることを,次の二段階に分けて証明せよ.(阪大)
Zornの補題によって主張を示す.仮定より$I$は空でない.$I$に包含関係による順序を入れる.$I$の任意の全順序部分集合$C$を取り,$A_0=\displaystyle\bigcup_{A \in C}A$とおく.任意の$x,y \in A_0$を取ると,$x \in A_1, \, y \in A_2$となる$A_1,A_2 \in C$が存在する.$C$は全順序部分集合であるから,$A_1 \subset A_2$もしくは$A_2 \subset A_1$のいずれかが成り立つ.$A_1 \subset A_2$とすると$x,y \in A_2$となる.よって$x-y \in A_2 \subset A_0$となる.また任意の$r \in R$に対して$rx \in A_2 \subset A_0$も成り立つ.$A_2 \subset A_1$であっても同様であるから,$A_0$は$R$のイデアルである.
$A_0$が単項であると仮定し,$A_0=(a)$($a \in R$)と表す.するとある$A \in C$が存在して$a \in A$となるから,$(a) \subset A \subset A_0$となる.また$A \subset A_0=(a)$も成り立つから$A=(a)$となるが,これは$A \in C \subset I$が単項でないことに矛盾する.よって$A_0$は単項イデアルではないので,$A_0 \in I$である.即ち$A_0$は$I$における$C$の上界であるから,Zornの補題によって$I$に極大元が存在する.(証明終)
$I$の極大元を$I_0$とする.$I_0$が素イデアルでないと仮定すると,$R$の元$a,b$で$a,b \notin I_0$かつ$ab \in I_0$を満たすものが存在する.ここでイデアル商
$$(I_0:a)=\{x \in R \, | \, x(a) \subset I_0\}=\{x \in R \, | \, xa \in I_0\}$$
を考える.明らかに$I_0 \subset (I_0:a)$である.$b \notin I_0$が$b \in (I_0:a)$を満たしていることから$I_0 \subsetneq (I_0:a)$となる.よって$I_0$の$I$における極大性から$(I_0:a)$は単項イデアルである.これよりある$r \in R$が存在して$(I_0:a)=(r)$と書ける.イデアル商$(I_0:r)$を考える.$I_0 \subset (I_0:r)$かつ$a \in (I_0:r)$であって,更に$a \notin I_0$であるから$I_0 \subsetneq (I_0:r)$となる.再び$I_0$の$I$における極大性から$(I_0:r)$は単項イデアルとなる.よって$(I_0:r)(r)$は単項イデアルである.
さて$(I_0:r)$の定義から$(I_0:r)(r) \subset I_0$が成り立つ.また$I_0 \subsetneq (I_0:a)=(r)$であることから,任意の$x \in I_0$に対してある$y \in R$が存在して$x=yr$と書ける.このときその定義から$y \in (I_0:r)$であるから,$I_0 \subset (I_0:r)(r)$である.よって$I_0=(I_0:r)(r)$が成り立つ.しかしこれは$I_0$が単項イデアルでないことに矛盾する.
従って$I_0$は素イデアルである.すると,$R$に対する仮定から$I_0$は単項でなければならず矛盾する.この矛盾は(1)で$R$に単項でないイデアルが存在すると仮定することで引き起こされているから,$R$の任意のイデアルは単項イデアルであることが従う.(証明終)
(1)では脊髄反射的にZornの補題を使いますね.(2)では$I_0$の極大性をうまく使いたいので,$I_0$より大きいイデアルをどうやって作り出すかが問題ですが,そこでイデアル商が活躍します.私はイデアル商を用いるまで時間がかかったので,これを機にイデアル商もすぐに取り出せる位置にしまっておきたいと思いました…
上の結果から,$R$が単項イデアル環であるかどうかを判定する際には,$R$の素イデアルが全て単項であるかどうかを調べれば十分であることが分かります.調べる対象が減ってくれるので嬉しいですね.
また,$R$の素イデアルが全て単項イデアルであるという仮定を用いる直前までを上の議論から切り取ることで,一般に単位元を持つ可換環に対して次の事実が成り立つことが分かります.
単位元を持つ可換環$R$が単項でないイデアルを持つとする.このとき,$R$の単項でないイデアル全体がなす集合には極大元$I$が存在する.更に$I$は素イデアルである.
この命題が何に使えるかはまだ分かりませんが,可換環の1つの性質として覚えておくのも良いかもしれませんね.
また,上の証明の中ではイデアル商という名前よろしく$(I_0:r)(r)=I_0$という等式が成り立っていましたが,$R$が単位元を持つ可換環というだけでは,$R$のイデアル$I_1,I_2$に対して
$$(I_1:I_2)I_2 \subset I_1$$
ということしか言えないことに注意しましょう.実際,$\mathbb{Q}$上の2変数多項式環$R=\mathbb{Q}[X,Y]$とそのイデアル$I_1=(X), \, I_2=(Y)$に対して
$$(I_1:I_2)I_2=(X)(Y)=(XY) \subsetneq (X)=I_1$$
が成り立ちます.この辺の話題についてはまた別の記事で書いてみたいなあと思っています.
今回の記事は以上です.
最後までお読みいただきありがとうございました.