背景
この記事では、正3角形、正5角形、正17角形に代表される「正'フェルマー素数'角形」が定規とコンパスで作図できることを、正17角形などの具体的な場合を計算して示すのではなく「どうしてこんな芸当が可能なのか」に焦点を置いて解説していきます。
フェルマー素数
自然数を使ってで表される素数をフェルマー素数という。
作図できる
ある数が有理数と四則演算・平方根を有限回つかって表せるとき、作図できるという。
この「作図できる」の定義は、定規とコンパスで作図できることを示しています。
この記事は群・環・体のことばを使わずに書いているため、それらが分かっている方には冗長な言い回しが含まれます。
準備
正素数角形が作図できるか判断するために必要な道具を整理します。
素数を法とする原始根
素数で割った余り、いわゆるに注目します。この節でカギとなるのは「必ず原始根が存在し、原始根のべき乗ですべての数を表現できること」です。
原始根
互いに素な自然数について、が成り立つような最小のがと等しいとき、をpを法とする原始根という。一般に、原始根は(存在する場合)複数存在する。
ここで、は「と互いに素な未満の自然数の個数」であり、特にが素数ならと等しい。
素数を法とする原始根は「乗してはじめてになる数」と説明することもできます。この性質から、を順番に掛けていくとからまでの数を1回ずつ通ってにたどり着き、それ以降は最初からループすることが分かります。たとえばを法とする原始根としてがとれますから、次のような巡回が成り立ちます。
7を法とする数の巡回
どの数から始めても3倍、3倍と繰り返しを掛けていくことで、未満の自然数を巡回することができます。この「掛け算による巡回」がのちのち役に立つので覚えておきましょう。
1のべき乗根
次に、1のべき乗根について必要な情報を整理します。
1のp乗根
ある自然数について、が成り立つような数を1のp乗根という。
1の原始p乗根
1のp乗根について、が成り立つ最小のがと等しいとき、を1の原始p乗根という。
が1の原始p乗根であるとき、すべての1のp乗根はのべき乗として表現できる。
が素数のとき、1を除く1のp乗根はすべて原始p乗根である。
通常は、そしてこの記事でも1のp乗根は複素数の範囲で考えます。1のp乗根は、複素平面上では原点を中心に正p角形状に並びます。また、ド・モアブルの定理より
とすると、このは1の原始p乗根になります。
複素平面における1の7乗根(左)とその和(右)
また、上図右のように複素平面上で1のp乗根を順番に足していくと正p角形を作り、元の場所に戻ってきます。1のp乗根のうちひとつは必ず1ですから、次のような定理が成り立ちます。
pを法とする原始根と1のp乗根
素数を法とする原始根のべき乗は、未満のすべての自然数を一回ずつ通ることを示しました。ここから次の定理が成り立ちます。
を素数とする。未満の自然数は、を法とする原始根と未満の自然数を使って次のように表せる。
また、1の原始p乗根の周期性を考えると、次が成り立ちます。
この2つを組み合わせて考えると次のような定理が成り立ちます。
を素数とする。1を除くすべての1のp乗根を、を法とする原始根と原始p乗根を使って次のように表すことができる。
たとえばなら次のような'ループ'が作れます。
7を法とする数の巡回と1の原始7乗根
mod 7 の世界で繰り返し3を掛けることで1~6を巡回できたように、1の7乗根は繰り返し3乗することで~を巡回できるのです。整数のループにはが、p乗根のループにはが含まれないため、周期はとなります。さらに、原始根の存在定理によりこのループはがどんな素数でも作ることができます。
また、(どのような素数と原始根の組み合わせでも)このループの反対側にあるp乗根同士をかけ合わせると必ずになります。下図のように負の指数を使うと、このことが分かりやすくなります。
7を法とする数の巡回と1の原始7乗根(負の指数を使った表現)
正'フェルマー素数'角形が作図できることの証明
定義と準備
ここからがいよいよ本題です。登場人物は次の3人です。
正p角形が作図できることを証明するためにはが有理数と四則演算・平方根で計算できることを示せばよいのですが(この2つは同値です。この記事を読んでいる方にとっては既知の事実でしょう)、この値は原始p乗根と次のような関係があります。
これにより、正p角形が作図できることとが作図できることは同値であることが分かりました。よって、ここからはが二次方程式を連鎖的に解いて求められることを証明していきます。
ようやく正p角形と繋がりましたね。
p乗根のグループ分け
1を除く1のp乗根はと繰り返し乗することで全て表すことができ、これはの周期で循環するループになっているのでした。の場合は次のようになります。
1の17乗根の巡回
さて、このループはの周期で循環しますが、フェルマー素数の定義よりは2のべき乗ですから必ず偶数周期のループになり、これを奇数番目の数と偶数番目の数に分けることで、周期が半分になったループを2つ作ることができます。新しくできたループはもとのループの「ひとつ飛ばし」ですから、すべての数がひとつ前の数の乗になります。
1の17乗根のグループ分け
完成した2つのループについて、それぞれの数の和をとおくと、を解に持つ有理数係数の二次方程式が必ず立てられます。具体的には、1のp乗根の性質からが分かり、を計算すると有理数になるので、解と係数の関係を使って二次方程式を立てることができます。
の場合
計算するとになるので、二次方程式を解いてとなります。どちらがどの符号をとるかは、コサインの大小関係から決められます(上図のようにグループ分けしたなら、左側がプラスの符号をとります)。
「二次方程式が必ず立てられる」ことを証明するには体の拡大などの知識が必要で、その解説にはこの記事と同じくらいの長さが必要なので詳細は
別の記事
に分けます。
は有理数を係数とする二次方程式の解ですから、有理数と四則演算・平方根を使って表すことができます。なお、の場合はここで求めた値の片方がになるので、ここで証明終了です。
再帰的なグループ分け
周期で循環する2つのループができ、それぞれが含む数の和が二次方程式の解として求められました。できあがったループの周期が2より大きいなら、さらに奇数番目と偶数番目に分けることで周期のループを計4つ作ります。
1の17乗根のグループ分け2回目
和がのループから作った小さなループの数の和を、和がのループから作った小さなループの数の和をとすると、「を解に持つ二次方程式」と「を解に持つ二次方程式」を立てることができます。これらの二次方程式の係数は有理数との四則演算だけで表すことができ、やはり作図できます。
以降、これと同じことを周期2のループができるまで再帰的に繰り返します。1段階進むごとにループの周期は半分になり、ループと二次方程式の数が倍に増えていきます。周期2のループは必ずとの組み合わせになるので、この時点での値が求められて証明終了です。
しつこいようですが、フェルマー素数からを引くとのべき乗になるので「周期を半分にするグループ分け」の繰り返しは必ず周期2のループにたどり着きます。
の場合
見通しをよくするために、最後までセットで扱う数の和をと書くことにします。が成り立つため計算もしやすいです。
前のステップで周期8のループを作り、次の値を求めました。
さらにのループを奇数番目と偶数番目にグループ分けして周期4のループを作り、それぞれのループの和を
とすると、になるので、これらの値を使って二次方程式を立てます。
さらにグループ分けをして周期2のループを作ります。例えばのループはとに分けられます。同じようになどを計算すると次の方程式が立てられます。
「正17角形が作図できること」を証明するならここまでで十分ですが、せっかくなのでの値を求めてみます。必要な方程式をすべて解くと、
となり、確かにが有理数と四則演算・平方根の組み合わせで表せることが分かります。