この記事の内容のレベルは大学数学で、ジャンルは線形代数・可換代数です。
この記事を通して、環という用語は「単位的可換環」を意味する用語としてのみ使います。
この記事では、多項式環のイデアルに関するある命題を証明します。
内容としては、筆者の記事
「斉次分解に着目した生成系の位数に関する考察」
の続きにあたるものです。この記事の中で紹介したアイデアを抽象化したものがここで提示したい命題です。
主命題の紹介を行う前に、この記事のアウトラインを書いておきます。
始めに必要な概念の定義や主命題の紹介を行います。
その後、主命題を証明をします。
最後に、上記の「斉次分解に着目した生成系の位数に関する考察」の中で取り扱った命題に関して、この主命題を利用した形で再度証明を与え、議論の抽象化ができていることを示します。
最初に、いくつか定義をします。
また、
このとき、
例えば、多項式
また、
この時
例えば、
これを踏まえて主命題を書くと、次の通りです。
この時、
さて、各
両辺の
このことから、
これから、以下の一次方程式系が得られる。
さて、
最後のランクに関する不等式は、必要であれば 記事「斉次分解に着目した生成系の位数に関する考察」の補題3 を参照してください。
ここでは、上記記事で取り扱った命題に、上記の主命題を利用した形で再度証明を与えます。
まず、これから検討を行う命題を上記記事から再掲します。
この時、
以下、証明を行います。
検討するイデアルは
各
したがって、
今、
実際、
記事 「斉次分解に着目した生成系の位数に関する考察」 を投稿した際、あとがきに下記のように記載しました。
「ここで行った手法はある程度共通の枠組みをもってとらえられそうなものではあるのですが、残念ながら現時点ではそれに相当するものは見出せませんでした。この手法に関して何らかの抽象化・一般化を施した定理が存在するかは今後よく注意していきたいと思っています。」
ところが、投稿してからぼんやりと記事を見直してみたところ、「こうすればうまく定理の形にまとめることができるのではないか」というアイデアを思いつきました(それを検証し、まとめたのがこの記事です。)。
「投稿する前に思いつかなかったのか」ということが頭によぎりましたが、やはり投稿する前にこれを思いつくことは難しいものでした。記事として内容を整理した結果、内容をようやく俯瞰することができ、結果そこに至って初めて内容をまとめることができたのだろうと思います。
命題を記載するにあたって、2つほど概念を定義しましたが、ひょっとしたらすでによく知られた概念に名前を付けてしまっているかもしれません。もし該当する概念をご存じでしたらぜひお知らせください。
また、この記事の内容に関して誤植等がございましたらぜひお寄せください。