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大学数学基礎解説
文献あり

ゲージ対称性とは何か(14): Ward-Takahashi恒等式とBRST対称性

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まえおき

★ 本記事は ゲージ対称性とは何か(13): BRST対称性・BRST量子化 の続きです。

修正履歴
  • 16Oct.2022: 「ゲージ結合定数のuniversality」において、「公式1について、いくつかremarkです:」の下にある箇条書きの文章を修正しました

Ward-Takahashi恒等式 (WT id.)

Ward-Takahashi恒等式とは、対称性から導かれる相関関数の間の関係式です。

いま、ある変換の生成子Q^があり、これは系の対称性であるとします(^は演算子を表す)。一般に、ある演算子O^Q^による変化は
[iQ^,O^]=δO^
となります。ここでO^が時空点x1,x2,,xnに依存する場合:O^(x1,x2,,xn)を考えます。これのT積をとったものTO^(x1,x2,,xn)に対して変換を施し、さらに系の真空状態0|,|0ではさみます。Q^は系の対称性変換なので、真空は(対称性が自発的に破れなければ)この変換に対して不変です。よってQ^|0=0より
0|[iQ^,TO^(x1,x2,,xn)]|0=0|TδO^(x1,x2,,xn)|0=0
が成立します。この恒等式がWard-Takahashi恒等式(WT id.)です。

同様の式は、経路積分からも導けます。
f(ϕ(x1),ϕ(x2),,ϕ(xn))を、特定の時空点x1,x2,,xnにおける古典場ϕ(x1),ϕ(x2),,ϕ(xn)に依存する関数とします。古典場の期待値を:=DϕeiSで定義すると、fの期待値は
f(ϕ(x1),ϕ(x2),,ϕ(xn))=Dϕ f(ϕ(x1),ϕ(x2),,ϕ(xn))eiS
と書けます。
さて、経路積分は場の変数のとりかえϕϕに対し不変です:
Dϕ f(ϕ(x1),ϕ(x2),,ϕ(xn))eiS=Dϕ f(ϕ(x1),ϕ(x2),,ϕ(xn))eiS
ϕϕSおよび積分測度Dϕを不変にする変換とします。このとき
Dϕ [f(ϕ(x1),ϕ(x2),,ϕ(xn))f(ϕ(x1),ϕ(x2),,ϕ(xn))]eiS=0Dϕ δf(ϕ(x1),ϕ(x2),,ϕ(xn))eiS=0
です。以上より
δf(ϕ(x1),ϕ(x2),,ϕ(xn))=0
が成立します。

Slavnov-Taylor恒等式 ーYang-Mills理論におけるBRST対称性に関するWT id.ー

Yang-Mills理論(YM理論)のLagrangianは以下です:
L=14FμνaFμνa+BaμAμa+12αBaBa+ic¯aμDμca
(詳しくは例えば ゲージ対称性とは何か(13): BRST対称性・BRST量子化 のtotal Lagrangianが書かれている辺りをご参照ください)

YM理論はBRST変換に対して不変です。古典的なacitonがこれに対して不変なのは、BRST変換が、ゲージパラメータθaをghost場caに置き換えたものなので当然です。またFF以外の部分は、δB()のように、BRST変換の"完全形式"なので(このような微分形式とBRST変換との対応をBRST cohomologyと呼びます)、BRST変換での不変性はやはりあきらかです。ゲージ対称性はゲージ固定項により破れますが、BRST対称性は量子論でも成立しており、くりこみにより破れることもないのは大切です(対称性の自発的破れが起きない限り)。

以上からYM理論の真空はBRST変換で不変です:QB|0=0 。QBはghost数を変える変換なので、真空はghost数を保存します。
すると、以下の真空期待値はゼロです:
0|T{iQB,O^(x1,x2,,xn)}|0=00|T(δBO^(x1,x2,,xn))|0=0
O^(x1,x2,,xn)を変えることで、さまざまな関係式を得ることができます。
これらをSlavnov-Taylor恒等式と呼びます。

BRST不変性から言えること

以下に2つ、BRST不変性から言える重要な帰結を示します。

  • ゲージ場の縦波成分は摂動論においてくりこみの効果を受けない
  • ゲージ結合定数の普遍性(universality)

以下の議論はRef.[1-3]に基づいています。

ゲージ場の縦波成分は摂動論においてくりこみの効果を受けない

次の事実を示します:

gluonのpropagatorD~μνab(k)は任意の摂動の次数で以下の形に書ける:
D~μνab=δabk2(1+Π(k2))(gμνkμkνk2)+δabk2αkμkνk2
ここですべての量はくりこまれた量とする。αはゲージパラメータ。Π(k2)はgluon self energy Πμνab(k)(=gluonの2点1PI頂点関数)と
Πμνab=δab(gμνk2kμkν)Π(k2)
で結びつく量である。

gluonとはYang-Mills理論のゲージ場のことです(ふつうSU(3)のゲージ場のことを指しますが、ここでは一般にSU(N)のゲージ場をgluonと呼びます)。また1PIとはone particle irreducible(一粒子既約)の略で、ファインマン・ダイアグラムの1本を切っても全体が繋がっているようなダイアグラムを指します。

定理1はつまり、gluonのpropagatorは、kμを作用させてゼロになる部分のみがくりこみの変更を受け(Π(k2)の部分が変更を受ける)、ゲージパラメータに依存する部分は変更を受けないということを主張します。

以下これを証明します。

まず場のBRST変換性を示しておきます:
{δAμa=ω(μca+gfabcAμbcc)=Dμcacc,δca=ω(12gfabccbcc),δc¯a=iωBa,δBa=0
ここでωはGrassmannの微小パラメータです。 

以下、場やパラメータはすべてくりこまれた量であるとします。

次のWT id.から始めます:
δ0|T[μA^μa(x)c¯^b(y)]|0=0
以下、場が演算子であることを表す^を省略します。

ghost場caに関する運動方程式は
μ(L(μc¯a))Lc¯a=iZ~32caiZ~1gfabcμ(cbAμc)=0
なので、δ(μAμa)=ω[Z~32caZ~1gfabcμ(cbAμc)]=0です。ゆえに上式は
δ0|T[μAμa(x)c¯b(y)]|0=00|T[μAμa(x)δc¯b(y)]|0=0
となります。Baに関する運動方程式からδc¯a=iωBa=ωiαμAμaなので
0|T[μAμa(x)νAνb(y)]|0=0
です。

次にμAμa(x)の微分を期待値の外に出します。
ここでboson場ϕに対し、T積の定義は
0|Tϕ(x)ϕ(y)|0:=θ(x0y0)0|ϕ(x)ϕ(y)|0+θ(y0x0)0|ϕ(y)ϕ(x)|0
です。これにxに関する時間微分0xが作用すると
0x0|Tϕ(x)ϕ(y)|0=δ(x0y0)(0|ϕ(x)ϕ(y)|00|ϕ(y)ϕ(x)|0)+0|T0xϕ(x)ϕ(y)|0=δ(x0y0)[ϕ(x),ϕ(y)]+0|T0xϕ(x)ϕ(y)|0
となります。よって
0|T0xϕ(x)ϕ(y)|0=0x0|Tϕ(x)ϕ(y)|0δ(x0y0)[ϕ(x),ϕ(y)]
が成立します。すなわち、時間微分を外に出したおつりとして右辺第2項の「(-1)×(時間のデルタ関数)×(交換関係)」が現れます。以上より
xμ0|T[Aμa(x)yνAν(y)]|=δ(x0y0)0|[A0a(x),yνAνb(y)]|0
です。ここでAμaの共役運動量Πμa
Πμa=F0μa1αg0μ(νAνa)
なので、
Π0a=1ανAνa
これを上の交換関係に入れると、正準交換関係より
iαμx0|T(Aμa(x)yνAνb(y))|0=δabδ4(xy)
を得ます。左辺のyνは微分の中から出して良いので( [Aμa(x),Aνb(y)]=0)、
iαxμyν0|T(Aμa(x)Aμb(y))|0=δabδ4(xy)
以下のFourier変換
i0|T(Aμa(x)Aνb(y))|0=d4k(2π)4eik(xy)D~μνab(k)
を定義すると上の式は
1αkμkνD~μνab(k)=δab
となります。

ここでgluonのself energy: Πμνab(k)を定義します。これはgluonの2点1PI頂点関数のことです。これとfull gluon propagator D~μνabとの関係は
D~μνab=D~0μνab+D~0μλacΠcd,λρD~0ρνcb+
です。ここでD~0μνab=δabk2(gμν(1α)kμkν/k2)はfree gluon propagatorです。この式は「任意のpropagatorは、1つ線を切っても切れない部分と、1つの線だけでできているfree gluon propagatorの部分に排他的に分けることができる」ことを示しています。上式を1αkμkνD~μνab(k)=δabに代入すると
1αkμkν(D~0μνab(k)+D~0μλacΠcd,λρD~λνdb+)=δab
ですが、1αkμkνD~0μνab=δabなので、カッコの中の第2項以降はゼロです。任意のΠでゼロになるから、各項でゼロにならなければなりません。よって
kμkν(D~0μλabΠcd,λρD~0ρνdb)=1(k2)2kλkρΠab,λρ=0
すなわち
kλkρΠab,λρ=0
です。a,bの足に関しては、globalなゲージ変換によるactionの不変性よりδabに比例し(カラー荷の保存と呼ばれたりします)、またkλkρをかけてゼロになるので
(kλkρgλρk2)
に比例します。ゆえに一般に
Πμνab=δab(kμkνgμνk2)Π(k2)
と書けます。左辺のΠμνabΠ^と表記し、D0とのテンソルの足の縮約を省略して書けば
((D0Π^D0)n)μνab=()nδab1k2(gμνkμkνk2)(Π(k2))n
なので、D~μνabΠ(k2)で書くと
D~μνab=δabk2(gμν(1α)kμkν/k2)δabk2(gμν(1α)kμkν/k2)Π(k2)+δabk2(gμν(1α)kμkν/k2)Π(k2)2=δabk2(gμν(1α)kμkν/k2)(1Π+Π2)+δabk2αkμkνk2=δabk2(1+Π(k2))(gμνkμkνk2)+δabk2αkμkνk2
となります。
 
これはすなわち
gluonのpropagatorにおいてくりこみにより変更を受けるのは、横波成分のみ
ということです。縦波成分はfreeなものと変わりません。

ゲージ結合定数のuniversality

次に、以下の事実を証明します。

gluonの3点相互作用項、gluonの4点相互作用項、ghostとgluonの相互作用項、quarkとgluonとの相互作用項の結合定数のくりこみ定数は任意の摂動の次数で等しい。

古典的な場合、上記の相互作用項の結合定数の値はすべて等しいです。これはゲージ不変性によります。一方量子化を行うとゲージ固定をしなければならず、ゲージ不変性は破れます。量子効果を取り込むと、それぞれの項のoperatorは違うので、一般的にはこれら結合定数は違うくりこみを受け、それぞれ値がずれても良い気がします。しかし、ゲージ固定の後でも存在するBRST対称性により、量子効果を取り入れてもそれぞれの項の結合定数が等しいことが示せます。

まず以下を示します:

QCD actionのくりこみ定数を、以下のように設定する:
S=d4x[Z34(μAνaνAμa)(μAaννAaμ)+e2Z1fabc(μAνaνAμa)AbμAcν+e2Z44fabcfamnAbμAcνAμmAνn+Z~3μc¯aμca+eZ~1fabcμc¯aAbμcc(1)+λ2(Aa)2]
またBRST変換を以下のように設定する:
δBAμa=ω(μca+afabcAμbcc),δBca=ω(b2fabccbcc),δBc¯a=ωγAa
ここでωはGrassman oddの定数パラメータであり、ghost・anti-ghost場と反可換。a,b,γは定数。

このとき、BRST変換によるEq.(1)の変化は以下:

  • δSFF=d4x ω[(aZ3eZ1)fabcAνb(μcc)F0aμν+(e2Z4aeZ1)fabcfamn(μcb)AνcAmμAnν]

  • δSGS+GF=d4x ω[(γZ~3+λ)(Aa)(2ca)+(aλγeZ~1)(Aa)((Ab)cc+Abμ(μcc))(eZ~1bZ~3)fabc(μc¯a)(μcb)cc+(ba)eZ~1fabcfbmn(μc¯a)Amμcncc]

公式1について、いくつかremarkです:

  • Eq.(1)ではゲージ固定としてAa=0を採用し、またゲージパラメータをα=1としています。
  • 通常、場・coupling・mass等のくりこみ定数をそれぞれ設定しますが、Eq.(1)ではそれらをまとめ、各項に1つのくりこみ定数を設定しています。ここでくりこみ定数は、Sに含まれるZらを1とおいた作用をScとし、S=Sc+(SSc)の形に変形しておいて、Scでダイアグラムを計算したときに生じる無限大がSScによって打ち消される条件で決定されます。
  • BRST変換に含まれるa,b,γは定数です。a,bは最終的にはa=bとなります。そしてa(=b)が結合定数となります。ここではそれらをアプリオリにせず、actionのBRST不変性を課すことにより決定します。

以下公式1を示します。

Eq.(1)のSに対してBRST対称性を課します。BRST変換を施し、ωの1次をとってきます。F0aμν:=μAνaνAμaとすると、以下のように変形できます:

δSd4x[Z32(δF0aμν)Fμν0a+e2Z1fabc{(δF0aμν)AbμAcν+2Fμν0a(δAbμ)Acν}+12e2Z4fabcfamn{(δAbμ)AcνAμmAνn+AbμAcν(δAμm)Aνn}+Z~3(δμc¯a)μca+Z~3(μc¯a)(δμca)+eZ~1fabc(δμc¯a)Abμcc+eZ~1fabcμc¯a(δAbμ)cc+eZ~1fabcμc¯aAbμ(δcc)+λ(δμAaμ)νAaν]=d4x ω[aZ3fabc(μAνb)ccF0aμν+aZ3fabcAνb(μcc)F0aμν+aeZ1fabcfamn(μAνm)cnAbμAcν+aeZ1fabcfamnAνm(μcn)AbμAcν+eZ1fabcFμν0a(μcb)Acν+aeZ1fabcfbmnAmμcnAcνFμν0a+e2Z4fabcfamn(μcb)AcνAμmAνn+12e2Z4fabcfamn(efbdeAμdceAνcAmμAnν+efmdeAμbAνcAdμceAnν)+Z~3(γμ(Aa))μcaZ~3(μc¯a)μ(b2fabccbcc)+eγZ~1fabcμ(Aa)AbμcceZ~1fabc(μc¯a)μcb+afbmnAμmcn)cceZ~1fabc(μc¯a)Abμ(b2fcmncmcn)+λμ(μca+afabcAbμcc)(νAaν)]
上記を、field strength part δSFFとghost+gauge fixing part δSGS+GFにわけ、以下の量を定義します:
δSFF:=d4x ω[aZ3fabc(μAνb)ccF0aμν+aZ3fabcAνb(μcc)F0aμν+aeZ1fabcfamn(μAνm)cnAbμAcν+aeZ1fabcfamnAνm(μcn)AbμAcν+eZ1fabcFμν0a(μcb)Acν+aeZ1fabcfbmnAmμcnAcνFμν0a+e2Z4fabcfamn(μcb)AcνAμmAνn+12e2Z4fabcfamn(efbdeAμdceAνcAmμAnν+efmdeAμbAνcAdμceAnν)],δSGS+GF:=d4x ω[Z~3(γμ(Aa))μcaZ~3(μc¯a)μ(b2fabccbcc)+eγZ~1fabcμ(Aa)AbμcceZ~1fabc(μc¯a)(μcb+afbmnAμmcn)cceZ~1fabc(μc¯a)Abμ(b2fcmncmcn)+λμ(μca+afabcAbμcc)(νAaν)]

δSFFの計算

各項に名前をつけておきます:
δSFF=d4x ω[aZ3fabc(μAνb)ccF0aμν(O)+aZ3fabcAνb(μcc)F0aμν(A)+aeZ1fabcfamn(μAνm)cnAbμAcν(B)+aeZ1fabcfamnAνm(μcn)AbμAcν(C)+eZ1fabcFμν0a(μcb)Acν(A)+aeZ1fabcfbmnAmμcnAcνFμν0a(B)+e2Z4fabcfamn(μcb)AcνAμmAνn(C)+12e2Z4fabcfamn(efbdeAμdceAνcAmμAnν+efmdeAμbAνcAdμceAnν)(D)]

各項を計算していきます。

  1. (O)はゼロ:
    aZ3fabc(μAνb)ccF0aμν=aZ3fabc(μAνbνAμb2)ccF0aμν=aZ3fabcccFμν0aF0bμν=0

  2. (D)はゼロ:
    12e2Z4fabcfamn(efbdeAμdceAνcAmμAnν+efmdeAμbAνcAdμceAnν)=0
    [計算]
    ・初項をJacobi恒等式を使って書き換える:
    12e3Z4cefabc(famnAmμAnν)(fbdeAμdAνc)=12e3Z4ce(fabefbdcfadbfebc)(famnAmμAnν)(AμdAνc)=12e3Z4ceθefadbfebc(famnAmμAnν)(AμdAνc)
    ・第2項:
    12e3Z4cefamn(fabcAμbAνc)(fmdeAdμAnν)
    ダミー変数を入れ替え変形する:
    =12e3Z4cefabdfbce(famnAμmAνn)(AcνAdν)=12e3Z4cefabdfbce(famnAνmAμn)(AcμAdν)=12e3Z4cefadbfebc(famnAμmAνn)(AdμAcν)
    よって(D)はゼロ

  3. (A)に関して:
    aZ3fabcAνb(μcc)F0aμν+eZ1fabcAνc(μcb)F0aμν=(aZ3eZ1)fabcAνb(μcc)Faμν

  4. (B)はゼロ:
    aeZ1(fabcfamn(μAνm)cnAbμAcν+fabcfbmn(μAνaνAμa)cnAmμAcν)=aeZ1(fabcfamn+famcfanbfambfanc)(μAνm)cnAbμAcν
    Jacobi id.より=0

  5. (C)に関して:
    aeZ1fabcfamn(μcn)AνmAbμAcν+e2Z4fabefamn(μcb)AνeAmμAnν=(e2Z4aeZ1)fabcfamn(μcb)AνcAmμAnν

以上より
δSFF=(aZ3eZ1)fabcAνb(μcc)F0aμν+(e2Z4aeZ1)fabcfamn(μcb)AνcAmμAnν

δBSGS+GFの計算

まず部分積分等により変形しておきます:
δSGS+GF:=d4x ω[Z~3(γμ(Aa))μcaZ~3(μc¯a)μ(b2fabccbcc)+eγZ~1fabcμ(Aa)AbμcceZ~1fabc(μc¯a)(μcb+afbmnAμmcn)cceZ~1fabc(μc¯a)Abμ(b2fcmncmcn)+λμ(μca+afabcAbμcc)(νAaν)]=d4x ω[Z~3(γ(Aa))2ca(E)+bfabcZ~3(μc¯a)(μcb)cc(F)eγZ~1fabc(Aa)((Ab)cc+Abμ(μcc))(G)eZ~1fabc(μc¯a)(μcb(F)+afbmnAmμcn(I))cceZ~1fabc(μc¯a)Abμ(b2fcmncmcn)(I)+λ{2ca(E)+afabc((Ab)cc+Abμ(μcc))(G)}(νAaν)]
同じ記号の項をまとめると以下を得ます:
=(γZ~3+λ)(Aa)(2ca)+(aλγeZ~1)(Aa)((Ab)cc+Abμ(μcc))(eZ~1bZ~3)fabc(μc¯a)(μcb)ccaeZ~1fabcfbmn(μc¯a)Amμcncc+b2eZ~1fabcfcmn(μc¯a)Abμcmcn
ここで最後の2項をJacobi id.とghostの反可換性を使って変形し、まとめると
aeZ~1fabcfbmn(μc¯a)Amμcncc+b2eZ~1fabcfcmn(μc¯a)Abμcmcn=(ba)eZ~1fabcfbmn(μc¯a)Amμcncc
となります。最終的に
δSGS+GF=(γZ~3+λ)(Aa)(2ca)+(aλγeZ~1)(Aa)((Ab)cc+Abμ(μcc))(eZ~1bZ~3)fabc(μc¯a)(μcb)cc+(ba)eZ~1fabcfbmn(μc¯a)Amμcncc
を得ます。

結果を今一度まとめると

BRST変換によるEq.(1)の変換性:

  • δSFF=d4x ω[(aZ3eZ1)fabcAνb(μcc)F0aμν+(e2Z4aeZ1)fabcfamn(μcb)AνcAmμAnν]

  • δSGS+GF=d4x ω[(γZ~3+λ)(Aa)(2ca)+(aλγeZ~1)(Aa)((Ab)cc+Abμ(μcc))(eZ~1bZ~3)fabc(μc¯a)(μcb)cc+(ba)eZ~1fabcfbmn(μc¯a)Amμcncc]

よって、BRST変換のもとでactionが不変なら
aZ3=eZ1,e2Z4=aeZ1,γZ~3=λ, aλ=γeZ~1, eZ~1=bZ~3, a=bea=Z3Z1=Z1Z4=Z~3Z~1=λγZ~1
です。これらの関係式は、狭い意味でSlavnov-Taylor恒等式と呼ばれることがあります。これらはBRST対称性に基づくWard-Takahashi恒等式(つまりは一般に言うSlavnov-Taylor恒等式)から導くこともできますが、今回はより基本的な方法で導きました。

これらの関係式はgauge couplingのuniversalityを示しています。
本来上記operatorは違うくりこみを受けるので、量子効果でそれぞれのcouplingのくりこみ定数は違っていてもおかしくありません。つまり、量子効果でそれぞれのcouplingはずれうるはずです。
しかし上記の関係式から同じrenormalization constantでくりこめることが示せます。今、gauge coupling gのくりこみ定数を、それぞれのoperatorごとに変えます。Aμaのくりこみ定数をZ3c,c¯のくりこみ定数をZ~3Aの3乗項の係数のeのくりこみ定数をZgAの4乗項の係数のeのくりこみ定数をZg2μc¯aAbμccの項の係数のeのくりこみ定数をZg3とします。Eq.(1)のZ1,Z4,Z~1はこれらのくりこみ係数から構成されるとすると
Z1=ZgZ33/2,Z4=Zg22Z32,Z~1=Zg3Z~3Z31/2
が成立します。ここで上で導いた関係式を使うと
Zg3=Zg, Zg2=Zg
が示せます。よって、couplingのくりこみ定数はどの項も等しく、couplingのuniversalityが示されました。

ここでは計算しませんが、Fermionとgluonのcoupling constantのくりこみ定数も同様にして等しいことが示せます。

まとめ

今回は、対称性から導かれる関係式であるWard-Takahashi恒等式を簡単に紹介したのち、BRST不変性から導かれる2つの重要な帰結:

  1. ゲージ場の縦波成分は摂動論においてくりこみの効果を受けない
  2. ゲージ結合定数の普遍性(universality)

について説明しました。1.2.共に物理的に重要ですが、1.はWard-Takahashi恒等式の応用例としても重要です。

ここで「量子アノマリー」という大切な概念について述べておきます。Ward-Takahashi恒等式やSlavnov-Taylor恒等式を導く際、actionが対称性をもつだけでなく、対称性を保つ正則化が存在しなければなりません。古典的には存在する対称性が、それを保つ正則化が存在しないために量子論において破れる現象を「量子アノマリー」と呼びます。Quantum ChromoDynamics (SU(3)のYang-Mills理論, 強い相互作用の理論)では、古典的には存在する大域的なベクトル対称性と軸性ベクトル対称性の両方を保つ正則化が存在しないことにより、軸性ベクトル対称性が破れる現象がおきます(ABJ anomalyと呼ばれる)。これは中性パイオンが2つのフォトンに崩壊する現象を説明します。

一方、局所的な対称性(ゲージ対称性)が量子アノマリーにより破れると、理論のユニタリティー(場の量子論における"確率の保存"に対応する概念)のような非常に重要な性質が失われるので、量子アノマリーが消えるように理論が構成されている必要があります。弱い相互作用では、ゲージ対称性に関する量子アノマリーがうまく打ち消し合うようになっています。

量子アノマリー関連のお話はまたの機会に。
おしまい。

参考文献

[1]
T. Muta, Foundation of Quantum Chromodynamics (Third edition), World Scientific Lecture Notes in Physics, World Scientific, 2009
[2]
V.P.ナイア著(阿部泰裕/磯暁訳), 現代的な視点からの 場の量子論(基礎編), Springer Japan, 2009
[3]
藤川和男, ゲージ場の理論, 現代物理学叢書, 岩波書店, 2001
投稿日:20221015
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  1. Ward-Takahashi恒等式 (WT id.)
  2. Slavnov-Taylor恒等式 ーYang-Mills理論におけるBRST対称性に関するWT id.ー
  3. BRST不変性から言えること
  4. ゲージ場の縦波成分は摂動論においてくりこみの効果を受けない
  5. ゲージ結合定数のuniversality
  6. まとめ
  7. 参考文献