★ 本記事は ゲージ対称性とは何か(13): BRST対称性・BRST量子化 の続きです。
修正履歴Ward-Takahashi恒等式とは、対称性から導かれる相関関数の間の関係式です。
いま、ある変換の生成子
となります。ここで
が成立します。この恒等式がWard-Takahashi恒等式(WT id.)です。
同様の式は、経路積分からも導けます。
と書けます。
さて、経路積分は場の変数のとりかえ
です。以上より
が成立します。
Yang-Mills理論(YM理論)のLagrangianは以下です:
(詳しくは例えば
ゲージ対称性とは何か(13): BRST対称性・BRST量子化
のtotal Lagrangianが書かれている辺りをご参照ください)
YM理論はBRST変換に対して不変です。古典的なacitonがこれに対して不変なのは、BRST変換が、ゲージパラメータ
以上からYM理論の真空はBRST変換で不変です:
すると、以下の真空期待値はゼロです:
これらをSlavnov-Taylor恒等式と呼びます。
以下に2つ、BRST不変性から言える重要な帰結を示します。
以下の議論はRef.[1-3]に基づいています。
次の事実を示します:
gluonのpropagator
ここですべての量はくりこまれた量とする。
で結びつく量である。
gluonとはYang-Mills理論のゲージ場のことです(ふつうSU(3)のゲージ場のことを指しますが、ここでは一般にSU(N)のゲージ場をgluonと呼びます)。また1PIとはone particle irreducible(一粒子既約)の略で、ファインマン・ダイアグラムの1本を切っても全体が繋がっているようなダイアグラムを指します。
定理1はつまり、gluonのpropagatorは、
以下これを証明します。
まず場のBRST変換性を示しておきます:
ここで
以下、場やパラメータはすべてくりこまれた量であるとします。
次のWT id.から始めます:
以下、場が演算子であることを表す
ghost場
なので、
となります。
です。
次に
ここでboson場
です。これに
となります。よって
が成立します。すなわち、時間微分を外に出したおつりとして右辺第2項の「(-1)×(時間のデルタ関数)×(交換関係)」が現れます。以上より
です。ここで
なので、
これを上の交換関係に入れると、正準交換関係より
を得ます。左辺の
以下のFourier変換
を定義すると上の式は
となります。
ここでgluonのself energy:
です。ここで
ですが、
すなわち
です。
に比例します。ゆえに一般に
と書けます。左辺の
なので、
となります。
これはすなわち
gluonのpropagatorにおいてくりこみにより変更を受けるのは、横波成分のみ
ということです。縦波成分はfreeなものと変わりません。
次に、以下の事実を証明します。
gluonの3点相互作用項、gluonの4点相互作用項、ghostとgluonの相互作用項、quarkとgluonとの相互作用項の結合定数のくりこみ定数は任意の摂動の次数で等しい。
古典的な場合、上記の相互作用項の結合定数の値はすべて等しいです。これはゲージ不変性によります。一方量子化を行うとゲージ固定をしなければならず、ゲージ不変性は破れます。量子効果を取り込むと、それぞれの項のoperatorは違うので、一般的にはこれら結合定数は違うくりこみを受け、それぞれ値がずれても良い気がします。しかし、ゲージ固定の後でも存在するBRST対称性により、量子効果を取り入れてもそれぞれの項の結合定数が等しいことが示せます。
まず以下を示します:
QCD actionのくりこみ定数を、以下のように設定する:
またBRST変換を以下のように設定する:
ここで
このとき、BRST変換によるEq.(1)の変化は以下:
公式1について、いくつかremarkです:
以下公式1を示します。
Eq.(1)の
上記を、field strength part
各項に名前をつけておきます:
各項を計算していきます。
[計算]
・初項をJacobi恒等式を使って書き換える:
・第2項:
ダミー変数を入れ替え変形する:
よって(D)はゼロ
(A)に関して:
(B)はゼロ:
Jacobi id.より
(C)に関して:
以上より
まず部分積分等により変形しておきます:
同じ記号の項をまとめると以下を得ます:
ここで最後の2項をJacobi id.とghostの反可換性を使って変形し、まとめると
となります。最終的に
を得ます。
結果を今一度まとめると
BRST変換によるEq.(1)の変換性:
よって、BRST変換のもとでactionが不変なら
です。これらの関係式は、狭い意味でSlavnov-Taylor恒等式と呼ばれることがあります。これらはBRST対称性に基づくWard-Takahashi恒等式(つまりは一般に言うSlavnov-Taylor恒等式)から導くこともできますが、今回はより基本的な方法で導きました。
これらの関係式はgauge couplingのuniversalityを示しています。
本来上記operatorは違うくりこみを受けるので、量子効果でそれぞれのcouplingのくりこみ定数は違っていてもおかしくありません。つまり、量子効果でそれぞれのcouplingはずれうるはずです。
しかし上記の関係式から同じrenormalization constantでくりこめることが示せます。今、gauge coupling
が成立します。ここで上で導いた関係式を使うと
が示せます。よって、couplingのくりこみ定数はどの項も等しく、couplingのuniversalityが示されました。
ここでは計算しませんが、Fermionとgluonのcoupling constantのくりこみ定数も同様にして等しいことが示せます。
今回は、対称性から導かれる関係式であるWard-Takahashi恒等式を簡単に紹介したのち、BRST不変性から導かれる2つの重要な帰結:
について説明しました。1.2.共に物理的に重要ですが、1.はWard-Takahashi恒等式の応用例としても重要です。
ここで「量子アノマリー」という大切な概念について述べておきます。Ward-Takahashi恒等式やSlavnov-Taylor恒等式を導く際、actionが対称性をもつだけでなく、対称性を保つ正則化が存在しなければなりません。古典的には存在する対称性が、それを保つ正則化が存在しないために量子論において破れる現象を「量子アノマリー」と呼びます。Quantum ChromoDynamics (SU(3)のYang-Mills理論, 強い相互作用の理論)では、古典的には存在する大域的なベクトル対称性と軸性ベクトル対称性の両方を保つ正則化が存在しないことにより、軸性ベクトル対称性が破れる現象がおきます(ABJ anomalyと呼ばれる)。これは中性パイオンが2つのフォトンに崩壊する現象を説明します。
一方、局所的な対称性(ゲージ対称性)が量子アノマリーにより破れると、理論のユニタリティー(場の量子論における"確率の保存"に対応する概念)のような非常に重要な性質が失われるので、量子アノマリーが消えるように理論が構成されている必要があります。弱い相互作用では、ゲージ対称性に関する量子アノマリーがうまく打ち消し合うようになっています。
量子アノマリー関連のお話はまたの機会に。
おしまい。