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大学数学基礎解説
文献あり

日曜数学会発表資料「ラマヌジャンの円周率公式を理解しよう」

2050
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$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{d}[0]{\delta} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{G}[0]{\Gamma} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{Gal}[0]{\operatorname{Gal}} \newcommand{id}[0]{\operatorname{id}} \newcommand{Im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{Li}[0]{\operatorname{Li}} \newcommand{li}[0]{\operatorname{li}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{P}[0]{\mathfrak{P}} \newcommand{p}[0]{\mathfrak{p}} \newcommand{q}[0]{\mathfrak{q}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Re}[0]{\operatorname{Re}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{vt}[0]{\vartheta} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

 この記事では私、子葉が10/15(土)に開催された第25回日曜数学会にて発表した内容をそれとなーくまとめたものになります(発表の一部始終については ここ で見れます)。

ラマヌジャンの円周率公式とは

スライド1 スライド1

 どうも、子葉と申します。今回は稀代の数学者ラマヌジャンの遺した数式
$$\frac1\pi=\frac{2\sqrt2}{99^2}\sum^\infty_{n=0}\frac{(4n)!}{(n!)^4}\frac{26390n+1103}{396^{4n}}$$
について語っていきます。

スライド2 スライド2

 ラマヌジャンの円周率公式を知らない人のためにこれがどんな式なのか簡単に説明しておくと、この級数は驚くほど収束が早く、一項計算するごとにおよそ8桁ずつ円周率の値を決定できる優れた公式となっています。実際$n=0,1,2$まで計算してみると$7,16,24$桁まで一致することがわかります。
 その収束の速さは最新の円周率の数値計算にも応用されており、ラマヌジャンに着想を得たChudnovskyの公式
$$\frac1\pi=12\sum^\infty_{n=0}(-1)^n\frac{(6n)!}{(3n)!(n!)^3}\frac{545140134n+13591409}{640320^{3n+\frac32}}$$
によって100兆桁まで計算されています(2022/10現在)。ちなみにChudnovskyの公式は一項計算するごとにおよそ14桁ずつ円周率の値を決定できます。

ラマヌジャンの円周率公式の導出

スライド3 スライド3

 ラマヌジャンの円周率公式に魅了された数学者は非常に多く、そのそれぞれがそれぞれの手法で証明・一般化を試みているため、その証明を探そうとすると非常に多くのキーワードに出会うことになります。今回はボールウェインの手法に則って超幾何関数・楕円積分・モジュラー方程式の三点に絞って話を進めていくことにします。
 まず最初にこの級数に注目してみます。

スライド4 スライド4

 ラマヌジャンの円周率公式に現れる級数はこのように定義される超幾何関数というものを用いて下のように表現することができます。

スライド5 スライド5

 この級数を超幾何関数で表して何がうれしいのかというと、それは超幾何関数の持つ魔法:超幾何微分方程式を使えることにあります。この魔法を使うとここに散りばめた様々な超幾何関数が同じ微分方程式を満たすということから、これらが等しいことがわかります。
 ここに例示した式以外にも数えきれないほど多くの超幾何関数の“変身”がここから現れるので、親しみを込めて私はこれを魔法と呼んでいます。

スライド6 スライド6

 そして先のスライドの一番下においた超幾何関数には楕円積分が深くかかわっており、次のような関係にあります。そして最終的に考えたいのはスライド5における$X$が整数となるような場合でしたので、その源流である$z$、すなわちこのスライドにおける$k^2$は整数的な数になってくれるとうれしいわけなのですが、楕円積分というのはそこら辺の都合が良いんです。ここで
$$\frac{K(\sqrt{1-k^2})}{K(k)}=\sqrt{N}$$
という$k$についての方程式を考えてみましょう。この左辺は$\infty$から$0$まで単調に減少していくのでただ一つだけ解$k_N$を持つことになりますが、なんとその解$k=k_N$は代数的数となるというのです。

 しかも

スライド7 スライド7

 第二種完全楕円積分$E(k)$というものを定めたとき、
$$\a(N)=\frac{E'}{K}-\frac{\pi}{4K^2}$$
とおくとこれも代数的数になっちゃうんです!!
 $K$$E$の定義からは全く驚きの事実なのですが、これが成り立つというのならラマヌジャンの円周率公式が出てくるのもなんか納得できる気がします。

スライド8 スライド8

 それでどうして$k_N$$\a(N)$が代数的数となるのかというと、それにはモジュラー方程式というものが関わてきます。モジュラー方程式は
$$\frac{K'}K=N\frac{L'}L$$
という$k$$l$についての関係を定める関係式であり、これは楕円関数論や保型形式の理論によりある整数係数多項式$W_N(x,y)$があって$W_N(k^2,l^2)=0$という方程式に帰着させることができます。
 そして$k=k_N$のとき$l=\sqrt{1-k_N^2}$となるので$k_N$は整数係数方程式$W_N(k_N^2,1-k_N^2)=0$を満たす、つまり$k_N$は代数的整数となることがわかるわけです。

 (追記)この部分、スライドや当日の発表で「代数的"整数"だ」と言ってしまいましたが普通に代数的整数ではありませんでした。ただ$k_N$は代数的数ではあるので後の議論に影響はありません。

スライド9 スライド9

 そしてモジュラー方程式によって定まる$k$についての関数$l$を微分すると
$$\frac{dl}{dk}=\frac1p\frac{l(1-l^2)}{k(1-k^2)}\l(\frac LK\r)^2$$
となり、さらにこれを微分し$k=k_N$を代入することで
$$\l(\frac{k(1-k^2)}2\frac d{dk}\frac LK\r)(k_N)=\frac{E'}K-\frac\pi{4K^2}-\sqrt Nk_N^2$$
が得られ、この左辺は$k$$l$についての代数関数であること、および$k=k_N,\;l=\sqrt{1-k_N^2}$は代数的数であることから$\a(N)$も代数的数となることが比較的自然にわかります。でも不思議ですね。

スライド10 スライド10

 そんなこんなで
$$\a(N)=\frac{E'}{K}-\farc\pi{4K^2}$$
を楕円積分の基本的な公式や$K'/K=\sqrt{N}$としていたことを利用して変形することで
$$\frac1\pi=\frac{\sqrt Nkk'^2}2\frac d{dk}\l(\frac{2K}\pi\r)^2+(\a(N)-\sqrt Nk^2)\l(\frac{2K}\pi\r)^2$$
という式が得られ、スライド5で紹介した“超幾何関数の魔法”を駆使することで
\begin{eqnarray*} \frac1\pi&=&\sum^\infty_{n=0}\frac{(4n)!}{(n!)^4}\frac{an+b}{4^{4n}x^{2n+1}} \\&=&\sum^\infty_{n=0}\frac{(6n)!}{(3n)!(n!)^3}\frac{a'n+b'}{(1728J)^n} \end{eqnarray*}
を筆頭とした様々な円周率公式が$N=1,2,3,\ldots$や超幾何関数の“変身”の取り方の数だけ量産されることになります。

スライド11 スライド11

 そしてラマヌジャンの円周率公式はそのどの場合かというと$N=58$の場合となります。そしてこの$396=4\cdot99,\;26390,\;1103$という数はどこから来るのかというと、$N=58$の場合に現れる重要な定数として
$$\l(\frac{\sqrt{29}+5}2\r)^6=99^2+1820\sqrt{29}$$
というものがあり、これの“整数部分”から$99^2$が、この“無理数部分”に$\sqrt N=\sqrt{58}$を掛けた値から$2\sqrt2\cdot26390$が、そして$26390$から$99\cdot222$を引いて$4$で割ると$1103$が出てきます。

スライド12 スライド12

 とりあえずいつでもラマヌジャンの円周率公式を思い出せるように
$$\l(\frac{\sqrt{29}+5}2\r)^6=99^2+1820\sqrt{29}$$
という定数を覚えてもらえればなと思います。
 そしてどうしても円周率を小数点以下6桁まで求めなければいけなくなった時のために、ラマヌジャンの円周率公式の$n=0$の項だけを取り出した近似式
$$\pi\fallingdotseq\frac{9801}{2\sqrt 2}\frac1{1103}$$
も覚えておきましょう。

 最後に、今回の発表ではまだまだたくさんの謎を棚に置いてラマヌジャンの円周率公式を語ってきましたが、スライド3あたりでも話したようにこの公式には非常に多くの数学者が様々な観点から様々な魅力を見出しており、調べれば調べるほど奥が深いコンテンツとなっています。
 この発表を聞いて興味を持たれた皆様もぜひ、ラマヌジャンに嵌ってみてください。
 ご清聴ありがとうございました。

あとがき

 個人的にラマヌジャンのラマヌジャンの円周率公式には 昔にも一、二度挑戦し 、それでも完全解明には情報が足りずモヤモヤして終わっていました。しかし一月ほど前から日曜数学会のネタ作りのために再チャレンジしてみたところボールウェイン兄弟の本(Pi and the AGM)に辿り着き、そこでの手法によりなんとかラマヌジャンの円周率公式を理解することができました(まだまだ謎は少なくないですが)。
 今回の発表は諸々の時間の都合で突貫工事の粗削りな資料しか作れませんでしたが、そのうちMathlogの方で体系的にまとめていこうと思いますのでよければそちらの方も楽しみにしておいてください。

 ではまた。

参考文献

[1]
J. M. Borwein, P. B. Borwein, Pi and the AGM: A Study in Analytic Number Theory and Computational Complexity, Wiley-Interscience, 1987
投稿日:20221015
更新日:17

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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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