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大学数学基礎解説
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ヤコビの楕円関数の諸性質

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はじめに

 この記事では今後の記事に向けてヤコビの楕円関数の基本的な性質について解説していきます。

定義

ヤコビの楕円関数

 第一種不完全楕円積分
u=K(x,k)=0xdt(1t2)(1k2t2)(0k1,1x1)
の逆関数をx=sn(u,k)とおき、KxK(K=K(1,k))において
cn(u,k)=1sn2(u,k),dn(u,k)=1k2sn2(u,k)
と定める。これらの関数sn,cn,dnヤコビの楕円関数という。

 必要に応じてkを省略しsnu,cnu,dnuとも書きます。

母数と補母数

 楕円積分に付随するパラメーターk母数(modulus)といい、これに対してk=1k2と定められるパラメーターを補母数(complementary modulus)という。
 また慣例として第一種完全楕円積分
K=K(1,k)=01dt(1t2)(1k2t2)
についてK(1,k)Kと表す。微分との混同を避けるためdK/dkK˙と書かれる。

 K(x,k)1x1において単調増加であることからsnuKuKにおいて正常に定まります。また
dKdx(0,k)=10
より(逆関数定理から)snuu=K(0,k)=0の近傍で正則関数を定めることがわかります。
 楕円積分の性質K(0,k)=0,K(x,k)=K(x,k)より
sn0=0,cn0=dn0=1
であることやsnは奇関数、cn,dnは偶関数であることがわかります。

k=0のとき

K(x,0)=0xdt1t2=sin1x
なので
sn(x,0)=sinxcn(x,0)=cosxdn(x,0)=1
となります。

k=1のとき

K(x,1)=0xdt1t2=tanh1x
なので
sn(x,1)=tanhxcn(x,1)=1/coshx=sechxdn(x,1)=sechx
となります。

微分方程式

(snu)=cnudnu(cnu)=snudnu(dnu)=k2snucnu
が成り立つ。

 snの定義より
u=0snudt(1t2)(1k2t2)
が成り立つのでこの両辺を微分することで
1=(snu)(1sn2u)(1k2sn2u)=(snu)cnudnu
つまり
(snu)=cnudnu
を得る。
 あとは
cn2u=1sn2udn2u=1k2sn2u
を微分することでわかる。

 snuの微分方程式は(x,y)=(snu,(snu))とおくと
y2=(1x2)(1k2x2)
と表すことができます。これは同じ基本的な楕円関数である ワイエルシュトラスの関数 の満たす微分方程式
y2=4x3g2xg3((x,y)=(,))
の類似のようなものとなっています。

(snu)=snu(1+k22k2sn2u)
が成り立つ。

 上の結果より
(snu)=snudn2uk2snucn2u=snu((1k2sn2u)+k2(1sn2u))=snu(1+k22k2sn2u)
と計算できる。

加法定理

sn(u+v)=snucnvdnv+snvcnudnu1k2sn2usn2vcn(u+v)=cnucnvsnudnusnvdnv1k2sn2usn2vdn(u+v)=dnudnvk2snucnusnvcnv1k2sn2usn2v
が成り立つ。

 ある程度発見的に説明しておくとk=0,1の場合を考えたとき
sin(x+y)=sinxcosy+sinycosx=sinx(siny)+siny(sinx)tanh(x+y)=tanhx+tanhy1+tanhxtanhy=tanhx(1tanh2y)+tanhy(1tanh2x)1tanh2xtanh2y=tanhx(tanhy)+tanhy(tanhx)1tanh2xtanh2y
という加法定理があるので、これを両立するようなものを考えると
sn(u+v)=snu(snv)+snv(snu)1k2sn2usn2v
という式が浮かび上がってきます。

 簡単のためx=snu,y=snvとおき、uによる微分をdx/du=x˙のように表す。
 このときu+v=()において
snucnvdnv+snvcnudnu1k2sn2usn2v=xy˙+yx˙1k2x2y2
が不変であること、つまりそのuによる微分が0となることを示す。また、これを対数微分すると
yx¨xy¨yx˙xy˙+2k2xy1k2x2y2(yx˙+yx˙)
となるのでこれが0であるためには
yx¨xy¨(yx˙)2(xy˙)2=2k2xy1k2x2y2
を示せばよい。
 そのことは定理1より
(x˙)2=(1x2)(1k2x2)(y˙)2=(1y2)(1k2y2)
であったことと定理1系より
x¨=x(1+k22k2x2)y¨=y(1+k22k2y2)
であったことから
y2(x˙)2x2(y˙)2=(1k2x2y2)(y2x2)yx¨xy¨=2k2xy(y2x2)
と確かめられる。
 よって
snucnvdnv+snvcnudnu1k2sn2usn2v
u+v=()において不変であり、(u,v)(u+v,0)とするとこれがsn(u+v)に一致することがわかる。
 cn,dnの加法定理については
cnu=1sn2u,dnu=1k2sn2u
を頑張って変形することでわかる。
 あるいは(x,y)=(cnu,cnv),(dnu,dnv)とおいてu+v=()における
cnucnvsnudnusnvdnv1k2sn2usn2v=xy+x˙y˙1k2(1x2)(1y2)dnudnvk2snucnusnvcnv1k2sn2usn2v=k2xy+x˙y˙k2(1x2)(1y2)
の不変性を示すことでも確かめられるが、あまりおすすめはしない。

実関数への拡張

 ヤコビの楕円関数はKuKにおいて定義された関数でしたが、加法定理によって実数上の関数に延長することができます。

sn(u+K)=cnudnu=sn(Ku)cn(u+K)=ksnudnu=cn(Ku)dn(u+K)=k1dnu=dn(Ku)
および
sn(u+2K)=snucn(u+2K)=cnudn(u+2K)=dnu
が成り立つ。

 加法定理においてv=Kとしたとき
snK=1,cnK=0,dnK=1k2=k
および
1k2sn2u=dn2u
に注意すると
sn(u+K)=cnudnucn(u+K)=ksnudnudn(u+K)=k1dnu
がわかり、この式においてuuとするとsnは奇関数、cn,dnは偶関数であることから
sn(u+K)=sn(Ku)cn(u+K)=cn(Ku)dn(u+K)=dn(Ku)
がわかる。これにu=Kを代入すると
sn2K=0,cn2K=1,dn2K=1
がわかるので、再び加法定理においてv=2Kとすることで
sn(u+2K)=snucn(u+2K)=cnudn(u+2K)=dnu
を得る。

 これらの式から次のようにグラフを書くことができます。

u2KK0K2K
snu01010
cnu10101
dnu1k1k1

k=1/√2のときの各関数のグラフ(K=1.854074...) k=1/√2のときの各関数のグラフ(K=1.854074...)

複素関数への拡張

sn(iv,k)=isn(v,k)cn(v,k)cn(iv,k)=1cn(v,k)dn(iv,k)=dn(v,k)cn(v,k)
が成り立つ。

tnu=snucnu
という関数を考えると
1+tn2u=1cn2u1+k2tn2u=(1sn2u)+(1k2)sn2ucn2u=dn2ucn2u
から
(tnu)=dnucn2u=(1+tn2u)(1+k2tn2u)
が成り立つので、
0tn(v,k)dt(1+t2)(1+k2t2)=v
がわかる。またit=sとおくと
0itn(v,k)ds(1s2)(1k2s2)=iv=0sn(iv,k)ds(1t2)(1k2t2)
が成り立つので、逆関数の一意性より
sn(iv,k)=itn(v,k)=isn(v,k)cn(v,k)
を得る。
 あとは
cn(iv,k)=1sn2(iv,k)=1+tn2(v,k)dn(iv,k)=1k2sn2(iv,k)=1+k2tn2(v,k)
よりわかる。

 いま
cn2(v,k)+k2sn2(u,k)sn2(v,k)=1(1k2sn2(u,k))sn2(v,k)=1dn2(u,k)sn2(v,k)
に注意すると、定理3と加法定理よりヤコビの楕円関数は次のように複素関数に拡張されることがわかります。

sn(u+iv,k)=sn(u,k)dn(v,k)+icn(u,k)dn(u,k)sn(v,k)cn(v,k)1dn2(u,k)sn2(v,k)cn(u+iv,k)=cn(u,k)cn(v,k)isn(u,k)dn(u,k)sn(v,k)dn(v,k)1dn2(u,k)sn2(v,k)dn(u+iv,k)=dn(u,k)cn(v,k)dn(v,k)ik2sn(u,k)cn(u,k)sn(v,k)1dn2(u,k)sn2(v,k)
が成り立つ。

この式と定理2系の式
sn(u+2K)=snucn(u+2K)=cnudn(u+2K)=dnu
からsn4K2iKを、cn4K2K+2iKを、dn2K4iKを基本周期に持つ二重周期関数となります。
 K(1,0)=よりk=0,1のときは一方の周期性を失うことなります。その結果が三角関数sinや双曲線三角関数tanhであったわけです。

sn(u+iK)=1ksnucn(u+iK)=idnuksnudn(u+iK)=icnusnu

sn(K,k)=1,cn(K,k)=,dn(K,k)=k
に注意するとわかる。

零点と極

 snu
u=2mK+2niK(m,nZ)
を一位の零点に持ち(導関数の値は(1)m)、
u=2mK+(2n+1)iK(m,nZ)
を一位の極に持つ(留数の値は(1)m/k)。

 uが実数のときのsn,cn,dnの挙動

u2KK0K2K
snu01010
cnu10101
dnu1k1k1

および
sn(u+2mK+2miK)=(1)msnu(m,nZ)
に注意して領域0u<2K,0v<2Kにおけるsn(u+iv,k)の零点と極を考える。
 sn(u+iv,k)が極を取るとき
1dn2(u,k)sn2(v,k)=0
が成り立つので、上の表からそのようなu,v
u+iv=iK
に限ることがわかる。また定理4から
sn(u+iK,k)=1ksn(u,k)
であったのでこれは一位の極になっていることがわかる。
 またこの公式から
uが零点u±iKが極
となることがわかるので領域内の零点は
u+iv=0
のみであることがわかる。

 同様にして以下のことがわかります。

 cnu
u=(2m+1)K+2niK(m,nZ)
を一位の零点に
u=2mK+(2n+1)iK(m,nZ)
を一位の極に持つ。
 dnu
u=(2m+1)K+(2n+1)iK(m,nZ)
を一位の零点に
u=2mK+(2n+1)iK(m,nZ)
を一位の極に持つ。

おまけ:半数公式

半数公式

snu2=1cnu1+dnucnu2=dnu+cnu1+dnudnu2=k2+dnu+k2cnu1+dnu

 加法定理よりx=snuとおくと倍数公式は
cn2u=cn2usn2udn2u1k2sn4u=12x2+k2x21k2x4dn2u=dn2uk2sn2ucn2u1k2sn4u=12k2x2+k2x41k2x4
となるので、
1cn2u1+dn2u=2x22k2x422k2x2=x2
を得る。あとは
cnu=1sn2u,dnu=1k2sn2u
からわかる。

 半数公式にu=Kを代入することで以下の特殊値がわかります。

snK2=11+kcnK2=k1+kdnK2=k
が成り立つ。特に
sniK2=ik,sn(K+iK2)=1k
が成り立つ。

参考文献

投稿日:20221027
OptHub AI Competition

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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  3. 微分方程式
  4. 加法定理
  5. 実関数への拡張
  6. 複素関数への拡張
  7. 零点と極
  8. おまけ:半数公式
  9. 参考文献