この記事は りぼーすさんの研究まとめの記事 を読んで$\Z[\phi]$でやったらどうなるんだろうなーというのを考えた記事となります。
合同式を$\Z[\phi]$において考えると
$$F_k=\frac1{\sqrt5}(\phi^k-(-\phi)^{-k})\equiv 0\pmod n$$
は$(-\phi^2)^k\equiv1\pmod n$と等価であり、これが成り立つとき
$$F_{k+1}=\frac1{\sqrt5}(\phi^{k+1}-(-\phi)^{-(k+1)})\equiv 1\pmod n$$
は
\begin{eqnarray*}
&&\sqrt5(-\phi)^{k+1}-((-\phi^2)^{k+1}-1)
\\&\equiv&\sqrt5(-\phi)\cdot\phi^{-k}+(1+\phi^2)
\\&=&\sqrt5\phi(1-\phi^{-k})
\\&\equiv&0&&\pmod n
\end{eqnarray*}
つまり$\phi^k\equiv1\pmod n$と等価となる。
この議論から以下の表示が得られます。
$(\Z[\phi]/n\Z[\phi])^\times$における$\phi,-\phi^2$の位数を$\ord\phi,\ord(-\phi^2)$とおくと
\begin{eqnarray}
l(n)&=&\ord(-\phi^2)
\\L(n)&=&\max\{l(n),\ord\phi\}
\end{eqnarray}
が成り立つ。
これを使っていくつかの命題を示してみます。
$\dis\frac{L(n)}{l(n)}=1,2,4$が成り立つ。
$$\phi^{4l(n)}=(-\phi^2)^{2l(n)}\equiv1\pmod n$$
より$\ord\phi\mid4l(n)$、また
$$(-\phi^2)^{2\ord\phi}=\phi^{4\ord\phi}\equiv1\pmod n$$
より$l(n)\mid2\ord\phi$なので
$$a=\frac{\ord\phi}{l(n)}$$
とおくと$2a$および$4/a$は自然数となるので
$$a=\frac12,1,2,4$$
を得る。
$\ord\phi=k,2k\quad$($k$は奇数)のとき$L(n)/l(n)=1$
$\ord\phi=4k\qquad$($k$は奇数)のとき$L(n)/l(n)=2,4$
$\ord\phi=8k\quad$($k$は自然数)のとき$L(n)/l(n)=2$
が成り立つ。特に
$L(n)/l(n)=4\iff l(n)$が奇数
が成り立つ。
$n=2$のときは$\ord\phi=l(2)=3$より$L(2)/l(2)=1$となるので、以下$n\neq2$とする。ちなみに
$\phi^{L(n)}\equiv(-\phi)^{L(n)}\equiv1\pmod n$
が成り立つので$n\neq2$においては$2\mid L(n)$が成り立ちます。
命題2の証明より
$$\frac{l(n)}{\ord\phi}=2,1,\frac12,\frac14$$
であることに注意する。
$$(-\phi^2)^{2k}=\phi^{4k}\equiv1\pmod n$$
および$n\neq2$より
$$(-\phi^2)^k=-\phi^{2k}\equiv-1\not\equiv1\pmod n$$
なので$l(n)=2k$を得る。
$$(-\phi^2)^{2k}=\phi^{4k}\equiv1\pmod n$$
より$l(n)=k,2k$を得る。
$$(-\phi^2)^{4k}=\phi^{8k}\equiv1\pmod n$$
および
$$(-\phi^2)^{2k}=\phi^{2k}\not\equiv1\pmod n$$
なので$l(n)=4k$を得る。
$\dis\l(\frac5p\r)=1\quad$のとき$(p)=\p_1\p_2$と分解され、
$\dis\l(\frac5p\r)=-1$のとき$(p)$は素イデアルとなる。
$\p\mid p$を素イデアルとし、$\phi,-\phi^2$の$(\Z[\phi]/\p)^\times$における位数を$\ord'\phi,\ord'(-\phi^2)$とおくと
\begin{eqnarray}
l(p)&=&\ord'(-\phi^2)
\\L(p)&=&\max\{l(p),\ord'\phi\}
\end{eqnarray}
が成り立つ。
$(p)=\p$の場合は命題1に一致するので$(p)=\p_1\p_2$と分解する場合を考えればよい。
冒頭での議論から
$(-\phi^2)^k\equiv1\pmod p$
と
$(-\phi^2)^k\equiv1\pmod{\p_1}$
が等価であることと、そのような$k$に対し
$\phi^k\equiv1\pmod p$
と
$\phi^k\equiv1\pmod{\p_1}$
が等価であることを示せばよい。
上$\Rightarrow$下は自明なのでその逆を示す。
仮定の式に共役写像$\phi\mapsto(-\phi)^{-1}$を作用させることで$\p_1$は$\p_2$に移るので
$(-(-\phi)^{-2})^k=(-\phi^2)^{-k}\equiv1\pmod{\p_2}$
つまり
$(-\phi^2)^k\equiv1\pmod{\p_2}$
が成り立つので$(p)=\p_1\p_2$より
$(-\phi^2)^k\equiv1\pmod p$
を得る。
これも仮定の式の共役を取ることで
$(-\phi)^{-k}\equiv1\pmod{\p_2}$
が成り立ち、これに$(-\phi^2)^k\equiv1$を掛けることで
$\phi^k\equiv1\pmod{\p_2}$
つまり
$\phi^k\equiv1\pmod p$
を得る。
$\ord\phi=4k\;$($k$は奇数)のとき$L(p)/l(p)=4$および$\dis\l(\frac{-1}p\r)=1$が成り立つ。
$l(p)=k$、つまり
$(-\phi^2)^k=-\phi^{2k}\equiv1\pmod p$
を示せばよい。
$(p)$が素イデアルであるときは$\Z[\phi]/p\Z[\phi]$は体、特に整域であることからわかる。
また$(p)=\p_1\p_2$と分解されるとき、整域性から
$\phi^{2k}\equiv\pm1\pmod{\p_1,\p_2}$
となるが、共役を考えることで
$\phi^{2k}\equiv\pm1\pmod{\p_1}\iff\phi^{2k}\equiv\pm1\pmod{\p_2}\quad(複号同順)$
が成り立つので$\mod p$を考えると
$\phi^{2k}\equiv-1\pmod p$
を得る。
またこのとき
$$(\phi^k+(-\phi)^{-k})^2=\phi^{2k}-2+\phi^{-2k}\equiv-4\pmod p$$
が成り立ち、$\phi^k+(-\phi)^{-k}$は整数であるので$-4$および$-1$は平方剰余となる。
$L(p)/l(p)=1$のとき$\dis\l(\frac5p\r)=1$が成り立つ。
命題3から$\ord\phi=k,2k\;$($k$は奇数)、特に
$\phi^{2k}\equiv1\pmod p$
となる。よって
$$F_k^2=\l(\frac{\phi^k-(-\phi)^{-k}}{\sqrt5}\r)^2\equiv\frac45\pmod p$$
が成り立ち、$F_k$は整数であるので$4/5$および$5$は平方剰余となる。
$L(p)/l(p)=2$のとき$\dis\l(\frac{-5}p\r)=1$が成り立つ。
$\ord\phi=8k$から命題6の証明と同様にして
$\phi^{4k}\equiv-1\pmod p$
が成り立つので命題7と同様にして
$F_{2k}^2\equiv-\frac45\pmod p$
がわかる。よって$-5$は平方剰余となる。
$p\equiv3\pmod4, p\equiv1,4\pmod5$のとき$L(p)/l(p)=1$
$p\equiv3\pmod4, p\equiv2,3\pmod5$のとき$L(p)/l(p)=2$
$p\equiv1\pmod4, p\equiv2,3\pmod5$のとき$L(p)/l(p)=4$
$p\equiv5\pmod8, p\equiv1,4\pmod5$のとき$L(p)/l(p)\neq2$
が成り立つ。
補題4から$(p)=p_1p_2$と分解でき$\ord'\phi\mid\#(\Z[\phi]/\p_1)^\times=p-1$が成り立つので$\ord\phi=k,2k\;$($k$は奇数)であり、命題3から$L(p)/l(p)=1$が成り立つ。
$\dis\l(\frac{-1}p\r)=\l(\frac5p\r)=-1$より命題6,7から$L(p)/l(p)=2$でなければならない。
$\dis\l(\frac5p\r)=\l(\frac{-5}p\r)=-1$より命題7,8から$L(p)/l(p)=4$でなければならない。
一つ目の場合と同様にして$\ord'\phi$は$8$で割り切れないことがわかるので命題3から$L(p)/l(p)\neq2$となる。
ここまではりぼーすさんの記事でも示されていた命題ですが、一つだけちょっとした命題を紹介しておきます。
$L(p)/l(p)=1$が成り立つことと$p$がリュカ数$L_n$のある奇数項$L_k$を割り切ることは同値である。
特にすべての奇数$k\mid(p-1)/2$に対して$p\nmid L_k$であるとき$L(p)/l(p)\neq1$が成り立つ。
$L(p)/l(p)=1$であればある奇数$k$があって
$\phi^{2k}\equiv1\pmod p$
が成り立つので、これに$\phi^{-k}$を掛けることで
$\phi^k+(-\phi)^{-k}=L_k\equiv0\pmod p$
つまり$p\mid L_k$であり、また$p\mid L_k$であるとき、
$L_k=\phi^k+(-\phi)^{-k}=\phi^{-k}(\phi^{2k}-1)\equiv0\pmod p$
が成り立つので$\ord\phi\mid 2k$。命題3からこれは$L(p)/l(p)=1$を意味する。
また$L(p)/l(p)=1$が成り立つとき$\l(\frac5p\r)=1$であったので$2k\mid\#(\Z[\phi]/\p_1)^\times=p-1$つまり$k\mid(p-1)/2$の範囲で$k$を見つけることができる。
リュカ数の奇数項とその素因数分解を挙げてみると次のようになります。
$k$ | $L_k$ | 素因数分解 | $p\equiv1\pmod4$ |
---|---|---|---|
$1$ | $1$ | $1$ | |
$3$ | $4$ | $2^2$ | |
$5$ | $11$ | $11$ | |
$7$ | $29$ | $29$ | $29$ |
$9$ | $76$ | $2^2\cdot19$ | |
$11$ | $199$ | $199$ | |
$13$ | $521$ | $521$ | $521$ |
$15$ | $1364$ | $2^2\cdot11\cdot31$ | |
$17$ | $3571$ | $3571$ | |
$19$ | $9349$ | $9349$ | $9349$ |
$21$ | $24476$ | $2^2\cdot29\cdot211$ | $29$ |
$23$ | $64079$ | $139\cdot461$ | $461$ |
$25$ | $167761$ | $11\cdot101\cdot151$ | $101$ |
この表から$p=41$はすべての奇数$k\mid20$つまり$k=5$に対し$41\nmid L_5$を満たすので$L(p)/l(p)\neq1$となる(実際$\ord\phi=40$より$L(p)/l(p)=2$となる)。
同様に$k=3,5,15$から$p=61$や$k=11$から$p=89$といった$L(p)/l(p)\neq1$の例があることがわかる(実際それぞれ$\ord\phi=60,44$より$L(p)/l(p)=4$となる)。
$p$ | $29$ | $41$ | $61$ | $89$ | $101$ |
---|---|---|---|---|---|
$L(p)/l(p)$ | $1$ | $2$ | $4$ | $4$ | $1$ |
りぼーすさんの記事では$p\equiv1,9\pmod{20}$の場合の$L(p)/l(p)$が不明となっていましたが、これを見るともうしっちゃかめっちゃかですね。