以前に書いた記事 「区間縮小法の原理で『2乗して2になる正の実数(√2)』の存在を確認する」 内で行っている$\lim_{n \to \infty}\frac{1}{2^n}=0$の証明についてTwitterでコメントをいただきました。
上記の記事内では、以下のステップで示しています。
① $1$以上の整数に対し、$n<2^n$が成立することを示す。
② アルキメデスの性質により、$\lim_{n \to \infty}\frac{1}{n}=0$を示す。
③ ①より、$\frac{1}{2^n}<\frac{1}{n}$が成り立つので、このことと②から$\lim_{n \to \infty}\frac{1}{2^n}=0$を示す。
この証明に対して「$\{\frac{1}{2^n}\}$が$\{\frac{1}{n}\}$の部分列であることと②を使えば、①を省略できる」という旨のご指摘いただきました。
上記事実は当たり前に感じる方も多いと思うのですが、せっかくなので「部分列の定義」に戻りつつ、$\lim_{n \to \infty}\frac{1}{2^n}=0$を証明していきたいと思います。
集合$N$を$1$以上の整数全体とし、写像$f:N\rightarrow N$は順序を保つ単射($m,n \in N$について、$m< n$ならば$f(m)< f(n)$を満たす)であるとする。このとき、数列$\{a_n\}$に対して、$b_n=a_{f(n)}$としたとき、数列$\{b_n\}$を$\{a_n\}$の部分列という。
※参考:内田伏一「集合と位相」p.143
今回のケースに当てはめてみましょう。写像$f:N\rightarrow N$を$f(n)=2^n$とすれば、$m,n \in N$について、$m< n$ならば$f(m)< f(n)$を満たします。$a_n=\frac{1}{n} \ (n=1,2,3,\cdots)$として数列$\{a_n\}$を定め、$b_n=a_{f(n)}$とすると、$b_n=a_{f(n)}=\frac{1}{f(n)}=\frac{1}{2^n}$となり、$\{\frac{1}{2^n}\}$が$\{\frac{1}{n}\}$の部分列であることが確認できました。
数列$\{b_n\}$は数列$\{a_n\}$の部分列であるとする。$\{a_n\}$が$\alpha$に収束するならば、$\{b_n\}$も$\alpha$に収束する。
この命題を証明する前に、今回のケースに当てはめてみましょう。$\{\frac{1}{n}\}$が$0$に収束することを示せれば、上記の命題により、$\{\frac{1}{n}\}$の部分列である$\{\frac{1}{2^n}\}$も$0$に収束することがわかります。
では、 趣味の大学数学「収束する点列の部分列が収束することの証明」 を参考にしながら、まずは以下の補題を示していきます。こちらのサイトでは、一般の距離空間を対象にしていますが、本記事では1次元ユークリッド空間のみを考えていきます。
集合$N$を$1$以上の整数全体とし、写像$f:N\rightarrow N$は順序を保つ単射($m,n \in N$について、$m< n$ならば$f(m)< f(n)$を満たす)であるとする。このとき、$M \in N$について$M \leqq f(M)$が成り立つ。
数学的帰納法で示す。
$f(1)$は$1$以上の整数であることから、$1 \leqq f(1)$が成立する。
$k \in N$について
$$
k \leqq f(k)
$$
が成立すると仮定する。両辺に$1$を加えると
$$
k+1 \leqq f(k)+1 \cdots (1)
$$
となる。
$f$は順序を保つ単射なので$f(k)< f(k+1)$が成り立つ。$f(k),f(k+1)$は$1$以上の整数なので
$$
f(k+1)-f(k) \geqq 1
$$
であり
$$
f(k+1) \geqq f(k)+1 \cdots (2)
$$
となることがわかる。
(1)(2)より
$$
k+1 \leqq f(k)+1 \leqq f(k+1)
$$
となり、$k+1 \leqq f(k+1)$が成り立つ。
以上より、すべての$M \in N$について$M \leqq f(M)$が成り立つことが示された。
この補題を使いながら、命題1を証明していきます。
$\{a_n\}$が$\alpha$に収束するので、任意の正の実数$\epsilon$に対し、ある$1$以上の整数$n_\epsilon$が存在して、$n>n_\epsilon$ならば
$$
|a_n-\alpha|<\epsilon \cdots (1)
$$
を満たす。
$\{b_n\}$は$\{a_n\}$の部分列なので、ある順序を保つ単射$f:N\rightarrow N$(集合$N$は$1$以上の整数全体)が存在して、$b_n=a_{f(n)}$とかける。
ここで、補題より
$$
n_{\epsilon} \leqq f(n_{\epsilon}) \cdots (2)
$$
である。
また、$f$は順序を保つ単射なので、$n \in N$について
$$
n_{\epsilon}< n \Longrightarrow f(n_{\epsilon})< f(n) \cdots (3)
$$
が成り立つ。
(2)(3)より、$n_{\epsilon}< n$ならば
$$
n_{\epsilon} \leqq f(n_{\epsilon}) < f(n)
$$
となるので
$$
n_{\epsilon} < f(n)
$$
であることがわかる。
したがって、(1)より、$n_{\epsilon}< n$ならば
$$
|a_{f(n)}-\alpha|<\epsilon
$$
を満たす。
以上より、$b_n=a_{f(n)}$であることから、任意の正の実数$\epsilon$に対し、ある$1$以上の整数$n_\epsilon$が存在して、$n>n_\epsilon$ならば
$$
|b_n-\alpha|<\epsilon
$$
を満たすことがわかる。
$$ \lim_{n \to \infty}\frac{1}{2^n}=0 $$
$\epsilon$を任意の正の実数とする。
アルキメデスの性質より、ある$1$以上の整数$n_\epsilon$が存在して
$$
(0<)\frac{1}{\epsilon}< n_{\epsilon}
$$
を満たす。
よって、$n>n_\epsilon$を満たす、$1$以上の整数$n$について
$$
\frac{1}{\epsilon} < n
$$
が成り立つ。
したがって
$$
\frac{1}{n} <\epsilon
$$
となる。
よって、任意の正の実数$\epsilon$に対し、ある$1$以上の整数$n_\epsilon$が存在して、$n>n_\epsilon$ならば
$$
|\frac{1}{n}| < \epsilon
$$
を満たす。
ゆえに、$\{\frac{1}{n}\}$は$0$に収束する。
$\{\frac{1}{2^n}\}$が$\{\frac{1}{n}\}$の部分列であることと、命題1から、$\{\frac{1}{2^n}\}$も$0$に収束することがわかる。
$f(n)=2^n$とすると、補題は「$M \in N$について$M \leqq 2^M$が成り立つ」と主張しているので、本記事の証明では、元の記事における証明ステップ「①$1$以上の整数に対し、$n<2^n$が成立することを示す」を実質的には省略できていなそうだな、と思いました。もっとシンプルな良いアプローチがあるのかもしれません。
また、本記事の内容は「自明」で終わらせて良いことなのかもしれませんが、自分の理解のためにも長々と書いてみました。以前に書いた記事 「区間縮小法の原理で『2乗して2になる正の実数(√2)』の存在を確認する」 と同様、「この仮定、使っていいのかな…?」などと思いつつ恐る恐る証明しました。なにかやばそうであれば、ぜひコメントくださいませ(理解できる力量については自信がないですが…)。自然数や実数と仲良くなりたい!