こんにちは、
K.Hirata
です。
これは
の第1日目の記事として書かれました。
本記事では、前加法圏と加法的関手全体の圏$\AbCat$から$\Cat$への忘却関手$U\colon\AbCat\rightarrow\Cat$について基本的なことを調べます。
前半は前加法圏の話、後半は加法圏に限定する話になっています。
圏論の基本的な概念を知っていれば、大体話の流れは分かる様にしたつもりですが、難しかったらすみません。
全体的に証明は何かを見ながらであれば埋めれる程度に雑に書いてあります。
前加法圏・加法圏の定義、モナド(monad)、代数の圏(Eilenberg-Moore 圏)、Beck の monadicity 定理あたりを知っていれば読めるかと思います。Beck の定理は最後だけ使います。
以下細かい Fact です。(この辺りを知っている人は問題なく読めるかと思います。)
圏 $\cat{C}$ に対して、その $\Ab$-豊穣化は存在しないかもしれないし、存在しても一意的とも限らない。
$U\colon\AbCat\rightarrow\Cat$で言い換えると、$U$は本質的全射ではなく、前加法圏$\cat{C}$,$\cat{D}$について圏同型$G\colon U\cat{C}\rightarrow U\cat{D}$があっても、$G$は何らかの$F\colon\cat{C}\rightarrow\cat{D}$で$G = UF$と書けるとは限らない。
すなわち、前加法圏であるということは、圏の性質というより、むしろ構造とみるべきである。
特にモノイド$M$に対して、それを乗法モノイドにもつ環構造の個数が 0 のもの、2 以上のものを挙げれば良い。
まず、元の数が 3 の環は全て$\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$に同型であるが、モノイド$(\{0,1,2\}, \max, 0)$は$\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$の乗法モノイドに同型でない。
次に、$p,q$を素数として、全単射$\sigma_{p,q}\colon\mathbb{Z}\rightarrow\mathbb{Z}$を、$x\in\mathbb{Z}$を素因数分解して$x=p^nq^m{r_1}^{k_1}\cdots{r_t}^{k_t}$となるとき、$x$を$\sigma_{p,q}(x)=p^mq^n{r_1}^{k_1}\cdots{r_t}^{k_t}$へ送る写像とする。0 は 0 へ送るものとする。この全単射で、値域の$\mathbb{Z}$の通常の環構造が定義域の$\mathbb{Z}$に通常でない環構造$(\mathbb{Z},\dot{+},\dot{\times})$を誘導する。ところでこの乗法$\dot{\times}$は通常の乗法$\times$と一致する。
$\Cat$上のある monad$T\colon\Cat\rightarrow\Cat$があって、その Eilenberg-Moore 圏が$\AbCat$になっている。
\begin{xy}\xymatrix@=70pt{
{\AbCat}
\ar@<-1.5ex>[r]_{U_1}
\ar@{}[r]|{\bot}
&
{\Cat}
\ar@/_/@<-0.5ex>[l]_{F_1}
}\end{xy}
$\cat{C}\in\Cat$に対して、$T\cat{C}$を、$\mathrm{ob}(T\cat{C}) = \mathrm{ob}(\cat{C})$ とし、$\mathrm{Hom}_{T\cat{C}}(A,B) = \mathbb{Z}^{\oplus \mathrm{Hom}_{\cat{C}}(A,B)}$ で定める。
つまり、$T\cat{C}$の射とは、$\cat{C}$の射の$\mathbb{Z}$係数の線型結合$\sum a_i\cdot\underline{f_i}$のことになる。
合成は自然に$\cat{C}$から誘導されるものにする。
すると、この$T$は自然に関手$\Cat\rightarrow\Cat$へ拡張できる。
さらに、unit $\eta_\cat{C}\colon \cat{C}\rightarrow T\cat{C}$を、対象に関しては identity で射$f$を$1\cdot \underline{f}$へ送る関手で定め、
multiplication $\mu_\cat{C}\colon T^2\cat{C}\rightarrow T\cat{C}$ を、線型結合の線型結合を展開して、一つの線型結合にまとめる関手で定めれば、$T$はmonadになる。
この monad$T$の代数とは、$\alpha\colon T\cat{C}\rightarrow\cat{C}$であって、
\begin{xy}
\xymatrix {
\cat{C}\ar[dr]_{\text{id}}\ar[r]^{\eta}&
T\cat{C}\ar[d]^{\alpha}\\
&
\cat{C}
}
\end{xy}
と
\begin{xy}\xymatrix {
T^2\cat{C}\ar[d]_\mu\ar[r]^{T\alpha}&
T\cat{C}\ar[d]^{\alpha}\\
T\cat{C}\ar[r]^{\alpha}&
\cat{C}
}
\end{xy}
をみたすもの。$\alpha$は射の形式的な線型結合を計算する関手と思うことで、これは前加法圏と一致する。
具体的には、零射を$\alpha(0)$、$f,g\in\C$に対して$f + g = \alpha(1\cdot\underline{f}+1\cdot\underline{g})$と定める。
可換図式の 1 つ目が単位律を、
$$f + 0 = \alpha(1\cdot\underline{f} + 0) = \alpha(1\cdot\underline{f}) = f$$
2 つ目が結合律を表す。
代数の間の射も、加法と交換する関手なので、すなわち加法的関手である。
例えば、$U$が conservative ($UF$が同型なら$F$も同型)であることが従う。すなわち、加法的関手$F$が、圏の間の関手として同型なら、逆関手も加法的であることなどはこの定理からすぐわかる。
(もっと分かることがたくさんあるが省略)
今度は加法圏に限定して議論する。
$\cat{C}$に入る加法圏の構造は存在するなら一意的である。
すなわち、加法圏は圏の性質とみれる。
圏$\cat{C}$が零対象と任意の biproduct $A\oplus B$を持つとき、$f,g\colon A\rightarrow B$ に対して、
\begin{xy}\xymatrix {
{A}
\ar[d]_{\Delta}
\ar@{.>}[r]^{f + g}&
{B}\\
{A\oplus A}
\ar[r]^{f\oplus g}&
{B\oplus B}
\ar[u]_{\varepsilon}
}\end{xy}
で $f+g$ が定義でき、$0\colon A\rightarrow B$は零対象$\emptyset$を経由する射とすることで、$\mathrm{Hom}_{\cat{C}}(A,B)$は可換モノイドになる。
さらにこの可換モノイド構造は、合成に関して双線型になり、これが$\cat{C}$を可換モノイドの圏$\mathbf{CMon}$での豊穣圏にする。
実はこれが唯一の$\cat{C}$を$\mathbf{CMon}$-豊穣圏にする構造であり、より強くこの加法が$\mathrm{Hom}_{\cat{C}}(A,B)$を群になることが、$\cat{C}$を加法圏とすることと同値になる。
加法圏からなる$\AbCat$の充満部分圏$\AddCat$は、reflective full subcategory である。
\begin{xy}\xymatrix@=70pt{
{\AddCat}
\ar@{^{(}->}@<-1.5ex>[r]_{U_0}
\ar@{}[r]|{\bot}
&
{\AbCat}
\ar@/_/@<-0.5ex>[l]_{F_0}
}\end{xy}
前加法圏$\cat{C}$に対して、前層圏$[\cat{C}^{\mathrm{op}}, \Ab]$のうち、表現可能関手の有限直和で表せるものたちを$\overline{\cat{C}}$で表す。$\cat{C}$を$\overline{\cat{C}}$へ送る関手で、reflection$F_0\colon\AbCat\rightarrow\AddCat$が定まる。
ちなみにこれは環に対して、有限生成自由加群と準同型たちの圏を取る操作の一般化になっている。
加法圏からなる$\AbCat$の充満部分圏$\AddCat$は、$\Cat$上 monadic である。
既に 2 つの monadic な関手 $U_0$ と $U_1$ を得ている。
\begin{xy}\xymatrix@=70pt{
{\AddCat}
\ar@{^{(}->}@<-1.5ex>[r]_{U_0}
\ar@{}[r]|{\bot}
&
{\AbCat}
\ar@/_/@<-0.5ex>[l]_{F_0}
\ar@<-1.5ex>[r]_{U_1}
\ar@{}[r]|{\bot}
&
{\Cat}
\ar@/_/@<-0.5ex>[l]_{F_1}
}\end{xy}
これらの合成 $U_1U_0$も monadic であることが分かればいい。
そのためには、Beck の定理から$U_1U_0$が$U_1U_0$-split pair の coequalizer を create することが必要十分である。
$\cat{A}$,$\cat{B}$を加法圏とし、$F,G\colon\A\rightarrow\B$を加法的関手とする。次の図式
\begin{xy}\xymatrix@=70pt{
{\A}
\ar@<1ex>[r]^{F}
\ar@<-1ex>[r]_{G}
&
{\B}
\ar[r]^{H}
&
{\C}
}\end{xy}
が$\Cat$におけるsplit-coequalizerになっていると仮定する。特に$H$は対象に関して全射である。
すると、$U_1$が monadic であったから、$\C$は前加法圏の構造を持ち、この図式は$\AbCat$における coequailzer の図式にもなっている。
もし、この$\C$が加法圏であることが示せれば、これは$\AddCat$における coequalizer にもなるので、証明が完了する。
$\C$の任意の対象を2つ$C$,$C'$をとる。$H$は対象に関して全射であるから、それぞれある$B$,$B'$があって、
$$C\iso HB,\quad C'\iso HB'$$
となる。今$H$は加法的関手だから、$H(B\oplus B')\iso HB\oplus HB' \iso C\oplus C'$が$C$と$C'$の直和になる。
よって$\C$は加法圏。
実はこの記事には誤った主張が含まれています。
それについては、
25日目
の記事をご覧ください。