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優しい解説を心掛けるリーマン幾何学~1. ベクトルとテンソル 1.3 テンソル(1)~

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 前回の記事: 優しい解説を心掛けるリーマン幾何学~1. ベクトルとテンソル 1.2 双対ベクトル空間(2)~
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 テンソルの解説です。代数学の環論においてテンソル積空間の構成から理解しておくのが一番どの文脈でも適用出来て汎用性が高いと思いますが、その方法は少し道が長くなるので、差し当たって多様体論の基本的内容を理解するために最小限の導入にします。

テンソル

 $n$次元ベクトル空間を$V$、その双対空間を$V^\ast$とします。$V^\ast$の元は線形写像$V\to\mathbb{R}$であり、また$V$の元も$V^\ast\to\mathbb{R}$と見なせました。これらはベクトルまたはコベクトルを1つ引数に取る線形関数であり、これを一般化すれば複数のベクトルやコベクトルを引数に取る線形関数を考えることができそうです。
 例えば、$V$の基底を$\{e_i\}$とし、$v=\sum_iv^ie_i,\ w=\sum_jw^je_j$とするとき、$n\times n$の行列$A$を使って、$v,w$に対して、
$$ {}^tvAw= \begin{pmatrix} v^1 & \cdots & v^n \end{pmatrix} \begin{pmatrix} a_{11} & \cdots & a_{1n} \\ \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{n1} & \cdots & a_{nn} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} w^1 \\ \vdots \\ w^n \end{pmatrix} =\sum_{i,j}v^iw^ja_{ij} $$
という量を対応させることで2つのベクトルを引数に持つ関数が得られます。この関数を$f(v,w):={}^tvAw$と書くと、
$$ f(av_1+bv_2,w)={}^t(av_1+bv_2)Aw=a{}^tv_1Aw+b{}^tv_2Aw=af(v_1,w)+bf(v_2,w) $$
となり、1つ目の引数に対して線形です。また同様に2つ目の引数に対しても線形です。このように各引数に対する線形性を多重線形性といいます。
 これを一般化してテンソルを定義します。

テンソル

多重線形写像
$$ T:\overbrace{V^\ast\times\cdots\times V^\ast}^{r\ 個}\times\overbrace{V\times\cdots\times V}^{s\ 個}\to\mathbb{R} $$
$(r,s)$型テンソルという。$r+s$をテンソル$T$の階数(ランク)という。$(r,s)$型テンソルの集合を$T^{(r,s)}$と書く。

 $n\times n$の行列は$(2,0)$型、$(1,1)$型、$(0,2)$型テンソルなどと見なすことができます(また後で触れますが、2階のテンソルのある基底に関する表現は行列となります)。

テンソル空間

 $T^{(r,s)}$には和とスカラー倍が以下のように定義されます。ここでは$T^{(1,2)}$を例にとっていますが、一般の$T^{(r,s)}$に対しても同じです。
$$ \begin{align} T,S\in T^{(1,2)},\ &v_1\in V,\ \eta_1,\eta_2\in V^\ast\\ (T+S)(v_1,\eta_1,\eta_2)&:=T(v_1,\eta_1,\eta_2)+S(v_1,\eta_1,\eta_2)\\ (\alpha T)(v_1,\eta_1,\eta_2)&:=\alpha T(v_1,\eta_1,\eta_2)\\ \end{align} $$
 これにより$T^{(r,s)}$は明らかに実ベクトル空間となります。$T^{(r,s)}$をベクトル空間とみなしたものをテンソル空間と呼びます。

 次にテンソル空間の基底を構成します。$V$の基底を$\{e_i\}$$V^\ast$の双対基底を$\{f^i\}$とします。$T^{(1,2)}$の元$e_i\otimes f^j\otimes f^k$
$$ e_i\otimes f^j\otimes f^k(f^\ell,e_m,e_n):=\delta^\ell_i\delta^j_m\delta^k_n $$
として、各引数に対して多重線形に拡張して定義します。
さらに$T\in T^{(1,2)}$に対して、
$$ T^i_{jk}:=T(f^i,e_j,e_k) $$
$T$の基底$\{e_i\},\{f^i\}$に関する成分と呼びます。このとき任意の$T\in T^{(1,2)}$
$$ T=\sum_{i,j,k}T^i_{jk}e_i\otimes f^j\otimes f^k $$
と表されるので、集合$\{e_i\otimes f^j\otimes f^k\}$$T^{(1,2)}$において完全性を満たします。また独立性も$\{e_i\}$$\{f^i\}$の独立性を繰り返し使うことで成り立つことが分かります。よってこの集合がテンソル空間$T^{(1,2)}$の基底となります。

 次回はテンソルの同値、存在、成分の変換性、縮約について述べます。

投稿日:20221218
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Submersion
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専門は相対論やLorentz幾何です。Einstein系の厳密解の構成や接触幾何の応用などの研究をしています。Ph.D保有者の中ではクソ雑魚の部類です。

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