2019ISL-A5を とりあさん とも じゅんにーさん とも違う解法で解けたので紹介します. 1年越しの便乗です.
$x_1, \cdots, x_n$は相異なる実数である.
$$\sum_{1\le i\le n}\prod_{j\neq i}\frac{1-x_i x_j}{x_i-x_j}=\left\{
\begin{array}{ll}
0 & (n : \text{even})\\
1 & (n : \text{odd})
\end{array}
\right.$$
を証明せよ.
与式を $F(x)$ とおきます($x\in\mathbb{R}^n$). まず分数式は扱いづらいので$F(x)\dprod_{1\le i< j\le n}(x_j-x_i)$を考えて多項式の議論に持ち込みます.
これを実際書いてみると, ほとんどの項のほとんどの因数が$(x_i-x_j)$の形で, かつ$n$項であることと対称性から, ある$n\times n$行列の余因子展開+ヴァンデルモンドの行列式の雰囲気を感じました. 行列の形にすると基本変形や余因子展開など使える武器が増えるので, 少し強引に書き下します.
完成したものがこちらです! 中身の行列を$A$とおくことにします.
$F(x)\dprod_{1\le i< j\le n}(x_j-x_i)= \begin{vmatrix} \dprod_{j\neq 1}(1-x_1x_j) & \dprod_{j\neq 2}(1-x_2x_j) & \cdots & \dprod_{j\neq n}(1-x_nx_j)\\ x_1^{n-2} & x_2^{n-2} & \cdots & x_n^{n-2} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ 1 & 1 & \cdots & 1 \end{vmatrix} $
第一行で余因子展開するとしっかり成立していることが分かると思います.
ここで, 因数定理を使ったヴァンデルモンドの行列式の証明のアナロジーで, $x_1$の多項式として見て$x_2$に$x_1$を代入したりしたくなります. 代入します.
$\begin{vmatrix} (1-x_1^2)\dprod_{j\ge3}(1-x_1x_j) & (1-x_1^2)\dprod_{j\ge3}(1-x_1x_j) & \cdots & \dprod_{j\neq n}(1-x_nx_j)\\ x_1^{n-2} & x_1^{n-2} & \cdots & x_n^{n-2} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ 1 & 1 & \cdots & 1 \end{vmatrix} =0 $
なんと一列目と二列目が一致して綺麗に$0$になりました! 対称性から他も同様に考えられるので$|A|$は$\dprod_{1\le i< j\le n}(x_j-x_i)$を因数に持つことが分かります. 再びヴァンデルモンドの証明を思い出すと, 次数を確認して$F(x)=|A|\div\dprod_{1\le i< j\le n}(x_j-x_i)$が定数であることを言いたくなります.
$x_1$の次数を考えます. 今度は第一列で余因子展開すると$n-1$次以下であることが分かります. 他の変数も同様です. $\dprod_{1\le i< j\le n}(x_j-x_i)$はどの変数の次数も$n-1$次なので定数であることが分かりました.
さて, あとはこの定数を求めればよいのですが, 各$x_i$に相異なり, かつ計算しやすそうなものを入れるとなると, $\zeta$を$1$の原始$n$乗根として$x_i=\zeta^{i}$を代入したくなります(問題では実数と書いてあるが, 多項式の議論なので複素数でも問題ない(四元数まで広げると非可換なので面倒くさいが)).
面倒そうなのは第一行についてです. ここの挙動を少し実験してみましょう.
左から順に
$(1-\zeta^3)(1-\zeta^4)=0$
$(1-\zeta^3)(1-\zeta^5)=0$
$(1-\zeta^4)(1-\zeta^5)=(1-\zeta)(1-\zeta^2)$
左から順に
$(1-\zeta^4)(1-\zeta^5)(1-\zeta^6)=0$
$(1-\zeta^3)(1-\zeta^5)(1-\zeta^6)=(1-\zeta)(1-\zeta^2)(1-\zeta^3)$
$(1-\zeta^4)(1-\zeta^5)(1-\zeta^7)=0$
$(1-\zeta^5)(1-\zeta^6)(1-\zeta^7)=(1-\zeta)(1-\zeta^2)(1-\zeta^3)$
この実験から,
であると予想できます. この予想が正しいことは実際簡単に確認できます.
さて, $n$が奇数のときは第一行での余因子展開→ヴァンデルモンドで
$\begin{vmatrix}
0 & 0 & \cdots & \dprod_{1\le j\le n-1}(\zeta^n-\zeta^j)\\
\zeta^{n-2} & \zeta^{2(n-2)} & \cdots & \zeta^{n(n-2)} \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
1 & 1 & \cdots & 1
\end{vmatrix}
=\dprod_{1\le i< j\le n}(\zeta^j-\zeta^i)
$
であり,
$n$が偶数のときは同様に第一行での余因子展開→ヴァンデルモンドで頑張って計算すると$0$になります(これ以上行列式書くの疲れたんです!!)
もう少し詳しく書くと$\zeta^n-\zeta^i$が$\zeta^{n/2}-\zeta^{n/2+i}$の$-1$倍になることを使って頑張って共通因数をくくりだすと綺麗に消えます.
これを$\dprod_{1\le i< j\le n}(\zeta^j-\zeta^i)(\neq0)$で割ることで定数が求まり, 証明が完了しました.
追記:偶数のときは$1$の原始$n+1$乗根の$i$乗を代入すると一瞬で出ました.
感想
行列式は強い