はじめに
この記事ではフェルマーの二平方定理
「自然数がある整数を用いてと表せることとの非平方因子が型の素因数を持たないことは同値である」
またはヤコビの二平方定理
「とおくとが成り立つ」
を一般化した問題
整数と自然数に対してを満たすような整数はいくつ存在するか
のいくつか特別な場合について解説していきます。
これにあたって
二次形式についての記事
の内容や用語をよく使うので予め目を通しておくことを推奨します。
二次形式の自己同型
以下では二次形式が正定値、つまりの場合を考えていきます。
二次形式がと同値でなければを変えないような変換(自己同型)は
のつに限る。
この補題は特に証明しませんが、これは虚二次体に含まれるの累乗根が
・のときのつ
・のときのつ
・のときのつ
であることに起因しています。
この補題(および)から判別式の原始的な二次形式の自己同型の個数をとおくと
となることがわかります。
properな表現
自然数が二次形式によってproperに表現可能であるとはある互いに素な整数があって
が成り立つことを言う。またそのようなをのproperな表現と言う。
のproperな表現に対し整数であってある変換
によって
が成り立つようなものがただ一つ存在する。
仮定よりは互いに素なので
の整数解は(は任意の整数)によって尽くされ、これに対して変換
を考えると、ある整数があって
が成り立つ。
いまより
が成り立つので
となるようなおよびが一意に存在することがわかる。
いまの判別式から
が成り立つので、逆に
なるに対してをによって定めた二次形式を考えます。
によるのproperな表現の個数は
(の自己同型の個数)(がと同値となるようなの個数)
となる。
定理3による対応の挙動を考える。
について
とが同値となるようなに対し、その変換を
とおくとproperな表現が得られる。またこの変換の取り方はの自己同型の個数だけあるので同じだけのが得られることになる(恒等でない自己同型はを固有値に持たないのでそれぞれが違う表現を定めることもわかる)。
について
のproperな表現が同じを定めるとき、
とおくとなのでとは自己同型の関係にあり、したがっても自己同型の関係にあることがわかる。
平方剰余と表現の個数
上では合同方程式
によってのproperな表現の個数が計算できることを示しました。
ではまず
はいくつの解を持つのかを考えていきましょう。
ただし以下ではとは互いに素である場合を考えていきます。
整数に対してクロネッカー記号を次のように定める。
・奇素数に対してはをルジャンドル記号とする。
・のときはとする。
・と素因数分解されるときはとする。
このときクロネッカー記号は完全乗法的な関数となる。つまり任意のに対し
が成り立つ。
判別式と互いに素な自然数に対し合同方程式
のなる解の個数は
となる。ただしはの正の約数であって平方因子を持たないようなもの全体を渡るものとした。
特に合同方程式に解が存在するためにはが成り立たなければならない。
合同方程式
のを法とした解の個数がとなることを示せばよい。
の構造
とかルジャンドル記号の定義とかHenselの補題とかに注意する。
のとき
の素因数分解における素数の指数をとおくと合同式方程式
の解の個数は
・のとき個
・(が奇数)のとき個
・(が偶数)のとき個
となるので中国剰余定理から
の解の個数は
と求まる。またなる解となる解の個数は同じであることから主張を得る。
のとき
仮定よりは奇数となることに注意する。
の素因数分解における素数の指数をとおくと
の解はのつ、
の解は個なので
と求まる。
はと互いに素な自然数とする。このとき判別式の類群の完全代表系をとおくとの表現の個数は
となる。特にがある表現を持つならばが成り立たなければならない。
合同方程式
のなる解に対しよりは互いに素、特には原始的となるのでこれはあると同値となる。よって定理5から各に対しのproperな表現が個得られる。また定理6よりの取り方は
通りであるのでのproperな表現の個数は
となる。
いまの表現とのproperな表現は一対一に対応するのでの表現の総数は
と計算できる。
また
であったことから主張を得る。
がある虚二次体の判別式であるとき、つまりある無平方な整数が存在して
と表せるとき、がと互いに素でないときもなる表現の個数は
となる。
そのような個数をとおく。
いまの素因数に対し
・であればの解は
・のときの個
・のときの個
・が奇素数であればの解はの個
が成り立つので、が平方因子を持たなければ合同方程式
のなる解は個となり、したがって上と同様にしてがわかる。
またの素因数に対し
・であればの解は
・のとき個
・のとき個
・が奇素数であればの解は個
となるのでが成り立つ。特に
が成り立つことに注意すると主張を得る。
特にのときとおくとによるの表現の個数は
となります。
例えばの場合を考えることで奇数に対し
とヤコビの二平方定理が得られることがわかります(からが偶数の場合もわかる)。
ちなみにが素数の場合には次にようなことが言えます。
素数がを満たすとき、自己同型を除いて丁度通りの表現が存在する。
指標と表現可能性
以下簡単のため、フェルマーの二平方定理の素朴な一般化を含む場合、つまりの場合のみを考えます。
指標
判別式の二次形式に対しとおくと、の素因数に対しがと互いに素ならばはに依らず同じ値を取る。また
・のとき
・のとき
・のとき
についても同じことが言える。
二次形式の記事
の定理4よりに対してあるが存在して
が成り立つ。
いまはと互いに素とするとの素因数に対し
が成り立つので
つまり
を得る。
ここでが不変であるためにはが、特にと互いに素であれば十分であることを留意しておきましょう。
以下奇数に対し
が成り立つことに注意しての剰余に応じて
となることを示す。
- のとき
はと互いに素、特に奇数であったのでの一方は奇数でもう一方は偶数となる。よって
を得る。 - のとき
同様には奇数であったのでも奇数であり、の偶奇によって
を得る。 - のとき
同様にの偶奇によって
を得る。 - のとき
は奇数なので
を得る。
いまに対して定まる不変量やのことを指標と呼びます。
の素因数からなる指標の個数を、も含めた指標の個数をとおくと
となり、
二次形式の記事
の命題10において登場したと一致することがわかります。
二次形式の取り方によって指標の値は様々に変わりますが、指標の値によって二次形式が定まるわけではありません。たとえばのとき
とする二次形式はとの二つ存在します。
このように指標の値(あるいは以下で定めるのによる剰余類)によって定まるの部分集合を種(genus)と言います。例えばの場合は
が定めるつの種とが存在します。
表現の剰余
判別式の原始的二次形式が表現し得る整数全体のにおける像は
となりが成り立つ。
また主形式が表現し得る整数全体の像はの部分群をなし、原始的二次形式が表現し得る整数全体の像はのによる剰余類として表される。
定理より二次形式の像がに含まれることがわかるので、あとは任意のに対してあるがある表現を持つことを示せばよい。それはディリクレの算術級数定理よりなる素数が存在することと定理5系よりわかる。
また準同型
に対して準同型定理を考えることでがわかる。
がの部分群をなすことはとが成り立つ(cf.
二次形式の記事
の定理4)ことからわかる(の元は有限位数なので積について閉じていることが言えれば逆元の存在もわかる)。
そして
二次形式の記事
の補題5,6からと互いに素なある整数を取ってとおくと
つまりがわかる。
逆にならばあるが存在して
が成り立つのでとおくと
となることがわかる。
に対しその指標の値の組を返す準同型
を考えるとは同型
を誘導する。特にが成り立つ。
の各元に対し中国剰余定理からあるを構成することでは全射であることがわかる。したがって準同型定理より
が成り立つ。
またより定理6からがわかる。
いまについて、の素因数分解におけるの指数をとおくとよりある整数が存在して
が成り立つ。また定理6におけるの不変性の証明を逆に辿り、また必要に応じてHenselすることでのときもある整数があって
が成り立つことがわかる。
したがって中国剰余定理よりあるが存在して
が成り立つ、つまりが成り立つのでとなり主張を得る。
オイラーの便利数
いま任意のに対しなのでとなります。したがってと合わせてが成り立つことがわかります(この同型は指標を任意に一つ減らしたに飛ばせるらしいです)。
そしての元に対しの剰余類を対応させる全射準同型写像
を考えるとから
つまり全射
が構成でき、全射準同型を考えることで
二次形式の記事
の命題10から
が成り立つので同型
が成り立つことがわかります。すなわちの各元のことを種と呼んでいたわけです。
このことから指標の値によって定まる種に含まれる二次形式(の同値類)の個数は個ということになります。特に指標の値によって二次形式を完全に区別するためにはが必要十分であり、つまり以下の主張が成り立ちます。
となるようなのことをオイラーの便利数という。
そのようなに対して指標の値、あるいはにおける値によって二次形式は完全に区別できる。
いま定理5より判別式の二次形式による整数の表現の個数は
であることまではわかっていましたが、どのが何個の表現を持つかまではわかりませんでした。
しかしが便利数であるときはのによる剰余によってを表現するような二次形式はただひとつしか存在しないことになります。例えばは便利数であることが知られていますが、が判別式の二次形式によって表現可能であるとき
が成り立つことがわかります。
ちなみに残念ながら便利数は無数には存在せず、高々個しか存在しません。実際おまけとして紹介するように個の便利数が発見されており、個目の便利数が存在するかどうかは未解決問題らしいです。
表現の個数
前節での議論から以下の主張が成り立つことがわかります。
をで割り切れない便利数とする。がと互いに素であるとき
となるような整数の個数は
となる。ただしはの正の約数であって平方因子を持たないもの全体を渡るものとした。
がで割り切れないとき指標の個数は高々個であり、指標は一つ無視しても種は上手く定まるということだったので個の指標の値によってがどの二次形式によって表現されるかが決定できる。特にによって表現されるためにはであることが必要十分であったので
に注意すると定理5より主張を得る。
さらに便利数が平方因子を持たないときはがと互いに素でない場合も表現の個数を数え上げることができます。
便利数が平方因子を持たずを満たすとき、
となるような整数の個数は
となる。ただし符号はとなるように取るものとした。
そのような個数をとおく。
いま仮定よりは虚二次体の判別式となるので定理5系からの判別式の二次形式による表現の個数は
となる。またの素因数に対しが成り立つことにも注意する。
そして定理6の証明において言及したようにがと互いに素であれば指標は不変なのでが偶数のときもがどの二次形式で表現されるかはの値によって決まることに注意する。
いまのどの素因数に対してもがで割り切れない場合を考える。
このときとおくと
であればはで割り切れなければならないのでとおくと
が成り立つ。
は無平方なのでとは互いに素であり、はと互いに素であるのでの定める指標の値は
となることがわかる。したがってのによる表現の個数は定理10と同様にして
と表せる。ただしとした。
これをクロネッカー記号の相互法則(後述)に注意して変形すると
つまり
が成り立ち、を再びとおくとのとき
が成り立つことと合わせて
を得る。
またの素因数に対してかつのとき
・のとき
・かつのとき
・かつのとき
が成り立つので上の式はにおいて不変であり、一般のに対して
を得る。
クロネッカー記号の相互法則
互いに素な整数に対し(は奇数)とおくと
が成り立つ。
奇数に対して
が成り立つことに注意すると求める式の両辺はについて完全乗法的である。したがってが素数またはの場合を確かめればよい。
この記事ではクロネッカー記号をの場合は定義していないのでということにする。
・またはのときは自明
・またはのとき
よりわかる。
・が奇素数のときは平方剰余の相互法則である。
おまけ:オイラーの便利数の分類
便利数は有限個しか存在しないということだったので、定理11が適用できるは完全に列挙することができます。というわけでここでは個の便利数をそのによる剰余や素因数分解によって分類していきます。
・
・
・
・
・
・