本記事では,始点で終点の正方格子路のうち直線より上を動くものの数が積公式を持つことを全単射的に示す.
Dyck路とカタラン数の復習
ベクトルとベクトルをそれぞれ「東向きステップ」「北向きステップ」と呼ぶ.
パスとは,上の点の有限列
で,を満たすものである.
補足
パスとは点から点まで,上か右にづつ進みながら行くときの最短経路のことだと言っても同じである.
パスに対して,点をの始点といい,点をの終点という.
パスの全ての点が,領域に含まれるとき,パスは直線より下に行かないという.
数え上げ組合せ論では以下の定理は基本的である.
Dyck路の数え上げ=カタラン数
非負整数に対し,点を始点として点を終点とする,直線より下に行かないパスは
個存在する.
証明は例えば[3]を参照せよ.
このようなパスはDyck路と呼ばれ,数はカタラン数と呼ばれる.
-Dyck路と-カタラン数の復習
前節では終点がであるパスを考えたが,終点をにし,直線をにしても似たようなことが言える.
-Dyck路の数え上げ=カタラン数
を非負整数とし,を正の整数とする.
点を始点として点を終点とするパスで,直線より下に行かないものは
個存在する.
この定理の証明は[1]や[2]を参照せよ.
このようなパスは-Dyck路と呼ばれていて,数は-カタラン数と呼ばれている.
始点をずらした-Dyck路の数え上げ
次に,パスの始点を以外の点にすることを考える.ここでは西に始点をずらし,を始点にしてを終点とするパスを考えてみる.すると,この場合も以下の積公式を与えることができる.
始点をずらした-Dyck路の数え上げ
自然数に対し,を始点としてを終点とするパスで,直線より下に行かないものは
個存在する.
この内容は,オンライン数列大百科の
A006013
[4]に書かれたI. M. Gesselによるコメント
a(n) is the number of paths in the plane with unit east and north steps, never going above the line x=2y, from (0,0) to (2n+1,n). - Ira M. Gessel, Jan 04 2018
と同じ主張である.
本記事では,定理3に全単射的証明を与える.
始点で終点のパス全体をとする.パスに対して整数を
と定める.これはつまり,パスに含まれる北向きステップのうち,ステップの始点がよりも真に下にあるものの数をと定義するということである.
のときのあるパス.
図1を見ると理解が捗るかもしれない.図1はのときのあるパスを黒い線で描いたもので,である.にカウントされる北向きステップに赤い丸印をつけている.
集合を
と定める.
定理の主張はである.
なので,主張を示すにはを言えばよく,そのためにはからへの全単射を作ればよい ().
以下,そのような全単射を作る.
パスを始点から順に見てゆき,初めて
かつとなる点があったとする.
このとき,パスを次の三つの部分に分ける:
- :始点からまでの部分,
- :からまでの部分,
- :から終点までの部分.
そして,新しいパスを,のステップをの順になるよう並べ替えてできるパスと定義する.(図2の例を見よ.)
全単射の例,第一の場合.赤い線で描いたのが,初めてにまたがる北向きステップ.
次に,そのような点が存在しない場合を考える.
この場合,再びパスを始点から順に見てゆくと初めてかつとなる点が必ず存在する.
このとき,前と同様にパスを次の三つの部分に分ける:
- :始点からまでの部分,
- :からまでの部分,
- :から終点までの部分.
そして,新しいパスを,のステップをの順になるよう並べ替えてできるパスと定義する.(図3の例を見よ.)
全単射の例,第二の場合.赤い線で描いたのが,初めてに接する北向きステップ.
この対応はからへの全単射である.
(証明終わり)