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大学数学基礎解説
文献あり

同値関係や同値類がどうしてもわからないときに役に立つかもしれない記事

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Introduction

学生時代に身内から「数学がわからないから教えてほしい」と言われ、そのときに持ってきたプリントの内容が同値関係でした。教えながら「確かに、同値関係や同値類は初めて学ぶときにわかりにくい内容なのかもな」と感じたことを覚えています。

実際、Googleで検索してみると「同値関係 わかりやすく」というサジェストが出てくるので、それなりの人が理解に困っているのだと思います。

そこで今回は、同値関係や同値類がどうしてもわからないときに、ヒントになる(かもしれない)内容を書いていきます。

本記事では、厳密な話を省略している箇所があります。

まずはお気持ちから

同値関係や同値類を学ぶにあたって、「このイメージを持っておくと良いだろう」と私が思っていることを書いておきます。

イメージ1:クラス分け

私立みけねこ中学2年生を3クラスに分けるとします。

非現実的ではありますが、誕生月でクラスを分けることにし、1月~4月生まれを1組、5月~8月生まれを2組、9月~12月生まれを3組としたとしましょう。

また、1月~4月を1期、5月~8月を2期、9月~12月を3期と呼ぶことにします。

生徒全員の誕生月が把握できている場合、クラス分けが可能であり

  • すべての生徒がどこかしらのクラスに所属し、仲間外れとなる生徒は存在しない

  • AさんとBさんが同じ期に生まれている場合、「Aさんの所属するクラス」=「Bさんの所属するクラス」となる

  • 複数のクラスに所属している生徒はおらず、どの生徒も1つのクラスにしか所属できない

などが成り立ちます。

同値類について学ぶとき、このような「学校のクラス分け」のイメージを持っておくと良いと思います。

イメージ2:やんわりと「同じ」

AさんとBさんが1期生まれであるとしましょう。このとき、AさんとBさんは全くの別人であるにも関わらず、「1期生まれ」「1組の生徒」という意味では「同じ」と見なされます。

数学の話で言うと、たとえば、$\cdots,-6,-4,-2,0,2,4,6,\cdots$はどれも異なる整数ではありますが、「偶数」という意味では「同じ」と見なされます。

同値関係について学ぶとき、このような「全く同じではないけれど、やんわりと『同じ』」というイメージを持っておくと良いと思います。

高校数学の美しい物語「同値関係といろいろな例」 (2023/1/25参照)では

「=」は左辺と右辺が(数値・集合として)完全に一致するときに用いられます。これはしばしば条件として「厳しい」場合があります。[中略]「同じ」であることをもっと幅広く考えたい……そのために同値関係があります。いわば同値関係は 「=」の一般化 と考えられます。

と説明されています。

同値関係の定義

さっそくですが、同値関係の定義を見てみましょう。

同値関係

$S$を空でない集合とする。$S$の元の対のうち、ある種のものに対して

$$ a \sim b $$

で表される関係が定義されていて、以下の3条件を満たすとする。

  1. 任意の$a \in S$に対して$a \sim a$
  2. $a \sim b$ならば$b \sim a$
  3. $a \sim b$かつ$b \sim c$ならば$a \sim c$

このような$\sim$$S$における同値関係という。

※参考:松坂和夫「代数系入門」p.22

本来は同値関係を定義する前に、二項関係を説明する必要がありますが、本記事では省略します。二項関係については以下の記事が参考になると思います。

数学の景色「二項関係とは」 (2023/2/1参照)

上記の定義では、松坂和夫「代数系入門」にならって、「$S$の元の対のうち、ある種のもの」と表現しました。

この定義を見て「抽象的でわかりにくい」「この(1)(2)(3)は、一体なんなのか? なんのためにあるのか?」と思う人がいることでしょう。

次の章から、少しずつ背景を探ってみます。

まずは具体例から見てみよう

先ほどの同値関係の定義を参照しつつ、$S=\mathbb{Z}$とし、$a,b \in \mathbb{Z}$に対し

$$ a\sim b\ \Longleftrightarrow\ a=b $$

とします。

たとえば、$a=3,b=3$のとき、$a=b$なので、$a\sim b$となります。

一方、$a=-1,b=5$のとき、$a \not= b$なので、$a \not\sim b$となります。

この$\sim$について

(1)任意の$a \in \mathbb{Z}$に対して$a=a$
(2)$a=b$ならば$b=a$
(3)$a=b$かつ$b=c$ならば$a=c$

が成り立ちます。

したがって、$\sim$$\mathbb{Z}$における同値関係となっていることがわかります。

このように、$=$であれば、(1)(2)(3)は当たり前のように成り立つと考えられます。

では、次に、$S=\mathbb{Z}$とし、$a,b \in \mathbb{Z}$に対し

$$ a\sim b\ \Longleftrightarrow\ a-b\ \mbox{は}\ 2\ \mbox{の倍数} $$

としてみます。

合同式(いわゆるmod計算)に慣れている人はすぐわかると思いますが、$a,b$の偶奇が一致しているときを$a \sim b$と表しています。

例えば、$a=8,b=2$のとき、$8-2=6$となるので、$8\sim 6$となります。

$8 \not=2$ではありますが、$8 \sim 2$が成り立っていることがわかります。

一方、$a=8,b=3$のとき、$8-3=5$となるので、$8 \not\sim 3$となります。
$a \sim b$が成り立たないことを、$a \not \sim b$と表しています。

では、この$\sim$について、(1)(2)(3)が成り立つか確認してみましょう。

(1)
任意の整数$a$について、$a-a=2\cdot 0$であることから、$a\sim a$が成り立つ。

(2)
$a \sim b$が成り立つとする。このとき、ある整数$m$が存在して、$a-b=2m$と表せるので、$b-a=2(-m)$となる。よって、$b \sim a$が成り立つ。

(3)
$a \sim b$かつ$b \sim c$が成り立つとする。このとき、ある整数$m,n$が存在して、$a-b=2m,b-c=2n$と表せるので、$a-c=(a-b)+(b-c)=2(m+n)$となる。よって、$a \sim c$成り立つ。

(1)(2)(3)が成り立つことが確認できました。つまり、$\sim$$\mathbb{Z}$における同値関係となっていることがわかります。

この$\sim$は、「全く同じ」や「完全一致」を表現するものではありません。しかし、(1)(2)(3)を満たすという意味で、$=$と似た性質を持っていることがわかります。

お気持ちとしては、同値関係の「$a \sim b$」は「$a$$b$は(全く同じではないかもしれないけれど)やんわりと『同じ』である」や「$a$$b$は仲間である」などと、とらえておくと良いのではないか、と思います。

同値類

次に、同値関係を使いながら、みけねこ中学2年生の例のようにクラスをつくり、クラス分けをしていくことを考えていきます。

「似たもの(やんわりと『同じ』もの)同士を集めて、分類したい」というお気持ちです。

このクラス分けをする際に、(1)(2)(3)の条件が効果を発揮します。

以下、$\sim$は集合$S$における同値関係であるとします。

同値類の定義と性質

同値類

$a \in S$に対し、集合$C(a)$を以下のように定める。

$$ C(a)=\{x \in S\ |\ a\sim x\} $$

つまり、$C(a)$$a\sim x$が成り立つような$S$の元$x$全体とする。

このような$C(a)$を、$\sim$に関する($a$の)同値類といい、$a$$C(a)$の代表元とよぶ。

$C(a)$は「$a$と似たもの(やんわりと『同じ』もの)を集めた集合」と、とらえておくと良いと思います。

みけねこ中学2年生の例で言うと、「同じ期に生まれた生徒たちを集めた」というイメージです。つまり、クラスをつくっています。

同値類の性質1

ここからは、同値類の性質を見ていきます。

まずは、みけねこ中学2年生における

すべての生徒がどこかしらのクラスに所属し、仲間外れとなる生徒は存在しない

を思い出してみましょう。

これを、同値類の言葉にすると

どの$S$の元も、どこかしらの同値類に属し、仲間外れは存在しない

ということができるでしょう。

このことを念頭に置きつつ、以下の命題を示していきます。

任意の$a \in S$に対して、$a \in C(a)$が成り立つ。

同値関係の条件(1)より、任意の$a \in S$に対して、$a\sim a$である。

$C(a)$の定義より、$a \in C(a)$が成り立つ。

この命題が成り立つので、「$a$の同値類」がイメージしにくい場合は、「$a$の同値類」=「$a$の所属するクラス」と言い換えてみると良いと思います。

同値類の性質2

みけねこ中学2年生における

AさんとBさんが同じ期に生まれている場合、「Aさんの所属するクラス」=「Bさんの所属するクラス」となる

を思い出してみましょう。

たとえば、AさんとBさんが1期生まれだったとします。このとき、「Aさんの所属するクラス」=「Bさんの所属するクラス」となっています。

さらに言えば、Aさん、Bさんに限らず、同じ1期に生まれている人であればどの生徒でもよく、その人(仮に〇〇さんとする)を代表者として「〇〇さんの所属するクラス」と表現すれば、それは「1組」を表していることになります。

このイメージを念頭に置きつつ、以下の命題を示していきます。

$$ a \sim b \Longleftrightarrow C(a)=C(b) $$

まず、$a \sim b \Longrightarrow C(a)=C(b)$を示す。

$C(a)=C(b)$を示すので、$C(a) \subset C(b)$かつ$C(b) \subset C(a)$を示す。

$c \in C(a)$とすると、$a \sim c$が成り立つ。

仮定より、$a \sim b$であり、同値関係の条件(2)より、$b \sim a$となる。

よって、$b \sim a$かつ$a \sim c$なので、同値関係の条件(3)より、$b\sim c$となる。

よって、$c \in C(b)$であることがわかった。

同様にして、$c \in C(b)$とすると、$b \sim c$が成り立つ。

仮定より、$a \sim b$である。

よって、$a \sim b$かつ$b \sim c$なので、同値関係の条件(3)から$a \sim c$となる。

よって、$c \in C(a)$であることがわかった。

以上より、$C(a)=C(b)$が成り立つ。

次に、$a \sim b \Longleftarrow C(a)=C(b)$を示す。

命題1より、$b \in C(b)$である。

$C(a)=C(b)$なので、$b \in C(a)$となり、$a \sim b$が成り立つことがわかる。

同値類の性質3

みけねこ中学2年生における

複数のクラスに所属している生徒はおらず、どの生徒も1つのクラスにしか所属できない

を思い出してみます。

これを、同値類の言葉にすると

どの$S$の元も複数の異なる同値類に所属していない

ということができるでしょう。

このことを念頭に置きつつ、まずは以下の命題を示していきます。

$$ a \not\sim b \Longleftrightarrow C(a)\cap C(b) = \emptyset $$

$a \sim b$が成り立たないことを、$a \not \sim b$と表しています。

まず、$a \not\sim b \Longrightarrow C(a)\cap C(b)=\emptyset$を示す。

$C(a)\cap C(b) \not= \emptyset$と仮定して、背理法で示す。

$C(a)\cap C(b) \ni c$とすると、$c \sim a$かつ$c \sim b$が成り立つ。

同値関係の条件(2)より、$a \sim c$かつ$c \sim b$となるので、同値関係の条件(3)から、$a \sim b$となり、矛盾。

よって、$C(a)\cap C(b) = \emptyset$であることがわかった。

次に、$a \not\sim b \Longleftarrow C(a)\cap C(b)=\emptyset$を示す。

$a\sim b$と仮定して、背理法で示す。

$a\sim b$より、$b \in C(a)$である。また、命題1より、$b \in C(b)$である。

よって、$b \in C(a)\cap C(b)$となり、矛盾。

よって、$a \not\sim b$であることがわかった。

命題3の対偶を考えると

$$ a \sim b \Longleftrightarrow C(a)\cap C(b) \not= \emptyset $$

となります。

したがって、$c \in C(a)\cap C(b)$となる$c$が存在するならば、$a \sim b$となり、命題2より、$C(a)=C(b)$であることがわかります。

このことから、複数の異なる同値類に所属している$S$の元は存在しておらず、どの$S$の元も1つの同値類にしか所属できないことがわかりました。

ここまでのまとめ

同値関係$\sim$によって、同値類を定義することで、「クラス」をつくりました。

さらに、この同値類によって、学校のような「クラス分け」ができていることがわかりました。その際、同値関係の条件(1)(2)(3)を証明に使いました。

松坂和夫「代数系入門」p.23には

[前略]$S$に1つの同値関係$\sim$が与えられたときには, $S$は互いに交わらないいくつかの(一般には無限個の)同値類に分割されることとなる. この分割を, 関係$\sim$による$S$の類別という.

と記載されています。

商集合の定義と具体例

商集合

$S$の各元の同値類全体の集合を、$S$$\sim$による商集合といい

$$ S/\sim = \{C(a)\ |\ a \in S \} $$

と表す。

たとえば

$S=\mathbb{Z}$とし、$a,b \in \mathbb{Z}$に対し

$$ a\sim b\ \Longleftrightarrow\ a-b\ \mbox{は}\ 2\ \mbox{の倍数} $$

とした場合は

$$ \mathbb{Z}/\sim = \{C(0),C(1)\} $$

となっています。$C(0)$は偶数全体の集合であり、$C(1)$は奇数全体の集合です。

$C(0),C(1)$$\mathbb{Z}/\sim$の元なので、$C(0) \in \mathbb{Z}/\sim,C(1) \in \mathbb{Z}/\sim$となります。

同値類という集合を「元」とするところが、ややわかりにくいところかもしれません。

みけねこ中学2年生の例でいうと、「1組・2組・3組」の3クラスを集めたものが商集合に対応していて、生徒ではなく、「1組」と「2組」と「3組」が元となっているイメージです。

同値関係の具体例

同値関係を初めて勉強するときに、よく出てくると思われる具体例を2つ紹介しておきます。

$n$を正の整数とする。

整数$a,b$に対して、ある整数$m$が存在して、$a-b=nm$を満たすことを、$a \sim b$と表すとする。

このとき、$\sim$$\mathbb{Z}$における同値関係である。

<証明>
(1):
任意の整数$a$に対して、$a-a=0=n\cdot 0$となるので、$a \sim a$が成り立つ。

(2):
$a \sim b$であるとする。つまり、ある整数$m$が存在して、$a-b=nm$を満たす。このとき、$b-a=m(-n)$となるので、$b \sim a$が成り立つ。

(3):
$a \sim b$かつ$b \sim c$であるとする。つまり、ある整数$m,l$が存在して、$a-b=nm$および$b-c=nl$を満たす。このとき、$a-c=(a-b)+(b-a)=n(m+l)$となるので、$a \sim c$が成り立つ。

$M_n(\mathbb{C})$$n$次複素正方行列全体とする。

$A,B \in M_n(\mathbb{C})$に対して、ある正則行列$P \in M_n(\mathbb{C})$が存在して

$$ B=P^{-1}AP $$

を満たすことを、$A\sim B$と表すとする。

このとき、$\sim$$M_n(\mathbb{C})$における同値関係である。

<証明>
(1):
$E$を単位行列とする。$E$は正則行列であり、$E^{-1}=E$である。

したがって、任意の$n$次複素正方行列$A$に対して、$A=E^{-1}AE$が成り立つ。

よって、$A \sim A$である。

(2):
$A \sim B$であるとする。つまり、ある正則行列$P \in M_n(\mathbb{C})$が存在して、$B=P^{-1}AP$を満たす。

このとき、$Q=P^{-1}$とすると、$Q$は正則行列であり、

$$A=PBP^{-1}=Q^{-1}BQ$$

となる。よって、$B \sim A$が成り立つ。

(3):
$A \sim B$かつ$B \sim C$であるとする。つまり、ある正則行列$P,Q \in M_n(\mathbb{C})$が存在して、$B=P^{-1}AP$および$C=Q^{-1}BQ$を満たす。

このとき、$R=PQ$とすると、$R$は正則行列であり、$R^{-1}=Q^{-1}P^{-1}$なので

$$C=Q^{-1}BQ=Q^{-1}(P^{-1}AP)Q=R^{-1}AR$$

となる。よって、$A \sim C$が成り立つ。

さいごに

私は数学のことをよくわかっていませんが、曲がりなりにも勉強してきたなかで、数学では「なにをもって『同じ』とするか」「なにをもって『違う』とするか」が大事なんだな、と感じることがあります。

また、なにかしらの同値関係を定義すると、$S$の元$a$そのものを扱うというよりも、同値類$C(a)$をメインに扱うようになるところが、初めて勉強するときの難しさになっているのかもしれません。

同値関係や同値類の話は、「分数」にもつながるので、よろしければ以下も参照してみてください。

【商体への招待】整域から「分数」をつくる

参考文献

投稿日:202329
更新日:20231130

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みぽ
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