この記事は,ナンブキトラのブログ記事(参考文献XND1)をMathlog用に書き直したものである.
この記事では完全写像と固有写像の差異を示す反例を紹介する.
まず最初に今回の主役となる固有写像と完全写像を定義する.
$X$と$Y$を位相空間とする.このとき連続写像$f:X\to Y$が固有または固有写像であるとは$Y$の任意のコンパクト集合$K$について$f^{-1}(K)$が$X$のコンパクト集合となるときにいう.
$X$と$Y$を位相空間とする.連続関数$f:X\to Y$が次の条件を満たすとき,写像$f$を完全写像と呼ぶ(完全写像に全射性を仮定する流儀もある).
次の事実がある.証明は省略するが,少々高級な位相の本には書いてあると思う.
Mathlogで言うとMathlog1の定理16からも導かれるとおもう.
$X$と$Y$を位相空間とし,$f\colon X\to Y$を連続写像とする.このとき$f$が完全写像であるならば固有写像である.
この事実の逆が成り立たない例をこの文章では紹介する.
実数全体の集合$\rr$上に$x\in \rr\setminus \{0\}$の近傍として$\{x\}$を与え,$0\in \rr$については$0$を含む補可算な集合つまり$x\in B$でかつ$\rr\setminus B$が高々可算となるような集合を全体を基本近傍系として与えると,きちんと位相を生成する.
この位相空間を
$$
(\rr,\mathcal{E})
$$
と書くことにする.
$(\rr,\mathcal{E})$のコンパクト集合を同定しよう.つまりこの空間のコンパクト集合$K$は必ず有限集合になることを示そう.そんなに難しくはない.
この空間のコンパクト集合$K$が無限集合であるとしよう.
すると$0\not\in K$の時は$\{\{x\}\}_{x\in K}$という開被覆を考えれば矛盾が導かれる.次に$0\in K$の時は$0$の近傍$B$と$K$内の可算集合$\{x_n\}_{n\in \nn}$を適当に選んで
$$
K\setminus B=\{x_n\}_{n\in \nn}
$$
とできるので結局矛盾する.
よって$(\rr,\mathcal{E})$のコンパクト集合$K$は有限集合でなければならない.また,有限集合は必ずコンパクトなので$(\rr,\mathcal{E})$のコンパクト集合全体は有限集合全体に一致する.
そして$\rr$に離散位相を定義した位相を$(\rr,\mathcal{T}_{\infty})$とする.もちろんこの空間のコンパクト空間全体は有限集合全体と一致する
写像$f:(\rr,\mathcal{T}_{\infty})\to (\rr,\mathcal{E})$を
$$
f(x)=x
$$
として定義する.このときこの写像は定義域が離散空間であるから明らかに連続である.
この写像が固有であるが完全でないことを示そう.
まず$(\rr,\mathcal{E})$のコンパクト集合$K$は有限集合なので$f^{-1}(K)$も有限集合であり,$f$が固有であることがわかる.
次に$f$が完全でないことを示そう.そのために$f$が閉写像でない事を示すのである.集合$A=\rr\setminus \{0\}$は$(\rr,\mathcal{T}_{\infty})$の閉集合だが,$(\rr,\mathcal{E})$の閉集合ではないことから,写像$f$が閉写像でない事がわかる.
以上のことから
命題1
の逆が成り立たないことがわかる.
空間$(\rr,\mathcal{E})$の$0$の近傍の定め方から,$(\rr,\mathcal{E})$の非可算集合は必ず$0$を触点に持つ.
わざわざ$\rr$に位相を入れたが,非加算集合なら別に$\rr$でなくとも$\mathcal{E}$は定義できる.また$\mathcal{E}$の位相の定め方は離散空間の1点コンパクト化の無限遠点の近傍を補可算にした構成である.
完全写像と閉写像については,少々高級なジェネトポの本には載っていると思う.インターネットでこれらの概念を知る場合には例えば日本語だとこの記事の元ネタのXND1や電波通信の記事XND2,そしてMathlogの記事Mathlog1などを参照のこと.