分配束について の続きである.
$L$を分配束とし, $X$をその部分集合とする. このとき$X$を含む最小のイデアルが存在する. これを$\langle X\rangle $と書く.
$X$を含むイデアル全体の共通部分を$\langle X\rangle$とする. これがイデアルであることを示す. まず$X\subset (1)$よりこれは空ではない. また任意のイデアルは$0$を含むので$\langle X\rangle$も$0$を含む. $x, y\in\langle X\rangle$とする. すると$X$を含む任意のイデアルに$x,y$は含まれる. すると$x\lor y$も含まれるので$x\lor y\in\langle X\rangle$. 最後に$x\leq y$, $y\in \langle X\rangle$とする. $y$を含むイデアルは$x$も含み, $X$を含むイデアルは$y$を含むので, $x\in\langle X\rangle$が言える.
$L$を分配束とし, $X$をその有限部分集合とする. このときある元$x\in L$が存在し$\langle X\rangle=(x)$である. $X$が$a$からなる一元集合ならば, $\langle X\rangle =(a)$である.
$X$の最小上界を$x$とすればよい.
$L$を分配束とし, $X$をその部分集合とする. $x\in \langle X\rangle$ならばある$X$の有限部分集合$X'$が存在して$x\in\langle X'\rangle$.
ある$X$の有限部分集合$X'$が存在して$\langle X'\rangle$の元となるもの全体からなる集合を$I$と置く. $X'=\emptyset$とすると$0\in \langle X'\rangle$なので$0\in I$. また$x,y\in I$とすると$X$の有限部分集合$X'$, $X''$があって$x\in\langle X'\rangle $, $y\in \langle X''\rangle$. すると$X'\cup X''$を含む任意のイデアルは$X'$を含むため$\langle X'\rangle $を含み, $x$を含む. 同様に$y$も含むため$x\lor y$を含む. よって$x\lor y\in\langle X'\cup X''$となり$x\lor y\in I$. さらに$x\leq y$, $y\in I$とすると$X$の有限部分集合$X'$があって$y\in \langle X'\rangle$より$x\in \langle X'\rangle$, よって$x\in I$. 結局$I$はイデアルである. $I$が$X$を含むことは明らかなので,$I$は$\langle X\rangle$を含む. $x\in\langle X\rangle$ならば$x\in I$であるためある$X$の有限部分集合が存在して$x\in \langle X'\rangle$.
分配束$L$について, そのイデアル全体のなす集合を$\Spec(L)$と書く. これは包含関係によって半順序集合になる.
この記法は一般的ではないと思われる.
$L$を分配束とする. $I,J\in\Spec(L)$についてそれらの最小上界$I\lor J$は存在し, $\{x\lor y\mid x\in I,y\in J\}$によって与えられる.
$I\lor J$が$I$と$J$の上界であることは明らか. $X$を他の上界とする. このとき任意の$x\in I$, $y\in J$について$x, y\in X$であるためイデアルの定義より$x\lor y\in X$である. よって$I\lor J\leq X$であり, $I\lor J$が$I$と$J$の最小上界であることが示された.
$L$を分配束とする. $I,J\in\Spec(L)$についてそれらの最大下界$I\land J$は存在し, $\{x\land y\mid x\in I, y\in J\}$によって与えられる. さらにこれは$I\cap J$に等しい.
$I\cap J$が$I$と$J$の最大下界であることは明らか. $x\in I$, $y\in J$とすると$x\land y\leq x$, $x\land y\leq y$より$x\land y\in I\cap J$である. よって$I\land J\leq I\cap J$. さらに$x\in I\cap J$とすると$x=x\land x\in I\land J$より$I\cap J\leq I\land J$も言える. よって$I\land J=I\cap J$である.
分配束$L$に対し, $\Spec(L)$は分配束である.
束であることはすでに示した二つの補題からわかる. 任意のイデアルは$0$を含むことから$(0)$が最小元であることがわかる. また任意の$x$について$x\leq 1$より$x\in (1)$であるため$(1)$が最大元であることがわかる. 最後に分配法則を示す. $I,J,K\in \Spec(L)$とする. 任意の$x\in I\lor(J\land K)$について, ある$y\in I$, $z\in J\land K$が存在し$x=y\lor z$と書ける. $\Spec(L)$の$\land$の定義より$z\in J$かつ$z\in K$であり, よって$y\lor z\in I\lor J$かつ$y\lor z\in I\lor K$である. よって$x=y\lor z\in (I\lor J)\land(I\land K)$である. 逆に$x\in (I\lor J)\land(I\lor K)$とすると$x\in I\lor J$かつ$x\in I\land K$である. よって$y\in I$, $z\in J$, $y'\in I$, $z'\in K$があり$x=y\lor z=y'\lor z'$である. 今
$$
(y\lor y')\lor(z\land z') = ((y\lor z)\lor y')\land((y'\lor z')\lor y)=(x\lor y')\land(x\lor y)=x
$$であり, $y\lor y'\in I$, $z\land z'\in J\land K$であるため$x\in I\lor (J\land K)$. 残りも同様である.
$f\colon L\to L'$を分配束の射とし, $L$のイデアル$I$に対し$L'$のイデアル$\langle f(I)\rangle$を割り当てる写像$\Spec(L)\to\Spec(L')$は分配束の射である. これを$\Spec(f)$と書く.
$\langle f((0))\rangle=(0)$であるため最小元は最小元に移る. また$f((1))$は$1$を含むので$\langle f((1))\rangle=(1)$である. よって最大元も最大元に移る. $I,J\in\Spec(L)$とする. $x\in \langle f(I\lor J)\rangle$を取ると, ある$y\in I$, $z\in J$があって$x\leq f(y\lor z)=f(y)\lor f(z)$である. $x\land f(y)\in \langle f(I)\rangle$, $x\land f(z)\in \langle f(J)\rangle$なので$x=x\land(y\lor z)=(x\land y)\lor (x\land z)\in\langle f(I)\rangle\lor\langle f(J)\rangle$. また$x\in\langle f(I)\rangle\lor\langle f(J)\rangle$とするとある$y\in \langle f(I)\rangle$, $z\in\langle f(J)\rangle$があって$x=y\lor z$と書ける. さらにある$y'\in I$, $z'\in J$があって$y\leq f(y')$, $z\leq f(z')$なので$x\leq f(y')\lor f(z')=f(y'\lor z')$. $y'\lor z'\in I\lor J$なので$x\in \langle f(I\lor J)\rangle$. よって$\langle f(I\lor J)\rangle =\langle f(I)\rangle \lor \langle f(J)\rangle$である. $\land$についても同様である.
$L$を分配束とする. $x\in L$に対し$(x)\in\Spec(L)$を割り当てる写像は分配束の射である. これを$\eta_L$, または単に$\eta$と書く.
最小元が最小元に, 最大元が最大元に移ることは明らか. $x,y\in L$とする. $(x\lor y)=(x)\lor (y)$を示す. $z\in (x\lor y)$のとき$z\leq x\lor y$である. $z\land x\leq x$より$z\land x\in (x)$, $z\land y\leq y$より$z\land y\in (y)$である. $(z\land x)\lor(z\land y)=z\land(x\lor y)=z$より$z\in (x)\lor(y)$である. 逆に$z\in (x)\lor (y)$とするとある$w\leq x$, $w'\leq y$があって$z=w\lor w'$と書けるので$z\leq x\lor y$であり$z\in (x\lor y)$である. $\land$についても同様.
$f\colon L\to L'$を分配束の射とすると$\eta_{L'}\circ f=\Spec(f)\circ \eta_L$.
$x\in L$とする. $\eta_{L'}\circ f(x)=(f(x))$である. 一方$\Spec(f)\circ \eta_L(x)=\langle f((x))\rangle$である. $y\in f((x))$とするとある$y'\leq x$があって$y=f(y')$と書けるので$y\leq f(x)$. よって$y\in (f(x))$である. 一方$x\in (x)$より$f(x)\in f((x))$なので任意の$y\leq f(x)$は$\langle f((x))\rangle$に含まれる. よって$(f(x))=f((x))$である.
$L$を分配束とすると$\Spec\Spec(L)$の元はイデアルのなす集合である. その合併は$L$のイデアル, すなわち$\Spec(L)$の元となる. さらに, これによって与えられる写像$\Spec\Spec(L)\to\Spec(L)$は分配束の射である. これを$\mu_L$, または単に$\mu$と書く.
$\mathfrak{I}\in\Spec\Spec(L)$とすると, $\mu(\mathfrak{I})=\bigcup\mathfrak{I}=\{x\mid \exists I\in\mathfrak{I},x\in I\}$である. $\bigcup \mathfrak{I}$が$L$のイデアルであることを示す. まず$\mathfrak{I}$は$\Spec(L)$のイデアルであるため$\Spec(L)$の最小元$(0)$を含む. よって$\mu(\mathfrak{I})$は$0$を含む. また, $x,y\in\mathfrak{I}$とすると, ある$L$のイデアル$I\in\mathfrak{I}$, $J\in\mathfrak{J}$があって$x\in I$, $y\in J$である. よって$x\lor y\in I\lor J$である. $\mathfrak{I}$は$\Spec(L)$のイデアルであるため, $I \lor J\in\mathfrak{I}$である. よって$x\lor y\in\mu(\mathfrak{I})$である. さらに$x\leq y$, $I\in\mathfrak{I}$, $y\in I$とすると$x\in I$であるため$x\in \mu(\mathfrak{I})$である. よって$\mu(\mathfrak{I})$は$L$のイデアル, すなわち$\Spec(L)$の元である.
$\Spec\Spec(L)$の最小元は$\Spec(L)$の最小元$(0)$で生成されるイデアル, すなわち$((0))$である. $\mu((0))=\bigcup\{(0)\}=(0)$なので$\mu$は最小元を最小元に移す. $\Spec\Spec(L)$の最大元は$\Spec(L)$の最大元$(1)$で生成されるイデアル, すなわち$((1))$である. $\mu((1))=\bigcup\{I\mid I\leq (1)\}=(1)$なので$\mu$は最大元を最大元に移す. $\mathfrak{I},\mathfrak{J}\in\Spec\Spec(L)$とすると$\mathfrak{I}\lor\mathfrak{J}=\{I\lor J\mid I\in\mathfrak{I}, J\in\mathfrak{J}\}$である. $x\in\mu(\mathfrak{I}\lor\mathfrak{J})$とするとある$I\in\mathfrak{I}$, $J\in\mathfrak{J}$があって$x\in I\lor J$である. さらにこれはある$y\in I$, $z\in J$があって$x=y\lor z$であることを意味する. $y\in I$, $I\in\mathfrak{I}$から$y\in\mu(\mathfrak{I})$が, 同様に$z\in\mu(\mathfrak{J})$がわかり, $x\in\mu(\mathfrak{I})\lor\mu(\mathfrak{J})$が言える. これで$\mu(\mathfrak{I}\lor\mathfrak{J})\leq\mu(\mathfrak{I})\lor\mu(\mathfrak{J})$が言えた. 逆に$x\in\mu(\mathfrak{I})\lor\mu(\mathfrak{J})$とする. するとある$y\in \mathfrak{I}$と$z\in\mathfrak{J}$が存在して$x=y\lor z$と書ける. $y\in\mathfrak{I}$よりある$I\in\mathfrak{I}$が存在して$y\in I$であり, 同様にある$J\in\mathfrak{J}$が存在して$z\in J$である. $I\lor J\in\mathfrak{I}\lor\mathfrak{J}$であるため$x\in\mu(\mathfrak{I}\lor\mathfrak{J})$であり, $\mu(\mathfrak{I})\lor\mu(\mathfrak{J})\leq\mu(\mathfrak{I}\lor \mathfrak{J})$が言えた. $\land$についても同様である.
$L$を分配束とし, $X$を$\Spec(L)$の部分集合とする. このとき$\mu(\langle X\rangle)=\langle\bigcup X\rangle$である.
$x\in L$とする. $x\in \mu(\langle X\rangle)$とすると, ある$I\in \langle X\rangle$があって$x\in I$である. $\mathfrak{I}=\eta_{\Spec(L)}(\langle\bigcup X\rangle)$と置くと, 任意の$J\in X$について$J\subset\bigcup X\subset\langle\bigcup X\rangle$であるため$J\in\mathfrak{I}$である. $X\subset \mathfrak{I}$より$\langle X\rangle\subset \mathfrak{I}$であり, よって$I\in \mathfrak{I}$である. したがって$x\in I\subset \langle \bigcup X\rangle$である. 逆に$x\in \langle\bigcup X\rangle$とすると, ある$\bigcup X$の有限部分集合$A$があって$x\in \langle A\rangle$. よって$X$の有限部分集合$X'$であって$x\in \langle \bigcup X'\rangle$となるものがある. しかし$\langle\bigcup X'\rangle$は$X'$に属すイデアルの最小上界であり, よって$X$を含む$\Spec(L)$の任意のイデアルに$x$は含まれる. つまり$x\in\mu(\langle X\rangle)$である.
$f\colon L\to L'$を分配束の射とすると$\mu_{L'}\circ \Spec\Spec(f)=\Spec(f)\circ \mu_L$.
$\mathfrak{I}\in\Spec\Spec(L)$とする. $\Spec\Spec(f)(\mathfrak{I})=\langle\{\langle f(I)\rangle\mid I\in\mathfrak{I}\}\rangle$である. よって$\mu_{L'}\circ\Spec\Spec(f)=\mu_{L'}(\langle\{\langle f(I)\rangle\mid I\in\mathfrak{I}\}\rangle)$であるが, これは今示した補題より$\langle\bigcup\{\langle f(I)\rangle\mid I\in\mathfrak{I}\}\rangle$とできる. 一方$\Spec(f)\circ\mu_L(\mathfrak{I})=\langle\{f(x)\mid x\in\bigcup\mathfrak{I}\}\rangle$である. $\bigcup\{\langle f(I)\rangle\mid I\in\mathfrak{I}\}$を含むイデアルとは, すなわちすべての$I\in\mathfrak{I}$について$\langle f(I)\rangle$を含むイデアルである. それは$f(I)$を含むことと等しいので, 結局考えているイデアルは$\{f(x)\mid x\in\bigcup\mathfrak{I}\}$を含むイデアルである. よって$\langle\bigcup\{\langle f(I)\mid I\in\mathfrak{I}\}\rangle = \langle\{f(x)\mid x\in\bigcup\mathfrak{I}\}\rangle$である.
分配束$L$について$\mu\circ\Spec(\eta)=\id$である. また$\mu\circ\eta_{\Spec(L)}=\id$である.
$L$のイデアル$I$を取る.
$$\mu\circ\Spec(\eta)(I)=\mu(\langle\{\eta(x)\mid x\in I\}\rangle)=\langle\bigcup\{\eta(x)\mid x\in I\}\rangle=\langle I\rangle =I
$$より$\mu\circ\Spec(\eta)=\id$である. また
$$
\mu\circ\eta(I)=\mu\{J\mid J\leq I\}=I
$$より$\mu\circ\eta_{\Spec(L)}=\id$である.
分配束$L$について$\mu_L\circ\mu_{\Spec(L)}=\mu_L\circ\Spec(\mu_L)$である.
$\Gamma\in\Spec\Spec\Spec(L)$とする.
$$
\mu\circ\mu(\Gamma)=\bigcup\bigcup\Gamma
$$である. 一方
$$
\mu\circ\Spec(\mu)(\Gamma)=\mu(\langle\{\mu(\mathfrak{I})\mid \mathfrak{I}\in\Gamma\}\rangle)=\langle\bigcup\{\mu(\mathfrak{I})\mid \mathfrak{I}\in\Gamma\}\rangle=\langle\bigcup\bigcup\Gamma\rangle=\bigcup\bigcup\Gamma
$$である.
$\Spec$は分配束の圏上のモナドである.