はじめに
今回の記事は,
ガロア理論①
で扱わなかった体の性質を二つ扱います。今回は命題の証明が続くので若干ハードですが,どちらも今後の議論に役立つものです。
目次
1.体上の多項式環
2.可換環の極大イデアルによる商
3.系
体上の多項式環
が体ならば,多項式環は(単項イデアル整域)である。
をの任意のイデアルとする。としてよい。
がでない定数を含むならば,であるからである。
以下ではそうでないとし,に含まれるでない次数最小の多項式を一つとってとする。このとき,任意のに対しを満たすが存在し,しかもとなるが,と仮定するとの最小性に矛盾する。よってであるから,
逆の包含関係は明らかであるから, □
体上の多項式環
- はである。
- 一方で,は整域であるがではない。
たとえば,は単項イデアルでない。実際,が存在してと仮定すると,が存在して
この二式からのいずれかとなるが,に矛盾する。
可換環の極大イデアルによる商
を可換環とする。以下の条件は同値である。
は極大イデアルである。
は体である。
に対しとする。
すなわちとしてとすると,は極大イデアルを真に含むイデアルとなるから
したがってであるからを満たすが存在する。
実は,このときがの逆元になっている。実際,となる。□
をを真に含むイデアルとすると,が存在し,であるから仮定からすなわちを満たすが存在する。
であったからであり,であることとあわせるとを得る。
したがってとなるからは極大イデアルである。□
上の命題から得られる系
以上から次の系が得られる。
命題 2
を体とし,を上既約多項式とすると,は体である(上の多項式とは,の元を係数にもつ多項式を指す)。
命題よりはであるから,特に(一意分解整域)でもあるので,はの素元すなわちは素イデアルとなる。
さらにはからは極大イデアルでもある。
よって命題よりは体である。□
補足
証明の流れがやや複雑なので,用いた事実を挙げておく。を可換環とする。
可換環の極大イデアルによる商
- は体である(系を参照せよ)。
- 素数に対し,は体である。
が体であることを直接示すには,任意のに対し写像
を考えて,が全単射であることをいえばよい(読者は確かめてみよ)。
お疲れ様でした。ここで述べた系はある重要な定理を証明する鍵になります。次回は,前回扱った「有限次拡大」に加えて別種の拡大を導入し,有限次拡大との関係を述べます。