前回,体$K$上の多項式環$K[x]$は$\rm{PID}$であることを確かめました。
ところで,多項式の値を$0$にする$x$はどこにあるのでしょうか。$K$の中に 収まる のか,はたまた$K$から はみ出る のでしょうか。$K$からはみ出たとして,$K$をどこまで 拡大すれば収まるようにできるのでしょうか。
1.多項式の根
2.代数拡大
$α∈K$ならば$x-α$は$α$を根にもつ$0$でない$K$上の多項式となるから,$α$は$K$上代数的数である。
ここで,「$K$上」という語を強調しておきたい。我々が多項式を考えるとき,それをどの体で考えているのかが非常に重要になるからだ(たとえば例$1$の四つ目がそうである)。
代数的数や超越的数の定義から$0$を除外するのは,$L$の任意の元は$0$という多項式の根になるため,$0$を含めて考えてもしかたがないからである。
$L/K$が代数拡大であるとは,$L$の任意の元が$K$上代数的数であることをいう。
定義をもう少し平たい言葉で説明しよう。要は,$L/K$が代数拡大であるとは,$L$のどんな元も$0$でないある$K$上の多項式の根になっているということだ。
$\ol{ℚ}$を__代数的数体__という。$\ol{ℚ}$が体をなすことの証明はより多くの知識を必要とする。
$α∈ℚ(\sqrt2)$とすると,$α=p+q\sqrt2$を満たす$p,q∈ℚ$が存在する。$\ol{α}=p-q\sqrt2$とすれば,$x^2-2px+p^2-2q^2$は$α,\bar{α}$を根にもつ$ℚ$上の多項式である。□
ここで,前回予告していた代数拡大と有限次拡大を関係づける定理を証明する。
有限次拡大は代数拡大である。
$L\bs K$を有限次拡大とし,$[L:K]=n$とする。このとき,$L$の任意の元$α$に対し,$n+1$個の元$1,α,α^2,…,α^n$を考えると,これらは一次従属なので,すべては$0$ではない$c_0,c_1,c_2,…,c_n∈K$が存在して
$c_0+c_1α+c_2α^2+…+c_nα^n=0$
を満たす。ゆえに,$f(x)=c_0+c_1x+c_2x^2+…+c_nx^n$は$α$を根にもつ$0$でない$K$上の多項式であるから,$α$は$K$上代数的数である。$α$は任意であったから,$L/K$は代数拡大であることがわかる。□
ガロア理論② で$ℚ(\sqrt[3]{2})/ℚ,ℚ(\sqrt2+\sqrt3)/ℚ$の拡大次数を例にあげたが,この二つはどちらも有限次拡大であった。したがって定理からこれらは代数拡大でもあることがわかる。
逆は成り立たない。たとえば,$\ol{ℚ}/ℚ$は代数拡大であるが無限次拡大である。
前々回の記事で,「$ℚ(\sqrt2)=ℚ[\sqrt2]$は偶然か?」という問いを残したのを覚えているでしょうか。次回の記事で,その問いに対する答えを与えます。