はじめに
前回,最小多項式を定義しました。
前回の最後にほのめかしたのですが,実は代数的数による単拡大は,その生成元の最小多項式に注目することで基底を求めることができます。
今回はそのことを主張する定理を証明します。
目次
1.単拡大の拡大次数
単拡大の拡大次数
を上代数的数とし,の上の最小多項式の次数をとする。
このとき,はの基底である。
の上の最小多項式をとする。
は全射準同型であり,であるから
(同型写像を誘導)
よって,がの基底であることを示せばよい。そうすれば,がの基底であるといえるからである。
まず,がを生成することを示そう。任意のに対し,を満たすが存在する。を満たすが,
とかくと,
となるからは確かにを生成する。
次に,の元が線形独立であることを示す。すなわちを満たすが存在したとする。このとき,と仮定するととなり矛盾するからであり,したがって
よって □
ガロア理論⑤
定理よりである。
前回の記事の定理証明を参照せよ。
定理から直ちに次の系が従う。
この事実は実用の上で非常に有用である。
たとえば,の上の最小多項式が求まれば,直ちにの基底がつ見つかり,拡大次数も求まる。
あるいは,が求まれば,を根にもつでない上の多項式が上の最小多項式であるかを判別できる。
上の系は最小多項式や拡大次数を求める上で確かに強力なのであるが,実はこれだけでは不便さが残ることがある。というのも,そもそも最小多項式や拡大次数を直接求めることが難しい(あるいは論証に手間がかかる)場合があるからだ[1]。
次回は,その問題点の解消に有効な定理を扱います。
[1]: たとえば,を求めるとき,前回の記事で注釈に書いたように,を根にもつでない上のモニック多項式は容易に見つかるが,既約性の証明はやや手間である。かといって,が基底であることを示すこともまた難しいのである。