前回,最小多項式を定義しました。
前回の最後にほのめかしたのですが,実は代数的数による単拡大は,その生成元の最小多項式に注目することで基底を求めることができます。
今回はそのことを主張する定理を証明します。
1.単拡大の拡大次数
$α∈L/K$を$K$上代数的数とし,$α$の$K$上の最小多項式の次数を$n$とする。
このとき,$\{1,α,…,α^{n-1}\}$は$K(α)/K$の基底である。
$α$の$K$上の最小多項式を$p(x)$とする。
$φ:K[x]→K(α),f(x)↦f(α)$は全射準同型$^{*1}$であり,$\kerφ=(p(x))^{*2}$であるから
$K[x]/(p(x))≅K(α)$(同型写像$ψ:\ol{f(x)}↦f(α)$を誘導)
よって,$S=\{\ol{1},\ol{x},…,\ol{x^{n-1}}\}$が$K[x]/(p(x))$の基底であることを示せばよい。そうすれば,$\{ψ\left(\ol{1}\right),ψ\left(\ol{x}\right),…,ψ\left(\ol{x^{n-1}}\right)\}=\{1,α,…,a^{n-1}\}$が$K(α)/K$の基底であるといえるからである。
まず,$S$が$K[x]/(p(x))$を生成することを示そう。任意の$g∈K[x]$に対し,$g=pq+r\;(\deg r<\deg p)$を満たす$q,r∈K[x]$が存在する。$\ol{g}=\ol{pq+r}=\ol{p}\:\ol{q}+\ol{r}=\ol{r}$を満たすが,
$r=c_0+c_1x+…+c_{n-1}x^{n-1}\;(c_i∈K\;(∀i))$とかくと,
$\ol{g}=\ol{c_0+c_1x+…+c_{n-1}x^{n-1}}=\ol{c_0}×\ol{1}+\ol{c_1}\:\ol{x}+…+\ol{c_{n-1}}\:\ol{x^{n-1}}$
となるから$S$は確かに$K[x]/(p(x))$を生成する。
次に,$S$の元が線形独立であることを示す。$\ol{c_0+c_1x+…+c_{n-1}x^{n-1}}=\ol{0}$すなわち$c_0+c_1x+…+c_{n-1}x^{n-1}=p(x)q(x)$を満たす$q∈K[x]$が存在したとする。このとき,$q≠0$と仮定すると$\deg(pq)≥n$となり矛盾するから$q=0$であり,したがって$c_0+c_1x+…+c_{n-1}x^{n-1}=0$
よって$c_0=c_1=…=c_{n-1}=0$ □
$^{*1}$
ガロア理論⑤
定理$3$より$K(α)=K[α]$である。
$^{*2}$前回の記事の定理$3$証明を参照せよ。
定理$1$から直ちに次の系が従う。
$α∈L/K$を$K$上代数的数とし,$α$の$K$上の最小多項式を$p(x)$とすると,$\deg p=[K(α):K]$
たとえば,$α$の$K$上の最小多項式が求まれば,直ちに$K(α)/K$の基底が$1$つ見つかり,拡大次数も求まる。
あるいは,$[K(α):K]$が求まれば,$α$を根にもつ$0$でない$K$上の多項式が$K$上の最小多項式であるかを判別できる。
上の系は最小多項式や拡大次数を求める上で確かに強力なのであるが,実はこれだけでは不便さが残ることがある。というのも,そもそも最小多項式や拡大次数を直接求めることが難しい(あるいは論証に手間がかかる)場合があるからだ[1]。
次回は,その問題点の解消に有効な定理を扱います。