前回,代数的数を定義しました。定義から明らかに,$α∈L/K$が代数的数ならば$α$を根にもつ$K$上の多項式$p(x)$が存在するはずです。
そのような$p(x)$は無数にあるのですが,実はある条件を加えると一意に定まります。
1.最小多項式
2.代数的数による単拡大
$α$が$K$上代数的数ならば,最小多項式は確かに存在する。実際,$α$は$K$上代数的であるから,$α$を根にもつ$0$でない$K$上の多項式$p(x)$が存在し,しかも$ℕ$の整列性から次数最小のものがとれる。必要であれば,$p(x)$の最高次係数を$c(≠0)$として$\displaystyle q(x)=\frac{1}{c}p(x)$とすると,$q(x)$は$K$上のモニック多項式になる。
$α∈L/K$を$K$上代数的数とするとき,$α$の$K$上の最小多項式は一意に定まる。
前に述べたことから最小多項式は存在するので,それを$p(x),q(x)$とする。もし$p(x)≠q(x)$なら,$p(x)-q(x)$は$α$を根にもつ$0$でない$K$上の多項式となる。必要であれば,多項式を $c(≠0)$倍することで$r(x)=c(p(x)-q(x))$がモニックになるようにできるが,$\deg r<\deg p$となり$\deg p$の最小性に矛盾する。よって$p(x)=q(x)$ □
$α∈L/K$を$K$上代数的数とするとき,$α$の最小多項式は__$K$上既約__である。
$α$の$K$上の最小多項式$p(x)$を$K$上の多項式$q(x)$が割り切るとする。このとき,商を$r(x)$とすれば$p(x)=q(x)r(x)$であるから,$q(α)r(α)=0$
体は整域であるから$q(α)=0$または$r(α)=0$であるが,どちらでも同じことになるので$q(α)=0$とする。すると$\deg q≤\deg p$であることと$\deg p$の最小性から$\deg p=\deg q$となる。
よって$r(x)$は定数となり,$p(x)$が$K$上既約であることが示された。□
以上で,代数的数の最小多項式はただ一つ存在し,しかも既約であることがわかりました。これは_非常に嬉しい性質_です。
さて,読者の皆様は, ガロア理論② の最後で「$ℚ(\sqrt2)=ℚ[\sqrt2]$は偶然か?」という問いが残されたままなのを覚えていますでしょうか。その問いに答える準備がこれで整いました。
$α∈L/K$が$K$上代数的数ならば$K(α)=K[α]$
$α∈L/K$を$K$上代数的数とすると,$K$上の最小多項式$p(x)$が存在する。
$φ:K[x]→K[α],f(x)↦f(α)$は全射準同型であり,$\kerφ=(p(x))^{*1}$であるから,準同型定理より$K[x]/(p(x))≅K[α]$が成り立つ。
ここで,$p(x)$の既約性から$K[x]/(p(x))$は体$^{*2}$となる。
よってそれに同型な$K[α]$も体ということになるが,$K(α)$は$\{α\}$を含む$L/K$の最小の中間体であった。
したがって$K∪\{α\}⊆K[α]⊆K(α)$および$K(α)$の最小性から,$K(α)=K[α]$ □
$^{*1}$ $∀f∈K[x]$は$q,r∈K[x]$を用いて$f=pq+r\;(\deg r<\deg p)$とかける。$f∈\ker{φ}$ならば$r(α)=0$となり,$\deg p$の最小性から$r=0$
したがって$\ker{f}⊆(p(x))$
逆の包含関係は明らか。
$^{*2}$ ガロア理論③ の系から従う。
系:$K$を体とし,$f$を$K$上既約多項式とすると,$K[x]/(f)$は体である
これで,$ℚ(\sqrt2)=ℚ[\sqrt2]$が成り立つのは偶然ではなく,$\sqrt2$が$ℚ$上代数的であることによって一致するのだということがわかりました。
ところで,たとえば