はじめに
前回,代数的数を定義しました。定義から明らかに,が代数的数ならばを根にもつ上の多項式が存在するはずです。
そのようなは無数にあるのですが,実はある条件を加えると一意に定まります。
目次
1.最小多項式
2.代数的数による単拡大
最小多項式
モニック多項式・最小多項式
- 最高次係数がであるような多項式をモニック多項式という。
- に対し,を根にもつでない上の多項式が存在すれば,そのうち次数が最小かつモニックであるものをの上の最小多項式という。
が上代数的数ならば,最小多項式は確かに存在する。実際,は上代数的であるから,を根にもつでない上の多項式が存在し,しかもの整列性から次数最小のものがとれる。必要であれば,の最高次係数をとしてとすると,は上のモニック多項式になる。
最小多項式の存在と一意性
を上代数的数とするとき,の上の最小多項式は一意に定まる。
前に述べたことから最小多項式は存在するので,それをとする。もしなら,はを根にもつでない上の多項式となる。必要であれば,多項式を 倍することでがモニックになるようにできるが,となりの最小性に矛盾する。よって □
最小多項式の既約性
を上代数的数とするとき,の最小多項式は__上既約__である。
の上の最小多項式を上の多項式が割り切るとする。このとき,商をとすればであるから,
体は整域であるからまたはであるが,どちらでも同じことになるのでとする。するとであることとの最小性からとなる。
よっては定数となり,が上既約であることが示された。□
最小多項式
- の上の最小多項式は上の最小多項式は
- の上の最小多項式は[1]
以上で,代数的数の最小多項式はただ一つ存在し,しかも既約であることがわかりました。これは_非常に嬉しい性質_です。
さて,読者の皆様は,
ガロア理論②
の最後で「は偶然か?」という問いが残されたままなのを覚えていますでしょうか。その問いに答える準備がこれで整いました。
代数的数による単拡大
を上代数的数とすると,上の最小多項式が存在する。
は全射準同型であり,であるから,準同型定理よりが成り立つ。
ここで,の既約性からは体となる。
よってそれに同型なも体ということになるが,はを含むの最小の中間体であった。
したがっておよびの最小性から, □
はを用いてとかける。ならばとなり,の最小性から
したがって
逆の包含関係は明らか。
ガロア理論③
の系から従う。
系:を体とし,を上既約多項式とすると,は体である
これで,が成り立つのは偶然ではなく,が上代数的であることによって一致するのだということがわかりました。
ところで,たとえば
- の上の最小多項式はで次
- の上の最小多項式はで次
- の上の最小多項式はで次
でした。何か気づきましたか?ヒントは,
ガロア理論②
です。
[1]: 勘のいい読者は,これが本当に次数最小なのか疑問に思ったかもしれない。現時点でそれを証明するには,(次)×(次)または(次)×(次)の形に因数分解されたとして矛盾を示すほかない。