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ガロア理論⑤ 最小多項式と単拡大について

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はじめに

前回,代数的数を定義しました。定義から明らかに,αL/Kが代数的数ならばαを根にもつK上の多項式p(x)が存在するはずです。
そのようなp(x)は無数にあるのですが,実はある条件を加えると一意に定まります。

目次

1.最小多項式
2.代数的数による単拡大

最小多項式

モニック多項式・最小多項式
  • 最高次係数が1であるような多項式をモニック多項式という。
  • αL/Kに対し,αを根にもつ0でないK上の多項式が存在すれば,そのうち次数が最小かつモニックであるものをαK上の最小多項式という。

αK上代数的数ならば,最小多項式は確かに存在する。実際,αK上代数的であるから,αを根にもつ0でないK上の多項式p(x)が存在し,しかもの整列性から次数最小のものがとれる。必要であれば,p(x)の最高次係数をc(0)としてq(x)=1cp(x)とすると,q(x)K上のモニック多項式になる。

最小多項式の存在と一意性

αL/KK上代数的数とするとき,αK上の最小多項式は一意に定まる。

前に述べたことから最小多項式は存在するので,それをp(x),q(x)とする。もしp(x)q(x)なら,p(x)q(x)αを根にもつ0でないK上の多項式となる。必要であれば,多項式を c(0)倍することでr(x)=c(p(x)q(x))がモニックになるようにできるが,degr<degpとなりdegpの最小性に矛盾する。よってp(x)=q(x) □

最小多項式の既約性

αL/KK上代数的数とするとき,αの最小多項式は__K上既約__である。

αK上の最小多項式p(x)K上の多項式q(x)が割り切るとする。このとき,商をr(x)とすればp(x)=q(x)r(x)であるから,q(α)r(α)=0
体は整域であるからq(α)=0またはr(α)=0であるが,どちらでも同じことになるのでq(α)=0とする。するとdegqdegpであることとdegpの最小性からdegp=degqとなる。
よってr(x)は定数となり,p(x)K上既約であることが示された。□

最小多項式
  • 2上の最小多項式はx22,上の最小多項式はx2
  • 2+3上の最小多項式はx410x2+1[1]

以上で,代数的数の最小多項式はただ一つ存在し,しかも既約であることがわかりました。これは_非常に嬉しい性質_です。


さて,読者の皆様は, ガロア理論② の最後で「(2)=[2]は偶然か?」という問いが残されたままなのを覚えていますでしょうか。その問いに答える準備がこれで整いました。

代数的数による単拡大

αL/KK上代数的数ならばK(α)=K[α]

αL/KK上代数的数とすると,K上の最小多項式p(x)が存在する。
φ:K[x]K[α],f(x)f(α)は全射準同型であり,kerφ=(p(x))1であるから,準同型定理よりK[x]/(p(x))K[α]が成り立つ。
ここで,p(x)の既約性からK[x]/(p(x))は体2となる。
よってそれに同型なK[α]も体ということになるが,K(α){α}を含むL/K最小の中間体であった。
したがってK{α}K[α]K(α)およびK(α)の最小性から,K(α)=K[α] □

1 fK[x]q,rK[x]を用いてf=pq+r(degr<degp)とかける。fkerφならばr(α)=0となり,degpの最小性からr=0
したがってkerf(p(x))
逆の包含関係は明らか。

2 ガロア理論③ の系から従う。

系:Kを体とし,fK上既約多項式とすると,K[x]/(f)は体である


これで,(2)=[2]が成り立つのは偶然ではなく,2上代数的であることによって一致するのだということがわかりました。

代数的数による単拡大
  • (23)=[23]
  • (2+3)=[2+3]
  • (i)=[i]=

ところで,たとえば

  • 2上の最小多項式はx222
  • 23上の最小多項式はx323
  • 2+3上の最小多項式はx410x2+14
    でした。何か気づきましたか?ヒントは, ガロア理論② です。


[1]: 勘のいい読者は,これが本当に次数最小なのか疑問に思ったかもしれない。現時点でそれを証明するには,(2次)×(2次)または(1次)×(3次)の形に因数分解されたとして矛盾を示すほかない。
投稿日:2023314
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Qualtagh
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数学徒 じゅけんせいのすがた 扱う分野:位相空間論 群論 環論 体論 位相幾何

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