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天才置換を合理的に①

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はじめに

最近、理論的には簡単だけれども、計算が面倒な積分に対して天才置換を見つけて簡略化する遊びにはまっています。(で、その一つを思いつくのにどれだけ時間をかけるかということなのですが)

その中でいくつか面白そうなものができたので、その中の一つを紹介してみようと思います。

問題提起

次の積分は有名です。
0111+x3dx=ln23+π33
この積分は高校範囲で解こうとすると結構面倒(部分分数分解をして、arctanの形を作って置換積分して、...)になります。
 
 

正攻法

0111+x3dx=011(1+x)(x2x+1)dx=1301(11+xx2x2x+1)dx=ln231601(x2x+1)3x2x+1dx=ln23+011(x12)2+34dx=ln23+011(2x1)2+3d(2x1)=ln23+π33

しかし、級数に対して十分な知識を持っていれば次のような変形が可能です。
0111+x3dx=01n=0(1)nx3ndx=n=0(1)3n+13n+1=13k=02ln(1+ζ3k)ζ3k(ζ3=e2πi3)=ln2316ln(ζ6ζ65)+36iln13i1+3i=ln23+13arctan3=ln23+π33

全く頭回さなくても(知識を振り回して)解けるという意味ではとても楽ですね。最近高校のテキストを読んでこの問題にぶち当たったときに最初に思いついたのはこの解法です。級数erなら割とこの解法でやる人が多いのではないのでしょうか。ただ、一般的な高校生にはとてもじゃないけどできないですよね。

「天才置換」

そこで今回提案させていただくのは次の変形です。

01dx1+x3dx=01t+13t2+1dt(x1t1+t)=1601(t2+13)t2+13dt+0113t2+1dt=ln23+13arctan3=ln23+π33

おそらくこの問題を解くことだけを考えるとこの手法が一番計算が楽だと思います。ただ、この置換なかなか思いつかないですよね。いわゆる「天才置換」かもしれません。というわけで今回のテーマは置換

x1t1+t

です。以下、ϕ=ϕ(t)=1t1+tとして、この置換が導く簡単な性質を見ていきましょう。

知識的背景

まず普通に微分を計算します。
x=1t1+tdx=2(1+t)2dt
従って、次のようになります。
01f(x)dx=012fϕ(1+t)2dt
ちょっと待て、ありがたみが全然分からない。そう思われる方もいらっしゃると思います。まぁ、天才置換なので...などと諦めなくても、ありがたみを合理的に説明できます。

とはいえこれだけだと何もわからないので、もっと基礎的な性質を考えていきましょう。次のような性質が成り立ちます。

ϕの性質

次の等式が成立する。
ϕ([0,1])=[0,1]ϕ1=ϕ1+ϕ=21+t1ϕ=2t1+t1+ϕ2=2(1+t2)(1+t)2

証明は簡単なので省略しますが、この性質があってはじめて役に立ちます。というか、この置換における__最重要性質__といっても過言ではないでしょう。何度か手を動かして証明してみることをお勧めします。

これを知らずしてこの置換を使うことは厳しいと思われます。3,4,5番目の式を見てみてください。これから察するに、「1+x,1x,1+x2が出てくる積分は何かしら変形できるのでは?」という想像が働きますね。その直感はある程度正しく、次のような等式が成り立ちます。簡単なので証明しません。

ϕ置換積分

次の等式が成り立つ。
01f(x)1+x2dx=01fϕ1+t2dt01f(x)1+xdx=01fϕ1+tdt01f(x)1xdx=01fϕt(1+t)dt01f(x)(1+x)2dx=1201fϕdt

他にも使いやすいものはあるのですが、よく使うものはこれです。なんだよ、あんまり変わらないじゃないものあるじゃないか、と思われるかもしれません。でも、積分変換で__変わらない__って凄くないですか。

ここまで見ると、元の積分がうまくいった理由に合点が付きます。1+x3=(1+x)(x2x+1)と変形できて、命題2の二番目の等式と、残りの分母の因数が2であることがかなり効いています。ということは、もっと一般的に

0111+xndx

の積分をさせるにはちょっと無理では、というのは感覚的にわかりますね。

とはいえです。こんなに面白い性質があるのですから、何かしらの積分は求めることができるはずです。実際、その具体例として次のようなものがあります。(Serret integralというのですが、かつての僕が知る限りではパラメータを導入したりと結構計算が面倒でした)

01ln(1+x)1+x2dx=01ln(1+ϕ)1+t2dt=ln20111+t2dt01ln(1+t)1+t2dx01ln(1+x)1+x2dx=πln28

あれ、これってこんなに簡単な積分だっけ...?

Li2(12)を求める

いつまでも遊んでいてもいいですが、ポリログの特殊値を求めるのにうまく使えるので示しておきます。級数的観点から求めるのは 遭難者さん の記事にあったのでそちらを見ていただければいいのではないかと思います。今回求めるのは次の級数です。

Li2(12)=n=112nn2

まずは この記事 に書いてあるように変形した後、(ezx)と置換してあげたのち、ここで紹介した置換を用います。すると、次のように簡単な積分を求める作業に帰着できます。

n=112nn2=0tez2ezdt=01lnx2xdx(ezx)=01ln(1x)1+xdx(x1x)=01ln(1ϕ)1+tdt(xϕ)=ln20111+tdt01lnt1+tdt+01ln(1+t)1+tdt=ln22+01ln(1+t)(ln(1+t))dt+0ueu1+eudu(tet)=η(2)ln222=π212ln222.

ここで、ηはDirichletのイータ関数で、要するにRiemannゼータ関数の交代級数です。級数変形を用いなくても、ごちゃごちゃしたテクニックを用いずにきれいに求めることができました。

一般化

少し一般化させた話としては、次のような置換があります。(q-超幾何級数とは一切関係ありません。)

x=aϕl=atlt

これはここまで説明したxϕに似た性質をもっていて、同様の運用が可能です。具体的には次のようになります。

aϕlの性質

次の等式が成り立つ。
aϕl([0,a])=[0,a]aϕl1=aϕllaϕl+1=al+1lt+1aaϕl=(al+1)tlt+1daϕl=al+1(lt+1)2

aϕl置換積分

次の等式が成り立つ。
0af(x)lx2+adx=0afaϕllt2+adt0af(x)lx+1dx=0afaϕllx+1dt0af(x)axdx=0afaϕlt(1+t)dt0af(x)(lx+1)2dx=1al+10afaϕldt

使える状況が少なそうに見えますが、lの任意性が効いているので意外と多くの状況に対応できます。十分一般的といえると思います。l=a=1としたときが今までの話に対応しますね。

おわりに

皆さんどうでしたか。いろいろ嬉しい性質をもっているのにこのような置換を知らなかったという人は多いのではないでしょうか。個人的にこのϕ置換面白いなぁという感じなのですが、あまり使っている人を見たことがないので記事にしてみました。

もしこの記事が好評であれば考えた他の「天才置換」も記事にしてみたいなと思います。それではまたね!

投稿日:2023319
更新日:202497
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