はじめに
今回は,整数係数多項式が上既約であるための十分条件を与え,いくつかの既約判定の例をあげます。
今後扱う重要な例(円分多項式)も含むので,一度目を通しておくとよいでしょう。
の既約判定法
の既約判定法
整数係数多項式
とある素数が次の条件を満たすとする。
はで割り切れない
はで割り切れる
はで割り切れない
このとき,は上既約である。
が上可約であると仮定して矛盾を導く。このとき,
ガロア理論⑧
の補題系からを満たす定数でないが存在する。
とすると,およびから,のどちらか一方のみがで割り切れる。どちらでも同じことなのでのみがで割り切れるとしてよい。
次に,このときがで割り切れることをに関する帰納法で示そう。
がで割り切れることはいま述べた通りである。
そこで,としてがで割り切れたとする。このとき,からはで割り切れ,かつ
であるからはで割り切れる。いま,はで割り切れないとしていたからがで割り切れることとなる。以上で主張が示された。
さて,
であるが,からはで割り切れることと上の主張を用いるとはで割り切れる。さらに,はで割り切れないとしていたからはで割り切れることとなる。
一方で,およびを用いるとはで割り切れないこととなる。
ここで矛盾が生じたので,は上既約となる。▢
実用上は,条件を満たす素数をうまく見つけることでが上既約であることが示される。
次の事実はほとんど明らかであるが,既約判定の際によく用いるためここで明示しておく(証明は省略する)。
判定例
- は上既約である。
実際,最高次係数はで割り切れず,それ以外の係数はで割り切れる。かつ,定数項はで割り切れない。 - は上既約である。
に対して直接の判定法を適用することはできない。そこで,を考えると,
であるから素数は規準を満たす。よって上の補題からも上既約であるとわかる。
の既約判定法を用いれば,円分多項式の既約性について一部直ちに証明を与えることができる。
この先に述べることは必要なときに正確に述べなおすから,いま読者は既約判定の部分だけ理解すれば十分であると断っておく。
円分多項式
整数に対し,とおく。
(ただし,はと互いに素な以下の自然数全体の集合)を円分多項式という。
円分多項式はに対し整数係数多項式である(このことは明らかでないが,本題から逸れるので証明は略)。
そして,これはとくに上既約となる。一般のに対して示すことはやや難しいが,が素数の場合は実は簡単である。
素数に対しは上既約
であるから,
(∵因数定理)
よって,
素数は判定法の規準を満たすから,は上既約である。
したがって補題からも上既約である。▢
さて,今までの議論ではあらかじめ拡大体が与えられていたが,次回からは拡大体の存在について議論する。よい性質をもつ拡大体の存在が保証されれば,議論は円滑になる。