今回は,整数係数多項式が$ℚ$上既約であるための十分条件を与え,いくつかの既約判定の例をあげます。
今後扱う重要な例(円分多項式)も含むので,一度目を通しておくとよいでしょう。
整数係数多項式
$f(x)=a_0+a_1x+\cdots+a_nx^n\;(a_n≠0)$
とある素数$p$が次の$3$条件を満たすとする。
$(ⅰ)a_n$は$p$で割り切れない
$(ⅱ)a_0,\cdots,a_{n-1}$は$p$で割り切れる
$(ⅲ)a_0$は$p^2$で割り切れない
このとき,$f$は$ℚ$上既約である。
$f$が$ℚ$上可約であると仮定して矛盾を導く。このとき,
ガロア理論⑧
$\text{Gauss}$の補題系から$f=gh$を満たす定数でない$g,h∈ℤ[x]$が存在する。
$g(x)=b_0+b_1x+\cdots+b_mx^m$
$h(x)=c_0+c_1x+\cdots+c_lx^l$
$(m,l≥1,m+l=n,b_m≠0,c_l≠0)$
とすると,$a_0=b_0c_0$および$(ⅱ),(ⅲ)$から,$b_0,c_0$のどちらか一方のみが$p$で割り切れる。どちらでも同じことなので$b_0$のみが$p$で割り切れるとしてよい。
$b_0$が$p$で割り切れることはいま述べた通りである。
そこで,$1≤k≤m-1$として$b_0,b_1,\cdots,b_{k-1}$が$p$で割り切れたとする。このとき,$(ⅱ)$から$a_k$は$p$で割り切れ,かつ
$a_k=b_0c_k+b_1c_{k-1}+\cdots+b_kc_0$
であるから$b_kc_0$は$p$で割り切れる。いま,$c_0$は$p$で割り切れないとしていたから$b_k$が$p$で割り切れることとなる。以上で主張が示された。
さて,
$a_m=b_0c_m+b_1c_{m-1}+\cdots+b_mc_0$
であるが,$(ⅱ)$から$a_m$は$p$で割り切れることと上の主張を用いると$b_mc_0$は$p$で割り切れる。さらに,$c_0$は$p$で割り切れないとしていたから$b_m$は$p$で割り切れることとなる。
一方で,$a_n=b_mc_l$および$(ⅰ)$を用いると$b_m$は$p$で割り切れないこととなる。
ここで矛盾が生じたので,$f$は$ℚ$上既約となる。▢
実用上は,条件を満たす素数$p$をうまく見つけることで$f$が$ℚ$上既約であることが示される。
次の事実はほとんど明らかであるが,既約判定の際によく用いるためここで明示しておく(証明は省略する)。
$L/K$とする。$^\forall f∈K[x],^\forall c∈K$に対し,
$f(x)$は$L$上既約$\iff f(x+c)$は$L$上既約
$\text{Eisenstein}$の既約判定法を用いれば,円分多項式の既約性について一部直ちに証明を与えることができる。
この先に述べることは必要なときに正確に述べなおすから,いま読者は既約判定の部分だけ理解すれば十分であると断っておく。
整数$n≥1$に対し,$\displaystyleζ_n=e^{\frac{2πi}{n}}$とおく。
$\displaystyle F_n(x)=\prod_{k∈A_n}(x-ζ_n^k)$
(ただし,$A_n$は$n$と互いに素な$n$以下の自然数全体の集合)を円分多項式という。
円分多項式は$^\forall n≥1$に対し整数係数多項式である(このことは明らかでないが,本題から逸れるので証明は略)。
そして,これはとくに$ℚ$上既約となる。一般の$n$に対して示すことはやや難しいが,$n$が素数の場合は実は簡単である。
$A_p=\{1,2,\cdots,p-1\}$であるから,
$F_p(x)=(x-ζ_p)(x-ζ_p^2)\cdots(x-ζ_p^{p-1})\displaystyle=\frac{x^p-1}{x-1}$ (∵因数定理)
$=x^{p-1}+x^{p-2}+\cdots+1$
よって,$\displaystyle F_p(x+1)=\frac{(x-1)^p+1}{(x-1)+1}\displaystyle=x^{p-1}-\binom{p}{1}x^{p-2}+\cdots+\binom{p}{p-2}(-1)^{p-2}x+p(-1)^{p-1}$
素数$p$は判定法の規準を満たすから,$F_p(x+1)$は$ℚ$上既約である。
したがって補題から$F_p(x)=x^{p-1}+x^{p-2}+…+1$も$ℚ$上既約である。▢
さて,今までの議論ではあらかじめ拡大体が与えられていたが,次回からは拡大体の存在について議論する。よい性質をもつ拡大体の存在が保証されれば,議論は円滑になる。