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大学数学基礎解説
文献あり

ガロア理論⑨ Eisenstein の既約判定法

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はじめに

今回は,整数係数多項式が上既約であるための十分条件を与え,いくつかの既約判定の例をあげます。
今後扱う重要な例(円分多項式)も含むので,一度目を通しておくとよいでしょう。

Eisensteinの既約判定法

Eisensteinの既約判定法

整数係数多項式
f(x)=a0+a1x++anxn(an0)
とある素数pが次の3条件を満たすとする。
()anpで割り切れない
()a0,,an1pで割り切れる
()a0p2で割り切れない
このとき,f上既約である。

f上可約であると仮定して矛盾を導く。このとき, ガロア理論⑧ Gaussの補題系からf=ghを満たす定数でないg,h[x]が存在する。
g(x)=b0+b1x++bmxm
h(x)=c0+c1x++clxl
(m,l1,m+l=n,bm0,cl0)
とすると,a0=b0c0および(),()から,b0,c0のどちらか一方のみがpで割り切れる。どちらでも同じことなのでb0のみがpで割り切れるとしてよい。

次に,このときbk(k=0,1,,m1)pで割り切れることをkに関する帰納法で示そう。

b0pで割り切れることはいま述べた通りである。
そこで,1km1としてb0,b1,,bk1pで割り切れたとする。このとき,()からakpで割り切れ,かつ
ak=b0ck+b1ck1++bkc0
であるからbkc0pで割り切れる。いま,c0pで割り切れないとしていたからbkpで割り切れることとなる。以上で主張が示された。

さて,
am=b0cm+b1cm1++bmc0
であるが,()からampで割り切れることと上の主張を用いるとbmc0pで割り切れる。さらに,c0pで割り切れないとしていたからbmpで割り切れることとなる。

一方で,an=bmclおよび()を用いるとbmpで割り切れないこととなる。

ここで矛盾が生じたので,f上既約となる。▢

実用上は,条件を満たす素数pをうまく見つけることでf上既約であることが示される。


次の事実はほとんど明らかであるが,既約判定の際によく用いるためここで明示しておく(証明は省略する)。

L/Kとする。fK[x],cKに対し,
f(x)L上既約f(x+c)L上既約

判定例

  • f(x)=x5+4x32x26x+10上既約である。
    実際,最高次係数は2で割り切れず,それ以外の係数は2で割り切れる。かつ,定数項は22で割り切れない。
  • g(x)=x2+3x+1上既約である。
    g(x)に対して直接Eisensteinの判定法を適用することはできない。そこで,g(x+1)を考えると,
    g(x+1)=x2+5x+5であるから素数5は規準を満たす。よって上の補題からg(x)上既約であるとわかる。

Eisensteinの既約判定法を用いれば,円分多項式の既約性について一部直ちに証明を与えることができる。
この先に述べることは必要なときに正確に述べなおすから,いま読者は既約判定の部分だけ理解すれば十分であると断っておく。

円分多項式

整数n1に対し,ζn=e2πinとおく。
Fn(x)=kAn(xζnk)
(ただし,Annと互いに素なn以下の自然数全体の集合)を円分多項式という。

円分多項式はn1に対し整数係数多項式である(このことは明らかでないが,本題から逸れるので証明は略)。
そして,これはとくに上既約となる。一般のnに対して示すことはやや難しいが,nが素数の場合は実は簡単である。

素数pに対しFp(x)上既約

Ap={1,2,,p1}であるから,
Fp(x)=(xζp)(xζp2)(xζpp1)=xp1x1 (∵因数定理)
=xp1+xp2++1
よって,Fp(x+1)=(x1)p+1(x1)+1=xp1(p1)xp2++(pp2)(1)p2x+p(1)p1
素数pは判定法の規準を満たすから,Fp(x+1)上既約である。
したがって補題からFp(x)=xp1+xp2++1上既約である。▢


さて,今までの議論ではあらかじめ拡大体が与えられていたが,次回からは拡大体の存在について議論する。よい性質をもつ拡大体の存在が保証されれば,議論は円滑になる。

参考文献

[1]
加藤文元, ガロア理論12講
投稿日:2023322
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Qualtagh
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数学徒 じゅけんせいのすがた 扱う分野:位相空間論 群論 環論 体論 位相幾何

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  1. はじめに
  2. $\text{Eisenstein}$の既約判定法
  3. 判定例
  4. 参考文献