ガロア理論⑪　体の同型

はじめに

今回は，体の同型に関する諸定義を導入し，最小分解体の一意性を保証するための$1$つの命題を証明します。今回は定義の導入と命題の証明を合わせるとやや長くなるので，一意性の証明は次回にまわしたいと思います。

目次

1.体の同型に関する諸定義
2.命題

体の同型に関する諸定義

$\sigma$は，$K$上では${\sigma }_0$に一致するような同型$L\to L^{\prime }$のことである。つまり，$\sigma$の定義域を文字通り$K$に「制限」すると${\sigma }_0$を得る。このとき，${\sigma }_0=\sigma {|}_K$とかく。

$L\sim \sigma \circlearrowleft L^{\prime }K\sim {\sigma }_0{K}^{\prime }$

$\sigma {|}_K={\mathrm{id}}_{\mathrm{K}}$である。つまり，$\sigma$は$K$の元を変えないような$L$から$L^{\prime }$への同型写像である。「$K$上」というのは「定義域が$K$」という意味ではないので注意が必要である。

$L\sim \sigma \circlearrowleft L^{\prime }K\text{id}K$

${\mathrm{id}}_L$は明らかに$K$上の自己同型であるから，とくに$L\stackrel{K}{\cong }L$である。

$L\sim \sigma \circlearrowleft LK\text{id}K$

読者が馴染み深いであろう「複素共役」の概念は，実は$ℝ$上共役の特別な場合である。
$\sigma :ℂ\to ℂ,a+bi\mapsto a-bi(a,b\in ℝ)$は$ℝ$上の同型写像である（確かめてみよ）。ゆえに，たとえば$1+2i,1-2i$は$\sigma$で移り合うから$ℝ$上共役となる。

$ℂ\sim \sigma \circlearrowleft ℂℝ\mathrm{id}ℝ$

命題

さて，ここまでで一通り必要なことを定義したから，命題の証明にうつる。

${}^{\ast 1}$：${\sigma }_0(p)$とは，$p$のすべての係数を${\sigma }_0$で移して得る$K^{\prime }$上多項式を指す。

命題の主張はすなわち，任意に根$\alpha ,\beta$を選んでも，$\alpha \mapsto \beta$を満たす${\sigma }_0$の延長$K(\alpha )\to K^{\prime }(\beta )$がただ$1$つ存在するということである。

$L{L}^{\prime }K(\alpha )\sim {}^{\mathrm{\exists }!}\sigma :\alpha \mapsto \beta \circlearrowleft K^{\prime }(\beta )K\sim {\sigma }_0{K}^{\prime }$

$L{L}^{\prime }K(\alpha )\sim {\phi }^{-1}\sim \sigma \circlearrowleft M\sim \tau M^{\prime }\sim {\phi }^{\prime }{K}^{\prime }(\beta )K\sim {\sigma }_0{K}^{\prime }$

${}^{\ast 2}$：$\psi :f(x)\mapsto f(\alpha ),{\psi }^{\prime }:f(x)\mapsto f(\beta )$である。$\alpha$は$K$上代数的であるから，$K(\alpha )=K[\alpha ]$（ ガロア理論⑤ 定理$3$）であることに注意すれば直ちに$\psi$は全射準同型であるとわかる。${\psi }^{\prime }$についても同様である。

${}^{\ast 3}$：$\tau (x+(p))={\sigma }_0(x)+({\sigma }_0(p))={\sigma }_0(1)x+({\sigma }_0(p))=x+({\sigma }_0(p))$

${}^{\ast 4}$： ガロア理論⑥ 定理$1$

次回は，この命題から導かれるもう$1$つの命題（といっても証明は難しくありません）と，最小分解体が同型を除いて一意であることを証明します。