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優しい解説を心掛けるリーマン幾何学~1. ベクトルとテンソル 1.3 テンソル(1)~
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前回に引き続きテンソルの解説をします。成分の変換性、テンソルの同値と存在、縮約について説明します。
テンソルの成分の変換性を$(1,2)$型テンソルを例に導きます。一般の型のテンソルでも同様の議論ができます。
ベクトル空間を$V$とし、$V$の基底を$\{e_1,\cdots,e_n\}$とし、双対基底を$\{f^1,\cdots,f^n\}$とします。基底の変換を
$$
\begin{align}
e_i&=\sum_je'_ja^j_i,\\
f^i&=\sum_j(a^{-1})^i_jf'^j
\end{align}
$$
とします。$V$上の$(1,2)$型テンソルを$T$が
$$
T=\sum_{i,j,k}T^i_{jk}e_i\otimes f^j\otimes f^k=\sum_{i,j,k}T'^i_{jk}e'_i\otimes f'^j\otimes f'^k
$$
と表されているとします。このとき基底の変換式を代入して両辺を見比べると成分の関係として
$$
T'^i_{jk}=\sum_{l,m,n}a^i_l(a^{-1})^m_j(a^{-1})^n_kT^l_{mn}
$$
が得られます。これがテンソルの成分の変換則です。
ある基底に関してテンソル$T$の成分が$T^{i_1\cdots i_n}_{j_1\cdots j_m}$とするとき、他の基底に関する成分も変換則から一意的に定まります。またこのとき多重線形写像としても$T$は一意的に定まります。このことから次が分かります。
テンソル$T,S$のある基底に関する成分が全て等しいならば、テンソルとして$T=S$である。
ベクトル空間$V$に基底を$\{e_i\}$とし、双対基底を$\{f^i\}$とする。(1,1)型テンソル$T$を$\{e_i\},\{f^j\}$に関する成分が$\delta^i_j$であるようなものとして定める。基底の変換を$e_i=e'_ja^j_i$とするとき、$\{e'_i\},\{f'^j\}$に関する$T$の成分は
$$
T'^i_j=\sum_{k,l}a^i_k(a^{-1})^l_j\delta^k_l=\sum_{k}a^i_k(a^{-1})^k_j=\delta^i_j
$$
となる。従って$T$は任意の基底に関してその成分は$\delta^i_j$である。
一方、同様の考察を行うと任意の基底に関して成分が$\delta_{ij}$となる(0,2)型テンソルは存在できないことがわかる。
テンソルから新しいテンソルを作り出す方法として縮約があります。(2,2)型テンソルを例にして説明します。ベクトル空間$V$の基底を$\{e_i\}$とし、双対基底を$\{f^j\}$とします。このとき(2,2)型テンソル$T$に対して、(1,1)型テンソル$S$が次のように定義できます。
$$
S(\eta,X):=\sum_iT(f^i,\eta,e_i,X),\ \eta\in V^\ast,X\in V
$$
これは$T$の$V^\ast$に関する1番目の引数と$V$に関する1番目の引数に対応する基底をそれぞれ代入して全ての基底について和を取るという操作をしています。こうすると$V^\ast$と$V$に関する引数がそれぞれ1つ減ったテンソルが出来ます。
この$T^{(2,2)}$から$T^{(1,1)}$への写像を縮約と言います。一般に$T$の$V^\ast$に関する$i$番目の引数と$V$に関する$j$番目の引数に対して縮約する写像を
$$
C^i_j:T^{(p,q)}\to T^{(p-1,q-1)}
$$
で表します。この表記だと上の例は$S=C^1_1(T)$となります。
縮約を成分で表示すると、
$$
T=\sum_{i,j,k,l}T^{ij}_{\ \ \ kl}\left(\frac{\partial}{\partial x^i}\right)\otimes \left(\frac{\partial}{\partial x^j}\right)\otimes dx^k\otimes dx^l
$$
に対して、
$$
C^1_1(T)=\sum_{i,j,k}T^{ij}_{\ \ \ jk}\left(\frac{\partial}{\partial x^i}\right)\otimes dx^k
$$
となります。
次回からは微分多様体の説明に入ります。