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優しい解説を心掛けるリーマン幾何学~1. ベクトルとテンソル 1.3 テンソル(2)~

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 前回の記事: 優しい解説を心掛けるリーマン幾何学~1. ベクトルとテンソル 1.3 テンソル(1)~
 次回の記事:

 前回に引き続きテンソルの解説をします。成分の変換性、テンソルの同値と存在、縮約について説明します。

テンソルの成分の変換性

 テンソルの成分の変換性を(1,2)型テンソルを例に導きます。一般の型のテンソルでも同様の議論ができます。

 ベクトル空間をVとし、Vの基底を{e1,,en}とし、双対基底を{f1,,fn}とします。基底の変換を
ei=jejaij,fi=j(a1)jifj
とします。V上の(1,2)型テンソルをT
T=i,j,kTjkieifjfk=i,j,kTjkieifjfk
と表されているとします。このとき基底の変換式を代入して両辺を見比べると成分の関係として
Tjki=l,m,nali(a1)jm(a1)knTmnl
が得られます。これがテンソルの成分の変換則です。

テンソルの同値

 ある基底に関してテンソルTの成分がTj1jmi1inとするとき、他の基底に関する成分も変換則から一意的に定まります。またこのとき多重線形写像としてもTは一意的に定まります。このことから次が分かります。

テンソルの同値

テンソルT,Sのある基底に関する成分が全て等しいならば、テンソルとしてT=Sである。

 ベクトル空間Vに基底を{ei}とし、双対基底を{fi}とする。(1,1)型テンソルT{ei},{fj}に関する成分がδjiであるようなものとして定める。基底の変換をei=ejaijとするとき、{ei},{fj}に関するTの成分は
Tji=k,laki(a1)jlδlk=kaki(a1)jk=δji
となる。従ってTは任意の基底に関してその成分はδjiである。
 一方、同様の考察を行うと任意の基底に関して成分がδijとなる(0,2)型テンソルは存在できないことがわかる。

縮約

 テンソルから新しいテンソルを作り出す方法として縮約があります。(2,2)型テンソルを例にして説明します。ベクトル空間Vの基底を{ei}とし、双対基底を{fj}とします。このとき(2,2)型テンソルTに対して、(1,1)型テンソルSが次のように定義できます。
S(η,X):=iT(fi,η,ei,X), ηV,XV
これはTVに関する1番目の引数とVに関する1番目の引数に対応する基底をそれぞれ代入して全ての基底について和を取るという操作をしています。こうするとVVに関する引数がそれぞれ1つ減ったテンソルが出来ます。

 このT(2,2)からT(1,1)への写像を縮約と言います。一般にTVに関するi番目の引数とVに関するj番目の引数に対して縮約する写像を
Cji:T(p,q)T(p1,q1)
で表します。この表記だと上の例はS=C11(T)となります。

 縮約を成分で表示すると、
T=i,j,k,lT   klij(xi)(xj)dxkdxl
に対して、
C11(T)=i,j,kT   jkij(xi)dxk
となります。

 次回からは微分多様体の説明に入ります。

投稿日:202344
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投稿者

Submersion
Submersion
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専門は相対論やLorentz幾何です。Einstein系の厳密解の構成や接触幾何の応用などの研究をしています。Ph.D保有者の中ではクソ雑魚の部類です。

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