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【解決済】内積空間の双対空間は内積をもつか?

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少し前から疑問に思っていることについて書きます.
後で加筆・修正するつもりでとりあえず公開するので,まだあまり内容をチェックしていません.
(もし内容に不備があったらすみません.)

(追記 2023/04/12:コメントをいただき解決したので,理解したことを 別の記事 に書きました.)

導入

ノルム空間$V$に対して,その双対空間
$$ V^{\ast}:=\{f\in K^V\mid \text{$f$は有界かつ線形}\} $$
は,作用素ノルム
$$ \|f\|_{V^{\ast}}:=\sup\{|f(v)|\mid v\in V,\ \|v\|_{V}\le 1\} $$
によってBanach空間となるのでした.
またHilbert空間の双対空間は,もとの空間と等距離(反)線形同型なHilbert空間となることが知られています(Rieszの表現定理).

以上のことから,ぼんやり「完備でない内積空間についても,その双対空間は(もとの空間と同型ではなくても)Hilbert空間になるだろう」と思っていたのですが,ちゃんと考えてみるとよく分からなかったので,疑問を記事として書き残しておこうと思います.
答えをご存じの方がいたら,教えていただけると幸いです.

前提知識

以下,係数体$K\in\{\mathbb{R},\mathbb{C}\}$を固定し,ノルム空間$V$のノルムを$\|\cdot\|_{V}$,内積空間$V$の内積を$\langle\cdot,\cdot \rangle_{V}$と書くことにする.

さて,内積空間$V$とその元$v\in V$に対して,次の写像$$ \langle\cdot,v\rangle_{V}:V\ni u\mapsto \langle u,v\rangle_{V}\in K$$
は有界線形作用素だから
$$ \Psi:V\ni v\mapsto\langle\cdot,v\rangle_{V}\in V^{\ast} $$
という写像を考えることができ,次のことが容易に確かめられる.

  • $\Psi$は等距離(特に単射)である.つまり
    $$ \|\Psi(u)-\Psi(v)\|_{V^{\ast}}=\|u-v\|_{V} . $$

  • $\Psi$は反線形である.つまり
    $$ \Psi(u+\lambda v)=\Psi(u)+\overline{\lambda}\Psi(v). $$

内積の定義

この記事では,内積は第1変数に関して線形,つまり
$$ \langle u+\lambda u',v\rangle=\langle u,v\rangle+\lambda \langle u',v\rangle $$
とする.このとき第2変数に関しては反線形,つまり
$$ \langle u,v+\lambda v'\rangle=\langle u,v\rangle+\overline{\lambda} \langle u,v'\rangle $$
となる.

さらに,$\Psi$の全射性については次のことが分かっている.

Rieszの表現定理

内積空間$V$について,写像$\Psi:V\ni v\mapsto\langle\cdot,v\rangle_{V}\in V^{\ast}$が全射であることと,$V$が完備であることは同値である.

略.

したがって$V$がHilbert空間であれば,
$$ \langle f,g\rangle_{V^{\ast}}:=\langle\Psi^{-1}(g),\Psi^{-1}(f)\rangle_{V} $$
で定まる内積によって$V^{\ast}$はHilbert空間となる.

疑問

この記事の本題は,次の疑問である.

疑問:完備でない内積空間$V$に対して,その双対空間$V^{\ast}$は(作用素ノルムを誘導する)内積をもつか?

ノルム空間が(自身がもともと持っているノルムを誘導する)内積をもつかどうかについては,中線定理で判定することができる.

分かっていること

$\Psi$が全射でなくても,像の稠密性が分かれば,近似によって内積の存在が示せる.

内積空間$V$に対して,写像$\Psi:V\ni v\mapsto\langle\cdot,v\rangle_{V}\in V^{\ast}$を考える.
このとき,もし像$\Psi(V)$$V^{\ast}$の稠密部分集合であれば,$V^{\ast}$は(作用素ノルムを誘導する)内積をもつ.

近似と中線定理を用いる

示すべきことは,作用素ノルムが中線定理を満たすこと,つまり
$$ \|f+g\|_{V^{\ast}}^2+\|f-g\|_{V^{\ast}}^2=2(\|f\|_{V^{\ast}}^2+\|g\|_{V^{\ast}}^2) \qquad ({}^\forall f,g\in V^{\ast}) $$
である.$f,g\in V^{\ast}$を任意に取ると,$\Psi(V)$の稠密性より
$$\Psi(u_n)\to f,\quad \Psi(v_n)\to g \quad \text{in $V^{\ast}$}$$
を満たす$V$の点列$\{u_n\},\{v_n\}$が取れる.$V$は内積空間だから
$$ \|u_n+v_n\|_{V}^2+\|u_n-v_n\|_{V}^2=2(\|u_n\|_{V}^2+\|v_n\|_{V}^2) \qquad ({}^\forall n\in \mathbb{N}) $$
が成り立ち,$n\to\infty$の極限を取れば所望の等式を得る.

関係あるかもしれないことのメモ

完備でない内積空間

次の内積空間は完備でない.

  • 閉区間$[0,1]$上の連続関数全体$ C([0,1];K) $に内積
    $$ \langle f,g\rangle=\int_0^1 f(x)\overline{g(x)}\,dx $$
    を与えたもの.

あとがき

Hilbert空間$V$の双対空間$V^{\ast}$はHilbert空間なので,$V^{\ast}$上の作用素ノルムは中線定理
$$ \|f+g\|_{V^{\ast}}^2+\|f-g\|_{V^{\ast}}^2 = 2(\|f\|_{V^{\ast}}^2+\|g\|_{V^{\ast}}^2 ) $$
を満たすわけですが,この等式は両辺を直接計算することによって示されたわけではなく,Rieszの表現定理を経由して間接的に示されています.
なんだか不思議な感じがしますね(しませんか?).

(もしこの等式を直接計算によって示せるなら,$V$が完備でない場合にも同じ方法が使えるかもしれないですが,どうなんでしょうか.)

ここまで読んでいただき,ありがとうございました.

投稿日:2023410

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