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大学数学基礎解説
文献あり

ノルム空間・内積空間の完備化

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概要

先日投稿した疑問 を解決していただいたので,記事にまとめます.
本記事のテーマは次の疑問です.

疑問(再掲).完備でない内積空間$V$に対して,その双対空間$V^{\ast}$は(作用素ノルムを誘導する)内積をもつか?

先に要点だけ書くと,上の疑問の解答は「YES」です.
$V$の完備化を$\bar{V}$とするとき,BLT定理より「2つの双対空間$V^{\ast}$$(\bar{V})^{\ast}$が等長線形同型である」ことがわかるので,$(\bar{V})^{\ast}$がHilbert空間であること(Rieszの表現定理!)に注意すれば,$V^{\ast}$もHilbert空間であることが言えます.

$$ \xymatrix{ V \ar_{\iota}[d] & V^{\ast} \ar^{\text{BLT}}[d]\ar_{\wr}[d] \\ \bar{V} \ar_{\text{Riesz}}[r]\ar^{\sim}[r] & (\bar{V})^{\ast} }$$

以下,上に書いたことをもう少し詳しく書きます.
ついでに,ノルム空間の完備化についても説明します.
(距離空間やその完備化については こちらの記事 等を参照してください.)

(追記 2023/04/14:修正しました.変更点はコメントを参照してください.)

記号について

本記事では完備化を表すためにオーバーラインを使います.
複素共役は出てこないので混乱はしないと思いますが,念のため.

準備

一様連続性と距離空間の完備化

まず一様連続性の定義を述べる.
よく知られた$\varepsilon$-$\delta$論法による定義と一見異なるが,それと同値な次の定義をここでは採用する.

(追記 2023/06/27:連続度に関する記事 写像の連続性を測るもの を書きました.)

一様連続

距離空間$(X,d_X),(Y,d_Y)$の間の写像$f:X\to Y$に対して,$f$一様連続度$\omega_f:[0,\infty]\to[0,\infty]$
$$ \omega_f(r):=\sup\{d_Y(f(x),f(x'))\mid x,x'\in X,\ d_X(x,x')\le r\} \qquad (r\in[0,\infty]) $$
と定める.このとき$f$一様連続であるとは
$$ \lim_{r\to +0}\omega_f(r)=0 $$
が成り立つことをいう.

等長写像は一様連続

距離空間$(X,d_X),(Y,d_Y)$の間の等長写像$f:X\to Y$は一様連続である.
実際,$r\in[0,\infty]$に対して
\begin{align*} \omega_f(r) &=\sup\{d_Y(f(x),f(x'))\mid x,x'\in X,\ d_X(x,x')\le r\} \\ &=\sup\{d_X(x,x')\mid x,x'\in X,\ d_X(x,x')\le r\} \\ &\le r \end{align*}
が成り立つから,$r\to +0$のとき$\omega_f(r)\to 0$である.

一様連続度の性質

距離空間$(X,d_X),(Y,d_Y)$の間の写像$f:X\to Y$およびその一様連続度$\omega_f:[0,\infty]\to[0,\infty]$について,次のことが成り立つ.

  • $\omega_f(0)=0$である.
  • $\omega_f$$[0,\infty]$上で単調増加である.
  • 任意の$x,x'\in X$に対して$d_Y(f(x),f(x'))\le \omega_f(d_X(x,x'))$が成り立つ.

(これらは$f$が一様連続でなくても成り立つ.)

1つ目:距離の非退化性から従う.
\begin{align*} \omega_f(0) &=\sup\{d_Y(f(x),f(x'))\mid x,x'\in X,\ d_X(x,x')\le 0\} \\ &=\sup\{d_Y(f(x),f(x))\mid x\in X\} =\sup\{0\}=0. \end{align*}
2つ目$0\le r\le s$のとき
\begin{align*} \omega_f(r) &=\sup\{d_Y(f(x),f(x'))\mid x,x'\in X,\ d_X(x,x')\le r\} \\ &\le \sup\{d_Y(f(x),f(x'))\mid x,x'\in X,\ d_X(x,x')\le s\}=\omega_f(s). \end{align*}
3つ目$x,x'\in X$を任意に取る.上限の定義より「$d_X(z,z')\le d_X(x,x')$を満たす任意の$z,z'\in X$に対して$d_Y(f(z),f(z'))\le \omega_f(d_X(x,x'))$が成り立つ」から,特に$(z,z')=(x,x')$のときを考えればよい.

一様連続写像は,Cauchy列をCauchy列にうつす.

距離空間$(X,d_X),(Y,d_Y)$の間の一様連続写像$f:X\to Y$,および$X$のCauchy列$\{x_n\}$について,$\{f(x_n)\}$$Y$のCauchy列である.

$\varepsilon>0$を任意に取ると,まず$\omega_f(r)\to 0\ (r\to +0)$より
$$ {}^\exists \delta>0,\ {}^\forall r\ge 0,\ [0< r<\delta\Rightarrow \omega_f(r)<\varepsilon]. $$
また$\{x_n\}$はCauchy列だから
$$ {}^\exists N\in\mathbb{N},\ {}^\forall m,n\in\mathbb{N},\ [m,n\ge N\Rightarrow d_X(x_m,x_n)<\delta]. $$
すると,$N$以上の任意の$m,n\in\mathbb{N}$に対して
$$ d_Y(f(x_m),f(x_n))\le \omega_f(d_X(x_m,x_n))<\varepsilon $$
が成り立つから,$\{f(x_n)\}$もCauchy列である.

一様連続写像は,一様連続性を保ったまま,その定義域を完備化へと一意的に拡張することができる.
(距離空間の完備化の定義・存在・一意性については,既にいくつか記事があるため,ここでは解説しない.)

距離空間の完備化の普遍性

$((\bar{X},\bar{d_X}),\iota)$を距離空間$(X,d_X)$の完備化とし,$(Y,d_Y)$を完備距離空間,$f:X\to Y$を一様連続写像とする.
このとき,$f=\bar{f}\circ\iota$を満たす一様連続写像$\bar{f}:\bar{X}\to Y$が一意に存在する.
$$ \xymatrix{ X \ar^{f}[r] \ar_{\iota}[d] & Y \\ \bar{X} \ar@{.>}_{{}^{\exists!}\bar{f}}[ur] }$$

STEP 0$\bar{f}$の構成とwell-defined性.
$\bar{x}\in \bar{X}$に対して,$\iota(x_n)\to \bar{x}$ in $\bar{X}$を満たす$X$の点列$\{x_n\}$を任意に取り
$$ \bar{f}(\bar{x}):=\lim_{n\to\infty}f(x_n) $$
と定める.
こうして定める写像$\bar{f}:\bar{X}\to Y$がwell-definedであることは次のように確かめられる.

  • $\{f(x_n)\}$の収束性$\{\iota(x_n)\}$$\bar{X}$のCauchy列であることと$\iota$の等長性から,$\{x_n\}$$X$のCauchy列である.すると$f$の一様連続性より$\{f(x_n)\}$$Y$のCauchy列であり,$Y$の完備性から$\{f(x_n)\}$$Y$の収束列となる.
  • 極限$\bar{f}(\bar{x})$$\{x_n\}$の取り方に依らないこと$X$の点列$\{x_n\},\{x_n'\}$$\iota(x_n)\to\bar{x}$かつ$\iota(x_n')\to\bar{x}$ in $\bar{X}$を満たすとする.このとき,上で述べたことより$\{f(x_n)\},\{f(x_n')\}$はそれぞれある元$y,y'\in Y$に収束する.また仮定より
    $$ d_X(x_n,x_n')=\bar{d_X}(\iota(x_n),\iota(x_n'))\le \bar{d_X}(\iota(x_n),\bar{x})+\bar{d_X}(\iota(x_n'),\bar{x})\to 0 $$
    が成り立つから,$y=y'$であることが次のように示せる:
    \begin{align*} d_Y(y,y') &\le d_Y(y,f(x_n))+d_Y(f(x_n),f(x_n'))+d_Y(f(x_n'),y') \\ &\le d_Y(y,f(x_n))+\omega_f(d_X(x_n,x_n'))+d_Y(f(x_n'),y') \to 0. \end{align*}

STEP 1$f=\bar{f}\circ {\iota}$が成り立つこと.
$\bar{f}$の定義より,任意の$x\in X$に対して
$$ f(x)=\lim_{n\to\infty}f(x)=\bar{f}(\iota(x)) $$
が成り立つから,$f=\bar{f}\circ{\iota}$である.

STEP 2$\bar{f}$の一様連続性.

$r\in(0,\infty)$および$\bar{d_X}(\bar{x},\bar{x}')\le r$を満たす$\bar{x},\bar{x}'\in\bar{X}$を任意に取る.このとき$\iota(X)$の稠密性より
$$ \bar{d_X}(\iota(x_n),\bar{x})<\frac{r}{n}\quad\text{かつ}\quad \bar{d_X}(\iota(x_n'),\bar{x}')<\frac{r}{n} $$
を満たす$X$の点列$\{x_n\},\{x_n'\}$が取れるから,$\bar{f}$の定義より$f(x_n)\to \bar{f}(\bar{x})$かつ$f(x_n')\to\bar{f}(\bar{x}')$ in $Y$であることにも注意すれば
\begin{align*} d_Y(\bar{f}(\bar{x}),\bar{f}(\bar{x}')) &\le d_Y(\bar{f}(\bar{x}),f(x_n))+d_Y(f(x_n),f(x_n'))+d_Y(f(x_n'),\bar{f}(\bar{x}')) \\ &\le d_Y(\bar{f}(\bar{x}),f(x_n))+\omega_f(d_X(x_n,x_n'))+d_Y(f(x_n'),\bar{f}(\bar{x}')) \\ &\le d_Y(\bar{f}(\bar{x}),f(x_n))+\omega_f(\bar{d_X}(\iota(x_n),\bar{x})+\bar{d_X}(\bar{x},\bar{x}')+\bar{d_X}(\bar{x}',\iota(x_n')))+d_Y(f(x_n'),\bar{f}(\bar{x}')) \\ &\le d_Y(\bar{f}(\bar{x}),f(x_n))+\omega_f(3r)+d_Y(f(x_n'),\bar{f}(\bar{x}')) \\ &\to \omega_f(3r) \qquad (n\to\infty), \end{align*}
つまり$\omega_{\bar{f}}(r)\le \omega_{f}(3r)$を得る.ここで$r\to +0$とすれば,$f$の一様連続性より$\omega_{\bar{f}}(r)\to 0$となるから$\bar{f}$も一様連続である.

STEP 3$\bar{f}$の一意性.

一様連続写像$g:\bar{X}\to Y$$f=g\circ{\iota}$を満たすとし,$\bar{x}\in\bar{X}$および$\iota_X(x_n)\to \bar{x}$ in $\bar{X}$を満たす$X$の点列$\{x_n\}$を任意に取ると
$$ d_Y(g(\iota(x_n)),g(\bar{x}))\le\omega_g(\bar{d_X}(\iota(x_n),\bar{x}))\to 0, $$
つまり$g(\iota(x_n))\to g(\bar{x})$ in $Y$が成り立つから
$$ \bar{f}(\bar{x})=\lim_{n\to\infty}f(x_n)=\lim_{n\to\infty}g(\iota(x_n))=g(\bar{x}) $$
である.したがって一意性$\bar{f}=g$も示された.

途中で示した不等式$\omega_{\bar{f}}(r)\le \omega_{f}(3r)$から,もし$f$$\alpha$-Holder連続であれば,$\bar{f}$$\alpha$-Holder連続であることが示せる.
また証明を少し改良することによって,任意の$\varepsilon\in (0,\infty)$に対して
$$ \omega_{\bar{f}}(r)\le \omega_{f}(r+\varepsilon)$$
が成り立つこともわかる.

$((\bar{X},\bar{d_X}),\iota_X),((\bar{Y},\bar{d_Y}),\iota_Y)$をそれぞれ距離空間$(X,d_X),(Y,d_Y)$の完備化とし,$f:X\to Y$を一様連続写像とする.
このとき,${\iota_Y}\circ f=\bar{f}\circ\iota_X$を満たす一様連続写像$\bar{f}:\bar{X}\to \bar{Y}$が一意に存在する.
$$ \xymatrix{ X \ar^{f}[r] \ar_{\iota_X}[d] & Y \ar^{\iota_Y}[d] \\ \bar{X} \ar@{.>}_{{}^{\exists!}\bar{f}}[r] & \bar{Y} }$$

一様連続写像${\iota_Y}\circ f:X\to\bar{Y}$に対して前命題を適用すればよい.

ノルム空間の完備化

ノルム空間$V,W$に対して,$V$から$W$への有界線形作用素全体のなす線形空間を$B(V,W)$と書く.
$B(V,W)$は,次の作用素ノルムでノルム空間となる.
$$ \|f\|_{B(V,W)}:=\sup\{\|f(v)\|_W\mid v\in V,\ \|v\|_{V}\le 1\} \qquad (f\in B(V,W)). $$
特に$V^{\ast}:=B(V,K)$$V$の双対空間という.

有界線形作用素は一様連続

$f\in B(V,W)$$r\ge 0$に対して
\begin{align*} \omega_f(r) &=\sup\{\|f(v)-f(v')\|_W\mid v,v'\in V,\ \|v-v'\|_V\le r\} \\ &\le \sup\{\|f\|_{B(V,W)}\cdot\|v-v'\|_V\mid v,v'\in V,\ \|v-v'\|_V\le r\} \\ &=\|f\|_{B(V,W)}\cdot r \end{align*}
が成り立つから,$f$は一様連続(特にLipschitz連続)である.

ノルム空間の完備化には,距離空間としての完備化であることに加えて,等長埋め込み$\iota$の線形性を要請する.

ノルム空間の完備化

ノルム空間$(V,\|\cdot\|_{V})$完備化とは,Banach空間$(\bar{V},\|\cdot\|_{\bar{V}})$と等長線形写像$\iota:V\to\bar{V}$の組$((\bar{V},\|\cdot\|_{\bar{V}}),\iota)$であって,像$\iota(V)$$\bar{V}$の稠密部分集合となるもののことをいう.

ノルム空間$V$の距離空間としての完備化$\bar{V}$は(定義だけ見るとただの完備距離空間だが)実はBanach空間になる.

ノルム空間の完備化の存在

ノルム空間$(V,\|\cdot\|)$の距離空間としての完備化を$((\bar{V},\bar{d}),\iota)$とする.
このとき,$\bar{V}$は次の和とスカラー倍によって線形空間となる:$\bar{v},\bar{w}\in\bar{V}$$\lambda\in K$に対して,$\iota(v_n)\to\bar{v}$かつ$\iota(w_n)\to\bar{w}$ in $\bar{V}$を満たす$V$の点列$\{v_n\},\{w_n\}$を取って
$$ \bar{v}+\bar{w}:=\lim_{n\to\infty}\iota(v_n+w_n),\qquad \lambda\bar{v}:=\lim_{n\to\infty}\iota(\lambda v_n) $$
とする(この定義から,明らかに$\iota:V\to\bar{V}$は線形写像となる).
さらに写像$\|\cdot\|_{\bar{V}}:\bar{V}\to[0,\infty)$
$$ \|\bar{v}\|_{\bar{V}}:=\bar{d}(\bar{v},\iota(0_V)) \qquad (\bar{v}\in\bar{V}) $$
で定めると,$((\bar{V},\|\cdot\|_{\bar{V}}),\iota)$$(V,\|\cdot\|)$のノルム空間としての完備化であり,次式が成り立つ:
$$ \bar{d}(\bar{v},\bar{w})=\|\bar{v}-\bar{w}\|_{\bar{V}} \qquad (\bar{v},\bar{w}\in\bar{V}). $$

Step 1:和とスカラー倍がwell-definedであること.
$\iota(v_n),\iota(v_n')\to\bar{v}$かつ$\iota(w_n),\iota(w_n')\to\bar{w}$ in $\bar{V}$を満たす$V$の点列$\{v_n\},\{v_n'\},\{w_n\},\{w_n'\}$を任意に取ると,これらは$V$のCauchy列である.
すると$\iota$の等長性より$\{\iota(v_n+w_n)\},\{\iota(\lambda v_n)\},\{\iota(v_n'+w_n')\},\{\iota(\lambda v_n')\}$はすべて$\bar{V}$のCauchy列となり,$\bar{V}$の完備性よりそれぞれある元$\bar{u}_1,\bar{u}_2,\bar{u}_1',\bar{u}_2'\in\bar{V}$に収束する.
このとき
\begin{align*} \bar{d}(\bar{u}_1,\bar{u}_1') &\le \bar{d}(\bar{u}_1,\iota(v_n+w_n))+\bar{d}(\iota(v_n+w_n),\iota(v_n'+w_n'))+\bar{d}(\iota(v_n'+w_n'),\bar{u}_1') \\ &=\bar{d}(\bar{u}_1,\iota(v_n+w_n))+\|(v_n+w_n)-(v_n'+w_n')\|_{V}+\bar{d}(\iota(v_n'+w_n'),\bar{u}_1') \\ &\le \bar{d}(\bar{u}_1,\iota(v_n+w_n))+\|v_n-v_n'\|_{V}+\|w_n-w_n'\|_{V}+\bar{d}(\iota(v_n'+w_n'),\bar{u}_1') \\ &=\bar{d}(\bar{u}_1,\iota(v_n+w_n))+\bar{d}(\iota(v_n),\iota(v_n'))+\bar{d}(\iota(w_n),\iota(w_n'))+\bar{d}(\iota(v_n'+w_n'),\bar{u}_1') \\ &\to 0 \qquad (n\to\infty),\\ \bar{d}(\bar{u}_2,\bar{u}_2') &\le \bar{d}(\bar{u}_2,\iota(\lambda v_n))+\bar{d}(\iota(\lambda v_n),\iota(\lambda v_n'))+\bar{d}(\iota(\lambda v_n'),\bar{u}_2') \\ &=\bar{d}(\bar{u}_2,\iota(\lambda v_n))+\|\lambda v_n-\lambda v_n'\|_{V}+\bar{d}(\iota(\lambda v_n'),\bar{u}_2') \\ &=\bar{d}(\bar{u}_2,\iota(\lambda v_n))+|\lambda|\cdot\|v_n-v_n'\|_{V}+\bar{d}(\iota(\lambda v_n'),\bar{u}_2') \\ &=\bar{d}(\bar{u}_2,\iota(\lambda v_n))+|\lambda|\cdot\bar{d}(\iota(v_n)\iota(v_n'))+\bar{d}(\iota(\lambda v_n'),\bar{u}_2') \\ &\to 0 \qquad (n\to\infty) \end{align*}
だから,$\bar{u}_1=\bar{u}_1'$かつ$\bar{u}_2=\bar{u}_2'$が示され,$\bar{V}$の和とスカラー倍はwell-definedである.

Step 2$\bar{V}$が線形空間となること.
$\bar{u},\bar{v},\bar{w}\in\bar{V}$$\lambda,\mu\in K$,および$\iota(u_n)\to\bar{u}$かつ$\iota(v_n)\to\bar{v}$かつ$\iota(w_n)\to\bar{w}$ in $\bar{V}$を満たす$V$の点列$\{u_n\},\{v_n\},\{w_n\}$を任意に取る.
このとき和とスカラー倍の定義より
\begin{align*} (\bar{u}+\bar{v})+\bar{w} &=\lim_{n\to\infty}\iota((u_n+v_n)+w_n) =\lim_{n\to\infty}\iota(u_n+(v_n+w_n)) =\bar{u}+(\bar{v}+\bar{w}), \\ \bar{u}+\iota(0_V) &=\lim_{n\to\infty}\iota(u_n+0_V) =\lim_{n\to\infty}\iota(u_n)=\bar{u}, \\ \bar{u}+(-1)\bar{u} &=\lim_{n\to\infty}\iota(u_n+(-1)u_n) =\lim_{n\to\infty}\iota(0_V)=\iota(0_V),\\ \bar{u}+\bar{v} &=\lim_{n\to\infty}\iota(u_n+v_n) =\lim_{n\to\infty}\iota(v_n+u_n) =\bar{v}+\bar{u}, \\ \lambda(\mu\bar{u}) &=\lim_{n\to\infty}\iota(\lambda(\mu u_n)) =\lim_{n\to\infty}\iota((\lambda\mu)u_n) =(\lambda\mu)\bar{u}, \\ \lambda(u_n+v_n) &=\lim_{n\to\infty}\iota(\lambda(u_n+v_n)) =\lim_{n\to\infty}\iota(\lambda u_n+\lambda v_n) =\lambda\bar{u}+\lambda\bar{v}, \\ (\lambda+\mu)\bar{u} &=\lim_{n\to\infty}\iota((\lambda+\mu)u_n) =\lim_{n\to\infty}\iota(\lambda u_n+\mu u_n) =\lambda\bar{u}+\mu\bar{u}, \\ 1\bar{u} &=\lim_{n\to\infty}\iota(1u_n) =\lim_{n\to\infty}\iota(u_n) =\bar{u} \end{align*}
が成り立つから,$\bar{V}$は線形空間である.

Step 3$\|\cdot\|_{\bar{V}}$がノルムであること.
$\bar{u},\bar{v}\in\bar{V}$$\lambda\in K$,および$\iota(u_n)\to\bar{u}$かつ$\iota(v_n)\to\bar{v}$ in $\bar{V}$を満たす$V$の点列$\{u_n\},\{v_n\}$を任意に取ると
\begin{align*} d(\lambda u_n,0_V)=\|\lambda u_n\|_{V}&=|\lambda|\cdot\|u_n\|_{V}=|\lambda|\cdot d(u_n,0_V), \\ d(u_n+v_n,0_V)=\|u_n+v_n\|_{V}&\le \|u_n\|_{V}+\|v_n\|_{V}=d(u_n,0_V)+d(v_n,0_V) \end{align*}
が成り立つから,$n\to\infty$とすれば
\begin{align*} \|\lambda\bar{u}\|_{\bar{V}}=\bar{d}(\iota(\lambda \bar{u}),\iota(0_V))&=|\lambda|\cdot \bar{d}(\bar{u},\iota(0_V))=|\lambda|\cdot\|\bar{u}\|_{\bar{V}}, \\ \|\bar{u}+\bar{v}\|_{\bar{V}}=\bar{d}(\bar{u}+\bar{v},\iota(0_V))&\le \bar{d}(\bar{u},\iota(0_V))+\bar{d}(\bar{v},\iota(0_V))=\|\bar{u}\|_{\bar{V}}+\|\bar{v}\|_{\bar{V}} \end{align*}
を得る.また,$\bar{w}\in\bar{V}$に対して
$$ \|\bar{w}\|_{\bar{V}}=0\iff\bar{d}(\bar{w},\iota(0_V))=0\iff \bar{w}=\iota(0_V) $$
が成り立つから,$\|\cdot\|_{\bar{V}}$$\bar{V}$上のノルムである.

Step 4$\bar{d}(\bar{v},\bar{w})=\|\bar{v}-\bar{w}\|_{\bar{V}}$が成り立つこと.
$\iota(v_n)\to\bar{v}$かつ$\iota(w_n)\to\bar{w}$ in $\bar{V}$を満たす$V$の点列$\{v_n\},\{w_n\}$を任意に取れば,和の定義より$\iota(v_n-w_n)\to \bar{v}-\bar{w}$ in $\bar{V}$が成り立つから
\begin{align*} \bar{d}(\bar{v},\bar{w}) &=\lim_{n\to\infty}d(v_n,w_n) =\lim_{n\to\infty}d(v_n-w_n,0) =\bar{d}(\bar{v}-\bar{w},\iota(0)) =\|\bar{v}-\bar{w}\|_{\bar{V}}. \end{align*}
よって$\|\cdot\|_{\bar{V}}$が誘導する距離は完備な距離$\bar{d}$だから,$\bar{V}$はBanach空間である.

距離空間と同様に,ノルム空間の完備化も次の意味で一意に定まる.

ノルム空間の完備化の一意性

ノルム空間$(V,\|\cdot\|_V)$が2つの完備化$((\bar{V},\|\cdot\|_{\bar{V}}),\iota),((\hat{V},\|\cdot\|_{\hat{V}}),\iota')$をもつとき,$\Phi\circ\iota=\iota'$を満たす等長な線形同型写像$\Phi:\bar{V}\to \hat{V}$がただ一つ存在する.
$$ \xymatrix{ & & \bar{V} \ar@{.>}^{{}^{\exists!}\Phi}[dd] \\ V \ar^{\iota}[urr]\ar_{\iota'}[drr] & \circlearrowright & \\ & & \hat{V} }$$

距離空間の完備化の一意性より,$\Phi\circ\iota=\iota'$を満たす等長同型写像$\Phi:\bar{V}\to \hat{V}$がただ一つ存在する.この$\Phi$が線形であることを示そう.
$\bar{u},\bar{v}\in\bar{V}$$\lambda\in K$,および$\iota(u_n)\to\bar{u}$かつ$\iota(v_n)\to\bar{v}$ in $\bar{V}$を満たす$V$の点列$\{u_n\},\{v_n\}$を任意に取る.
このとき$\Phi\circ\iota=\iota'$から
$$ \Phi(\bar{u})=\lim_{n\to\infty}\iota'(u_n) $$
等が成り立つことに注意すると,$\iota'$の線形性より
\begin{align*} \Phi(\bar{u}+\lambda\bar{v}) &=\lim_{n\to\infty}\iota'(u_n+\lambda v_n) \\ &=\lim_{n\to\infty}\iota'(u_n)+\lambda\lim_{n\to\infty}\iota'(v_n) \\ &=\Phi(\bar{u})+\lambda\Phi(\bar{v}) \end{align*}
となる.

一様連続写像の定義域を完備化へと一意的に拡張できたのと同様に,有界線形作用素の定義域も完備化へと一意的に拡張することができる.

BLT定理(ノルム空間の完備化の普遍性)

$((\bar{V},\|\cdot\|_{\bar{V}}),\iota)$をノルム空間$(V,\|\cdot\|_V)$の完備化とし,$(W,\|\cdot\|_W)$をBanach空間,$f:V\to W$を有界線形作用素とする.
このとき,$f=\bar{f}\circ\iota$を満たす有界線形作用素$\bar{f}:\bar{V}\to W$が一意に存在する.
さらに,この対応$B(V,W)\ni f\mapsto\bar{f}\in B(\bar{V},W)$は等長かつ線形同型である.
$$ \xymatrix{ V \ar^{f}[r] \ar_{\iota}[d] & W \\ \bar{V} \ar@{.>}_{{}^{\exists!}\bar{f}}[ur] }$$

$f=\bar{f}\circ\iota$を満たす一様連続写像$\bar{f}:\bar{V}\to W$が一意に存在することは既に示したから,この$\bar{f}$が線形であることをまず示そう.

Step 1$\bar{f}$の線形性.
$\bar{u},\bar{v}\in\bar{V}$$\lambda \in K$,および$\iota(u_n)\to \bar{u}$かつ$\iota(v_n)\to\bar{v}$ in $\bar{V}$を満たす$V$の点列$\{u_n\},\{v_n\}$を任意に取る.このとき$\bar{f}$の構成を思い出すと
\begin{align*} \bar{f}(\bar{u}+\lambda\bar{v}) &=\lim_{n\to\infty}f(u_n+\lambda v_n) \\ &=\lim_{n\to\infty}f(u_n)+\lambda\lim_{n\to\infty}f(v_n) \\ &=\bar{f}(\bar{u})+\lambda\bar{f}(\bar{v}). \end{align*}

次に,対応$f\mapsto\bar{f}$の等長性・線形性・全射性を示す.

Step 2:等長性$\|f\|_{B(V,W)}=\|\bar{f}\|_{B(\bar{V},\bar{W})}$
$$ \|f\|_{B(V,W)} =\|\bar{f}\circ{\iota_V}\|_{B(V,W)} \le \|\bar{f}\|_{B(\bar{V},W)}\cdot\|\iota\|_{B(V,\bar{V})} =\|\bar{f}\|_{B(\bar{V},W)}, $$
つまり$\|f\|_{B(V,W)}\le \|\bar{f}\|_{B(\bar{V},\bar{W})}$は成り立つ.逆向きの不等式を示すために,$\|\bar{v}\|_{\bar{V}}\le 1$を満たす$\bar{v}\in\bar{V}$,および$\iota(v_n)\to\bar{v}$ in $\bar{V}$を満たす$V$の点列$\{v_n\}$を任意に取ると,
$$ \|\bar{f}(\bar{v})\|_{W} =\lim_{n\to\infty}\|f(v_n)\|_W \le \|f\|_{B(V,W)}\cdot\limsup_{n\to\infty}\|v_n\|_V \le \|f\|_{B(V,W)} $$
が成り立つから,$\|f\|_{B(V,W)}$$\{\|\bar{f}(\bar{v})\|_{W}\mid \bar{v}\in \bar{V},\ \|\bar{v}\|_{\bar{V}}\le 1\}$の上界である.よって作用素ノルム$\|\bar{f}\|_{B(\bar{V},W)}$の定義から$\|f\|_{B(V,W)}\ge \|\bar{f}\|_{B(\bar{V},W)}$も示された.

Step 3:線形性$\overline{f+\lambda g}=\bar{f}+\lambda\bar{g}$
$f,g\in B(V,W)$$\lambda\in K$を任意に取ると,既に示した通り$\bar{f},\bar{g}\in B(\bar{V},W)$$f=\bar{f}\circ\iota$かつ$g=\bar{g}\circ\iota$を満たす.
すると
$$ f+\lambda g =\bar{f}\circ\iota+\lambda\cdot\bar{g}\circ\iota =(\bar{f}+\lambda\bar{g})\circ\iota $$
が成り立ち,$\bar{f}+\lambda\bar{g}\in B(\bar{V},W)$でもあるから$\overline{f+\lambda g}=\bar{f}+\lambda\bar{g}$を得る.

Step 4:全射性.
任意の$g\in B(\bar{V},W)$に対して,$\overline{g\circ\iota}=g$である.

特にノルム空間$V$の双対空間は,完備化$\bar{V}$の双対空間と等長線形同型である.

$((\bar{V},\|\cdot\|_{\bar{V}}),\iota)$をノルム空間$(V,\|\cdot\|_{V})$の完備化とし,$f\in V^{\ast}$とする.
このとき,$f=\bar{f}\circ{\iota}$を満たす$\bar{f}\in (\bar{V})^{\ast}$が一意に存在する.
また,この対応$V^{\ast}\ni f\mapsto \bar{f}\in (\bar{V})^{\ast}$は等長かつ線形同型である.
$$ \xymatrix{ V \ar^{f}[r] \ar_{\iota}[d] & K \\ \bar{V} \ar@{.>}_{{}^{\exists!}\bar{f}}[ur] }$$

$(K,|\cdot|)$がBanach空間であることに注意してBLT定理を使えばよい.

$((\bar{V},\|\cdot\|_{\bar{V}}),\iota_V),((\bar{W},\|\cdot\|_{\bar{W}}),\iota_W)$をそれぞれノルム空間$(V,\|\cdot\|_V),(W,\|\cdot\|_W)$の完備化とし,$f:V\to W$を有界線形作用素とする.
このとき,${\iota_W}\circ f=\bar{f}\circ{\iota_V}$を満たす有界線形作用素$\bar{f}:\bar{V}\to \bar{W}$が一意に存在する.
さらに,この対応$B(V,W)\ni f\mapsto\bar{f}\in B(\bar{V},\bar{W})$は等長作用素である.
$$ \xymatrix{ V \ar^{f}[r] \ar_{\iota_V}[d] & W \ar^{\iota_W}[d] \\ \bar{V} \ar@{.>}_{{}^{\exists!}\bar{f}}[r] & \bar{W} }$$

有界線形作用素${\iota_W}\circ f:V\to\bar{W}$に対してBLT定理を適用すれば,${\iota_W}\circ f=\bar{f}\circ{\iota_V}$を満たす有界線形作用素$\bar{f}:\bar{V}\to \bar{W}$が一意に存在して
$$ \|\bar{f}\|_{B(\bar{V},\bar{W})}=\|{\iota_W}\circ f\|_{B(V,\bar{W})}\le \|\iota_W\|_{B(W,\bar{W})}\|f\|_{B(V,W)}=\|f\|_{B(V,W)},$$
つまり$\|\bar{f}\|_{B(\bar{V},\bar{W})}\le \|f\|_{B(V,W))}$を満たすことはわかる.逆向きの不等式を示すため,$\varepsilon\in(0,\infty)$を任意に取ると,$\|f\|_{B(V,W)}$の定義から
$$ \|f\|_{B(V,W)}-\varepsilon<\|f(v_\varepsilon)\|_W \quad\text{かつ}\quad \|v_\varepsilon\|_V=1$$
を満たす点$v_\varepsilon\in V$が取れる.このとき
\begin{align*} \|f\|_{B(V,W)}-\varepsilon &<\|f(v_\varepsilon)\|_W \\ &=\|\iota_W(f(v_\varepsilon))\|_{\bar{W}} \\ &=\|\bar{f}(\iota_V(v_\varepsilon))\|_{\bar{W}} \\ &\le\|\bar{f}\|_{B(\bar{V},\bar{W})}\|\iota_V(v_\varepsilon)\|_{\bar{V}} \\ &=\|\bar{f}\|_{B(\bar{V},\bar{W})}\|v_\varepsilon\|_V \\ &=\|\bar{f}\|_{B(\bar{V},\bar{W})} \end{align*}
より$\|f\|_{B(V,W)}-\varepsilon\le \|\bar{f}\|_{B(\bar{V},\bar{W})}$が成り立ち,$\varepsilon$の任意性から$\|f\|_{B(V,W)}\le \|\bar{f}\|_{B(\bar{V},\bar{W})}$を得る.したがって$\|f\|_{B(V,W)}=\|\bar{f}\|_{B(\bar{V},\bar{W})}$が示された.(対応$f\mapsto \bar{f}$の線形性はBLT定理と同様に簡単に確かめられる)

内積空間の完備化

内積空間を完備化すると,Hilbert空間になる.

内積空間の完備化の存在

内積空間$V$のノルム空間としての完備化を$((\bar{V},\|\cdot\|_{\bar{V}}),\iota)$とする.このとき,$\bar{V}$上の内積$\langle\cdot,\cdot\rangle_{\bar{V}}:\bar{V}\times\bar{V}\to K$
$$ \langle \bar{v},\bar{v}\rangle_{\bar{V}}=\|\bar{v}\|_{\bar{V}}^2 \qquad ({}^\forall \bar{v}\in \bar{V}) $$
を満たすものが存在する.

以前示したので略.

結論

冒頭の疑問への解答

内積空間$V$の双対空間$V^{\ast}$はHilbert空間である.

$V$の完備化を$((\bar{V},\|\cdot\|_{\bar{V}}),\iota)$とおくと,$\bar{V}$はHilbert空間だから,Rieszの表現定理より$(\bar{V})^{\ast}$もHilbert空間である.また,BLT定理より$V^{\ast}\ni f\mapsto \bar{f} \in (\bar{V})^{\ast}$は等長線形同型だから,$(\bar{V})^{\ast}$の中線定理
$$ \|\bar{f}+\bar{g}\|_{(\bar{V})^{\ast}}^2+\|\bar{f}-\bar{g}\|_{(\bar{V})^{\ast}}^2=2(\|\bar{f}\|_{(\bar{V})^{\ast}}^2+\|\bar{g}\|_{(\bar{V})^{\ast}}^2) $$
から$V^{\ast}$の中線定理
$$ \|f+g\|_{V^{\ast}}^2+\|f-g\|_{V^{\ast}}^2=2(\|f\|_{V^{\ast}}^2+\|g\|_{V^{\ast}}^2) $$
が導かれる.
$$ \xymatrix{ V \ar_{\iota}[d] & V^{\ast} \ar^{\text{BLT}}[d]\ar_{\wr}[d] \\ \bar{V} \ar_{\text{Riesz}}[r]\ar^{\sim}[r] & (\bar{V})^{\ast} }$$

参考文献

投稿日:2023411
OptHub AI Competition

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