距離空間の間の写像については,連続性というものを考えることができました.
本記事では,写像の連続性の”度合い”を測ることができる「連続度」という概念を紹介します.
(人によっては「連続率」など別の呼び方をすることもあるようです.)
正確な定義は後述しますが,大雑把に言えば,写像$f:X\to Y$の連続度とは「2点$x,x'\in X$の近さ」に対して「2点$f(x),f(x')\in Y$の近さ」を返すような写像$\omega:[0,\infty]\to[0,\infty]$のことです.
連続度$\omega$は "$\varepsilon$-$\delta$論法の$\delta$に対して$\varepsilon$を対応させる写像" と思えばよいかもしれません.実際, 英語版Wikipedia には
In general, the role of $\omega$ is to fix some explicit functional dependence of $\varepsilon$ on $\delta$ in the $(\varepsilon,\delta)$ definition of uniform continuity.という記述があります.
$f$の連続性は「$x$と$x'$が十分近ければ,$f(x)$と$f(x')$は限りなく近づく」のように説明されることがありますが,この素朴な表現を連続度の性質に翻訳した
$$ \lim_{\delta\to +0}\omega(\delta)=0$$
という条件は実際に$f$の連続性を特徴づけます.
また,$f$の連続度の値が小さいほど2点$f(x),f(x')$が近くなりやすいと考えられるので,2つの写像$f,g:X\to Y$に対してそれらの連続度の値の大小を比較することで,$f,g$どちらの連続性がより強いかを考えることが可能です.
悲しいことに日本語版Wikipediaには連続度のページがないので,
英語版Wikipedia
の記述を参考にいくつかの事実を証明付きで述べたいと思います.
Wikipediaの方には本記事で扱えなかった性質もいろいろ書いてあるので,ぜひそちらも読んでみてください.
連続度 (modulus of continuity) とは,写像$\omega:[0,\infty]\to[0,\infty]$であって,次の3条件を満たすもののことをいう.
連続度のグラフ$y=\omega(x)$の例
(必ずしも連続とは限らない)
連続度の定義のうち「$\delta\to +0$のとき$\omega(\delta)\to 0$である.」は,極限の定義から
と表せるが,$\omega$の単調増加性から,より簡単な条件
で置き換えることができる.
次に,連続度$\omega$に対して$\omega$-連続性を定義する.
$(X,d_X),(Y,d_Y)$を距離空間,$\omega\in\mathcal{M}$とし,写像$f:X\to Y$を考える.
すぐわかるように,$\omega$-連続写像は連続である.
逆に,連続写像には,それに対応する連続度が存在する.
$(X,d_X),(Y,d_Y)$を距離空間,$x\in X$とし,写像$f:X\to Y$を考える.このとき,次の2条件は同値である.
写像$\omega_{f,x}:[0,\infty]\to[0,\infty]$を$$ \omega_{f,x}(\delta):=\sup\{d_Y(f(x),f(x'))\mid x'\in X,\ d_X(x,x')\le\delta\} \qquad (\delta\in[0,\infty]) $$で定め,$\omega_{f,x}\in\mathcal{M}$かつ$f$が$x$において$\omega_{f,x}$-連続であることを示す.
$\varepsilon\in(0,\infty)$を任意に取る.このとき$\displaystyle\lim_{\delta\to +0}\omega(\delta)=0$であることから$\omega(\delta)\le \varepsilon$を満たす$\delta\in(0,\infty)$が取れて,$d_X(x,x')\le \delta$を満たす任意の$x'\in X$に対して$$ d_Y(f(x),f(x'))\le \omega(d_X(x,x'))\le \omega(\delta)\le\varepsilon $$が成り立つ.したがって,$f$は$x$において連続であることが示された.
一方で,「$f$が($X$の任意の点において)連続であること」と「ある連続度$\omega\in\mathcal{M}$が存在して,$f$が($X$の任意の点において)$\omega$-連続であること」は同値ではない.
これらの条件は,上の命題を踏まえるとそれぞれ次のように言い換えられる:
$f$が連続である
$\iff$ 任意の$x\in X$に対して,ある連続度$\omega_x\in\mathcal{M}$が存在して,$f$は$x$において$\omega_x$-連続である
ある連続度$\omega\in\mathcal{M}$が存在して,$f$が$\omega$-連続である
$\iff$ ある連続度$\omega\in\mathcal{M}$が存在して,任意の$x\in X$に対して,$f$は$x$において$\omega$-連続である
が,連続度が点$x\in X$に依存するかどうかの違いがあるからである(前者は各$x$に対して別々の連続度を取ることができるのに対して,後者はすべての$x$に共通な連続度の存在を要請している).
このことから推測されるように,後者の条件に対応するのは,単なる連続性ではなく一様連続性である.
$(X,d_X),(Y,d_Y)$を距離空間とし,写像$f:X\to Y$を考える.このとき,次の2条件は同値である.
写像$\omega_{f}:[0,\infty]\to[0,\infty]$を
$$ \omega_{f}(\delta):=\sup\{d_Y(f(x),f(x'))\mid x,x'\in X,\ d_X(x,x')\le\delta\} \qquad (\delta\in[0,\infty]) $$
で定め,$\omega_{f}\in\mathcal{M}$かつ$f$が$\omega_{f}$-連続であることを示す.
$\varepsilon\in(0,\infty)$を任意に取る.このとき$\displaystyle\lim_{\delta\to +0}\omega(\delta)=0$であることから$\omega(\delta)\le \varepsilon$を満たす$\delta\in(0,\infty)$が取れて,$d_X(x,x')\le \delta$を満たす任意の$x,x'\in X$に対して
$$ d_Y(f(x),f(x'))\le \omega(d_X(x,x'))\le \omega(\delta)\le\varepsilon $$
が成り立つ.したがって,$f$は一様連続であることが示された.
上の2つの証明で構成した写像$\omega_{f,x}$と$\omega_{f}$については,また後で少し触れる.
一様連続写像には対応する連続度が存在するが,連続度の満たす性質によって,一様連続写像をさらに細かく分類することができる.
$(X,d_X),(Y,d_Y)$を距離空間,$\alpha\in(0,1]$とし,$\omega^{(\alpha)}\in\mathcal{M}$を
$$ \omega^{(\alpha)}(\delta):=\delta^\alpha \qquad (\delta\in[0,\infty]) $$
で定める.
定義から明らかに,ヘルダー連続写像やリプシッツ連続写像は一様連続でもある.
ヘルダー連続性やリプシッツ連続性も興味深い話題ではあるが,本記事では割愛する.
次の性質は,「連続度の値の小ささ」が「写像の連続性の強さ」に対応していることを表している.
$(X,d_X),(Y,d_Y)$を距離空間,$x\in X$とし,連続度$\omega_1,\omega_2\in\mathcal{M}$は任意の$\delta\in[0,\infty]$に対して
$$ \omega_1(\delta)\le\omega_2(\delta) $$
を満たすとする.このとき,写像$f:X\to Y$が$x$において$\omega_1$-連続であれば,$f$は$x$において$\omega_2$-連続でもある.
$x'\in X$を任意に取ると,$f$の$x$における$\omega_1$-連続性などから
$$ d_Y(f(x),f(x'))\le \omega_1(d_X(x,x'))\le \omega_2(d_X(x,x')) $$
が成り立つ.したがって,$f$は$x$において$\omega_2$-連続である.
$(X,d_X),(Y,d_Y),(Z,d_Z)$を距離空間,$x\in X$,$\omega_1,\omega_2\in\mathcal{M}$とする.このとき,写像$f:X\to Y$が$x$において$\omega_1$-連続で,かつ写像$g:Y\to Z$が$f(x)$において$\omega_2$-連続であれば,合成写像$g\circ f$は$x$において${\omega_2}\circ{\omega_1}$-連続である.
$x'\in X$を任意に取ると
\begin{align*}
d_Z((g\circ f)(x),(g\circ f)(x'))
&=d_Z(g(f(x)),g(f(x'))) \\
&\le \omega_2(d_Y(f(x),f(x'))) \\
&\le \omega_2(\omega_1(d_X(x,x'))) \\
&=({\omega_2}\circ{\omega_1})(d_X(x,x'))
\end{align*}
が成り立つから,$g\circ f$は$x$において${\omega_2}\circ{\omega_1}$-連続である.
$K\in\{\mathbb{R},\mathbb{C}\}$とし,$(X,d_X)$を距離空間,$(W,\|\cdot\|_W)$を$K$-ノルム空間とする.このとき,次のことが成り立つ.
任意の$x'\in X$に対して
\begin{align*}
\|(af+bg)(x)-(af+bg)(x')\|_W
&=\|a(f(x)-f(x'))+b(g(x)-g(x'))\|_W \\
&\le |a|\|f(x)-f(x')\|_W+|b|\|g(x)-g(x')\|_W \\
&\le |a|\omega_1(d_X(x,x'))+|b|\omega_2(d_X(x,x'))\\
&=(|a|\omega_1+|b|\omega_2)(d_X(x,x'))
\end{align*}
が成り立つから,$af+bg$は$|a|\omega_1+|b|\omega_2$-連続である.
任意の$f,g\in C_{x,\omega}(X,W)$と$t\in[0,1]$に対して,(1)より$(1-t)f+tg$も$x$において$\omega$-連続となるから,$C_{x,\omega}(X,W)$は凸集合である.すると「凸集合の族の共通部分は凸集合である」という事実(参考:凸集合と基本性質)と次の等式
$$ C_{\omega}(X,W)=\bigcap_{x\in X}C_{x,\omega}(X,W) $$
から,$C_{\omega}(X,W)$の凸性も従う.
まず注意として,$[{\cdot}]_{x,\omega},[{\cdot}]_\omega$の定義式の中にある$\inf$は$\min$で置き換えてよい.
$f\in C_{[0,\infty)\omega}(X,W)$が$[f]_{\omega}\omega$-連続であることを確かめればよい(各点における議論も同様).
$[f]_\omega$の定義から$f\in C_{L\omega}(X,W)$を満たす$L\in[[f]_\omega,[f]_\omega+1)$が存在するが,このとき任意の$\delta\in[0,\infty]$に対して$[f]_\omega\omega(\delta)\le L\omega(\delta)$が成り立つから$f$は$[f]_\omega\omega$-連続でもある.
この命題の (3) から,$C_{x,[0,\infty)\omega}(X,W)$や$C_{[0,\infty)\omega}(X,W)$上の任意のノルム$\|\cdot\|$に対して,$\|\cdot\|+[\cdot]_{x,\omega}$や$\|\cdot\|+[\cdot]_{\omega}$が新たなノルムになることがわかる(確認略).
たとえば$X$がコンパクトのときは連続写像全体$C^0(X,W)$が
$$
\|f\|_\infty:=\sup_{x\in X}\|f(x)\|_W
$$
によってノルム空間となるが,$\alpha$-ヘルダー連続写像全体のなす部分線形空間
$$
C^{0,\alpha}(X,W):=C_{[0,\infty)\omega^{(\alpha)}}(X,W)
$$
は,$C^0(X,W)$から自然に受け継がれるノルム$\|\cdot\|_\infty$ではなく,$\|\cdot\|_{C^{0,\alpha}(X,W)}:=\|\cdot\|_\infty+[\cdot]_{\omega^{(\alpha)}}$によってノルム空間とみなすことが多い.この値
$$
[f]_{\omega^{(\alpha)}}=\sup_{x,y\in X,\ x\ne y}\frac{d_W(f(x),f(y))}{d_X(x,y)^\alpha}
$$
は$f$のヘルダー係数 (Hölder coefficient) などとよばれる.
$(X,d_X),(Y,d_Y)$を距離空間,$x\in X$,$\omega\in\mathcal{M}$とする.このとき,$x$において$\omega$-連続な写像の列$\{f_n:X\to Y\}$がある写像$f:X\to Y$に各点収束するならば,$f$も$x$において$\omega$-連続である.
任意の$x'\in X$に対して
\begin{align*}
d_Y(f(x),f(x'))
&\le d_Y(f(x),f_n(x))+d_Y(f_n(x),f_n(x'))+d_Y(f_n(x'),f(x')) \\
&\le d_Y(f(x),f_n(x))+\omega(d_X(x,x'))+d_Y(f_n(x'),f(x')) \\
&\to \omega(d_X(x,x')) & (n\to\infty)
\end{align*}
が成り立つから,$f$も$x$において$\omega$-連続である.
$K\in\{\mathbb{R},\mathbb{C}\}$とし,$(X,d_X)$を距離空間,$(W,\langle\cdot,\cdot\rangle_W)$を$K$-内積空間,$x\in X$,$\omega_1,\omega_2\in\mathcal{M}$とする.このとき,写像$f,g:X\to W$が$x$においてそれぞれ$\omega_1$-連続,$\omega_2$-連続であり,
$$ \|f\|_\infty:=\sup_{x\in X}\|f(x)\|_W, \quad \|g\|_\infty:=\sup_{x\in X}\|g(x)\|_W $$
がいずれも有限値であれば,次の写像
$$ \langle f(\cdot),g(\cdot)\rangle_W:X\ni z\mapsto \langle f(z),g(z)\rangle_W\in K $$
は$x$において$\|g\|_\infty\omega_1+\|f\|_\infty\omega_2$-連続である.
任意の$x'\in X$に対して
\begin{align*}
|{\langle f(x),g(x)\rangle_W-\langle f(x'),g(x')\rangle_W}|
&=|{\langle f(x)-f(x'),g(x)\rangle_W+\langle f(x'),g(x)-g(x')\rangle_W}| \\
&\le \|f(x)-f(x')\|_W\|g(x)\|_W+\|f(x')\|_W\|g(x)-g(x')\|_W \\
&\le \omega_1(d_X(x,x'))\|g\|_\infty+\|f\|_\infty\omega_2(d_X(x,x')) \\
&=(\|g\|_\infty\omega_1+\|f\|_\infty\omega_2)(d_X(x,x'))
\end{align*}
が成り立つから,$\langle f(\cdot),g(\cdot)\rangle_W$は$x$において$\|g\|_\infty\omega_1+\|f\|_\infty\omega_2$-連続である.
$(X,d_X)$を距離空間,$x\in X$,$\omega\in\mathcal{M}$とし,$x$において$\omega$-連続な写像の空でない族$\{f_\lambda:X\to\mathbb{R}\}_{\lambda\in\Lambda}$を考える.このとき,次の写像
\begin{align*}
\inf_{\lambda\in\Lambda}f_\lambda
&:X\ni z\mapsto \inf_{\lambda\in\Lambda}f_\lambda(z)\in\mathbb{R}\cup\{-\infty\}, \\
\sup_{\lambda\in\Lambda}f_\lambda
&:X\ni z\mapsto \sup_{\lambda\in\Lambda}f_\lambda(z)\in\mathbb{R}\cup\{\infty\}
\end{align*}
の値域が$\mathbb{R}$に含まれるなら,その写像も$x$において$\omega$-連続である.
任意の$x'\in X$と$\mu\in\Lambda$に対して,次の評価
\begin{align*}
\inf_{\lambda\in\Lambda}f_\lambda(x)\le f_\mu(x)\le f_\mu(x')+|f_\mu(x)-f_\mu(x')|\le f_\mu(x')+\omega(d_X(x,x'))
\end{align*}
より
$$ \bigg|\inf_{\lambda\in\Lambda}f_\lambda(x)-\inf_{\lambda\in\Lambda}f_\lambda(x')\bigg|\le \omega(d_X(x,x')) $$
を得るから,$\displaystyle\inf_{\lambda\in\Lambda}f_\lambda$は$\omega$-連続である.$\displaystyle\sup_{\lambda\in\Lambda}f_\lambda$についても同様に示せる.
上の命題の状況で,$\omega([0,\infty))\subset[0,\infty)$であり,かつ$\displaystyle\inf_{\lambda\in\Lambda}f_\lambda(x_0)\in\mathbb{R}$を満たす$x_0\in X$が存在するならば,$\displaystyle\inf_{\lambda\in\Lambda}f_\lambda$の値域は$\mathbb{R}$に含まれる.
実際,$z\in X$と$\mu\in\Lambda$を任意に取ると
$$ \inf_{\lambda\in\Lambda}f_\lambda(x_0)-f_\mu(z)\le f_\mu(x_0)-f_\mu(z)\le \omega(d_X(x_0,z)) $$
より
$$ -\infty<\inf_{\lambda\in\Lambda}f_\lambda(x_0)-\omega(d_X(x_0,z))\le \inf_{\lambda\in\Lambda}f_\lambda(z) $$
を得る.$\displaystyle\sup_{\lambda\in\Lambda}f_\lambda$についても同様.
連続度の定義から単調増加性を除くこともあるが,その場合であっても適当に上限を取ることで単調増加にすることができる.
写像$\omega:[0,\infty]\to[0,\infty]$が次の2条件(連続度の3条件から単調増加性を除いたもの)を満たすとする:
このとき,次式で定める写像$\tilde{\omega}:[0,\infty]\to[0,\infty]$は$\mathcal{M}$に属する:
$$ \tilde{\omega}(\delta):=\sup_{r\in[0,\delta]}\omega(r) \qquad (\delta\in[0,\infty]). $$
また,任意の$\delta\in[0,\infty]$に対して$\omega(\delta)\le\tilde{\omega}(\delta)$が成り立つ.
与えられた連続写像に対して,それを$\omega$-連続にするような最小の連続度$\omega$を考えることができる.
(
英語版Wikipedia
でthe optimal modulus of continuityと呼ばれているもの.)
$(X,d_X),(Y,d_Y)$を距離空間,$x\in X$とし,写像$f:X\to Y$に対して写像$\omega_{f,x}:[0,\infty]\to[0,\infty]$を
$$ \omega_{f,x}(\delta):=\sup\{d_Y(f(x),f(x'))\mid x'\in X,\ d_X(x,x')\le\delta\} $$
と定める.
$\omega_{f,x}(0)=0$.
$\omega_{f,x}$は$[0,\infty]$上で単調増加である.
任意の$x'\in X$に対して,$d_Y(f(x),f(x'))\le\omega_{f,x}(d_X(x,x'))$が成り立つ.
次の3条件は同値である.
$\omega\in\mathcal{M}$について,$f$が$x$において$\omega$-連続であれば,任意の$\delta\in[0,\infty]$に対して$\omega_{f,x}(\delta)\le\omega(\delta)$が成り立つ.
(1), (2), (3) と (4) の$1.\Rightarrow 2.\Leftrightarrow 3.$は既に示した.また$3.\Rightarrow 1.$も,上の証明とほぼ同様に示せる.(5) について,$\delta\in[0,\infty]$と$d_X(x,x')\le\delta$を満たす$x'\in X$を任意に取ると
$$ d_Y(f(x),f(x'))\le\omega(d_X(x,x'))\le\omega(\delta) $$
が成り立つから$\omega_{f,x}(\delta)\le\omega(\delta)$を得る.
$(X,d_X),(Y,d_Y)$を距離空間とし,写像$f:X\to Y$に対して写像$\omega_{f}:[0,\infty]\to[0,\infty]$を
$$ \omega_{f}(\delta):=\sup\{d_Y(f(x),f(x'))\mid x,x'\in X,\ d_X(x,x')\le\delta\} $$
と定める.
$\omega_{f}(0)=0$.
$\omega_{f}$は$[0,\infty]$上で単調増加である.
任意の$x,x'\in X$に対して,$d_Y(f(x),f(x'))\le\omega_{f,x}(d_X(x,x'))$が成り立つ.
次の3条件は同値である.
$\omega\in\mathcal{M}$について,$f$が$\omega$-連続であれば,任意の$\delta\in[0,\infty]$に対して$\omega_{f}(\delta)\le\omega(\delta)$が成り立つ.
(1), (2), (3) と (4) の$1.\Rightarrow 2.\Leftrightarrow 3.$は既に示した.また$3.\Rightarrow 1.$も,上の証明とほぼ同様に示せる.(5) について,$\delta\in[0,\infty]$と$d_X(x,x')\le\delta$を満たす$x,x'\in X$を任意に取ると
$$ d_Y(f(x),f(x'))\le\omega(d_X(x,x'))\le\omega(\delta) $$
が成り立つから$\omega_{f}(\delta)\le\omega(\delta)$を得る.
この$\omega_{f}$を,$f$の(最適)一様連続度という.(人によっては,こちらを指して連続度ということもある)
「連続度」とはいうものの,$f$が一様連続でない場合,$\omega_f$は本記事の最初に述べた連続度の定義を満たさない.
(余談:以前書いた記事 ノルム空間・内積空間の完備化 では,この一様連続度$\omega_f$を用いて一様連続性を定義していた.)
$(X,d_X),(Y,d_Y)$を距離空間とし,写像$f:X\to Y$を考える.
このとき,任意の$\delta\in[0,\infty]$に対して次式が成り立つ:$$\omega_f(\delta)=\sup_{x\in X}\omega_{f,x}(\delta).$$
$\delta\in [0,\infty]$を任意に取り,$S_\delta:=\{\omega_{f,x}(\delta)\mid x\in X\}$とおく.
距離空間の部分集合上で定義された実数値一様連続写像は,(特定の条件下において)その連続度を保ったまま,定義域を距離空間全体へと拡張することができる.
$(X,d_X)$を距離空間,$A$を$X$の空でない部分集合とし,$\omega\in\mathcal{M}$は次の2条件を満たすとする.
また,$\omega$-連続な写像$f:A\to\mathbb{R}$に対して写像$f_{\omega},f^{\omega}:X\to\mathbb{R}$を
\begin{align*}
f_{\omega}(x)
&:=\sup_{a\in A}(f(a)-\omega(d_X(x,a))), \\
f^{\omega}(x)
&:=\inf_{a\in A}(f(a)+\omega(d_X(x,a))) \qquad (x\in X)
\end{align*}
で定める.このとき,次のことが成り立つ.
$x\in A$を任意に取ると,まず$f_\omega,f^\omega$の定義より
$$ f^\omega(x)\le f(x)+\omega(d_X(x,x))=f(x)=f(x)-\omega(d_X(x,x))\le f_\omega(x), $$
つまり$f^\omega(x)\le f(x)\le f_\omega(x)$を得る.また$f$の$\omega$-連続性より,任意の$a\in A$に対して
$$ f(a)-\omega(d_X(x,a))\le f(x)\le f(a)+\omega(d_X(x,a)) $$
が成り立つから$f_\omega(x)\le f(x)\le f^\omega(x)$を得る.よって$f_\omega(x)=f(x)=f^\omega(x)$が示された.
写像の族$\{g_a^{\pm}:X\to\mathbb{R}\}_{a\in A}$を次式で定める:
$$ g_a^{\pm}(x):=f(a)\pm\omega(d_X(x,a)) \qquad (a\in A,\ x\in X). $$
このとき$\omega$の劣加法性より,各$g_a^{\pm}$は$\omega$-連続である:実際,任意の$x,x'\in X$に対して
$$ |g_a^{\pm}(x)-g_a^{\pm}(x')|=|\omega(d_X(x,a))-\omega(d_X(x',a))|\le \omega(d_X(x,x')) $$
が成り立つからである.よって,既に示したことから$\displaystyle f_\omega=\sup_{a\in A}g_a^{-}$と$\displaystyle f^\omega=\inf_{a\in A}g_a^{+}$も$\omega$-連続である.
$g$の$\omega$-連続性と$g|_{A}=f$より,任意の$a\in A$に対して
$$ f(a)-\omega(d_X(x,a))=g(a)-\omega(d_X(x,a))\le g(x)\le g(a)+\omega(d_X(x,a))=f(a)+\omega(d_X(x,a)) $$
が成り立つから$f_\omega(x)\le g(x)\le f^\omega(x)$を得る.
上の定理の仮定は,たとえばヘルダー連続写像やリプシッツ連続写像で成り立つから,次の系を得る.
(つまり実数値ヘルダー連続写像は,ヘルダー連続性と"ヘルダー係数"を保ったまま,その定義域を全空間へと拡張できる.)
$(X,d_X)$を距離空間,$A$を$X$の空でない部分集合,$\alpha\in(0,1]$,$L\in(0,\infty)$とし,$\omega^{(\alpha)}\in\mathcal{M}$を
$$ \omega^{(\alpha)}(\delta)=\delta^\alpha \qquad (\delta\in[0,\infty])$$
で定める(cf. ヘルダー連続の定義).また,$L\omega^{(\alpha)}$-連続な写像$f:A\to\mathbb{R}$に対して写像$f_{L\omega^{(\alpha)}},f^{L\omega^{(\alpha)}}:X\to\mathbb{R}$を前定理のように
\begin{align*}
f_{L\omega^{(\alpha)}}(x)&=\sup_{a\in A}(f(a)-Ld_X(x,a)^\alpha),\\
f^{L\omega^{(\alpha)}}(x)&=\inf_{a\in A}(f(a)+Ld_X(x,a)^\alpha) \qquad (x\in X)
\end{align*}
とする.このとき,次のことが成り立つ.
リプシッツ連続写像$f:[-\pi,\pi]\ni x\mapsto \sin{x}\in\mathbb{R}$の,$\mathbb{R}$上へのリプシッツ最大拡張$f^{\omega^{(1)}}$(赤い線)・最小拡張$f_{\omega^{(1)}}$(青い線)
$f_\omega,f^\omega$の定義の図示
また連続度の劣加法性はそれほど強い仮定ではなく,たとえばノルム空間の凸部分集合上で定義された写像の一様連続度は自動的に劣加法性を満たす.
$(V,\|\cdot\|)$をノルム空間,$C$を$V$の凸部分集合,$(Y,d)$を距離空間とし,写像$f:C\to Y$の一様連続度を$\omega_f:[0,\infty]\to[0,\infty]$とする.
このとき,次のことが成り立つ.
$\delta_1,\delta_2\in(0,\infty)$の場合のみ考える(そうでない場合は個別に考えれば容易に示せる).
$\|v-v'\|\le\delta_1+\delta_2$を満たす$v,v'\in C$を任意に取る.このとき
$$
v'':=\frac{\delta_2}{\delta_1+\delta_2}v+\frac{\delta_1}{\delta_1+\delta_2}v'
$$
とおけば,$v''\in C$かつ$\|v-v''\|\le \delta_1$かつ$\|v''-v'\|\le\delta_2$が成り立つから
\begin{align*}
d(f(v),f(v'))
&\le d(f(v),f(v''))+d(f(v''),f(v'))
\le \omega_f(\delta_1)+\omega_f(\delta_2)
\end{align*}
となる.$v,v'$は任意だったから,$\omega_f(\delta_1+\delta_2)\le\omega_f(\delta_1)+\omega_f(\delta_2)$が示された.
$\delta\in[0,\infty)$を任意に取り,$n$に関する数学的帰納法で示す.$n=1$の場合は明らか.
ある$n\in\mathbb{N}$について$\omega_f(n\delta)\le n\omega_f(\delta)$が成り立っていたと仮定すると,(1)より
\begin{align*}
\omega_f((n+1)\delta)
&=\omega_f(n\delta+\delta)
\le \omega_f(n\delta)+\omega_f(\delta)
\le n\omega_f(\delta)+\omega_f(\delta)
=(n+1)\omega_f(\delta)
\end{align*}
となる.したがって,任意の$n\in\mathbb{N}$に対して$\omega_f(n\delta)\le n\omega_f(\delta)$であることが示された.
$n:=\lfloor\lambda\rfloor$とおくと$n\le\lambda< n+1$だから,(2)より
\begin{align*}
\omega_f(\lambda\delta)
&\le\omega_f((n+1)\delta)
\le (n+1)\omega_f(\delta)
= (\lfloor\lambda\rfloor+1)\omega_f(\delta).
\end{align*}
不等式$d_Y(f(x),f(x'))\le\omega(d_X(x,x'))$などを使うことで,$d_X(x,x')$の大きさを一旦気にせずに$d_Y(f(x),f(x'))$の評価に関する計算を進めることができます.
連続度を用いて評価した後で,$f$の連続性
$$ \lim_{\delta\to +0}\omega(\delta)=0$$
を用いて$\omega$の値を任意に小さくすればよいので,多くの場合$\delta$の値を逆算しなければならない$\varepsilon$-$\delta$論法よりもシンプルな流れで計算できる…かもしれません.
有界閉区間上の連続写像$f:[a,b]\to\mathbb{R}$は$[a,b]$上でリーマン積分可能であることを示せ.
$[a,b]$の任意の分割
$$ \Delta:{a=x_0< x_1<\cdots< x_{k-1}< x_{k}=b}$$
に対して,$\Delta$に関する$f$の過剰和$S_\Delta$と不足和$s_\Delta$の差は,各小区間$[x_{j},x_{j+1}]$における$f$の最大点と最小点をそれぞれ$x_{\text{max}}^{(j)},x_{\text{min}}^{(j)}$とおけば
\begin{align*}
S_\Delta-s_\Delta
&=\sum_{j=0}^{k-1}(f(x_{\text{max}}^{(j)})-f(x_{\text{min}}^{(j)}))(x_{j+1}-x_{j}) \\
&\le \sum_{j=0}^{k-1}\omega_{f}(|x_{\text{max}}^{(j)}-x_{\text{min}}^{(j)}|)(x_{j+1}-x_{j}) \\
&\le \sum_{j=0}^{k-1}\omega_{f}(|\Delta|)(x_{j+1}-x_{j}) \\
&=\omega_{f}(|\Delta|)(b-a)
\end{align*}
と評価できる.ここで,$\omega_f$は$f$の(最適)一様連続度とし,$|\Delta|$は分割$\Delta$の幅
$$ |\Delta|:=\max_{j\in\{0,1,\ldots,k-1\}}(x_{j+1}-x_{j}) $$
とした.さて,任意の$\varepsilon\in(0,\infty)$に対して,$f$の一様連続性より
$$ \omega_f(\delta)\le \frac{\varepsilon}{b-a} $$
を満たす$\delta\in(0,\infty)$が取れるから,$|\Delta|<\delta$なる任意の分割$\Delta$に対して$S_\Delta-s_\Delta\le\varepsilon$が成り立つ.したがって,$f$は$[a,b]$上でリーマン積分可能である.
写像$f:\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}$は有界かつ一様連続であるとし,写像の族$\{K_t:\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}\}_{t\in(0,\infty)}$を
$$ K_t(x):=\frac{1}{(4\pi t)^{n/2}}\exp\bigg({-\frac{|x|^2}{4t}}\bigg) \qquad (t\in(0,\infty),\ x\in\mathbb{R}^n)$$
で定める.このとき,合成積の族$\{K_t\ast f:\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}\}_{t\in(0,\infty)}$
$$ (K_t\ast f)(x)=\int_{\mathbb{R}^n}K_t(y)f(x-y)\,dy \qquad (t\in(0,\infty),\ x\in\mathbb{R}^n)$$
は$t\to +0$のとき$f$に一様収束することを示せ.
計算を頑張ると,$\{K_t\}_{t\in(0,\infty)}$は次の2性質を満たすことが確かめられる(略).
もし間違い等ありましたら,ご指摘ください.
ここまで読んでいただき,ありがとうございました.
「連続度の大小によって連続性の強さを比べることができる」という主張について,「比べる」というからには順序が定まってほしいですね.
ただし,次の命題で定める順序は反対称律を満たさないことに注意してください(写像としては違うものであっても,連続性の強さだけ見ると同じになることがある).
$(X,d_X),(Y,d_Y)$を距離空間,$x\in X$とし,$Y^X$上の二項関係$\preceq_x,\preceq$を次式で定める:$f,g\in Y^X$に対して
\begin{align*}
f\mathrel{\preceq_x} g
&\ :\Longleftrightarrow\ \text{ある $\delta_0\in(0,\infty]$ が存在して,任意の $\delta\in[0,\delta_0]$ に対して $\omega_{g,x}(\delta)\le \omega_{f,x}(\delta)$ が成り立つ}, \\
f\preceq g
&\ :\Longleftrightarrow\ \text{ある $\delta_0\in(0,\infty]$ が存在して,任意の $\delta\in[0,\delta_0]$ に対して $\omega_{g}(\delta)\le \omega_{f}(\delta)$ が成り立つ}.
\end{align*}
この$\preceq_x,\preceq$は,$Y^X$上の前順序である.
反射律と推移律の成立は容易に確かめられる.
連続度の計算問題を置いておきます.
写像$f:\mathbb{R}\ni z\mapsto z^2\in\mathbb{R}$が一様連続でないことを示してみましょう.
写像$f:\mathbb{R}\ni z\mapsto z^2\in\mathbb{R}$と点$x\in\mathbb{R}$に対して
$$
\omega_{f,x}(\delta)=\delta(\delta+2|x|) \qquad (\delta\in[0,\infty])
$$
が成り立つことを示せ.
$\delta=0,\infty$の場合は個別に考えることで容易に示せるから,以下$\delta\in(0,\infty)$の場合のみ考える.
写像$f:\mathbb{R}\ni z\mapsto z^2\in\mathbb{R}$が一様連続でないことを示せ.
前問より,$\delta\in[0,\infty]$に対して\begin{align*}
\omega_f(\delta)
=\sup_{x\in\mathbb{R}}\omega_{f,x}(\delta)
=\sup_{x\in\mathbb{R}}\delta(\delta+2|x|)
=\begin{cases}
0 & (\text{$\delta=0$ の場合}), \\
\infty & (\text{$\delta>0$ の場合})
\end{cases}
\end{align*}
が成り立つから,$\displaystyle\lim_{\delta\to +0}\omega_f(\delta)=\infty$であり,$f$は一様連続でないことが示された.