5
大学数学基礎解説
文献あり

写像の連続性を測るもの

1038
0

概要

距離空間の間の写像については,連続性というものを考えることができました.
本記事では,写像の連続性の ”度合い” を測ることができる「連続度」という概念を紹介します.
(人によっては「連続率」など別の呼び方をすることもあるようです.)

正確な定義は後述しますが,大雑把に言えば,写像f:XYの連続度とは「2点x,xXの近さ」に対して「2点f(x),f(x)Yの近さ」を返すような写像ω:[0,][0,]のことです.

ε-δを知っている人向けの補足

連続度ωは "ε-δ論法のδに対してεを対応させる写像" と思えばわかりやすいかもしれません. 英語版Wikipedia には

In general, the role of ω is to fix some explicit functional dependence of ε on δ in the (ε,δ) definition of uniform continuity.
という記述があります.

fの連続性は「xxが十分近ければ,f(x)f(x)は限りなく近づく」のように説明されることがありますが,この素朴な表現を連続度の性質に翻訳した
limδ+0ω(δ)=0
という条件は実際にfの連続性を特徴づけます.
また,fの連続度の値が小さいほど2点f(x),f(x)が近くなりやすいと考えられるので,2つの写像f,g:XYに対してそれらの連続度の値の大小を比較することで,f,gどちらの連続性がより強いかを考えることが可能です.

悲しいことに日本語版Wikipediaには連続度のページがないので, 英語版Wikipedia の記述を参考にいくつかの事実を証明付きで述べたいと思います.
Wikipediaの方には本記事で扱えなかった性質もいろいろ書いてあるので,ぜひそちらも読んでみてください.

連続度

定義と,連続性の特徴づけ

この節では,連続度の定義を紹介し,それを用いてε-δ論法による連続性の定義を書き直せることを見る.

連続度

連続度 (modulus of continuity) とは,写像ω:[0,][0,]であって,次の3条件を満たすもののことをいう.

  • ω(0)=0.
  • ω[0,]上で単調増加である.
  • δ+0のときω(δ)0である.
この記事では,連続度全体の集合をMと書くことにする.

連続度のグラフ!FORMULA[35][-1965623688][0]の例!HTML[2][58441851][0](必ずしも連続とは限らない) 連続度のグラフy=ω(x)の例
(必ずしも連続とは限らない)

連続度の定義の簡略化

連続度の定義のうち「δ+0のときω(δ)0である.」は,極限の定義から

  • 任意のε(0,)に対してあるδ(0,)が存在して,任意のr(0,δ]に対してω(r)εが成り立つ.

と表せるが,この条件は(ωの単調増加性から)より簡単な条件

  • 任意のε(0,)に対してあるδ(0,)が存在して,ω(δ)εが成り立つ.

で置き換えることができる.

次に,連続度ωに対してω-連続性を定義する.

ω-連続

(X,dX),(Y,dY)を距離空間,ωMとし,写像f:XYを考える.

  • fが点xXにおいてω-連続 (ω-continuous) であるとは,任意のxXに対して次の不等式が成り立つことをいう:
    dY(f(x),f(x))ω(dX(x,x)).
  • fω-連続であるとは,fXの任意の点においてω-連続であること,つまり任意のx,xXに対して次の不等式が成り立つことをいう:
    dY(f(x),f(x))ω(dX(x,x)).

すぐわかるように,ω-連続写像は連続である.
逆に,連続写像には,それに対応する連続度が存在する.

連続性の特徴づけ

(X,dX),(Y,dY)を距離空間,xXとし,写像f:XYを考える.このとき,次の2条件は同値である.

  1. fxにおいて連続である.
  2. ある連続度ωMが存在して,fxにおいてω-連続である.
(1)(2):詳細

写像ωf,x:[0,][0,]ωf,x(δ):=sup{dY(f(x),f(x))xX, dX(x,x)δ}(δ[0,])で定め,ωf,xMかつfxにおいてωf,x-連続であることを示す.

  • 距離の非退化性よりωf,x(0)=0である:
    ωf,x(0)=sup{dY(f(x),f(x))xX, dX(x,x)0}=sup{dY(f(x),f(x))}=sup{0}=0.
  • 0δ1δ2のときωf,x(δ1)ωf,x(δ2)である:
    ωf,x(δ1)=sup{dY(f(x),f(x))xX, dX(x,x)δ1}sup{dY(f(x),f(x))xX, dX(x,x)δ2}=ωf,x(δ2).
  • δ+0のときωf,x(δ)0である.実際,ε(0,)を任意に取ると,fxにおける連続性より「dX(x,x)δを満たす任意のxXに対してdY(f(x),f(x))εが成り立つ」という性質を満たすδ(0,)が取れる.この性質は「εが集合
    {dY(f(x),f(x))xX, dX(x,x)δ}
    の上界であること」を表しているので,ωf,x(δ)εが示された.
上記3点よりωf,xMである.またxXを任意に取ると,dX(x,z)dX(x,x)を満たす任意のzXに対してdY(f(x),f(z))ωf,x(dX(x,x))が成り立つから,特にz=xの場合を考えることでdY(f(x),f(x))ωf,x(dX(x,x))を得る.したがって,fxにおいてωf,x-連続である.


(2)(1):詳細

ε(0,)を任意に取る.このときlimδ+0ω(δ)=0であることからω(δ)εを満たすδ(0,)が取れて,dX(x,x)δを満たす任意のxXに対してdY(f(x),f(x))ω(dX(x,x))ω(δ)εが成り立つ.したがって,fxにおいて連続であることが示された.

一方で,「fが(Xの任意の点において)連続であること」と「ある連続度ωMが存在して,fが(Xの任意の点において)ω-連続であること」は同値ではない
これらの条件は,上の命題を踏まえるとそれぞれ次のように言い換えられる:

  • fが連続である
    任意のxXに対して,ある連続度ωxMが存在して,fxにおいてωx-連続である

  • ある連続度ωMが存在して,fω-連続である
    ある連続度ωMが存在して,任意のxXに対して,fxにおいてω-連続である

が,連続度が点xXに依存するかどうかの違いがあるからである(前者は各xに対して別々の連続度を取ることができるのに対して,後者はすべてのxに共通な連続度の存在を要請している).
このことから推測されるように,後者の条件に対応するのは,単なる連続性ではなく一様連続性である.

一様連続性の特徴づけ

(X,dX),(Y,dY)を距離空間とし,写像f:XYを考える.このとき,次の2条件は同値である.

  1. fは一様連続である.
  2. ある連続度ωMが存在して,fω-連続である.
(1)(2):詳細

写像ωf:[0,][0,]
ωf(δ):=sup{dY(f(x),f(x))x,xX, dX(x,x)δ}(δ[0,])
で定め,ωfMかつfωf-連続であることを示す.

  • 距離の非退化性よりωf(0)=0である:
    ωf(0)=sup{dY(f(x),f(x))x,xX, dX(x,x)0}=sup{dY(f(x),f(x))xX}=sup{0}=0.
  • 0δ1δ2のときωf(δ1)ωf(δ2)である:
    ωf(δ1)=sup{dY(f(x),f(x))x,xX, dX(x,x)δ1}sup{dY(f(x),f(x))x,xX, dX(x,x)δ2}=ωf(δ2).
  • δ+0のときωf(δ)0である.実際,ε(0,)を任意に取ると,fの一様連続性より「dX(x,x)δを満たす任意のx,xXに対してdY(f(x),f(x))εが成り立つ」という性質を満たすδ(0,)が取れる.この性質は「εが集合
    {dY(f(x),f(x))x,xX, dX(x,x)δ}
    の上界であること」を表しているので,ωf(δ)εが示された.


上記3点よりωfMである.またx,xXを任意に取ると,dX(z,z)dX(x,x)を満たす任意のz,zXに対して
dY(f(z),f(z))ωf(dX(x,x))
が成り立つから,特に(z,z)=(x,x)の場合を考えることでdY(f(x),f(x))ωf(dX(x,x))を得る.したがって,fxにおいてωf-連続でもある.


(2)(1):詳細

ε(0,)を任意に取る.このときlimδ+0ω(δ)=0であることからω(δ)εを満たすδ(0,)が取れて,dX(x,x)δを満たす任意のx,xXに対して
dY(f(x),f(x))ω(dX(x,x))ω(δ)ε
が成り立つ.したがって,fは一様連続であることが示された.

上の2つの証明で構成した写像ωf,xωfについては,また後で少し触れる.

ヘルダー連続,リプシッツ連続

一様連続写像には対応する連続度が存在するが,連続度の満たす性質によって,一様連続写像をさらに細かく分類することができる.

ヘルダー連続,リプシッツ連続

(X,dX),(Y,dY)を距離空間,α(0,1]とし,ω(α)M
ω(α)(δ):=δα(δ[0,])
で定める.

  1. 写像f:XYα-ヘルダー連続 (α-Hölder continuous) であるとは,あるL(0,)が存在して,fLω(α)-連続になることをいう.
  2. 1-ヘルダー連続写像のことをリプシッツ連続 (Lipschitz continuous) 写像ともいう.

定義から明らかに,ヘルダー連続写像やリプシッツ連続写像は一様連続でもある.

ヘルダー連続性やリプシッツ連続性も興味深い話題ではあるが,本記事では深入りしない.

いろいろな性質

次の性質は,「連続度の値の小ささ」が「写像の連続性の強さ」に対応していることを表している.

連続度の大小と連続性の強さ

(X,dX),(Y,dY)を距離空間,xXとし,連続度ω1,ω2Mは任意のδ[0,]に対して
ω1(δ)ω2(δ)
を満たすとする.このとき,写像f:XYxにおいてω1-連続であれば,fxにおいてω2-連続でもある.

xXを任意に取ると,fxにおけるω1-連続性などから
dY(f(x),f(x))ω1(dX(x,x))ω2(dX(x,x))
が成り立つ.したがって,fxにおいてω2-連続である.

合成写像の連続度

(X,dX),(Y,dY),(Z,dZ)を距離空間,xXω1,ω2Mとする.このとき,写像f:XYxにおいてω1-連続で,かつ写像g:YZf(x)においてω2-連続であれば,合成写像gfxにおいてω2ω1-連続である.

xXを任意に取ると
dZ((gf)(x),(gf)(x))=dZ(g(f(x)),g(f(x)))ω2(dY(f(x),f(x)))ω2(ω1(dX(x,x)))=(ω2ω1)(dX(x,x))
が成り立つから,gfxにおいてω2ω1-連続である.

線形結合の連続度

K{R,C}とし,(X,dX)を距離空間,(W,W)K-ノルム空間とする.このとき,次のことが成り立つ.

  1. xXω1,ω2Ma,bKとする.写像f,g:XWxにおいてそれぞれω1-連続,ω2-連続であれば,af+bgxにおいて|a|ω1+|b|ω2-連続である.
  2. xXωMに対して,次の集合はWXの凸部分集合である:
    Cx,ω(X,W):={fWXf は x において ω-連続である},Cω(X,W):={fWXf は ω-連続である}.
  3. xXωMに対して
    Cx,[0,)ω(X,W):={fWXfCx,Lω(X,W) を満たす L[0,) が存在する},C[0,)ω(X,W):={fWXfCLω(X,W) を満たす L[0,) が存在する}
    と定め,[]x,ω:Cx,[0,)ω(X,W)[0,)[]ω:C[0,)ω(X,W)[0,)
    [f]x,ω:=inf{L[0,)fCx,Lω(X,W)},[f]ω:=inf{L[0,)fCLω(X,W)}
    で定義する.このとき,[]x,ω,[]ωはそれぞれCx,[0,)ω(X,W),C[0,)ω(X,W)上のセミノルムとなる.つまり次のことが成り立つ.
    • 任意のfCx,[0,)ω(X,W)aKに対して,[af]x,ω=|a|[f]x,ωである.
      (任意のfC[0,)ω(X,W)aKに対して,[af]ω=|a|[f]ωである.)
    • 任意のf,gCx,[0,)ω(X,W)に対して,[f+g]x,ω[f]x,ω+[g]x,ωである.
      (任意のf,gC[0,)ω(X,W)に対して,[f+g]ω[f]ω+[g]ωである.)
  1. 任意のxXに対して
    (af+bg)(x)(af+bg)(x)W=a(f(x)f(x))+b(g(x)g(x))W|a|f(x)f(x)W+|b|g(x)g(x)W|a|ω1(dX(x,x))+|b|ω2(dX(x,x))=(|a|ω1+|b|ω2)(dX(x,x))
    が成り立つから,af+bg|a|ω1+|b|ω2-連続である.

  2. 任意のf,gCx,ω(X,W)t[0,1]に対して,(1)より(1t)f+tgxにおいてω-連続となるから,Cx,ω(X,W)は凸集合である.すると「凸集合たちの共通部分は凸集合である」という事実(参考:凸集合と基本性質)と次の等式
    Cω(X,W)=xXCx,ω(X,W)
    から,Cω(X,W)の凸性も従う.

  3. まず注意として,[]x,ω,[]ωの定義式の中にあるinfminで置き換えてよい.

    補足:infminで置き換えてよい理由

    fC[0,)ω(X,W)[f]ωω-連続であることを確かめればよい(各点における議論も同様).
    [f]ωの定義からfCLω(X,W)を満たすL[[f]ω,[f]ω+1)が存在するが,このとき任意のδ[0,]に対して[f]ωω(δ)Lω(δ)が成り立つからf[f]ωω-連続でもある.


    これを踏まえると,(1) から容易に (3) が示される.簡単のため()内のみ示すが,他方も同様.
    • f[f]ωω-連続だから,(1)よりaf|a|[f]ωω-連続であり,[af]ω|a|[f]ωを得る.逆向きの不等式[af]ω|a|[f]ωは,a=0のときは自明であり,a0のときは既に示した不等式
      [1aaf]ω|1a|[af]ω
      を整理すれば得られる.
    • f[f]ωω-連続でg[g]ωω-連続だから,(1)よりf+g[f]ωω+[g]ωω-連続であり,[f+g]ω[f]ω+[g]ωを得る.

この命題の (3) から,Cx,[0,)ω(X,W)C[0,)ω(X,W)上の任意のノルムに対して,+[]x,ω+[]ωが新たなノルムになることがわかる(確認略).
たとえばXがコンパクトのときは連続写像全体C0(X,W)
f:=supxXf(x)W
によってノルム空間となるが,α-ヘルダー連続写像全体のなす部分線形空間
C0,α(X,W):=C[0,)ω(α)(X,W)
は,C0(X,W)から自然に受け継がれるノルムではなく,C0,α(X,W):=+[]ω(α)によってノルム空間とみなすことが多い.この値
[f]ω(α)=supx,yX, xydW(f(x),f(y))dX(x,y)α
fヘルダー係数 (Hölder coefficient) などとよばれる.

同程度連続写像列の各点収束極限は連続

(X,dX),(Y,dY)を距離空間,xXωMとする.このとき,xにおいてω-連続な写像の列(fn:XY)nNがある写像f:XYに各点収束するならば,fxにおいてω-連続である.

任意のxXに対して
dY(f(x),f(x))dY(f(x),fn(x))+dY(fn(x),fn(x))+dY(fn(x),f(x))dY(f(x),fn(x))+ω(dX(x,x))+dY(fn(x),f(x))ω(dX(x,x))(n)
が成り立つから,fxにおいてω-連続である.

積の連続度

K{R,C}とし,(X,dX)を距離空間,(W,,W)K-内積空間,xXω1,ω2Mとする.このとき,写像f,g:XWxにおいてそれぞれω1-連続,ω2-連続であり,
f:=supxXf(x)W,g:=supxXg(x)W
がいずれも有限値であれば,次の写像
f(),g()W:Xzf(z),g(z)WK
xにおいてgω1+fω2-連続である.

任意のxXに対して
|f(x),g(x)Wf(x),g(x)W|=|f(x)f(x),g(x)W+f(x),g(x)g(x)W|f(x)f(x)Wg(x)W+f(x)Wg(x)g(x)Wω1(dX(x,x))g+fω2(dX(x,x))=(gω1+fω2)(dX(x,x))
が成り立つから,f(),g()Wxにおいてgω1+fω2-連続である.

同程度連続写像の上限・下限の連続性

(X,dX)を距離空間,xXωMとし,xにおいてω-連続な写像の空でない族(fλ:XR)λΛを考える.このとき,次の写像
infλΛfλ:XzinfλΛfλ(z)R{},supλΛfλ:XzsupλΛfλ(z)R{}
の値域がRに含まれるなら,その写像もxにおいてω-連続である.

任意のxXμΛに対して,次の評価
infλΛfλ(x)fμ(x)fμ(x)+|fμ(x)fμ(x)|fμ(x)+ω(dX(x,x))
より
|infλΛfλ(x)infλΛfλ(x)|ω(dX(x,x))
を得るから,infλΛfλω-連続である.supλΛfλについても同様に示せる.

上限・下限が有限値になる十分条件

上の命題の状況で,ω([0,))[0,)であり,かつinfλΛfλ(x0)Rを満たすx0Xが存在するならば,infλΛfλの値域はRに含まれる.
実際,zXμΛを任意に取ると
infλΛfλ(x0)fμ(z)fμ(x0)fμ(z)ω(dX(x0,z))
より
<infλΛfλ(x0)ω(dX(x0,z))infλΛfλ(z)
を得る.supλΛfλについても同様.

連続度の定義から単調増加性を除くこともあるが,その場合であっても適当に上限を取ることで単調増加にすることができる.

写像ω:[0,][0,]が次の2条件(連続度の3条件から単調増加性を除いたもの)を満たすとする:

  • ω(0)=0.
  • δ+0のときω(δ)0である.

このとき,次式で定める写像ω~:[0,][0,]Mに属する:
ω~(δ):=supr[0,δ]ω(r)(δ[0,]).
また,任意のδ[0,]に対してω(δ)ω~(δ)が成り立つ.

  • ω~(0)=0である:
    ω~(0)=supr[0,0]ω(r)=sup{ω(0)}=sup{0}=0.
  • 0δ1δ2のとき,ω~(δ1)ω~(δ2)である:
    ω~(δ1)=supr[0,δ1]ω(r)supr[0,δ2]ω(r)=ω~(δ2).
  • δ+0のときω~(δ)0である.実際,任意のε(0,)に対して,「任意のr[0,δ]に対してω(r)εが成り立つ」という性質を満たすδ(0,)が存在するが,この性質はω~(δ)εを意味する.
以上3点より,ω~Mが示された.また任意のδ[0,]に対して,ω(δ){ω(r)r[0,δ]}が成り立つからω(δ)ω~(δ)も示された.

最適連続度

与えられた連続写像に対して,それをω-連続にするような最小の連続度ωを考えることができる.
英語版Wikipedia the optimal modulus of continuityと呼ばれているもの.)

(X,dX),(Y,dY)を距離空間,xXとし,写像f:XYに対して写像ωf,x:[0,][0,]
ωf,x(δ):=sup{dY(f(x),f(x))xX, dX(x,x)δ}
と定める.このとき,次のことが成り立つ.

  1. ωf,x(0)=0.

  2. ωf,x[0,]上で単調増加である.

  3. 任意のxXに対して,dY(f(x),f(x))ωf,x(dX(x,x))が成り立つ.

  4. 次の3条件は同値である.

    1. fxにおいて連続である.
    2. ωf,xMである.
    3. δ+0のときωf,x(δ)0である.
  5. ωMについて,fxにおいてω-連続であれば,任意のδ[0,]に対してωf,x(δ)ω(δ)が成り立つ.

(1), (2), (3) と (4) の1.2.3.既に示した.また3.1.も,上の証明とほぼ同様に示せる.(5) について,δ[0,]dX(x,x)δを満たすxXを任意に取ると
dY(f(x),f(x))ω(dX(x,x))ω(δ)
が成り立つからωf,x(δ)ω(δ)を得る.

(X,dX),(Y,dY)を距離空間とし,写像f:XYに対して写像ωf:[0,][0,]
ωf(δ):=sup{dY(f(x),f(x))x,xX, dX(x,x)δ}
と定める.このとき,次のことが成り立つ.

  1. ωf(0)=0.

  2. ωf[0,]上で単調増加である.

  3. 任意のx,xXに対して,dY(f(x),f(x))ωf,x(dX(x,x))が成り立つ.

  4. 次の3条件は同値である.

    1. fは一様連続である.
    2. ωfMである.
    3. δ+0のときωf(δ)0である.
  5. ωMについて,fω-連続であれば,任意のδ[0,]に対してωf(δ)ω(δ)が成り立つ.

(1), (2), (3) と (4) の1.2.3.既に示した.また3.1.も,上の証明とほぼ同様に示せる.(5) について,δ[0,]dX(x,x)δを満たすx,xXを任意に取ると
dY(f(x),f(x))ω(dX(x,x))ω(δ)
が成り立つからωf(δ)ω(δ)を得る.

このωfを,f(最適)一様連続度という.(人によっては,こちらを指して連続度ということもある)
「連続度」とはいうものの,fが一様連続でない場合,ωfは本記事の最初に述べた連続度の定義を満たさない

(余談:以前書いた記事 ノルム空間・内積空間の完備化 では,この一様連続度ωfを用いて一様連続性を定義していた.)

(X,dX),(Y,dY)を距離空間とし,写像f:XYの(最適)一様連続度をωf:[0,][0,]とする.
このときf ディニ連続 (Dini-continuous) であるとは
01ωf(t)tdt<
が成り立つことをいう.次の問に答えよ.

  1. α(0,1]とする.fα-ヘルダー連続ならば,fはディニ連続でもあることを示せ.
  2. fがディニ連続ならば,fは一様連続でもあることを示せ.

(※ ヘルダー連続でないディニ連続写像の例

  1. 解答例

    α-ヘルダー連続性より,あるL(0,)が存在して,任意のt[0,]に対してωf(t)Ltαが成り立つ.よって
    01ωf(t)tdt01Ltα1dt=Lα<.

  2. 解答例

    もしfが一様連続でなければ,あるε0(0,)が存在して,任意のδ(0,)に対してωf(δ)>ε0が成り立つ.このとき
    01ωf(t)tdt01ε0tdt=
    となってfのディニ連続性に矛盾する.

(X,dX),(Y,dY)を距離空間とし,写像f:XYを考える.
このとき,任意のδ[0,]に対して次式が成り立つ:ωf(δ)=supxXωf,x(δ).

δ[0,]を任意に取り,Sδ:={ωf,x(δ)xX}とおく.

  • xXを任意に取る.このときdX(x,x)δを満たす任意のxXに対して
    dY(f(x),f(x))ωf(dX(x,x))ωf(δ)
    が成り立つから,ωf,x(δ)ωf(δ)となり,ωf(δ)Sδの上界である.
  • 任意のa(,ωf(δ))に対して,dX(x,x)δかつa<dY(f(x),f(x))を満たすx,xXが存在する.このとき
    a<dY(f(x),f(x))ωf,x(δ)
    となるから,Sδの上界でωf(δ)より小さいものは存在しない.
以上より,ωf(δ)=sup(Sδ)である.

距離空間の部分集合上で定義された実数値一様連続写像は,(特定の条件下において)その連続度を保ったまま,定義域を距離空間全体へと拡張することができる.

実数値一様連続写像の拡張

(X,dX)を距離空間,AXの空でない部分集合とし,ωMは次の2条件を満たすとする.

  • ω([0,))[0,)である.
  • 任意のδ1,δ2[0,]に対してω(δ1+δ2)ω(δ1)+ω(δ2)が成り立つ(劣加法性).

また,ω-連続な写像f:ARに対して写像fω,fω:XR
fω(x):=supaA(f(a)ω(dX(x,a))),fω(x):=infaA(f(a)+ω(dX(x,a)))(xX)
で定める.このとき,次のことが成り立つ.

  1. fω|A=fω|A=fである.
  2. fω,fωω-連続である.
  3. 写像g:XRg|A=fを満たし,かつω-連続ならば,任意のxXに対してfω(x)g(x)fω(x)である.
  1. xAを任意に取ると,まずfω,fωの定義より
    fω(x)f(x)+ω(dX(x,x))=f(x)=f(x)ω(dX(x,x))fω(x),
    つまりfω(x)f(x)fω(x)を得る.またfω-連続性より,任意のaAに対して
    f(a)ω(dX(x,a))f(x)f(a)+ω(dX(x,a))
    が成り立つからfω(x)f(x)fω(x)を得る.よってfω(x)=f(x)=fω(x)が示された.

  2. 写像の族(ga±:XR)aAを次式で定める:
    ga±(x):=f(a)±ω(dX(x,a))(aA, xX).
    このときωの劣加法性より,各ga±ω-連続である:実際,任意のx,xXに対して
    |ga±(x)ga±(x)|=|ω(dX(x,a))ω(dX(x,a))|ω(dX(x,x))
    が成り立つからである.よって,既に示したこと からfω=supaAgafω=infaAga+ω-連続である.

  3. gω-連続性とg|A=fより,任意のaAに対して
    f(a)ω(dX(x,a))=g(a)ω(dX(x,a))g(x)g(a)+ω(dX(x,a))=f(a)+ω(dX(x,a))
    が成り立つからfω(x)g(x)fω(x)を得る.

上の定理の仮定は,たとえばヘルダー連続写像やリプシッツ連続写像で成り立つから,次の系を得る.
(つまり実数値ヘルダー連続写像は,ヘルダー連続性と"ヘルダー係数"を保ったまま,その定義域を全空間へと拡張できる.)

(X,dX)を距離空間,AXの空でない部分集合,α(0,1]L(0,)とし,ω(α)M

ω(α)(δ)=δα(δ[0,])

で定める(cf. ヘルダー連続の定義).また,Lω(α)-連続な写像f:ARに対して写像fLω(α),fLω(α):XRを前定理のように
fLω(α)(x)=supaA(f(a)LdX(x,a)α),fLω(α)(x)=infaA(f(a)+LdX(x,a)α)(xX)
とする.このとき,次のことが成り立つ.

  1. fLω(α)|A=fLω(α)|A=fである.
  2. fLω(α),fLω(α)Lω(α)-連続である.
  3. 写像g:XRg|A=fを満たし,かつLω(α)-連続ならば,任意のxXに対してfLω(α)(x)g(x)fLω(α)(x)である.

リプシッツ連続写像!FORMULA[586][1786189965][0]の,!FORMULA[587][80230590][0]上へのリプシッツ最大拡張!FORMULA[588][-1319083579][0](赤い線)・最小拡張!FORMULA[589][-1829617756][0](青い線) リプシッツ連続写像f:[π,π]xsinxRの,R上へのリプシッツ最大拡張fω(1)(赤い線)・最小拡張fω(1)(青い線)

!FORMULA[590][-153580035][0]の定義の図示 fω,fωの定義の図示

また連続度の劣加法性はそれほど強い仮定ではなく,たとえばノルム空間の凸部分集合上で定義された写像の一様連続度は自動的に劣加法性を満たす.

(V,)をノルム空間,CVの凸部分集合,(Y,d)を距離空間とし,写像f:CYの一様連続度をωf:[0,][0,]とする.
このとき,次のことが成り立つ.

  1. δ1,δ2[0,]に対して,ωf(δ1+δ2)ωf(δ1)+ωf(δ2)である.
  2. δ[0,)nNに対して,ωf(nδ)nωf(δ)である.
  3. δ,λ[0,)に対して,ωf(λδ)(λ+1)ωf(δ)である.
  1. δ1,δ2(0,)の場合のみ考える(そうでない場合は個別に考えれば容易に示せる).
    vvδ1+δ2を満たすv,vCを任意に取る.このとき
    v:=δ2δ1+δ2v+δ1δ1+δ2v
    とおけば,vCかつvvδ1かつvvδ2が成り立つから
    d(f(v),f(v))d(f(v),f(v))+d(f(v),f(v))ωf(δ1)+ωf(δ2)
    となる.v,vは任意だったから,ωf(δ1+δ2)ωf(δ1)+ωf(δ2)が示された.

  2. δ[0,)を任意に取り,nに関する数学的帰納法で示す.n=1の場合は明らか.
    あるnNについてωf(nδ)nωf(δ)が成り立っていたと仮定すると,(1)より
    ωf((n+1)δ)=ωf(nδ+δ)ωf(nδ)+ωf(δ)nωf(δ)+ωf(δ)=(n+1)ωf(δ)
    となる.したがって,任意のnNに対してωf(nδ)nωf(δ)であることが示された.

  3. n:=λとおくとnλ<n+1だから,(2)より
    ωf(λδ)ωf((n+1)δ)(n+1)ωf(δ)=(λ+1)ωf(δ).

連続度の使用例

不等式dY(f(x),f(x))ω(dX(x,x))などを使うことで,dX(x,x)の大きさを一旦気にせずにdY(f(x),f(x))の評価に関する計算を進めることができます.
このように連続度を用いて評価した後で,fの連続性
limδ+0ω(δ)=0
を用いてωの値を任意に小さくすればよいので,多くの場合δの値を逆算しなければならないε-δ論法よりもシンプルな流れで計算できる…かもしれません.

連続写像のリーマン積分可能性

有界閉区間上の連続写像f:[a,b]R[a,b]上でリーマン積分可能であることを示せ.

解答例

[a,b]の任意の分割
Δ:a=x0<x1<<xk1<xk=b
に対して,Δに関するfの過剰和SΔと不足和sΔの差は,各小区間[xj,xj+1]におけるfの最大点と最小点をそれぞれxmax(j),xmin(j)とおけば
SΔsΔ=j=0k1(f(xmax(j))f(xmin(j)))(xj+1xj)j=0k1ωf(|xmax(j)xmin(j)|)(xj+1xj)j=0k1ωf(|Δ|)(xj+1xj)=ωf(|Δ|)(ba)
と評価できる.ここで,ωffの(最適)一様連続度とし,|Δ|は分割Δの幅
|Δ|:=maxj{0,1,,k1}(xj+1xj)
とした(ここまではどんな分割Δでも成り立つ議論であることに注意).さて,任意のε(0,)に対して,fの一様連続性より
ωf(δ)εba
を満たすδ(0,)が取れるから,|Δ|<δなる任意の分割Δに対してSΔsΔεが成り立つ.したがって,f[a,b]上でリーマン積分可能である.

熱方程式の解の収束性

写像f:RnRは有界かつ一様連続であるとし,写像の族(Kt:RnR)t(0,)
Kt(x):=1(4πt)n/2exp(|x|24t)(t(0,), xRn)
で定める.このとき,合成積の族(Ktf:RnR)t(0,)
(Ktf)(x)=RnKt(y)f(xy)dy(t(0,), xRn)
t+0のときfに一様収束することを示せ.

解答例

計算を頑張ると,(Kt)t(0,)は次の2性質を満たすことが確かめられる(略).

  • 任意のt(0,)に対して,RnKt(x)dx=1である.
  • 任意のδ(0,)に対して,limt+0|x|δKt(x)dx=0である.
さて,|f|の上界Mを1つ固定し,δ(0,)を任意に取る.このとき,任意のt(0,)xRnに対して
|(Ktf)(x)f(x)|=|RnKt(y)f(xy)dyf(x)RnKt(y)dy|RnKt(y)|f(xy)f(x)|dy|y|δKt(y)ωf(|y|)dy+2M|y|δKt(y)dxωf(δ)+2M|y|δKt(y)dy
が成り立つから
supxRn|(Ktf)(x)f(x)|ωf(δ)+2M|y|δKt(y)dy
であり,t+0の上極限を取ることで
lim supt+0supxRn|(Ktf)(x)f(x)|ωf(δ)+2Mlimt+0|y|δKt(y)dy=ωf(δ)
を得る.最後にδ+0とすれば,fの一様連続性とはさみうちの原理から
lim supt+0supxRn|(Ktf)(x)f(x)|=0
となり所望の結論が示された.

もし間違い等ありましたら,ご指摘ください.
ここまで読んでいただき,ありがとうございました.


追記

「連続度の大小によって連続性の強さを比べることができる」という主張について,「比べる」というからには順序が定まってほしいですね.
ただし,次の命題で定める順序は反対称律を満たさないことに注意してください(写像としては違うものであっても,連続性の強さだけ見ると同じになることがある).

連続性の強さの比較

(X,dX),(Y,dY)を距離空間,xXとし,YX上の二項関係x,を次式で定める:f,gYXに対して
fxg :⟺ ある δ0(0,] が存在して,任意の δ[0,δ0] に対して ωg,x(δ)ωf,x(δ) が成り立つ,fg :⟺ ある δ0(0,] が存在して,任意の δ[0,δ0] に対して ωg(δ)ωf(δ) が成り立つ.
このx,は,YX上の前順序である.

反射律と推移律の成立は容易に確かめられる.

  • 任意のfYXδ[0,]に対してωf,x(δ)ωf,x(δ)ωf(δ)ωf(δ)が成り立つから,fxfffが成り立つ.
  • f,g,hYXfxgかつgxhを満たすとき,あるδ1,δ2(0,]が存在して,任意のδ[0,δ1]に対してωh,x(δ)ωg,x(δ)が成り立ち,任意のδ[0,δ2]に対してωg,x(δ)ωf,x(δ)が成り立つ.よってδ0:=min{δ1,δ2}とおけば,任意のδ[0,δ0]に対してωh,x(δ)ωg,x(δ)ωf,x(δ)が成り立ち,すなわちfxhを得る.の推移律も同様に示せる.


連続度の計算問題を置いておきます.
写像f:Rzz2Rが一様連続でないことを示してみましょう.

写像f:Rzz2Rと点xRに対して
ωf,x(δ)=δ(δ+2|x|)(δ[0,])
が成り立つことを示せ.

解答例

δ=0,の場合は個別に考えることで容易に示せるから,以下δ(0,)の場合のみ考える.

  • |xy|δを満たす任意のyRに対して
    |f(x)f(y)|=|x2y2|=|xy||x+y|δ(|yx|+2|x|)δ(δ+2|x|)
    が成り立つから,ωf,x(δ)δ(δ+2|x|)である.
  • yRを次式で定める.
    y:={x+δ(x0 の場合),xδ(x<0 の場合).
    このとき|xy|=δかつy2=x2+2|x|δ+δ2が成り立つから
    |f(x)f(y)|=|x2y2|=2|x|δ+δ2=δ(δ+2|x|),
    よってωf,x(δ)δ(δ+2|x|)である.

写像f:Rzz2Rが一様連続でないことを示せ.

解答例

前問より,δ[0,]に対してωf(δ)=supxRωf,x(δ)=supxRδ(δ+2|x|)={0(δ=0 の場合),(δ>0 の場合)
が成り立つから,limδ+0ωf(δ)=であり,fは一様連続でないことが示された.

参考文献

投稿日:2023624
更新日:23
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. 概要
  2. 連続度
  3. 定義と,連続性の特徴づけ
  4. ヘルダー連続,リプシッツ連続
  5. いろいろな性質
  6. 最適連続度
  7. 連続度の使用例
  8. 参考文献