はじめに
Mathlogで「
任意に選んだ2数が互いに素である確率
」という記事を見かけました.
この記事で述べられている主張は以下のようなものです(表現は少し変えてあります).
2つの自然数をランダムに選ぶとき,それらが互いに素である確率はである.
え〜??
この主張は色々と不思議ですが,突っ込みたいのは「自然数をランダムに選ぶってどういうこと??」ということです.
だって,自然数は(可算)無限個あるのだから,各自然数を等しい確率で選ぶとすると,がどんな数であっても各自然数を選ぶ確率をすべて足し合わせるとその値はとなってしまいます.
そのため,自然数をランダムに選ぶなんてことは不可能なのではないかと思われます.
しかし,その記事の証明を見ると,「自然数をランダムに選ぶ」ことにおいて本質的な事柄は以下だと思われます.
(☆) 自然数をランダムに選ぶとき,それがの倍数になる確率はである.
これは直感的には理解できます.
なぜなら,自然数のうちの倍数である自然数は個に1個あるから,もし自然数全体から自然数をランダムに選べるとすれば,選んだ自然数がの倍数になる確率がであるのは自然だと思われるからです.
そこで,「自然数をランダムに選ぶ」ことを実現するために,一つ一つの自然数に対してそれが選ばれる確率を定めるのではなく,性質(☆)をもつ上の確率測度を定めればいいのではないかというアイデアが思いつきます.
しかし,残念ながら,そのような確率測度は存在しません.
本記事ではそれを示します.
なお,本記事では,自然数全体の集合はを要素にもたないとします.
確率空間の定義と性質
まず,問題を定式化するために,確率測度の定義とあとで用いる性質について述べます.
個々の定義や命題について特に解説はしません.
(1)を集合とし,をの部分集合の族とする(での部分集合全体の集合を表す).が-加法族であるとは,が以下の条件を満たすときにいう.
.
ならば.
ならば.
集合と-加法族の組を可測空間という.
- を可測空間とする.上の関数で以下の条件を満たすものを(上の)測度といい,3つ組を測度空間という.
.
(-加法性) 互いに素な集合の列に対して.
特に,であるとき,は確率測度であるといい,3つ組を確率空間という.
また,が2つ目の条件の代わりに次の条件
2'. (有限加法性)に対して
を満たすとき,は有限加法的測度であるという.
測度の連続性
を可測空間とする.は有限加法的測度でありであるとする.このとき,次の条件は同値である.
は-加法的である.
が単調増加(であること.これをとかく)のとき,
が単調減少(であること.これをとかく)のとき,
が単調減少で(これをとかく)のとき,
本題
問題の定式化
「はじめに」で述べたことは以下のように定式化できます.
考える可測空間をとします.
自然数に対して,の倍数全体の集合をとおきます.
このとき,「性質(☆)をもつ上の確率測度を定めることができるか?」ということは,
上の確率測度であって,任意の自然数に対してを満たすものは存在するか?
と言い換えられます.
「はじめに」でも述べたように,このような確率測度は存在しません.
これを命題として書きます.
上の確率測度であって,任意の自然数に対してを満たすものは存在しない.
題意の確率測度が存在しないことの証明
以下,上述した命題を示します.
題意の条件を満たす上の確率測度が存在したとして矛盾を導きます.
です.
また,を素数全体の集合とします.
を相異なる素数とする.
(1)が成り立つ.
(2)
が成り立つ.
は,直感的な確率の言葉でいえば,自然数をランダムに選ぶときにそれがのどれかの倍数になる確率を表すといえます.
私は整数論のセンスに乏しいため,包除原理によってゴリ押しで示します.
(1)は相異なる素数であるから,はの倍数全体,すなわちに等しい.
- 一般に,に対して,包除原理
が成り立つ(右辺の内側の和は,以下の自然数の集合の部分集合のうち要素数がであるもの全体にわたって和をとることを表す).
これを用いると,
であり,(1)より
となる.
ここで,の展開を考えると,
であるから,
となる.
準備が整ったので,本題の命題を証明します.
測度の連続性(命題1)から矛盾を導きます.
命題3の証明
素数に小さい順に番号をつけてとする.
に対して とおく.
集合列は単調減少でありである,すなわち.
に対して,測度の連続性(命題2)と命題4より
である.
を求めたい.
まずを求める.
これは,ゼータ関数のオイラー積表示より
である.
よって,
となるから,
これが任意のについて成り立つからとなるが,いまであるから測度の連続性(命題1の4つ目の条件)に矛盾する.したがって,題意の条件を満たす確率測度は存在しない.
以上によって,性質(☆)をもつ上の確率測度が存在しないことが示されました.
おわりに
本記事では,性質(☆)をもつ上の確率測度が存在しないことを示しました.
これは,自然数全体から1つの自然数を,「任意の自然数に対して,選ぶ自然数がの倍数になる確率がになる」という意味でランダムに選ぶことはできない,ということです.
なお,冒頭で紹介した記事での議論が無意味なものかというとそうではなく,たとえば,以下の自然数をランダムに2つ選ぶ(これは有限個のものから選ぶのでちゃんと選べる)ときにそれらが互いに素になる確率をとすれば,になるといえそうです(ほんとかな?).
直感的な議論を厳密に検証するのは面白いですね.
参考文献