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複素解析:解析接続

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今回の目標

今回の記事では、正則関数の解析接続を紹介します。解析接続にもいろいろな種類があると思いますが、今回は領域から別の領域への解析接続という形で紹介したいと思います。

今回の予備知識

用語について

  • 連結な開集合を領域といいます。

定義・定理について

複素数の意味で微分可能な関数のことを正則関数と呼びます:

正則関数

ΩCを領域とする。関数f:ΩC正則であるとは、任意のzΩに対して、極限limh0f(z+h)f(z)hが存在することをいう。

正則関数に対して、一致の定理と呼ばれる定理が成り立ちます:

一致の定理

ΩCを領域とし、f,g:ΩCを正則関数とする。Ω内の点列{zj}jNzΩが存在して、

  • limj+zj=z
  • 任意のjに対して、f(zj)=g(zj)

をみたすとする。このとき、任意のzΩに対してf(z)=g(z)が成り立つ。

これにより特に、ある(空でない)開集合UΩが存在してU上でf=gが成り立つとき、Ω上全体でf=gが成り立つことが分かります。

一致の定理については、前回の記事( 複素解析:一致の定理 )も参照ください。

解析接続

今回は、次の意味の解析接続を考えます:

解析接続

Ω1,Ω2Cを領域とし、UΩ1Ω2を空でない領域とする。f1:Ω1C, f2:Ω2Cを正則関数とする。f2Uをのりしろとしたf1Ω2への解析接続であるとは、U上でf1=f2が成り立つことをいう。

状況を絵で描くとこんな感じになります ↓
analytic_continuation analytic_continuation
図でいう左側の領域Ω1上の正則関数f1を、真ん中のUという部分を介して右側のΩ2上まで「広げる」わけですね。Uで関数を貼り付ける感覚を今回は「のりしろ」と表現してみました。

いくつか気を付けるところがありますので、順に見ていきましょう。

  • Uをのりしろとしたf1Ω2への解析接続は、存在すればただひとつであることが分かります。
    実際、ふたつ存在したとすると、それらはU上で一致するので、一致の定理からΩ2全体でも一致しています。
  • 例えば上の絵ではΩ1Ω2の共通部分Ω1Ω2は上下ふたつの連結成分をもちますが、Uをのりしろとした解析接続の場合、f1=f2となることが保証されているのは上側のUを含む連結成分だけになります。下側の連結成分ではf1f2一致するかもしれませんし、一致しないかもしれません
    • 一致しない場合、Ω1Ω2の間にある「穴」の周りをぐるっとたどって関数をつなげていくと、別の関数になっているということになります。このような例は今後解析接続の例として紹介するかもしれません。

はじめての解析接続

それでは、簡単ですが上の定義に従った解析接続の例を紹介してみます。

べき級数で定義された関数
f(z)=1+z+z2++zn+
を考えます。このべき級数は収束半径が1なので、原点を中心とした半径1の円の内部Δで収束し、その上の正則関数を定めます。

一方、zΔのとき、
f(z)(1z)=limn+(1+z++zn)(1z)=limn+(1zn+1)=1
ですから、zΔに対して、
f(z)=11z
が成り立つことが分かります。すると、右辺は、C{1}上の正則関数になっています。

以上により、11zΔをのりしろとしたf(z)C{1}への解析接続であることが分かりました。f(z)を定義したときのべき級数の形では、Δの外側では定義できていないことに注意してください。このように、べき級数を変形して定義域を広げることも立派な解析接続です。

次回はまた別の解析接続の例を紹介したいと思います。それではまた!

投稿日:20201113
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