こんにちは、ロダンです。マルコフ数の性質を証明しよう企画の第二弾ということで記事を書いています(第一弾は
こちら
、この後続くとは限りません)。今回の性質についても日本語で読めて、かつネットに置いてある文献がないということで、証明をちゃんと与えていきたいと思います。ただし、途中有名な定理を使用するところがあり、その証明は適宜文献を参照してもらうことにします。
主定理
まずはマルコフ数の定義からしていきましょう。
マルコフ数
マルコフ方程式を満たす正整数解に現れる数をマルコフ数という。
今回の主定理は次の定理です。
任意のマルコフ数に対して、互いに素な(正の)整数の組が存在して、とかける。
実際に小さいマルコフ数について確かめてみると、
となりきちんと定理の主張を満たしていることがわかります。ところで、定理1の条件を満たすとは何者なのか?ということも気になると思いますが、これは証明の途中で明らかになります。
証明の準備
まずこの証明を行うにあたって、いくつか既知の事実を与えておきます。
準備1: マルコフ方程式の正整数解の性質
まずはマルコフ数(というよりマルコフ方程式の解)の性質から。
がマルコフ方程式の正整数解であるとき、は互いに素である。
ステートメントはいたってシンプルですが、証明にはマルコフ方程式の正整数解を生成するツリーを使うなど、かなり奥深いです。
第一弾の記事
を参照してください。
準備2: 初等整数論についての重要な定理たち
初等的整数論における前提知識を確認しておきましょう。
ルジャンドル記号
を奇素数とする。整数に対して、記号を、
- を満たすが存在する場合,
- を満たすが存在しない場合,
- を満たす場合
と定める。この記号をルジャンドル記号という。
この記号について、今回の証明で必要な性質を挙げておきます。
上記の性質はオイラーの規準と呼ばれる性質
から導出できます。詳しくは
高校数学の美しい物語さんの記事
などを参照してください。さらにこの応用として、次の定理が示されます。
フェルマーの二平方和の定理
奇素数に対して、「ある正整数の組が存在してとかける」ことと、「は型の素数である」ことは同値である。
証明は例えば
高校数学の美しい物語さんの記事
や
Wikipediaの「二個の平方数の和」の項
に詳細が載っているのでこちらを参照してください。
定理1の証明
では、実際に定理1を証明していきましょう。まず、次の補題を証明します。
- マルコフ数の奇数である正素因数は全てある整数を用いてと表される。
- 偶数であるマルコフ数はの倍数ではない。
をマルコフ数とする。まず(1)を示す。を含むマルコフ方程式の解を一つとる。このとき、を満たしている。これを変形することでとなり、はで割り切れる。したがって、の奇素因数でもは割り切れる。すなわち、である。ここで、命題2よりはと互いに素であり、特にとは互いに素であるから、が成立する。命題3(2)より、補題5を示すためにはを示せば良い。命題3(1)から
が成立している。ルジャンドル記号の定義から明らかになので、である。よって示された。
(2)を示す。とおく。ここでかつは奇数であるとする。このとき、であることを示せば十分である。を含むマルコフ方程式の解を一つとる。が偶数であることとであることからは偶数である。このときとは両方偶数であるか両方奇数であるかのどちらかであるが、命題2から両方偶数であることはありえず、したがって両方奇数である。このとき、(1)からとかける。を仮定すると、
が成立することになり、これは矛盾である。したがって、はの倍数ではない。
この先の議論のために、ガウス整数環を考えます。ただしは虚数単位です。まず基本的な事項について確認しておきます。
- はノルムについてユークリッド整域である。特に、一意分解整域である。
- について、「は単元である」ことと「はノルムの元である」ことは同値であり、これを満たすはとで全てである。
このあたりは基本的な環論の教科書を参照してください。が一意分解整域であることにより、においては素因数分解や最大公約数を考えることができます。さて、次の命題がこの問題の核心です。
マルコフ数を含むマルコフ方程式の正整数解を1つとる。このとき、とのにおける最大公約数をとするとが成立する。
最大公約数は単元倍による差を除いて一意的であって一意に定まるわけではないのでどんな値を取ってもが一定なのかが一瞬気になりますが、の単元は命題6(2)よりノルムを変えないので問題ありません。それでは、命題7を示していきましょう。
をにおいて素因数分解したときの表示をとする。ただし、は正であるとする。このとき、補題5よりは型の素数またはだから、定理4より任意のについてを満たす整数の組が存在する(のときはとなることに注意)。したがって、が成り立つ。ここで、はのにおける素因数分解を与えている。実際、がと因数分解されるとき、はと因数分解されるので、が成り立つ。ここで、はにおける素数であるから、またはである。したがって、またはが成り立つので、命題6(2)からまたはのどちらかは単元である。
次に、が各に対してのときかのどちらか一方だけを約数に持ち、を約数として持つときはを約数としてもたず、を約数として持つときはを約数としてもたないことを示す。もしがとの両方を約数として持つと仮定すると、とは(より)同伴ではないのでは整数を約数として持つが、これはとが互いに素であることに反する。したがってどちらか一方しか約数として持てない。さらにはの約数であるから、特にもの約数である。したがって、は約数としてを持っている。なので、個のと個のはとの約数としてそれぞれ分配され、すくなくともとのどちらかには約数としてとが合わせて個以上含まれている。とは互いに共役関係にあるので、が約数としてを持っているならば、は約数としてを同じ数だけ持っており、またが約数としてを持っているならば、は約数としてを同じ数だけ持っていることになる。このことは、とを入れ替えても成立する。以上のことから、は約数としてとの両方を合わせて個以上持っていることになる。今とのどちらか一方は1つも持っていないことがわかっているので、が各に対してかのどちらか一方だけを約数に持ち、を約数として持つときはを約数としてもたず、を約数として持つときはを約数としてもたないことがわかった。
次に、となるが存在する場合を考える(すなわち、が偶数である場合である)。このとき、はを約数として持たない。もし持つとすると、とは同伴なのでを約数として持つことになり、これはとが互いに素であることに反する。また、はの約数であることから、特にがの約数でなければならず、したがって直前の議論と合わせることでの素因子である(あるいは同じことだが)がの約数としてちょうど1つ含まれることがわかった。
さて、が約数として (ただし各に対してとする)を持つとすると、上記の議論からこれがとの最大公約数である。今なので、が成立する(が偶数であるときはであるようなを含むが、このとき補題5(2)からであることがわかり、またがにおける約数かつがの約数でないことから奇素数と同じ議論ができることに注意せよ)。以上から示された。
が奇素数の場合はと素因数分解した際にとの絶対値が同じ数になることはない(あったらがと以外の約数を持つことになる)のでとが同伴になることはありませんが、の場合はとが同伴なので分けて議論する必要があります。
定理1の証明の締めくくりとして、とが互いに素であるものとしてとれることを示します。
マルコフ数について、命題7のようにとなるとをとると、とは互いに素である。
とがにおける共通の素因数を持っているとする。このとき、はのにおける約数なので、ものにおける約数である。したがって、はとの( における)共通の素因数となるが、これはとが互いに素であること(命題2)に矛盾する。よって示された。
以上で定理1が示されました。
おわりに
実は私は定理1をスネークグラフという組み合わせ論の道具について論じているCanacki-Schifflerの論文CSで知っていたのですが、専門的でないもう少しシンプルな証明方法はないかと思ってこの内容をでつぶやいてみたところ、@yotsunvaさんと@sumahola974944さんから親切なリプライをいただいたことでこの証明を完成させることができました。初等整数論の議論と環論の初歩の議論をうまく活用した証明になっており、とても気に入っています。コメントをくださったお二方、ありがとうございました。また、この記事を上げてから命題7の証明の不備(がの場合についての議論の欠落)を指摘していただいた
J. Koizumi
さんにも感謝の意を述べたいと思います。ありがとうございました。