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大学数学基礎解説
文献あり

石鹸膜の幾何学入門(3): 変分公式からの帰結~極小曲面の凸包~

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前回 ははめ込まれた曲面に対して面積の変分を計算し, 面積の臨界点であるための幾何学的条件「平均曲率が至る所0」を導きました. そしてこの条件を通して, 改めて極小曲面を定義しました.

今回は, 第一変分公式から導かれる極小曲面のいくつかの性質について見ていきます.

Notation
  • xi: R3の第i座標関数.
  • {Ei}i=13: R3の正規直交基底.
  • : R3上の微分(Levi-Civita接続).
  • {ej}j=12: Σ上のフレーム(正規直交標構)
  • Σ: Σ上のLevi-Civita接続.
  • divΣ=iei,ei: Σに沿ったベクトル場の発散.
  • ΔΣ=divΣΣ: Σ上のラプラシアン.
第一変分公式

Σに沿った任意のコンパクト台を持つ変分ベクトル場Vに対し
ddt|t=0Area(Σt)=Σ2HV,N=ΣdivΣ(V).

極小曲面と座標関数

ΣR3内の曲面とします. R3の第i座標成分xiR3上の実数値関数と思い, それをΣ上に制限したものを考えます(同じ記号xiで表すことにします).

極小曲面座標関数が調和

曲面Σが極小曲面であるための必要十分条件は, 任意のiに対して関数xiが調和関数(ΔΣxi=0)になることである.

はじめに, Ei=xiであることに注意する. 任意のϕC0(Σ)を取り, Σに沿ったベクトル場ϕEiを考える. 任意のXX(Σ)に対しXEi=0となるので,
divΣ(ϕEi)=jej(ϕEi),ej=j(ejϕ)Ei,ej=jEi,(ejϕ)ej=Σϕ,Ei

第一変分公式より
ΣϕEi,2HN=ΣdivΣ(ϕEi)=ΣΣϕ,Ei=ΣΣϕ,Σxi.
最後の等式ではxiの接成分がΣxiに等しいことを用いた.

発散定理により
ΣΣϕ,Σxi=ΣdivΣ(ϕΣxi)ΣϕΔΣxi=ΣϕΔΣxi
となるので,
ΣϕEi,2HN=ΣϕΔΣxi
が任意のϕに対して成り立つ.
変分法の基本補題より
ΔΣx=(ΔΣx1,ΔΣx2,ΔΣx3)=2HN
となるから, H=0となる必要十分条件はΔΣx=0.

この命題から直ちに次がわかります.

R3内の境界を持たないコンパクト極小曲面は存在しない.

そのような極小曲面Σが存在したとする.
命題1より
ΔΣ(xi)2=2xiΔΣxi+|Σxi|2=|Σxi|2.
これを積分すると, 発散定理よりΣ|Σxi|2=0となり, したがって各xiは定数関数でなければならない. これはΣが一点のみからなることを意味し, 曲面であることと矛盾する.

よって, 極小曲面として興味のある対象は, コンパクトで空でない境界を持つ場合か非コンパクトな場合に限定されます.

Convex hull property

ここでは, 曲面Σコンパクトかつ空でない境界を持つと仮定します.

弱最大値原理と極小曲面の凸包

座標関数の調和性から導かれる, ある幾何学的帰結について述べます.

凸包

部分集合ARnに対し, Aを含む全ての閉半空間の共通部分をAの凸包(the convex hull of A)と言い, Conv(A)と表す.

Convex hull property

Σをコンパクトな極小曲面とすると, ΣConv(Σ).

感覚的には, 枠Σを張る石鹸膜Σの外側から石鹸膜に向かって徐々に手のひら(平面)を近づけていったとき, 手のひらが最初に触れるのは必ず枠Σ上の点である, という性質です. この性質からも, 取りうる石鹸膜の形状はかなり限定的になるということが読み取れます. 平面が最初に触れるのは境界上の点 平面が最初に触れるのは境界上の点

証明の前に, 調和関数の持つ次の性質を思い出しておきます.

最大値原理

ΣをコンパクトRiemann多様体とし, uをその上の調和関数とする. このとき
maxΣu=maxΣu
が成り立つ. さらに, もしuΣのある内点で最大値を持てば, uは定数である.

今は曲面で考えているため, 等温座標系を用いれば通常のラプラシアンの最大値原理に帰着されます. 一般の場合の証明は少し大変です. 長くなるため, 詳細は折り畳みをご覧ください.

最大値原理の証明

関数uの最大値をm0=maxΣuとおき, 集合Ω=u1(m0)を考える. 定め方から, ΩΣの閉集合. Σのある内点がΩに含まれていたならば, Ωが開集合でなければならないことを示す. これが示されれば, 連結性からΩ=Σでなければならず, したがってuは定数関数となる.

そこで, Ωが内点を持っていたとし, 任意のp0ΣΣΩを取る. 正の数R>02R<min{inj(p0),dist(p0,Σ)}を満たすように取り, 測地球B2RΣ(p0)を考える. このときBRΣ(p0)Ωとなることを示そう.

いま, pBRΣ(p0)Ωを満たす点があったとし, ρ=dist(p,p0)とおく. このとき, BρΣ(p)B2RΣ(p0)に注意する. したがって, 点pからの距離関数r(x)=dist(x,p)は, BρΣ(p){p}でなめらかである. また, 0<δ<ρを小さく取り, BδΣ(p)上でu<m0が成り立つようにしておく.

ここで, aRを後で決める定数とし, BρΣ(p)上の関数v
v=ear2eaρ2
で定義する. A(δ,ρ)=BρΣ(p)BδΣ(p)上でΔΣvを計算すると, |Σr|=1に注意して,
ΔΣv=divΣ(2arear2Σr)=2arear22aear2|Σr|2+4a2r2ear2|Σr|2=ear2(4a2r22a(1+rΔΣr))ear2(4a2δ22a(1+supA(δ,ρ)|rΔΣr|))
となる. よって, a>0を十分大きく取れば, A(δ,ρ)上でΔΣv>0とできる.

そこで, 任意のε>0に対してuε=u+εvとおくと, A(δ,ρ)上でΔΣuε>0となる.
もし, uεA(δ,ρ)の内部で最大値を取ったとすると, この点においてHessuε0となり, したがってΔΣuε=tr(Hessuε)0とならねばならない. よって, uεA(δ,ρ)の境界で最大値を取る.

ε>0を小さく取れば, uεの最大値はp0BρΣ(p)で達せられることを示そう. そのためには, uε(p0)supBδΣ(p)uεを示せばよい. 定め方からv(p0)=0であることに注意して条件を変形すると,
u(p0)supBδΣ(p)(u+ε(ear2eaρ2))
となる. ここで, δの取り方からu(p0)>supBδΣ(p)uであることに注意して,
ε=u(p0)supBδΣ(p)u2(eaδeaρ2)
とおくと, BδΣ(p)上で
u+ε(ear2eaρ2)=u+ear2eaρ22(eaδ2eaρ2)(u(p0)supBδΣ(p)u)u+u(p0)supBδΣ(p)u2=u+u(p0)2+usupBδΣ(p)u2u(p0)
が成り立つ. したがってuεp0で最大値を取ることがわかった.

このとき, uεp0BρΣ(p)における外向き法方向微分は
uεr(x0)0
を満たす. uε=u+εvより,
ur(x0)εvr(x0)=2εaρeaρ2>0.
ところが, uは内点p0で最大値を取るから, このことはΣu(p0)=0であることと矛盾する.

以上により, BRΣ(p0)Ωがわかり, したがってuが定数関数でなければならないことがわかった.

Convex hull property の証明

境界Σを含む任意の半空間Hを取る. このときΣHを示せばよい.
ある単位ベクトルvS2と実数aRを用いて
H={xR3|x,va}
と表せることに注意する.
命題1と同様にして, Σ上の関数u(x)=x,vは調和関数であることがわかるから, 最大値原理によりuは境界Σで最大値を取る. このことから, 任意のxΣに対して,
x,v=u(x)maxΣua
となり, ΣHがわかった.

トポロジー単調性

Convex hull propertyの応用として, 極小曲面が次の意味で位相的に単調であることが示せます.

トポロジー単調性

Σをコンパクトかつ単連結な極小曲面とする. KR3KΣ=を満たす任意のコンパクト凸集合とするとき, KΣも単連結である. 単調性を満たす例と満たさない例 単調性を満たす例と満たさない例

背理法により示す. KΣが単連結でないとすると, KΣの中で可縮でない閉曲線γKΣが存在する. 一方, Σ自体は単連結だから, γΣの中では可縮である. よって, 単連結部分領域DΣで, D=γであるようなものが存在する. 作り方から, DKである.
一方, このDもコンパクトな極小曲面だから, convex hull propertyによりDConv(γ)Kでなければならず, 矛盾する.

もう少しトポロジー的な言葉で表現するなら, 包含ι:KΣΣが誘導する基本群の準同型ι:π1(KΣ)π1(Σ)が単射になることを主張しています.

おわりに

今回は第一変分公式から導かれる帰結の中でも, とりわけ幾何学的なものを紹介しました. 今回の記事を通して, 極小曲面のかたちはかなり制限されてそうだという雰囲気が伝わったでしょうか. 変分公式のもう一つの帰結として単調性公式と呼ばれるそれ自体重要な公式もあるのですが, こちらはまた機会を改めて紹介しようと思います.
次回は再びグラフ極小曲面について考えます.

参考文献

[1]
T.H. Colding and W. P. Minicozzi Ⅱ, A Couse in Minimal Surfaces, GSM 121, American Mathematical Society, 2011
[2]
松島与三, 多様体入門, 裳華房, 1980
投稿日:202454
更新日:2024525
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Torte
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数理系博士課程在籍. 幾何学や解析学が好きです. 多分大学数学メイン?

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  1. 極小曲面と座標関数
  2. Convex hull property
  3. 弱最大値原理と極小曲面の凸包
  4. トポロジー単調性
  5. おわりに
  6. 参考文献