前回
ははめ込まれた曲面に対して面積の変分を計算し, 面積の臨界点であるための幾何学的条件「平均曲率が至る所」を導きました. そしてこの条件を通して, 改めて極小曲面を定義しました.
今回は, 第一変分公式から導かれる極小曲面のいくつかの性質について見ていきます.
Notation
- : の第座標関数.
- : の正規直交基底.
- : 上の微分(Levi-Civita接続).
- : 上のフレーム(正規直交標構)
- : 上のLevi-Civita接続.
- : に沿ったベクトル場の発散.
- : 上のラプラシアン.
第一変分公式
に沿った任意のコンパクト台を持つ変分ベクトル場に対し
極小曲面と座標関数
を内の曲面とします. の第座標成分を上の実数値関数と思い, それを上に制限したものを考えます(同じ記号で表すことにします).
極小曲面座標関数が調和
曲面が極小曲面であるための必要十分条件は, 任意のに対して関数が調和関数()になることである.
はじめに, であることに注意する. 任意のを取り, に沿ったベクトル場を考える. 任意のに対しとなるので,
第一変分公式より
最後の等式ではの接成分がに等しいことを用いた.
発散定理により
となるので,
が任意のに対して成り立つ.
変分法の基本補題より
となるから, となる必要十分条件は.
この命題から直ちに次がわかります.
内の境界を持たないコンパクト極小曲面は存在しない.
そのような極小曲面が存在したとする.
命題1より
これを積分すると, 発散定理よりとなり, したがって各は定数関数でなければならない. これはが一点のみからなることを意味し, 曲面であることと矛盾する.
よって, 極小曲面として興味のある対象は, コンパクトで空でない境界を持つ場合か非コンパクトな場合に限定されます.
Convex hull property
ここでは, 曲面はコンパクトかつ空でない境界を持つと仮定します.
弱最大値原理と極小曲面の凸包
座標関数の調和性から導かれる, ある幾何学的帰結について述べます.
凸包
部分集合に対し, を含む全ての閉半空間の共通部分をの凸包(the convex hull of )と言い, と表す.
感覚的には, 枠を張る石鹸膜の外側から石鹸膜に向かって徐々に手のひら(平面)を近づけていったとき, 手のひらが最初に触れるのは必ず枠上の点である, という性質です. この性質からも, 取りうる石鹸膜の形状はかなり限定的になるということが読み取れます.
平面が最初に触れるのは境界上の点
証明の前に, 調和関数の持つ次の性質を思い出しておきます.
最大値原理
をコンパクトRiemann多様体とし, をその上の調和関数とする. このとき
が成り立つ. さらに, もしがのある内点で最大値を持てば, は定数である.
今は曲面で考えているため, 等温座標系を用いれば通常のラプラシアンの最大値原理に帰着されます. 一般の場合の証明は少し大変です. 長くなるため, 詳細は折り畳みをご覧ください.
最大値原理の証明
関数の最大値をとおき, 集合を考える. 定め方から, はの閉集合. のある内点がに含まれていたならば, が開集合でなければならないことを示す. これが示されれば, 連結性からでなければならず, したがっては定数関数となる.
そこで, が内点を持っていたとし, 任意のを取る. 正の数をを満たすように取り, 測地球を考える. このときとなることを示そう.
いま, を満たす点があったとし, とおく. このとき, に注意する. したがって, 点からの距離関数は, でなめらかである. また, を小さく取り, 上でが成り立つようにしておく.
ここで, を後で決める定数とし, 上の関数を
で定義する. 上でを計算すると, に注意して,
となる. よって, を十分大きく取れば, 上でとできる.
そこで, 任意のに対してとおくと, 上でとなる.
もし, がの内部で最大値を取ったとすると, この点においてとなり, したがってとならねばならない. よって, はの境界で最大値を取る.
を小さく取れば, の最大値はで達せられることを示そう. そのためには, を示せばよい. 定め方からであることに注意して条件を変形すると,
となる. ここで, の取り方からであることに注意して,
とおくと, 上で
が成り立つ. したがってはで最大値を取ることがわかった.
このとき, のにおける外向き法方向微分は
を満たす. より,
ところが, は内点で最大値を取るから, このことはであることと矛盾する.
以上により, がわかり, したがってが定数関数でなければならないことがわかった.
Convex hull property の証明
境界を含む任意の半空間を取る. このときを示せばよい.
ある単位ベクトルと実数を用いて
と表せることに注意する.
命題1と同様にして, 上の関数は調和関数であることがわかるから, 最大値原理によりは境界で最大値を取る. このことから, 任意のに対して,
となり, がわかった.
トポロジー単調性
Convex hull propertyの応用として, 極小曲面が次の意味で位相的に単調であることが示せます.
トポロジー単調性
をコンパクトかつ単連結な極小曲面とする. をを満たす任意のコンパクト凸集合とするとき, も単連結である.
単調性を満たす例と満たさない例
背理法により示す. が単連結でないとすると, の中で可縮でない閉曲線が存在する. 一方, 自体は単連結だから, はの中では可縮である. よって, 単連結部分領域で, であるようなものが存在する. 作り方から, である.
一方, このもコンパクトな極小曲面だから, convex hull propertyによりでなければならず, 矛盾する.
もう少しトポロジー的な言葉で表現するなら, 包含が誘導する基本群の準同型が単射になることを主張しています.
おわりに
今回は第一変分公式から導かれる帰結の中でも, とりわけ幾何学的なものを紹介しました. 今回の記事を通して, 極小曲面のかたちはかなり制限されてそうだという雰囲気が伝わったでしょうか. 変分公式のもう一つの帰結として単調性公式と呼ばれるそれ自体重要な公式もあるのですが, こちらはまた機会を改めて紹介しようと思います.
次回は再びグラフ極小曲面について考えます.