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大学数学基礎解説
文献あり

石鹸膜の幾何学入門(2): 第一変分公式

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前回 はRiemann幾何学的な視点から曲面論の復習を行い, 各種用語や概念の定義をしました.
今回はいよいよΣの面積Area(Σ)の変分を計算していきます.

面積の第一変分公式

変分法の基本補題

はじめに, 初回で紹介した解析学の命題を証明しておきます.

変分法の基本補題

MmをRiemann多様体とする. uC0(M)が任意の関数ϕC0(M)に対して
Muϕ=0
を満たすならば, u0である.

任意に固定したpMに対し, u(p)=0となることを示せばよい.
pを中心とした半径rの測地球Brを考える. 十分小さなr>0を考えることで, Brの閉包はコンパクトであるとしておく(具体的には, pの周りのある局所座標に含まれるようにしておけばOK).
いま, 関数ϕrC0(M)を以下で定義する:
ϕr(x)={Crexp(1r2dist(x,p)2)ifxBr,0otherwise.
ここで, 定数Cr>0Mϕr=1となるように取った.

このとき,
limr0Muϕr=u(p)
であることを示す.
実際, 任意にε>0を取ると, uの連続性から, r>0を十分小さく取っておけば
|u(x)u(p)|<εfor every xBr
とできる. このとき, Mϕr=1を用いると,
|Muϕru(p)|=|M(uu(p))ϕr|Br|uu(p)|ϕrεBrϕr=ε
となるから, Muϕru(p)がわかる.
一方, 仮定よりMuϕr=0だったから, u(p)=0でなければならない.

曲面の変分(微小変形)

2次元多様体ΣR3へのはめ込みf:ΣR3が与えられたとき, それを微小に変形したものを変分と言います. より詳細には次で定義します.

曲面(はめ込み)の変分

曲面Σ変分とは, C級写像F:Σ×(ε,ε)R3で, 以下の条件を満たすものとする:

  • F(,0)=f.
  • 任意のt(ε,ε)に対してF(,t)C級はめ込み.
  • Ft=F(,t)の台はコンパクト, すなわち任意のtに対し, あるコンパクト集合KtΣが存在して, xΣKtに対してはF(x,t)=f(x).

Σが境界を持つ場合は,

  • xΣに対してはF(x,t)=f(x).

を追加で仮定する.

このようなはめ込みの1径数族が存在することは, 変分を次のようにして構成できることからわかります.

変分の構成法

f:ΣR3を曲面Σのはめ込みとする. Vをコンパクト台を持つ, Σに沿ったなめらかなベクトル場とする. Σが境界を持つ場合は, Σ上でV0を追加で仮定する. このとき, 十分小さなε>0を取ると, t(ε,ε)に対して写像F(,t):ΣR3
F(x,t)=f(x)+tV(x)
で定めたとき,F:Σ×(ε,ε)R3Σの変分であるようにできる.

こうして作った写像Ft=F(,t)がはめ込みになることは, はめ込み全体の成す集合が写像空間の中で(適当な位相に関して)開集合になることから直ちにわかります([2]も参照のこと). 以下の折り畳みに証明を載せておきますが, 証明そのものよりも「変分がこのようにして構成できる」ことの方が重要ですので, 一旦この事実は認めて先に進んでもらって構いません.

変分の構成法の証明

十分小さな任意のtに対して, ft=F(,t)がはめ込みになることを示せばよい. それには任意の点xΣ(dft)x:TxΣTft(x)R3=R3が単射となることを示せばよい.

仮定よりfははめ込みだから, 任意のxΣに対しdfx:TxΣR3は単射な線形写像である. Vの台をKとおく. xΣKの時はft(x)=f(x)となるから, 以下xKで考える.

いま, コンパクト集合K上の単位接束
SK=xK{vTxΣ||v|=1}
を考え, SK上の関数ρρ(x,v)=|dfx(v)|で定義すると, dfxの単射性からρSK上の正値連続関数である. さらに, SKは接束TΣのコンパクト部分集合だから, この上でρは最小値ρ0>0を持つ. このとき任意のxKおよびvTxΣに対し,
|dfx(v)|ρ0|v|
が成り立つ.
いま, C=max(x,v)SK|dVx(v)|>0とおくと, 任意のvTxΣに対し, |dVx(v)|C|v|.
そこで, ε=ρ0/2Cとおくと, |t|<εのとき,
ρ0|v||dfx(v)||(dft)x(v)dfx(v)|+|(dft)x(v)|=|t||dVx(v)|+|(dft)x(v)|Cε|v|+|(dft)x(v)|ρ02|v|+|(dft)x(v)|
となるので, |(dft)x(v)|ρ02|v|. したがって(dft)xは単射となり, ftがはめ込みになることがわかった.

第一変分公式

F:Σ×(ε,ε)R3Σの任意の変分とします. xΣの周りの局所座標(U;u1,u2)gij=δijとなるよう取っておきます. 示すべき公式を思い出しておきましょう.

面積の第一変分公式

曲面Σの任意の変分F:Σ×(ε,ε)R3に対し, Σt=F(Σ,t)とおくと,
ddt|t=0Area(Σt)=Σ2Ht|t=0F,N.

Notation
  • Fi=dF(ui), Ft=dF(t).
  • gij=gij(t)=Fi,Fj.
  • Σt=F(Σ,t).

変分した曲面Σtの面積は
Area(Σt)=Σdetg(t)du1du2=Σdetg(t)detg(0)detg(0)du1du2
となります. ν(t)=detg(t)/detg(0)とおくと, これは局所座標によらず大域的に定義できる関数ですから,
ddt|t=0Area(Σt)=Σddt|t=0ν(t)detg(0)du1du2
とできます. そこで, ν(t)のパラメータtに関する微分を計算します.

行列式の微分

正則行列のなめらかな1径数族g(t)に対し,
ddtdetg(t)=detg(t)tr(g1(t)ddtg(t)).

任意にt0を固定し, h(t)=g1(t0)g(t)t=t0における微分を考える.
行列式の定義より, Snn次対称群とすると,
deth(t)=σSnsign(σ)h1σ(1)(t)hnσ(n)(t)
となる. h(t0)=Iに注意してt=t0で微分すると,
ddt|t=t0deth(t)=σSnsign(σ)i=1nh1σ(1)(t0)hiσ(i)(t0)hnσ(n)(t0)=h11(t0)++hnn(t0)=trh(t0)=tr(g1(t0)g(t0)).
一方, hの定義からdetg(t)=detg(t0)deth(t)となるから,
ddt|t=t0detg(t)=detg(t0)tr(g1(t0)ddt|t=t0g(t)).

補題4より,
ddtdetg(t)=12detg(t)ddtdetg(t)=12detg(t)tr(g1(t)ddtg(t))
となります. いま, xの周りの局所座標をgij(0)=δijとなるよう取っていたので,
ddt|t=0ν(t)=12i=02ddtFi,Fi=i=12FtFi,Fi=i=12FiFt,Fi.
最後の等式を得るために, FtFiFiFt=[Fi,Ft]=dF([i,t])=0となることを用いました.
さて, V=Ft|t=0それ自体は曲面Σに沿ったベクトル場ですから, 接空間の分解R3=TxΣNにしたがって,
V=X+ϕN,XX(Σ),ϕC0(Σ)
と分解しておきます. t=0{Fi}TxΣの正規直交基底になるので, Σに沿ったベクトル場Vに対する発散
divΣ(V)=i=12FiV,Fi
で与えられますから,
ddt|t=0ν(t)=divΣ(V)=divΣ(X)+divΣ(ϕN)
と計算されます. 前回も計算したように, 法成分の発散は
divΣ(ϕN)=i=12Fi(ϕN),Fi=ϕi=12FiN,Fi+i=12dϕ(Fi)N,Fi=ϕi=12FiN,Fi=2Hϕ
となります.

このことと発散定理により, 面積の変分は
ddt|t=0Area(Σt)=ΣdivΣ(X)+ΣdivΣ(ϕN)=2ΣHϕ=2ΣHV,N
と計算されます. これにより, 第一変分公式が証明されました. お疲れ様でした.

さて, 変分法の基本補題によれば,
ddt|t=0Area(Σt)=0H=0
ϕの任意性から成り立ちます. こうして, 次のような定義に至ります.

極小曲面

平均曲率が至る所0であるような曲面を極小曲面と呼ぶ.

向き付けられない(より厳密には裏表のない(one-sided))曲面に対しては, 大域的な単位法ベクトル場の非存在性から今回のような変分計算はできません. ところが, どんな曲面にも局所的には単位法ベクトルは存在するので, 各点において平均曲率が0という概念自体は意味を持ちます. そのためこの場合にも, 平均曲率が0という条件を以って極小曲面を定義することができます.

おわりに

今回は面積汎函数の変分計算を行い, 極小曲面の概念を改めて定義しました. 今回の計算はそのまま高次元の場合にも一般化ができます. その場合にもやはり「平均曲率が0」という条件で極小部分多様体を特徴づけることができます.
次回 は, 第一変分公式から導かれる極小曲面の幾つかの幾何学的な性質について紹介しようと思います.

参考文献

[1]
T. H. Colding and W. P. Minicozzi Ⅱ, A Course in Minimal Sufaces, GSM 121, American Mathematical Society, 2011
[2]
M. W. Hirsch, Differential Topology, Springer, 1976
[3]
浦川肇, 変分法と調和写像, 裳華房, 2006
投稿日:202452
更新日:2024512
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Torte
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数理系博士課程在籍. 幾何学や解析学が好きです. 多分大学数学メイン?

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  2. 変分法の基本補題
  3. 曲面の変分(微小変形)
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