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大学数学基礎解説
文献あり

石鹸膜の幾何学入門(1): 曲面論からの準備

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前回 の最後に関数のグラフで与えられる曲面の変分を計算しました. 今回と 次回 でより一般の曲面に対して変分を計算します. 当面の目標は次の公式の証明です.

面積の第一変分公式

曲面Σの任意の変分F:Σ×(ε,ε)R3に対し, Σt=F(Σ,t)とおくと,
ddt|t=0Area(Σt)=Σ2Ht|t=0F,N.

今回は変分計算のための事前準備として, 曲面の幾何学をRiemann幾何学の視点から復習し, 各種用語や概念を定義します.

Notation
  • ,: R3の標準計量.
  • ||: R3の標準計量によるノルム.
  • : R3上の微分(標準計量に関するLevi-Civita接続).
  • Σ: (R3内にはめ込まれた曲面としての)2次元多様体.
  • X(Σ): Σ上の接ベクトル場の成す空間.

曲面論からの準備〜Riemann幾何学的視点から〜

はじめに, 曲面論で学んだ事項をRiemann幾何学の言葉に翻訳しておきましょう.

向き付け可能なC級2次元連結多様体ΣC級はめ込みf:ΣR3による像を考えます. Σには, はめ込みfによる引き戻し計量
g(X,Y)=fX,Y=df(X),df(Y)
を入れておきます. こうすることで, fは(自明に)等長はめ込みになります. Σ上の局所座標(u1,u2)を導入し, fi=df(/ui)とおけばgij=fi,fjとなるので, この計量の定義は曲面論における第一基本形式に他ならないことがわかります.

この意味で, 以下では2次元多様体Σとそのfによる像(R3内の曲面としての実現)を同一視し, 単に曲面Σと呼ぶことにします. それに伴い, Σ上の計量gやそれによる接ベクトルのノルムも, 今後しばしばR3のそれと同一視して,||で表すことがあります.

曲面の第二基本形式

続いてΣ上の接続や第二基本形式について見ていくのですが, そのために一つ用語を定義します.

曲面に沿うベクトル場

曲面Σ上のCベクトル値関数V:ΣpV(p)TpR3=R3を, 曲面Σに沿ったベクトル場と呼ぶ.

曲面Σ上の任意の接ベクトル場も, 各点でR3のベクトルと思うことでΣに沿ったベクトル場と見做せます.

いま, R3内の曲面Σは向き付け可能ですから, 単位法ベクトル場Nが大域的に定義できます. このNも, Σに沿ったベクトル場の一種です. 曲面Σ上各点pΣで, 接空間TpR3=R3R3=TpΣNと分解しておきます.

曲面Σに沿ったベクトル場VpΣにおける接ベクトルXTpΣに対し,
XV=ddt|t=0V(c(t))
と定義します. ここで, c(t)Σ上の曲線で, c(0)=p, c(0)=Xを満たすものとします. R3への写像の微分, すなわち, XV=dV(X)を考えているのと同じであることに注意すれば, この定義が曲線cの取り方に依存しないことはすぐにわかります. 曲面Σに沿ったベクトル場の微分XVは, R3上大域的に定義されたベクトル場に対する通常の微分Σ上に制限したものに他なりません.
!FORMULA[69][838988151][0]に沿ったベクトル場の微分 Σに沿ったベクトル場の微分
続いて, X,YX(Σ)を取ると, XYもまたΣに沿ったベクトル場ですから, 各点で先程の接成分と法成分の分解を考えて

Gaussの公式

XY=XΣY+A(X,Y)N

となります.

接続と第二基本形式
  1. Σ:X(Σ)×X(Σ)X(Σ)Σ上の接続を定める. より詳細に, 計量gに関するLevi-Civita接続と一致する.
  2. Aは対称. すなわちA(X,Y)=A(Y,X)が成り立つ.

の定め方からΣおよびAの線形性は明らか.
Σ上の任意の関数a, bに対し,
aX(bY)=d(bY)(aX)=a(db(X)Y+bdY(X))=a(db(X)Y+bXY)=(abXΣY+a(Xb)Y)+abA(X,Y)N
となるので, Σは接続, A(0,2)テンソルになる.
さらに, 微分の性質より
0=XYYX[X,Y]=(XΣYYΣX[X,Y])+(A(X,Y)A(Y,X))N
となるから, 接成分と法成分を比較して
XΣYYΣX=[X,Y]A(X,Y)=A(Y,X)
が成り立つ. Σが計量gと適合する(compatible)ことは,
Xg(Y,Z)=XY,Z=XY,Z+Y,XZ=XΣY,Z+Y,XΣZ=g(XΣY,Z)+g(Y,XΣZ)
からわかる.

第二基本形式と平均曲率
  1. 対称テンソルAを曲面Σ第二基本形式と呼ぶ.
  2. 任意の点pTpΣにおいて, 計量gに関する正規直交基底{ei}i=12を取ったとき,
    H=12i=12A(ei,ei)
    Σの(点pにおける)平均曲率と呼ぶ.

このAが曲面論で学んだ第二基本形式と同じものであることは次のようにして確かめられます. 曲面Σ上の局所座標(u1,u2)を取ると,
Aij=A(fi,fj)=fifj,N
となります. 微分fifjは曲面論で言うところの写像fの2階微分2f/uiujのことですから, Aは2階微分の法成分, すなわち第二基本形式そのものです.

一方, 先程注意した通り, 単位法ベクトル場NもまたΣに沿ったベクトル場ですから, 任意XX(Σ)に対してXNを考えることができます. ここで, |N|2=N,N=1ですから, これを微分して
0=XN,N=2XN,N
となります. 特に, XNX(Σ)が成り立ちます. これによって定まるΣ上のテンソルS=N:XXNシェイプ作用素(型作用素)またはWeingarten写像と呼びます.
シェイプ作用素Sと第二基本形式A
A(X,Y)=XY,N=XY,N=Y,XN=S(X),Y
という形で結びつきます. これは曲面論で言うところのWeingartenの公式に対応します.

Weingartenの公式

A(X,Y)=S(X),Y

Weingartenの公式から,
H=12iS(ei),ei=12trS
となって, やはり曲面論での平均曲率の定義と一致することが確かめられます.

ベクトル束を学んだ方向け

以上のことは, はめ込みf:ΣR3による引き戻し束fTR3上に, 引き戻しによるファイバー計量f,を与えた幾何学を考えていると解釈するとわかりやすいです. この設定のもとでは, 曲面に沿ったベクトル場は引き戻し束の切断のことです. その上で, Σの接束TΣfTR3の部分束と思い, ファイバー計量に関するTΣの法束や各種接続およびテンソルを考えています.

発散定理

続いて, ベクトル解析で用いる各種の作用素を定義していきます.
曲面Σ上の任意の点pを一つ取り, TpΣgに関する正規直交基底{ei}i=1,2を取っておきます.

grad, div, laplacian

uΣ上のなめらかな関数, VΣに沿ったなめらかなベクトル場とする.

  1. 関数u勾配(gradient)
    Σu=i=12(eiu)ei
    で定義する.
  2. ベクトル場V発散(divergence)
    divΣ(V)=i=12eiV,ei
    で定義する.
  3. 2階微分作用素ΔΣu=divΣ(Σu)ラプラシアン(laplacian)と呼ぶ.

Σの接ベクトル場XX(Σ)に対しては, その発散は
divΣ(X)=i=12eiΣX,ei
と, ΣのLevi-Civita接続を用いた通常の発散と一致します.

続いて単位法ベクトル場Nの発散を取ると,
divΣ(N)=ieiN,ei=iS(ei),ei=2H
となります. すなわち平均曲率は法ベクトル場の発散でもあります.

最後に, 今後息をするように用いるGaussの発散定理を紹介しておきます.

発散定理

Σを向き付けられたRiemann多様体とし, XX(Σ)を接ベクトル場とする. このとき, ΩΣをなめらかな境界を持つ領域で, Ωがコンパクトなものとすると,
ΩdivΣ(X)=ΩX,ν.
ここで, νは境界Ωの外向き単位法ベクトル場である.
特に, Xがコンパクトな台を持てば
Σdiv(X)=0.

おわりに

今回は曲面論の各種概念をRiemann幾何学っぽく言い換え, 今後扱いやすい形にまとめ直しました. 多様体論を学んだ直後の筆者は, 「曲面論を多様体論的に解釈して一般化したい」と思ってあれこれ考えておりました. そんなかつての私のような読者の学びの助けに少しでもなればよいなと思います.
今回, 第二基本形式と多様体の内在的な曲率(Rm, Ric, Scal)とを結びつける, Gauss-Codazziの公式やRicciの公式までは扱えませんでしたが, これらについてもいつか解説できればと考えています.

参考文献

[1]
T.H. Colding and W. P. Minicozzi Ⅱ, A Course in Minimal Surfaces, GSM 121, American Mathematical Society, 2011
[2]
M. P. do Carmo, Riemannian Geometry, Birkhäuser, 1992
[3]
浦川肇, 変分法と調和写像, 裳華房, 2006
投稿日:202451
更新日:202452
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Torte
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数理系博士課程在籍. 幾何学や解析学が好きです. 多分大学数学メイン?

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  2. 曲面の第二基本形式
  3. 発散定理
  4. おわりに
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