前回
の最後に関数のグラフで与えられる曲面の変分を計算しました. 今回と
次回
でより一般の曲面に対して変分を計算します. 当面の目標は次の公式の証明です.
今回は変分計算のための事前準備として, 曲面の幾何学をRiemann幾何学の視点から復習し, 各種用語や概念を定義します.
Notation
- : の標準計量.
- : の標準計量によるノルム.
- : 上の微分(標準計量に関するLevi-Civita接続).
- : (内にはめ込まれた曲面としての)2次元多様体.
- : 上の接ベクトル場の成す空間.
曲面論からの準備〜Riemann幾何学的視点から〜
はじめに, 曲面論で学んだ事項をRiemann幾何学の言葉に翻訳しておきましょう.
向き付け可能な級2次元連結多様体の級はめ込みによる像を考えます. には, はめ込みによる引き戻し計量
を入れておきます. こうすることで, は(自明に)等長はめ込みになります. 上の局所座標を導入し, とおけばとなるので, この計量の定義は曲面論における第一基本形式に他ならないことがわかります.
この意味で, 以下では2次元多様体とそのによる像(内の曲面としての実現)を同一視し, 単に曲面と呼ぶことにします. それに伴い, 上の計量やそれによる接ベクトルのノルムも, 今後しばしばのそれと同一視してやで表すことがあります.
曲面の第二基本形式
続いて上の接続や第二基本形式について見ていくのですが, そのために一つ用語を定義します.
曲面に沿うベクトル場
曲面上のベクトル値関数を, 曲面に沿ったベクトル場と呼ぶ.
曲面上の任意の接ベクトル場も, 各点でのベクトルと思うことでに沿ったベクトル場と見做せます.
いま, 内の曲面は向き付け可能ですから, 単位法ベクトル場が大域的に定義できます. このも, に沿ったベクトル場の一種です. 曲面上各点で, 接空間をと分解しておきます.
曲面に沿ったベクトル場とにおける接ベクトルに対し,
と定義します. ここで, は上の曲線で, , を満たすものとします. への写像の微分, すなわち, を考えているのと同じであることに注意すれば, この定義が曲線の取り方に依存しないことはすぐにわかります. 曲面に沿ったベクトル場の微分は, 上大域的に定義されたベクトル場に対する通常の微分を上に制限したものに他なりません.
に沿ったベクトル場の微分
続いて, を取ると, もまたに沿ったベクトル場ですから, 各点で先程の接成分と法成分の分解を考えて
となります.
接続と第二基本形式
- は上の接続を定める. より詳細に, 計量に関するLevi-Civita接続と一致する.
- は対称. すなわちが成り立つ.
の定め方からおよびの線形性は明らか.
上の任意の関数, に対し,
となるので, は接続, はテンソルになる.
さらに, 微分の性質より
となるから, 接成分と法成分を比較して
が成り立つ. が計量と適合する(compatible)ことは,
からわかる.
第二基本形式と平均曲率
- 対称テンソルを曲面の第二基本形式と呼ぶ.
- 任意の点において, 計量に関する正規直交基底を取ったとき,
をの(点における)平均曲率と呼ぶ.
このが曲面論で学んだ第二基本形式と同じものであることは次のようにして確かめられます. 曲面上の局所座標を取ると,
となります. 微分は曲面論で言うところの写像の2階微分のことですから, は2階微分の法成分, すなわち第二基本形式そのものです.
一方, 先程注意した通り, 単位法ベクトル場もまたに沿ったベクトル場ですから, 任意に対してを考えることができます. ここで, ですから, これを微分して
となります. 特に, が成り立ちます. これによって定まる上のテンソルをシェイプ作用素(型作用素)またはWeingarten写像と呼びます.
シェイプ作用素と第二基本形式は
という形で結びつきます. これは曲面論で言うところのWeingartenの公式に対応します.
Weingartenの公式から,
となって, やはり曲面論での平均曲率の定義と一致することが確かめられます.
ベクトル束を学んだ方向け
以上のことは, はめ込みによる引き戻し束上に, 引き戻しによるファイバー計量を与えた幾何学を考えていると解釈するとわかりやすいです. この設定のもとでは, 曲面に沿ったベクトル場は引き戻し束の切断のことです. その上で, の接束をの部分束と思い, ファイバー計量に関するの法束や各種接続およびテンソルを考えています.
発散定理
続いて, ベクトル解析で用いる各種の作用素を定義していきます.
曲面上の任意の点を一つ取り, のに関する正規直交基底を取っておきます.
grad, div, laplacian
を上のなめらかな関数, をに沿ったなめらかなベクトル場とする.
- 関数の勾配(gradient)を
で定義する. - ベクトル場の発散(divergence)を
で定義する. - 2階微分作用素をラプラシアン(laplacian)と呼ぶ.
の接ベクトル場に対しては, その発散は
と, のLevi-Civita接続を用いた通常の発散と一致します.
続いて単位法ベクトル場の発散を取ると,
となります. すなわち平均曲率は法ベクトル場の発散でもあります.
最後に, 今後息をするように用いるGaussの発散定理を紹介しておきます.
発散定理
を向き付けられたRiemann多様体とし, を接ベクトル場とする. このとき, をなめらかな境界を持つ領域で, がコンパクトなものとすると,
ここで, は境界の外向き単位法ベクトル場である.
特に, がコンパクトな台を持てば
おわりに
今回は曲面論の各種概念をRiemann幾何学っぽく言い換え, 今後扱いやすい形にまとめ直しました. 多様体論を学んだ直後の筆者は, 「曲面論を多様体論的に解釈して一般化したい」と思ってあれこれ考えておりました. そんなかつての私のような読者の学びの助けに少しでもなればよいなと思います.
今回, 第二基本形式と多様体の内在的な曲率(, , )とを結びつける, Gauss-Codazziの公式やRicciの公式までは扱えませんでしたが, これらについてもいつか解説できればと考えています.