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2-colored rooted tree に付随した pp 進多重ゼータ値

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$$\newcommand{AA}[0]{\mathcal{A}} \newcommand{be}[0]{\boldsymbol{e}} \newcommand{bh}[0]{\boldsymbol{h}} \newcommand{bk}[0]{\boldsymbol{k}} \newcommand{bl}[0]{\boldsymbol{l}} \newcommand{bV}[0]{V_{\bullet}} \newcommand{bW}[0]{V_{\circ}} \newcommand{hA}[0]{\widehat{\AA}} \newcommand{hof}[0]{\mathfrak{H}} \newcommand{kak}[1]{{\left(#1\right)}} \newcommand{pp}[0]{\boldsymbol{p}} \newcommand{QQ}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{rt}[0]{\mathrm{rt}} \newcommand{sh}[0]{\mathbin{\text{ш}}} \newcommand{SS}[0]{\mathcal{S}} \newcommand{ZZ}[0]{\mathbb{Z}} $$

はじめに

本記事は Ono [O] の理論の拡張として, 2-colored rooted tree に付随する $\pp$ 進多重ゼータ値を構成し, Seki [S] で証明された $\pp$ 進シャッフル関係式の別証明を与える. なお, 本記事の内容は Ono-Seki-Yamamoto [OSY] で本質的に知られている.

Review on the finite multiple zeta values

正整数 $n$ に対し $\QQ$ 代数
$$\AA_n=\kak{\prod_p \ZZ/p^n\ZZ}\Biggm/\kak{\bigoplus_p \ZZ/p^n\ZZ}$$
を考え, 離散位相を導入する. ここで $p$ は素数全体を渡る. このとき $m\lt n$ に対し $\mathrm{mod}~p^m$ を取る自然な写像 $\AA_n\to\AA_m$ により射影極限が定まり, 極限としての位相を備えたこれを $\hA$ と書く. 自然な写像 $\pi\colon\prod_p \ZZ_p\twoheadrightarrow\hA$, による $(a_p)_p$ の像を $a_{\pp}$ と書く. とくに $\pp=((p~\mathrm{mod}~p^n)_p)_n$ を infinitely large prime という.

正整数の組 $\bk=(k_1,\ldots,k_r)$ を index と呼ぶ. このとき $\mathrm{mod}~p$ multiple harmonic sum が
$$\zeta_{\lt p}(\bk)=\sum_{1\le n_1\lt\cdots\lt n_r\lt p} \frac{1}{n_1^{k_1}\cdots n_r^{k_r}}$$
で定まり, これを用いて $\pp$ 進多重ゼータ値 が $\zeta_{\hA}(\bk)=\zeta_{\lt\pp}(\bk)$ と定義される. 自然な射影 $\pi_1\colon\hA\twoheadrightarrow\AA_1$ による $\zeta_{\hA}(\bk)$ の像を $\zeta_{\AA}(\bk)$ と書く. $\zeta_{\hA}(\bk)$ に関する結果については [R], [S] を参照. また, 本サイト (Mathlog) 内では [G] で $\zeta_{\AA}(\bk)$ の双対性が示されている.

代数 $\hof=\QQ\langle x,y\rangle$ 上の双線型な積 $\sh$ を次の規則で定める:
$$\begin{align}1\sh w &=w\sh 1=w,\\u_1w_1\sh u_2w_2=u_1(&w_1\sh u_2w_2)+u_2(u_1w_1\sh w_2).\end{align}$$
ここで $w,w_1,w_2\in\hof$, $u_1,u_2\in\{x,y\}$ である. $\hof$ の部分代数 $\hof^1=\QQ+y\hof$ と ($\varnothing$ を含む) index の $\QQ$ 係数形式的線型和の集合 $\mathcal{R}$ の間には, 対応
$$\begin{align}\varnothing&\mapsto 1,\\(k_1,\ldots,k_r)&\mapsto yx^{k_1-1}\cdots yx^{k_r-1}\end{align}$$
$\QQ$ 線型に延長することで全単射が構成される. これを $I$ と書く. また, この対応を通して index $\bk$, $\bl$ に対し $\bk\sh\bl=I^{-1}(I(\bk)\sh I(\bl))$ と書く. これによって, 次の定理が成り立つ.

$\pp$ 進シャッフル関係式

任意の index $\bk$, $\bl=(l_1,\ldots,l_s)$ に対し
$$\zeta_{\hA}(\bk\sh\bl)=(-1)^{\mathrm{wt}(\bl)}\sum_{\be\in\ZZ_{\ge 0}^s}b(\bl;\be)\zeta_{\hA}(\bk,\overleftarrow{\bl+\be})t^{\mathrm{wt}(\be)}$$
が成り立つ. ここで $\zeta_{\hA}$$\mathcal{R}$ の元に対し $\QQ$ 線型に拡張しており, index $\bh=(h_1,\ldots,h_c)$ と非負整数の組 $\be=(e_1,\ldots,e_c)$ に対し
$$\begin{align}\mathrm{wt}(\be)=e_1+\cdots+e_c,\\\overleftarrow{\bh}=(h_c,\ldots,h_1),\\\bh+\be=(h_1+e_1,\ldots,h_c+e_c),\\b(\bh;\be)=\prod_{i=1}^c \binom{h_i+e_i-1}{e_i}\end{align}$$
とおいた.

とくに, この定理の両辺で $\pi_1$ をとり, 次を得る:

$\AA$ シャッフル関係式

任意の index $\bk$, $\bl$ に対し $\zeta_{\AA}(\bk\sh\bl)=(-1)^{\mathrm{wt}(\bl)}\zeta_{\AA}(\bk,\overleftarrow{\bl})$ である.

Ono [O] では, 2-colored rooted tree を用いて定理 2 の別証明を与えている.

2-colored rooted tree

2-colored rooted tree

以下の要件を満たす組 $(V,E,\rt,\bV)$ を 2-colored rooted tree という.

  • $(V,E)$ は頂点の集合を $V$, 辺の集合を $E$ とした tree である.
  • $\rt$$V$ の元である (root と呼ぶ).
  • $\bV$ は terminal をすべて含む $V$ の部分集合である.

以後 $\bW=V\setminus\bV$ と書く. また, 辺 $e$ が頂点 $v,w$ を繋いでいるとき $e=\{v,w\}$ と書く.

2-colored rooted tree $X=(V,E,\rt,\bV)$ があるとき, 各頂点 $v\in\bV$ に対し
$$L_e(X;(m_v)_{v\in\bV})=\sum_{v\in V^{\rt}_e} m_v$$
とおく. ここで辺 $e$ に対し $V^{\rt}_e=\{v\in\bV\mid e\in P(\rt,v)\}$ であり, $P(v,w)$ は頂点 $v$, $w$ の間の path である. このとき $X$ に付随した $\pp$ 進多重ゼータ値を
$$\zeta_{\hA}(X;\bk)=\sum_{\substack{(m_v)\in\ZZ^{|\bV|}_{\ge 1}\\\sum_{v\in\bV} m_v=\pp}} \prod_{e\in E}L_e(X;(m_v))^{-k_e}$$
で定める. このとき次の命題が成り立つ.

2-colored rooted tree $X=(V,E,\rt,\bV)$ とその上の index $\bk=(k_e)$ であって, 頂点 $v,w$ が存在し $w\in\bW\setminus\{\rt\}$ かつ $k_{\{v,w\}}=0$ を満たすものを考える. このとき $X'=(V\setminus\{w\},E\setminus\{\{v,w\}\},\rt,\bV)$, $\bk'=(k_e)_{e\in E\setminus\{\{v,w\}\}}$ とおくと $\zeta_{\hA}(X;\bk)=\zeta_{\hA}(X';\bk')$ が成り立つ.

2-colored rooted tree $X=(V,E,\rt,\bV)$ とその上の index $\bk=(k_e)$ であって, degree $2$ である $\bW\setminus\{\rt\}$ の元が存在するものを考える. その頂点を $v$ と書き, $v$ に接続する辺をそれぞれ $\{v_i,v\}$ と書く ($i=1,2$). このとき $X'=(V\setminus\{v\},(E\setminus\{\{v_1,v\},\{v_2,v \}\})\cup\{\{ v_1,v_2\}\}, \rt, \bV)$ とおき,
$$k'_e=\begin{cases}k_{\{v_1,v\}}+k_{\{v_2,v\}} & (e=\{v_1,v_2\})\\ k_e & (otherwise)\end{cases}$$
によって $X'$ 上の index $\bk'=(k_e)$ を定めると $\zeta_{\hA}(X;\bk)=\zeta_{\hA}(X';\bk')$ が成り立つ.

証明はそれぞれ [O, Proposition 2.2], [O, Proposition 2.3] と全く同一である.

二つの 2-colored rooted tree であって, root のみが異なるもの $X_1=(V,E,\rt_1,\bV)$, $X_2=(V,E,\rt_2,\bV)$ とその上の index $\bk=(k_e)_e$ を考える. このとき
$$\zeta_{\hA}(X_1;\bk)=(-1)^{\sum_{e\in P(\rt_1,\rt_2) }k_e }\sum_{\be\in\ZZ^{|P(\rt_1,\rt_2)|}_{\ge 0}} b_{\rt_1,\rt_2}(\bk;\be)\zeta_{\hA}(X_2;\bk+\be)\pp^{\mathrm{wt}(\be )}$$
が成り立つ. ここで $\bk+\be$ は成分ごとの和であり,
$$b_{\rt_1,\rt_2}((k_e)_{e\in E};(f_e)_{e\in E})=\prod_{e\in P(\rt_1,\rt_2)}\binom{k_e+f_e-1}{f_e}$$
とおいた.

$e\in P(\rt_1,\rt_2)$ のとき $\bV=V^{\rt_1}_e\sqcup V^{\rt_2}_e$ であり, そうでないとき $V^{\rt_1}_e=V^{\rt_2}_e$ であるから
$$L_e(X_1;(m_v))=\begin{cases} p-L_e(X_2;(m_v)) & (e\in P(\rt_1,\rt_2))\\ L_e(X_2;(m_v))& (e\notin P(\rt_1,\rt_2))\end{cases}$$
が成り立つ. この事実と $\zeta_{\hA}$ の定義および $p$ 進級数
$$\frac{1}{(p-L)^k}=(-1)^k\sum_{e=0}^{\infty} \binom{k+e-1}{e}\frac{p^e}{L^{k+e}}\qquad (0< L< p)$$
を組み合わせることで命題を得る.

$s,r_i$ ($0\le i\le s$) を正整数とし,
$$\begin{align}V &=\{v_{i,j}\mid 0\le i\le s,~1-\delta_{0,i}\le j\le r_i\},\\ E &=\{\{v_{i,j},v_{i,j+1}\}\mid 0\le i\le s,~1-\delta_{0,i}\le j\le r_i-1\}\cup\{\{v_{i,r_i},v_{0,0}\}\mid 1\le i\le s\},\\ \rt &=v_{0,r_0},\\ \bV &=V\setminus\{v_{0,0}\}\end{align}$$
によって 2-colored rooted tree $X=(V,E,\rt,\bV)$ を定める. また, この上のインデックス $\bk=(k_e)$ の成分は $e=\{v_{0,0},v_{0,1}\}$ を除いてすべて正整数とする. このとき
$\bk_i=\begin{cases}(k_{\{v_{i,1},v_{i,2}\}},\ldots,k_{\{ v_{i,r_i-1},v_{i,r_i}\}},k_{\{ v_{i,r_i},v_{0,0}\}}) & (1\le i\le s) \\ (k_{\{v_{0,1},v_{0,2}\}},\ldots,k_{\{v_{0,r_0-1},v_{0,r_0}\}}) & (i=0 )\end{cases}$
とおくと
$$\zeta_{\hA}(X;\bk)=\zeta_{\hA}((\bk_1\sh\cdots\sh \bk_s)_{\uparrow^{k_{\{v_{0,0},v_{0,1}\}}}},\bk_0)$$
が成り立つ. ここで index $\bk=(k_1,\ldots,\bk_r)$ と非負整数 $h$ に対し $\bk_{\uparrow^h}=(k_1,\ldots,k_r+h)$ と書いた.

証明は [OSY, Theorem 3.8] と同様にして帰納法が適用できる. また, この事実より [OSY, Theorem 3.10] と同様にして定理 1 がわかる.

References

[G] ぐれぽん, Hoffmanの恒等式, Mathlog 114 .

[O] M. Ono, Finite multiple zeta values associated with $2$-colored rooted trees, J. Number Theory 181 (2017), 99–116; arXiv 1609.09168 .

[OSY] M. Ono, S. Seki and S. Yamamoto, Truncated $t$-adic symmetric multiple zeta values and double shuffle relations, arXiv 2009.04112 .

[R] J. Rosen, Asymptotic relations for truncated multiple zeta values, J. London Math. Soc. (2) 91 (2015), 554-572; arXiv 1309.0908 .

[S] S. Seki, The $\pp$-adic duality for the finite star-multiple polylogarithms, Tohoku Math. J. (2) 71 (2019), 111-122; arXiv 1605.06739 .

投稿日:20201118
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KIRINJI/ICE BAHN/RED SPIDER

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