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ちょっとおしゃれに平方剰余の第一補充法則を証明する

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この記事の目標

この記事では「平方剰余の第一補充法則」という初等整数論の命題に対し、抽象代数学の基本的な手法を用いた証明を2つ与える。

平方剰余の第一補充法則の主張

まずはその主張を見ることにする:

平方剰余の第一補充法則

奇素数$p$について、方程式$x^2 \equiv -1 \: (\mathrm{mod} \: p)$が整数解$x$をもつための必要十分条件は$p \equiv 1 \: (\mathrm{mod} \: 4)$であることである。

「方程式$x^2 \equiv -1 \: (\mathrm{mod} \: p)$が整数解$x$をもつ」ことは「多項式$x^2+1 \in \mathbb{F}_p[x]$$\mathbb{F}_p$に根をもつ」ことと同値であり、そして解と係数の関係よりこのとき$x^2+1$の($p$が奇素数であることから等しくない)2つの根はどちらも$\mathbb{F}_p$に含まれる。

準備

第一の証明に入る前に少々準備をする。次の主張は具体的に置換を記述すれば自明であろう:

有限集合$A$について写像$g: A \rightarrow A$$g^2 = \mathrm{id}_A$を満たすなら、$g$$A$上の置換$a \mapsto g(a)$を与え、その置換は$\frac{\#\{a \in A \mid g(a) \neq a \}}{2}$個の互換の積として書ける。

これによって次が成立する:

奇素数$p$について、写像$f: \mathbb{F}_p^{\times} \rightarrow \mathbb{F}_p^{\times}$ ($f(x)=-x^{-1}$)は$\mathbb{F}_p^{\times}$上の奇置換を定める。

$f^2 = \mathrm{id}_{\mathbb{F}_p^{\times}}$なので$f$$\mathbb{F}_p^{\times}$上の置換を定めることは明らか。
写像$f_1, \, f_2: \mathbb{F}_p^{\times} \rightarrow \mathbb{F}_p^{\times}$$f_1(x)=-x$, $f_2(x)=x^{-1}$と定める。すると$f_1^2 = f_2^2 = \mathrm{id}_{\mathbb{F}_p^{\times}}$であるから、$f_1$$\frac{\#\{x \in \mathbb{F}_p^{\times} \mid f_1(x) \neq x \}}{2}$個、$f_2$$\frac{\#\{x \in \mathbb{F}_p^{\times} \mid f_2(x) \neq x \}}{2}$個の互換の積として書ける$\mathbb{F}_p^{\times}$上の置換を定める。
よって$f = f_2 \circ f_1$より$f$が定める置換は
$\frac{\#\{x \in \mathbb{F}_p^{\times} \mid f_1(x) \neq x \}}{2} + \frac{\#\{x \in \mathbb{F}_p^{\times} \mid f_2(x) \neq x \}}{2} = \frac{\#\mathbb{F}_p^{\times}}{2} + \frac{\#(\mathbb{F}_p^{\times} \backslash \{1,-1\})}{2} = p-2$個の互換の積として書けるので示せた。

第一の証明

以上の準備をもとに平方剰余の第一補充法則を示す:

第一の証明

補題2, 3から$\frac{\#\{x \in \mathbb{F}_p^{\times} \mid f(x) \neq x \}}{2}=\frac{\#\{x \in \mathbb{F}_p^{\times} \mid x^2+1 \neq 0 \}}{2}$は奇数。よって$\#\mathbb{F}_p^{\times} = p-1$$0^2+1 \neq 0 \: \mathrm{in} \, \mathbb{F}_p$より、$x^2+1 \in \mathbb{F}_p[x]$$\mathbb{F}_p$にもつ(相異なる)根の個数を$A$とすれば、$p-A \equiv -1 \: (\mathrm{mod} \: 4)$となる。
よって$A=0, 2$であるから、$A \neq 0$$p \equiv 1 \: (\mathrm{mod} \: 4)$に同値。

第二の証明

上の証明は乗法群の上に定まる置換の考察によって初等整数論の主張が導かれる意外性においておもしろいが、単に平方剰余の第一補充法則を示すだけならSylowの定理から簡単に出る。

第二の証明

(必要性)
方程式$x^2 \equiv -1 \: (\mathrm{mod} \: p)$の整数解$x$$\mathbb{F}_p^\times$の位数4の元に対応するから、$\# \mathbb{F}_p^\times = p-1$は4の倍数でなければならない。

(十分性)
$\# \mathbb{F}_p^\times = p-1$が4の倍数なら$\mathbb{F}_p^\times$の2-Sylow部分群は位数が4以上となる。位数2以下の$\mathbb{F}_p^\times$の元$x$$x^2-1 \in \mathbb{F}_p^\times[x]$の根だから$\pm 1$のみ。よって$\mathbb{F}_p^\times$は位数4の元$x$を含み、$x^2$の位数は2だから$x^2 = -1$が成立する。

余談

この記事の内容は補題3を示させる演習問題を解いているときに思い付いたものである。

投稿日:20201118

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Mittum sum; impilia Artemisiae. Saepe collyram edo cardiacum semper!

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