三角圏を分析する際に$t$-structureはよく用いられます。この$t$-structureの片割れのことをaisleと呼びますが、本記事ではKrull-Schmidtな三角圏でのaisleの特徴づけを与えます。より一般的に、torsion pairの片割れも特徴づけます。そのときにKrull-Schmidt三角圏で重要な若松の補題の三角圏類似も与えます。
t-structureについての私の記事 を読んでいることを前提とします。また部分圏の反変的有限性についても既知とします(たとえば この記事 参照)。
ここに書いてあることは、ほとんど次の文献に書いてあります:
O. Iyama, Y. Yoshino, Mutation in triangulated categories and rigid Cohen-Macaulay modules, Invent. Math. 172 (2008), no. 1, 117–168.
Krull-Schmidt圏でのaisleの特徴づけは次でもともと与えられています。
B. Keller, D. Vossieck, Aisles in derived categories. Deuxieme Contact FrancoBelge en Algebre (Faulx-les-Tombes, 1987). Bull. Soc. Math. Belg. Ser. A 40 (1988), no. 2, 239–253.
(が用語が古いし若松の補題を使っていないのですごく読みにくいです)
この記事の内容は、著者が参加しているdg圏の自主ゼミの内容に基づいたものです。
t-structureについての私の記事 のConventions and notationを参照のこと。
三角圏のtorsion pairの片割れは次のような必要条件を持ちます。
三角圏$\TT$のtorsion pair $(\XX,\YY)$が与えられたとき、次が成り立つ:
さらにこのとき$\YY = \XX^\perp$である。
明らか。
任意に対象$T \in \TT$をとると、$T \in \XX * \YY$より三角$X \to T \to Y \to$が存在するが、$\TT(\XX,-)$かませると$\TT(\XX,X) \to \TT(\XX,T) \to \TT(\XX,Y) = 0$なので、$X \to T$が右$\XX$近似である。
実はKrull-Schmidtを仮定すると逆も成り立ちます。ここで次の若松の補題の(三角圏版)が便利です。
三角圏$\TT$の部分圏$\XX$が拡大で閉じているとする。このとき、$T \in \TT$の極小右$\XX$近似$T_X \to X$が存在するなら、それを三角に伸ばした
$$
K_T \to X_T \to T \to
$$
に対して、$\Ext_\TT^1(\XX,K_T) := \TT(\XX,K_T[1]) = 0$が成り立つ。
同じ補題は完全圏でも成り立ちます(さらにextriangulatedでも成り立つらしい)。
$X \in \XX$をとり射$X \to K_T[1]$を考え、これがゼロを見たい。これに$K_T[1] \to X_T[1]$を合成して三角圏の公理により下の三角の射ができる。
\begin{CD}
X_T @>>> W @>>> X @>>> X_T[1]\\
@|@VVV @VVV @|\\
X_T @>>> T @>>> K_X[1] @>>> X_T[1] \\
\end{CD}
ここで$\XX$が拡大で閉じていたので$W \in \XX$である。よって$X_T \to T$が右$\XX$近似だったことから、射$W \to X_T$がとれ、次の可換図式ができる。
\begin{CD}
X_T @>>> W @>>> X_T \\
@VVV @VVV @VVV \\
T @= T @= T
\end{CD}
よって$X_T \to T$の右極小性により上の射の合成は同型、とくに$X_T \to W$はsectionになる。
ここでもとの三角に戻ると、$X_T \to W$がsectionより$X \to X_T[1]$はゼロ射、よって可換性により$X \to K_X[1] \to X_T[1]$もゼロ。故に弱核の普遍性により$X \to K_X[1]$は左側の$T \to K_X[1]$を通るが、伸びる射$X \to T$はさらに右$\XX$近似$X_T \to T$を通る。よって$X \to K_X[1]$は$X_T \to T \to K_X[1]$を通ることになりゼロとなる。
$\TT$をKrull-Schmidtな三角圏とし、その部分圏$\XX$について次は同値である。
1ならば2はすでに示した。
逆に2を仮定する。このとき、$\XX$と$\XX^\perp$は直和因子で閉じて$\XX \perp \XX^\perp$を満たすので、条件$\TT = \XX * \XX^\perp$のみ確かめればよい。
任意に$T \in \TT$を取ると、$\TT$がKrull-Schmidtかつ$\XX$が反変的有限で直和因子で閉じるので、極小右$\XX$近似$X_T \to T$が取れる(
この記事
参照)。よってこれを三角に伸ばして
$$
X_T \to T \to Y \to X_T[1]
$$
が作れるが、若松の補題により$\TT(\XX,Y) = 0$である、つまり$Y \in \XX^\perp$となる。よって示された。
三角圏$\TT$の$t$-structure $(\UU,\VV)$に対して、$\UU$をこの$t$-structureのaisle(アイル)と呼ぶ。
$t$-structureはaisleを定めれば$\VV$は自動的に決まることに注意。Aisleについても次の必要条件があります。
三角圏$\TT$の$t$-structureのaisle $\UU$を考えると、次が成り立つ。
証明はtorsion pairの場合に帰着されるので省略します(あるいは同様に示される)。ここで前節の特徴づけを使えば、簡単に次の特徴づけが得られます。
$\TT$をKrull-Schmidtな三角圏とし、その部分圏$\UU$について次は同値である。
前節の証明により、2と「$\UU$はシフトで閉じており、あるtorsion pairの左側に来る」は同値である。これは「$\UU$はshift-closedなtorsion pairの片割れ」と同値であり、$t$-structureとtorsion pairとの関係により1とも同値である。