さて前回に引き続き、直交多項式についての記事を書こうと思う。
今回は
直交多項式とはどういうものであるかをざっくり定義す・・・るところまでかな。
その前にいくつか、必要な前提知識について簡単に述べておく。
(こういう回は書き飛ばしても良さそうだけど何かのために)
ベクトルは、大雑把に言えば動きの情報を持った矢印のことである。
...と思っている方がいるなら、それでは定義が弱い。
これから話す上で、ベクトルは基本的に多項式たち;関数を扱うので。
その「動きの情報を持った矢印」が満たす性質を抽出し
逆にそれらを満たすものを「ベクトル」と呼ぶことにする。
別の言い方をすれば、可換群
我々がよく見るところでベクトル空間は顔を出す。
これは
ベクトル空間における次元とは、一次独立な(非自明な線型結合による関係式を持たない)ベクトルの最大個数のことである。平面が2次元、空間が3次元と呼ばれるときのあの次元に他ならない。
体
縦が
行列は線形代数の基礎的な概念となっている。すなわち、ベクトル空間の間の写像(線形写像)は基底を固定することで行列としての表示ができる。
私個人的には、行列より線形写像を先に定義する流儀の方が好きではある。
基礎体
よく知られた事実として、数列全体の中である斉次線形漸化式を満たす数列全体は有限次元部分空間となり、その次元は漸化式の階数に一致する。
これは高校の3項間漸化式が典型的な例である。
例えば
さらにこれらの一次結合
前回のチェビシェフ方程式の回(定理1)で出てきた漸化式
は第一種・第二種チェビシェフ多項式
数列は
基礎体
(この場合、基礎体はだいたい
関数全体もまた
また関数全体のうちある斉次線形常微分方程式を満たすもの全体は有限次元部分空間であり、その次元は微分方程式の階数と一致する。
2階定数係数斉次線形常微分方程式、名前が長いが。基本的な常微分方程式である。
我々が今から考えたいものは関数全体よりはもう少し狭い。
非負整数
で入れたものは環構造を持つ。この集合を
またこの写像
書き方こそ物々しいが、よく見る
数学的に厳密に書くのは疲れる。
(特に、無限に続く例えば
細かいことを言うとキリがないが、必要ならばその都度注意する。
主に考えるのは、この多項式の空間である。
他にもベクトル空間の例は山ほどあるが、ここでは例示しない。
高校数学のベクトルでは、内積という概念が現れ、
平面や空間ベクトルの角度・長さを扱うのに重要な意味をなしていた。
すなわち何かしらの意味でベクトル空間を測っているのである。
ベクトル空間を測ることのできる「内積」の持った性質だけを抜き出して一般化したものが内積空間、また別の名を計量ベクトル空間という。
以下全て基礎体
ベクトル空間
また、
例えば我々のよく知る、実空間ベクトルにおいて
で定められる内積(ドット積)は上の性質をもちろん満たしている。
ただし、成分が複素数になると
などと共役を入れる必要が出てくる。他にも、例えば対称行列の空間などでは
測度論を丁寧に定義することは本記事の趣旨から大きく逸れてしまうので割愛する。
測度空間
有限であるもの全体を指すものとする。この可測関数全体を同値関係
という(測度0を除き一致する関数を同一視した)同値関係で割ったものが
この空間には次で定められる内積があり、そこから誘導されるノルムは二乗ノルムと一致する。
さて、このような
しかし、それを話す前に直交性について復習する。
高校の平面/空間ベクトルにおいては、ベクトル
もちろんこれは内積が角度と直結していること(本来は角度を内積で定義すべき)と
ベクトル空間
内積空間の考えでは、零ベクトルは任意のベクトルと直交していて欲しいので、平面/空間ベクトルに倣って零ベクトルを除くということはしない。
この時、次のようなものが自然に定義できる。
内積空間
で定める。これは
これは
基準となるベクトル
任意のベクトル
このとき次の2式が成立する。
垂直ベクトル
がわかる。さらに
となり、
以上よりベクトル
として計算できる。なお、定義から
ここまで準備をしたので、シュミットの直交化法について述べることができる。
そもそも、ベクトルの基底が直交していると内積の計算含め嬉しいことがたくさんある。
なので適当に取った基底から直交基底を作りたい。
motivation: ベクトルの基底
今
すなわち
上の正射影の議論から
として取ることで
このようにして取ってきた
note:
このような長さ1の互いに直交する基底を正規直交基底と言う。
今のところ特に正規性(長さが1であること)は仮定しない。
お待たせいたしました。
早速直交多項式を定義したいと思う。
なお、本来はもう少し定義を広く考えることができるが、今回は簡略化のため、重み関数を用いて書き表せる直交多項式に限ることにする。
適当な区間
* 任意の
という条件を満たすことを仮定する。
この時
を考えるとこれは内積の定義を満たし、この内積で内積空間になる。
シュミットの直交化法を行うことで、
を満たすものを取ってくることができる。
この多項式列
これが1番自然な直交多項式の定義であろう。
重み関数の取り方によって、様々な直交多項式列が知られている。(例は後の記事で)
note: この
このモーメントがうまく計算できる場合に名前のついた多項式列になってくる。
note:
しかし定数倍の差は時と場合により使い分ける。
第一種チェビシェフ多項式は(前回の記事を参照)
区間
この定義から一般項を求めてみよう。(そんなことは可能か?→今は直接はしんどい)
とりあえずモーメントを計算する必要がある。
のようにモーメントが計算できる。
さて今定めた第一種チェビシェフ多項式
この多項式は
さらに
という
定数倍の差があるので、最高次係数
となるので無事に係数
どこがどう求まったんだい?
一般的にモーメントが求まっていれば、モーメントからなる行列(これをモーメント行列と呼ぶ)を用いることで、原理的に係数を計算することができた。
が、モーメント行列の逆行列に、モーメントのベクトルを掛け算するだなんて...
note: 実はモーメント行列
本末転倒と言うかむしろ余談だが、
一般的に
次の式を2通りに書くことから始める。
まず1通りめは直交多項式の係数を用いて書き下すと、和の入れ替えに注意して
一方で関数
とおく。(実際には和は
となることが従う。
以上から、
となり積が単位行列
とモーメント行列の逆行列が求められる。(証明終)
しかし直交多項式の係数
チェビシェフ多項式でさえも書き下したくない。
そもそも第一種は長さが
(前記事の定理3の直交性の主張から。長さに場合分けが必要である)
note: 逆行列は求めなくて良い。
実際次の行列式で求められるのがわかる。
ただこれも計算が楽とは言い難い。
(以上のnotesでは Berg、Zhang(1つ目の証明、内容が全体的に面白い)やMourad(2節、これ以外にもモーメントの性質が多々書かれている)を参考にした)
よってこれらモーメント法から直接係数を計算することは困難を極める。
ではどうすれば良いのか?
その話はまた次以降に話すことにする。
今回はベクトル空間・内積空間・シュミットの直交化法を復習して、
重み関数による直交多項式の定義を述べることができた。
またモーメント法に関する直交多項式の係数の原理的導出についても触れた。
なおこれに関しては面白い論文も複数あり、機会があれば余談編の記事を書くかもしれない。
次からは直交多項式の様々な性質について見ていくことにする。
実は1番時間かかったのが、
折り畳んだモーメント法の証明で
2つの行列の積が単位行列になるところ。
行間で端折られていた...普通にできたけど💦