お久しぶりです。3ヶ月前,前回,代数閉包を定義しました。今回は,任意の体が代数閉包をもつことを証明します。今回の話は非常に抽象的なので,証明の前に概略を述べておきます。
体$K$が代数閉包をもつことを示すためには,そういう拡大体を上手く構成すればよいことになります。しかし,一発で$K$上の任意の$1$次以上の多項式がすべての根をもつような拡大体を構成することは実は厳しいです。そこで,「1つでもいいから根を含むように拡大体$K_1$をつくる」という発想になります(実際これなら可能です)。そして,同じように$K_1$を拡大し,さらに拡大し..... としているのが今回の証明になります。
では,証明をどうぞ。
任意の体は代数閉包をもつ。すなわち,$K$を任意の体とすると,代数拡大$L/K$が存在して次の条件を満たす:
任意の$1$次以上の多項式$f∈L[x]$は$L$上に根をもつ。
代数閉包の存在を示すには,$K$を含む代数閉体$M$の存在を示せばよい。なぜなら,$L=\{α∈M|α$は$K$上代数的$\}⊆M$は$K$の代数閉包であるからである。
そこで,$S=\{f∈K[x]|f$は$K$上既約$\}$とし,$A=K[x_f]_{f∈S}$とする。$I=(\{f(x_f)|f∈S\})⊆A$として,$I≠A$を示そう。そのために,$I=A$すなわち$1∈I$と仮定する。すると,
$1=a_1f_1(x_{f_1})+a_2f_2(x_{f_2})+\cdots+a_nf_n(x_{f_n})$ (*)
を満たす$a_i∈A,f_i∈S$が存在する。$f_1f_2\cdots f_n$の分解体$N$をとると,$\forall
i=1,2,\cdots,n,\exists α_i∈N\:\rm{s.t.}$$\:f_i(α_i)=0$
(*)において$x_{f_i}=α_i$とし,その他の変数$x_f=0$とすると,$1=0$を得るため矛盾。
よって$I≠A$
ゆえに,$I$を含む極大イデアル$J\in A$が存在し,$K_1=A/J$とすると$K_1$は体$^{*1}$である。
このとき,自然な単射準同型$K→K_1,a↦a+J$により$K$は$K_1$に埋め込まれる。
$α_f=x_f+J$とすると, $\forall f∈S$に対し,$f(α_f)=f(x_f)+J=0+J\;(∵f(x_f)∈I⊆J))$
$α_f∈K_1$は$f∈K[x]$の根の$1$つである。
いま,$K$の拡大体$K_1$は$K$上の任意の$1$次以上の多項式について,その根を少なくとも$1$つ含んでいる。
同様に$K_1$を繰り返し拡大し,(つまり$K_{i+1}$が$K_i$上の任意の$1$次以上の多項式の根を$1$つ以上含むようにして)体の列
$K⊆K_1⊆K_2⊆\cdots$
をつくる。$\displaystyle K_∞=\bigcup_{n=1}^∞K_n$とすると,容易にわかるように$K_∞$は体となる$^{*3}$。そしてさらに,これは代数閉体である。そのことを以下に示そう。
$f(x)=a_0+a_1x+\cdots+a_nx^n∈K_∞[x]\:(\deg f≥1)$とする。各$m=0,1,\cdots,n$に対して,$i_m∈ℕ$が存在して$a_m∈K_{i_m}$を満たすから,最大の$i_m$を$i$とすれば$f∈K_i[x]$
体の列の構成法から,$K_{i+n}⊆K_∞$は$f$の根をすべて含む$^{*2}$。
いま,$f$は任意であったから,$K_∞$は代数閉体である。
以上より$K_∞$は$K$を含む代数閉体
であることが示された。したがって,$K$は代数閉包をもつ。▢
$^{*1}$: ガロア理論③ 命題$2$を参照せよ。
$^{*2}$:和が閉じていることについて簡単に示そう。$α,β∈K_∞$とすると,$m,n∈ℕ$が存在して$α∈K_m,β∈K_n$を満たす。よって$α,β∈K_{\max\{m,n\}}$
したがって$α+β∈K_{\max\{m,n\}}⊆K_∞$
他の要件も同様にして示せる。
$^{*3}$:体を$K_i$から$K_{i+1},K_{i+2},\cdots$と拡大していくと,拡大するごとに体は$f$の根を少なくとも$1$つ含む。$f$の根は高々$n$個であるから,体を最大$n$回拡大すれば$f$の根をすべて含む。
以上で代数閉包の存在が示せました。次回は,代数閉包が同型を除いて一意であることを示します。これは非常に嬉しい性質です。なぜなら,代数閉包を考えるとき,ある$1$つの代数閉包の中だけで議論すれば十分ということになるからです!!