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ガロア理論⑬ 代数閉包の存在

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はじめに

 お久しぶりです。3ヶ月前,前回,代数閉包を定義しました。今回は,任意の体が代数閉包をもつことを証明します。今回の話は非常に抽象的なので,証明の前に概略を述べておきます。
 体Kが代数閉包をもつことを示すためには,そういう拡大体を上手く構成すればよいことになります。しかし,一発でK上の任意の1次以上の多項式がすべての根をもつような拡大体を構成することは実は厳しいです。そこで,「1つでもいいから根を含むように拡大体K1をつくる」という発想になります(実際これなら可能です)。そして,同じようにK1を拡大し,さらに拡大し..... としているのが今回の証明になります。
 では,証明をどうぞ。

代数閉包の存在

任意の体は代数閉包をもつ。すなわち,Kを任意の体とすると,代数拡大L/Kが存在して次の条件を満たす:
任意の1次以上の多項式fL[x]L上に根をもつ。

代数閉包の存在を示すには,Kを含む代数閉体Mの存在を示せばよい。なぜなら,L={αM|αK上代数的}MKの代数閉包であるからである。

そこで,S={fK[x]|fK上既約}とし,A=K[xf]fSとする。I=({f(xf)|fS})Aとして,IAを示そう。そのために,I=Aすなわち1Iと仮定する。すると,
1=a1f1(xf1)+a2f2(xf2)++anfn(xfn) (*)
を満たすaiA,fiSが存在する。f1f2fnの分解体Nをとると,i=1,2,,n,αiNs.t.fi(αi)=0
(*)においてxfi=αiとし,その他の変数xf=0とすると,1=0を得るため矛盾。
よってIA

ゆえに,Iを含む極大イデアルJAが存在し,K1=A/JとするとK1は体1である。
このとき,自然な単射準同型KK1,aa+JによりKK1に埋め込まれる。
αf=xf+Jとすると, fSに対し,f(αf)=f(xf)+J=0+J(f(xf)IJ))
αfK1fK[x]の根の1つである。

いま,Kの拡大体K1K上の任意の1次以上の多項式について,その根を少なくとも1つ含んでいる。
同様にK1を繰り返し拡大し,(つまりKi+1Ki上の任意の1次以上の多項式の根を1つ以上含むようにして)体の列
KK1K2
をつくる。K=n=1Knとすると,容易にわかるようにKは体となる3。そしてさらに,これは代数閉体である。そのことを以下に示そう。

f(x)=a0+a1x++anxnK[x](degf1)とする。各m=0,1,,nに対して,imが存在してamKimを満たすから,最大のimiとすればfKi[x]
体の列の構成法から,Ki+nKfの根をすべて含む2
いま,fは任意であったから,Kは代数閉体である。

以上よりKKを含む代数閉体
であることが示された。したがって,Kは代数閉包をもつ。▢

1 ガロア理論③ 命題2を参照せよ。

2:和が閉じていることについて簡単に示そう。α,βKとすると,m,nが存在してαKm,βKnを満たす。よってα,βKmax{m,n}
したがってα+βKmax{m,n}K
他の要件も同様にして示せる。

3:体をKiからKi+1,Ki+2,と拡大していくと,拡大するごとに体はfの根を少なくとも1つ含む。fの根は高々n個であるから,体を最大n回拡大すればfの根をすべて含む。


以上で代数閉包の存在が示せました。次回は,代数閉包が同型を除いて一意であることを示します。これは非常に嬉しい性質です。なぜなら,代数閉包を考えるとき,ある1つの代数閉包の中だけで議論すれば十分ということになるからです!!

投稿日:202379
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Qualtagh
Qualtagh
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数学徒 じゅけんせいのすがた 扱う分野:位相空間論 群論 環論 体論 位相幾何

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