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大学数学基礎解説
文献あり

面積分学習記録 (1)

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1-0. 全体の概要

この記事は,面積分の学習記録を,メモとしてまとめたものです。
全体を何回かのパートに分けて投稿していきます。
今回は定義がメインです。

以下では,特に断りのない限り,nZ[1,) とします。

1-1. 面積分の具体的な問題を処理するために

SRn+1 を有界領域(または有界閉集合)とし,φC0(S) を実数値関数,DRn を有界領域(または有界閉集合)とする。

S 上における φ の面積分を具体的に求める問題のタイプには,単純化すると,次の 2 種類がある:

  1. 既知の関数 f:DR が与えられることで,S={(x,f(x)) | xD} と表すことができて,曲面 S 上における φ の面積分を求めるもの。

  2. S が既知の曲面として与えられて,S 上における φ の面積分を求めるもの。

タイプ (2) の問題を解くには,タイプ (1) の問題を処理できる必要がある。

なお,ベクトル値関数の面積分を計算するには,スカラー値関数の面積分を理解しておく必要がある。

(関数のグラフ)
  1. f:DR を実数値関数とする。このとき,集合 G(D;f)D×f(D) を,
    G(D;f):={(x,f(x)) | xD}
    として定める。

  2. f1,,fn,fn+1:DR を実数値関数とする。このとき,集合 G(D;f1,,fn,fn+1)j=1nfj(D)×fn+1(D) を,
    G(D;f1,,fn,fn+1):={(f1(x),,fn(x),fn+1(x)) | xD}
    として定める。

1-2. 曲面の滑らかさ

kN{0}{}{ω} とする。

タイプ (1) の場合は,曲面 S=G(D;f)Ck 性は『fCk(D)』であることにより定義される。

タイプ (2) の場合は,S は 1 種類の関数だけでは表せないことがあるので,SCk 性は以下のようになる:

(曲面の平滑性)

SRn+1 を有界集合とする。このとき,SCk 級曲面  (n=1 の場合は Ck 級曲線) であるということを,

  1. S が有界領域の場合は,
    ΓS : ,DRn,γCk(D),σ:Rn+1Rn+1:合同変換  ;σ(Γ)=G(D;γ)
    として定め;

  2. S が有界閉集合の場合は,
    ΓS : ,DRn,γCk(D),σ:Rn+1Rn+1:合同変換  ;σ(Γ)=G(D;γ)
    として定める。

(合同変換)

dZ[1,) とする。このとき,合同変換 σ:RdRd は,
RRd×d,bRd  ;xRd,[  σ(x)=Rx+bかつ{RTR=Eddet(R)=1  ]
として定義される。(ここで,RTR の転置行列であり,EdRd×d は単位行列である。)

なお,曲面が極座標などで表現されるような場合,SCk 性は以下のようになる:

(曲面の平滑性)

SRn+1 を有界集合とする。このとき,SCk 級曲面  (n=1 の場合は Ck 級曲線) であるということを,

  1. S が有界領域の場合は,
    ΓS : ,VRn,γ1,,γn,γn+1Ck(V) ;Γ=G(V;γ1,,γn,γn+1)
    として定め;

  2. S が有界閉集合の場合は,
    ΓS : ,VRn,γ1,,γn,γn+1Ck(V) ;Γ=G(V;γ1,,γn,γn+1)
    として定める。

現実的には,球面やトーラス等の例を考えれば,媒介変数表示されたそのままの状態で問題を処理していくことも多い。

1-3. 接平面

有界領域または有界閉集合 SRn+1C1 級曲面とし,ある DRn および fC1(D) により,S=G(D;f) と表されているとする。

また,e1,,enRn を,Rn の基本ベクトルとする。

(曲面上の各点における接平面)

x0:=(x10,,xn0)D,   p0:=(x0,xn+10)S とする。このとき,p0 における S 上の 接平面 Tp0(S) を,

Tp0(S):={ p0+j=1n(xjxj0)[ejfxj(x0)]  |  x=(x1,,xn)D }

として定める。

1-4. 法ベクトル

n2 とする。

また,e1,,en,en+1Rn+1 を,Rn+1 の基本ベクトルとする。

(法ベクトルの片方)

a1,,anRn+1 とする。このとき,ベクトル a1anRn+1 を,

a1an:=k=1n+1(det[ ek  a1    an ])ek=k=1n+1| ek  a1    an |ek

として定める。

j{1,,n} に対して,(a1an)aj となる。実際に,内積を考えると,各 j{1,,n} に対して,

(a1an)aj=k=1n+1| ek  a1    an |ekaj=k=1n+1| (ekaj)ek  a1    an |=| aj  a1    an |=0.

1-5. スカラー値関数の面積分

n2 とする。

有界領域または有界閉集合 SRn+1C1 級曲面とし,ある DRn および fC1(D) により,S=G(D;f) と表されているとする。

(スカラー面積分)

φC0(S) を実数値関数とし,
t:=(t1,,tn)=[t1tn]D,r(t):=(t,f(t))=[tf(t)]S
とする。このとき,S 上における φ面積分 SφdS を,

SφdS=Sφ(r)dS(r):=Dφ(r(t))|rt1(t)rtn(t)|dt

として定める。

e1,,enRnRn の基本ベクトルとし,e1,,en,en+1Rn+1Rn+1 の基本ベクトルとする。

また,EnRn×n を単位行列とする。

  1. t:=(t1,,tn),   r(t):=(t,f(t)),   fC1(D) より,
    rtj(t)=[ejftj(t)]( j{1,,n} )
    であるので,
    rt1(t)rtn(t)=k=1n| ek  rt1(t)    rtn(t) |ek+| en+1  rt1(t)    rtn(t) |en+1=k=1n|ekEn0f(t)T|ek+|0En1f(t)T|en+1=(1)n[f(t)1] .
    ゆえに,
    |rt1(t)rtn(t)|=|f(t)|2+1
    となるので,面積分は,
    SφdS=Dφ(r(t))|f(t)|2+1 dt
    と表されることが分かる。

  2. 例外的に,n=1 の場合の面積分は,
    SφdS=Sφ(r)dS(r):=Dφ(r(t))|drdt(t)|dt=Dφ(r(t))1+{dfdt(t)}2 dt
    として定める。(向き付けされていない曲線上における 線積分

  3. 面積分 S1dS は,n2 ならば曲面 S の曲面積を表し,n=1 ならば曲線 S の長さを表す。

  4. 特に,φdS:=0 と定める。

  5. n2のとき,dS=dS(r) および dS(r(t)):=|rt1(t)rtn(t)|dt面積要素 と呼ぶ。

1-6. 法ベクトルの方向(外向き/内向き)

有界領域または有界閉集合 SRn+1C1 級曲面とし,ある DRn および fC1(D) により,S=G(D;f) と表されているとする。

また,集合 H(f), L(f)D×R をそれぞれ,
H(f):={(x,z)D×R | z>f(x)} ,L(f):={(x,z)D×R | z<f(x)}
と定める。

(単位法ベクトルの方向 (外向き/内向き) )

p0S,   νRn+1 とし,ννTp0(S) を満たす単位法ベクトルとする。このとき,

  1. νS に対して 外向き であるということを,
    r>0 ;ε(0,r),p0+ενH(f)
    を満たすこととして定める;

  2. νS に対して 内向き であるということを,
    r>0 ;ε(0,r),p0+ενL(f)
    を満たすこととして定める。

e1,,enRnRn の基本ベクトルとする。

x0:=(x10,,xn0)D,   p0:=(x0,xn+10)S とし,ν:=(ν,νn+1)Rn×R を,
ν:=1|f(x0)|2+1[f(x0)1]
と定める。このとき,ν外向き単位法ベクトルである。実際に,まず |ν|=1 であり,次に,
ν[ejfxj(x0)]=1|f(x0)|2+1{fxj(x0)+fxj(x0)}=0(j{1,,n})
となるので νTp0(S) であり,最後に,任意の十分小さい ε>0 に対して,
(xn+10+ενn+1)f(x0+εν)=f(x0)+ε|f(x0)|2+1f(x0+εν)={f(x0)f(x0+εν)}+ε|f(x0)|2+1>{f(x0)(εν)ε1}+ε|f(x0)|2+1=εf(x0)f(x0)|f(x0)|2+1+ε|f(x0)|2+1ε=ε|f(x0)|2+1|f(x0)|2+1ε=ε{|f(x0)|2+11}0
となるので p0+ενH(f) である。

1-7. 有界な開曲面(または閉曲面)上におけるスカラー面積分

有界領域 (または有界閉集合) SRn+1C1 級曲面とする。

  1. このとき,
    mZ[1,),S1,,SmS:十分小さい、有界な、空でない単連結開集合 (または閉集合) ;i{1,,m},DiRn,γiC1(Di),σi:Rn+1Rn+1:合同変換 ;[ σi(Si)=G(Di;γi)かつi=1mSi=S ]
    と表される。

  2. また,φC0(S) を実数値関数とし,Σ:=i=1mσi(Si) とする。このとき,関数 φ~:Rn+1R を,
    φ~(r):={φ(σ11(r))(rσ1(S1))φ(σ21(r))(rσ2(S2))   φ(σm1(r))(rσm(Sm))0(rRn+1Σ)( rRn+1 )
    と定める。

  3. [1 の分割]    さらに,ある有限な実数値関数列 (ρi)i=1mC(Rn+1){1,,m} で,
    {ρi(Rn+1)[0,1]supp(ρi)σi(S)σi(Si)(i{1,,m})かつi=1mρi(r)=1(rΣ)
    を満たすものをとる。

    (ここで補足しておくと,NZ[1,),   ΩRN,   ψ:ΩR としたとき,
    supp(ψ)=suppΩ(ψ):=ΩClRN({ xΩ | ψ(x)0 })=ClΩ(Ωψ1({0}))
    である。)

  4. 最後に,各 i{1,,m} に対して,
    ri(t):=(t,γi(t))=[tγi(t)]σi(Si)(tDi)
    とする。

(有界な開曲面 (または閉曲面) 上におけるスカラー面積分)

S 上における φ面積分 SφdS を,
SφdS:=i=1mσi(Si)ρi(r)φ~(r)dS(r):=i=1mDiρi(ri(t))φ~(ri(t))|γi(t)|2+1 dt
として定める。

(現実的に問題を処理するために)

1 の分割を使用しない場合は,包除原理を用いて,
SφdS=k=1m(1)k11j1<<jkmσj1(Sj1)σjk(Sjk)φ~(r)dS(r)
を計算することになる(と思われる)が,煩雑すぎてあまり現実的ではない。
実際に具体的な問題を処理する場合には,1 の分割も包除原理も使用しないように,適切に曲面を分割することになる。

1-8. ベクトル値関数の面積分

n2 とする。

有界領域または有界閉集合 SRn+1C1 級曲面とし,ある DRn および fC1(D) により,S=G(D;f) と表されているとする。

(ベクトル面積分)

AC0(S,Rn+1) を実ベクトル値関数とし,

t:=(t1,,tn)=[t1tn]D,r(t):=(t,f(t))=[tf(t)]S ;ν(r(t)):=(1)nrt1(t)rtn(t)|rt1(t)rtn(t)|Rn+1,dS(r(t)):=|rt1(t)rtn(t)|dt
とする。このとき,S 上における A面積分 SAdS を,

SAdS:=SAνdS=SA(r)ν(r)dS(r):=DA(r(t)){(1)nrt1(t)rtn(t)}dt

として定める。

  1. スカラー面積分の場合と同様に,t:=(t1,,tn),   r(t):=(t,f(t)),   fC1(D) より,
    rt1(t)rtn(t)=(1)n[f(t)1] ,|rt1(t)rtn(t)|=|f(t)|2+1
    であるので,
    ν(r(t))=1|f(t)|2+1[f(t)1] ,dS(r(t))=|f(t)|2+1 dt .
    ゆえに,ベクトル面積分は,
    SAdS=DA(r(t))[f(t)1]dt
    と表されることが分かる。

  2. 例外的に,n=1 の場合のベクトル面積分は,法ベクトルを利用しないため,
    SAdS:=DA(r(t))drdt(t)dt=DA(r(t))[1dfdt(t)]dt
    として定める。(向き付けされた曲線上における ベクトル線積分

  3. φ:=Aν と置いた場合を考える。このとき,
    SAdS=SAνdS=SφdSかつφC0(S)
    となり,スカラー面積分に帰着する。

  4. 特に,AdS:=0 と定める。

  5. n2のとき,dS:=νdS および dS(r)=ν(r)dS(r)=(1)nrt1(t)rtn(t) dtベクトル面積要素 と呼ぶ。

1-9. 有界な開曲面(または閉曲面)上におけるベクトル面積分

有界領域 (または有界閉集合) SRn+1C1 級曲面とする。

  1. このとき,
    mZ[1,),S1,,SmS:十分小さい、有界な、空でない単連結開集合 (または閉集合) ;i{1,,m},DiRn,γiC1(Di),σi:Rn+1Rn+1:合同変換 ;[ σi(Si)=G(Di;γi)かつi=1mSi=S ]
    と表される。

  2. また,AC0(S,Rn+1) を実ベクトル値関数とし,Σ:=i=1mσi(Si) とする。このとき,関数 A~:Rn+1Rn+1 を,
    A~(r):={A(σ11(r))(rσ1(S1))A(σ21(r))(rσ2(S2))   A(σm1(r))(rσm(Sm))0(rRn+1Σ)( rRn+1 )
    と定める。

  3. [1 の分割]    さらに,ある有限な実数値関数列 (ρi)i=1mC(Rn+1){1,,m} で,
    {ρi(Rn+1)[0,1]supp(ρi)σi(S)σi(Si)(i{1,,m})かつi=1mρi(r)=1(rΣ)
    を満たすものをとる。

  4. i{1,,m} に対して,
    ri(t):=(t,γi(t))=[tγi(t)]σi(Si)(tDi)
    とする。

  5. k{1,,m} に対して,νk:σk(Sk)Rn+1 を単位法ベクトル場とし,合同変換 σk:Rn+1Rn+1 に対応する回転行列を RkR(n+1)×(n+1) とする。
    このとき,条件
    (A)m2  の場合は,[ i{1,,m},j{1,,m}{i} ;SiSj ] ;(B)m2  の場合は,i{1,,m},j{1,,m}{i} ;[ SiSjpSiSj,Ri1νi(σi(p))=Rj1νj(σj(p)) ]  ;(C)n2  の場合は,k{1,,m},tDk,νk(rk(t))=1|γk(t)|2+1[γk(t)1]
    を仮定する。

(有界な開曲面 (または閉曲面) 上におけるベクトル面積分)

S 上における A面積分 SAdS を,
SAdS:=i=1mσi(Si)ρi(r)A~(r)dS(r):={i=1mDiρi(ri(t))A~(ri(t))[γi(t)1]dt( n2 )i=1mDiρi(ri(t))A~(ri(t))[1dγidt(t)]dt( n=1 )
として定める。

1-10. 補足

  1. スカラー線積分とベクトル線積分については,それぞれ,
    Cφd=αβφ(r(t))|drdt(t)|dt,CAdr=αβA(r(t))drdt(t)dt
    のように書かれる。(表記の統一性を考えて,本文には記載せず。)

  2. 定義 7 の単位法ベクトル νp0 に依存するので,より正確には ν(p0) と書く。

  3. 1-7 および 1-9 において,S が有界領域の場合は S1,,Sm をすべて開集合で取り,S が有界閉集合の場合は S1,,Sm をすべて閉集合で取る。

  4. 定義 3 型の Ck 級曲面は,適切な合同変換により,定義 2 型の Ck 級曲面を含むようにできる。(ただし,k0 とする。)


    [証明]   SRn+1 を定義 3 型の Ck 級曲面とし,十分小さく空でない単連結な有界開集合 (または閉集合) ΓS が与えられたとする。
    ここで,ある合同変換 σ:Rn+1Rn+1 として,
    WRn ;FCk(W×R) ;x0=(x0,xn+10)W×R ;[ σ(Γ)={(x,xn+1)W×R  |  F(x,xn+1)=F(x0)}かつ{F(x0)=0F(x0)0 ]
    を満たすものを取る。このとき,陰関数定理より,
    DW,γCk(D) ;{x0Dxn+10=γ(x0)かつ[ xD,xn+1γ(D) ;{xn+1=γ(x)F(x,xn+1)=F(x0) ]
    となるので,
    x0G(D;γ)かつG(D;γ)σ(Γ).
    ゆえに,S は,σ により,定義 2 型の Ck 級曲面を含むように変換できる。


    (この証明は微妙ですね。。。)

次回は,『面積分学習記録 (2)』に続きます。

参考文献

[1]
松坂 和夫, 『解析入門(下)』, (数学入門シリーズ 6), 岩波書店, 2018
[2]
栗田 稔, 『微分形式とその応用 ―曲線・曲面から解析力学まで―』(新装版), 現代数学社, 2019
投稿日:8日前
更新日:3日前
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  1. 1-0. 全体の概要
  2. 1-1. 面積分の具体的な問題を処理するために
  3. 1-2. 曲面の滑らかさ
  4. 1-3. 接平面
  5. 1-4. 法ベクトル
  6. 1-5. スカラー値関数の面積分
  7. 1-6. 法ベクトルの方向(外向き/内向き)
  8. 1-7. 有界な開曲面(または閉曲面)上におけるスカラー面積分
  9. 1-8. ベクトル値関数の面積分
  10. 1-9. 有界な開曲面(または閉曲面)上におけるベクトル面積分
  11. 1-10. 補足
  12. 参考文献